俺と先生の愛ある託卵生活

丸井まー(旧:まー)

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23:素敵な年越し

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ニーファとクリスが目覚めたのは夕方だった。食事の後に急速に訪れた睡魔に負け、2人でベッドに入った。2人は即寝落ちて、広いベッドの上でくっついて眠っていた。
ベッド横のカーテンから西日が入り、その明るさでニーファは目が覚めた。


「あ、やべ。クリス先生ー」


ニーファは少し口を開けて寝ているクリスの肩を優しく揺すった。すると、不明瞭なことをもぐもぐ言いながら、クリスは頭まで布団の中に潜り込んでしまった。まだおねむのようである。

(かわいい!)

クリスの可愛さに身悶えしながら、クリスを観察する。ニーファは、布団からちょろっとはみ出たクリスの髪を弄ってみた。結構硬めの短い髪の感触を楽しむ。そういえば、風呂で髪を洗う時以外で、クリスの髪に触れたのは初めてかもしれない。
ニーファは、ふとあることを思い出した。それは、遠い風の国では、特別な想いを伝えるのに相手の髪にキスをするのだそうだ。だから、風の国では男女問わず髪を長く伸ばしているのだとか。
ニーファはドキドキしながら、クリスの茶色い髪の毛を見つめた。緊張で顔を赤くしながら、思いきってクリスの少し出ている髪に顔を近づけ、一瞬唇が触れるだけのキスをした。
直後、バッと後ろに身体ごと下がった。

(やっちゃった!やっちゃった!やっちゃった!)

顔を手で覆って静かにジタバタする。
恐る恐るクリスの様子を伺うと、穏やかな寝息が聞こえてきた。寝ている。ほっとした反面、起きてくれたらいいのにと残念に思う気持ちがある。

ニーファはクリスを起こさないように、静かにベッドから下りた。すると、身体を動かすとあちこちに若干違和感がある。ほんのり痛い気がする。

(……まさか……これが噂の筋肉痛……?)

ショックである。筋肉痛など、生まれてこの方なったことがないのに。

(筋トレしてるのになぁ……足りないのかなぁ)

ニーファはショックで肩を丸めて、筋肉痛にもよく効く温泉へと向かった。
西日が陰りだしてきたので、温泉のあちこちに置いてあるランタンを灯す。ランタンの穏やかな明かりが素敵な風情を醸し出していた。

(これ暗くなってからクリス先生と一緒に見よう)

洗い場で体を洗いながら、ニーファは決意した。素敵でムードのある場所なら、もしかしたら、ちょっと進展的なものがあるかもしれない。より具体的な願望を言えば、そろそろ口移しちゅーではなく、普通にちゅーをしてもらいたい。
ていうか、ぶっちゃけ口移しちゅーの方が普通のちゅーよりも、なんかやらしい気がするのはニーファだけなのだろうか。だって、がっつり舌絡めるし。唾液舐めたり飲んだりするし。
ニーファはクリスとの口移しちゅーの感触を思い出して赤くなった。頭から水をかぶり、ぶるぶる頭を振る。
1人で入る温泉はゆったりではあるが、やはり落ち着かない。クリスの肌の感触と温もりがないとダメな身体になってしまったのか。それはそれでいい気もするが、どうだろう。

(クリス先生も俺なしじゃいられない身体になっちゃえばいいのに……)

なんてことを、つい考えてしまう。
ニーファは顔を洗って、思考を切り替えた。

(今夜は年越しだから、そろそろ準備しないと。まずはクリス先生起こさなきゃ)

よしっと声をあげて、ニーファは温泉から立ち上がった。







ーーーーーーー
「寝すぎたね」

「はい。うっかりでした。お昼も食べずに寝ちゃうなんて」

「お腹空いたけど、微妙な時間だなぁ」

「今食べたら確実に、夜中にお腹空きそうですよねぇ」

「だよね。……あぁ、でも今夜は年越しだし、どうせ起きて酒でも飲んでるだろうから、今から食べてもいいんじゃないかな」

「年越しの時に酒を飲むんですか?」

「うん?俺は毎年そうだよ。イベント会場まで行く気力ないから、家で1人で飲んでる」

「へぇ」

「ニーファ君達は飲まないの?」

「年越しの時はイベント中なんで飲みませんね。年越しイベントが終わって新年になったら、すぐに聖地神殿で祈りを捧げて、その後に宴があるので、そこで初めて飲みます」

「そうなんだ。毎年大変そうだよね」

「大変ですけど、慣れます」

「はははっ。慣れるんだ」


クリスが笑うと、どこからともなく、クゥーーッと小さな音がした。ニーファが何の音?と不思議に思っていると、クリスが恥ずかしそうに手をあげた。


「ごめん。俺の腹の音」


ニーファは思わず吹き出してしまった。
クリスは恥ずかしそうな、気まずそうな顔で頭を掻いている。


「ご飯にしましょうか!」

「うん」

「すぐ用意しますね」

「お願いします。手伝うよ」

「はい!」


ニーファとクリスは台所に向かった。台所でニーファのすぐ隣に立つクリスからは、微かに汗の香りがした。寝汗だろう。いつもは朝に練り香をつけるから、クリスの汗単体の匂いは少し珍しい。決して不快な匂いではなく、なんだかドキドキした。


「冷蔵庫に野菜の煮物が入ってるから、それも食べる?」

「そ、そうですね!あと豚汁でも作りましょうか?」

「いいねぇ。豚汁。ネギ多めがいいです」

「了解でーす」

「野菜刻むよ」

「じゃあ、俺はご飯仕掛けたりしますね」


2人で手分けして料理を作る。ジャムを作った時にも思ったが、2人で一緒にやると楽しいし嬉しい。ニーファの顔は終始緩んでいた。

美味しい食事をとり、今はテーブルで向かい合って酒を飲んでいる。
いつもの家じゃ、ソファーでくっついて飲んでるから、なんとなく寂しいというか違和感がある。なんだか物足りない。
ダラダラ話ながら酒を飲んでいたら、気づけば年越しまで、あと1時間である。


「ニーファ君。折角、露天風呂があるんだし、外で飲みながら新年を迎えてみない?」

「いいですね!」

「酒は熱燗じゃなくて冷の方が良さそうだね」

「すぐ準備します!」

「お願いします。俺は風呂に入る準備しとくよ」

「はーい」


ニーファは台所に行き、鍋に氷を入れて、その中に酒の瓶を突っ込み、グラスと共にお盆にのせた。肴は水の国から貰ったと思わしき塩辛でいいだろう。
用意ができると、ニーファはすぐに露天風呂へと向かった。

暗闇のなか、ランタンのぼんやりとした明かりに照らされた露天風呂は、なんともロマンチックな雰囲気だった。クリスは石の上に腰かけ、足だけを温泉につけていた。


「お待たせしましたー」

「ありがとう。先に身体は洗っちゃったよ」

「あ、俺は起きてから一度入ってるので、かけ湯だけで十分です」

「そう?じゃあ隣においでよ。足だけ浸けとくのも気持ちいいよ」

「はーい」


ニーファはいそいそとお盆を持ってクリスのすぐ隣に座った。やはりこの距離感が心地いい。


「あ、塩辛だ」

「魔導冷蔵庫の中に入ってました」

「うまいよね。好きなんだ。俺」

「そうなんですか?」

「うん。といっても、何度か食べさせてもらったことがあるだけなんだけど」

「サンガレアじゃまず手に入りませんしね」

「そうそう」


クリスが嬉しそうに皿の塩辛を箸で摘まんで食べた。すかさず冷やした酒をグラスに注いでやって渡すと、クリスがくいっと酒を飲んだ。


「うん。うまい!」

「良かったですね」

「うん。今年の年越しは贅沢だなぁ」

「俺もこんなにゆったりした年越しは生まれて初めてです」

「領主家の皆さんは忙しそうだものなぁ」

「忙しいですねぇ」


それから、ぽつぽつ話ながら、チビりチビりと冷たい酒を楽しむ。


「あ、そろそろ時間だ」

「本当だ。5分前ですね」


何故か露天風呂に設置されている時計を見ると、もう年明け5分前だった。なんとなく、隣にいるクリスの手を握る。するとクリスが指を絡めながら握り返してくれた。2人で顔を見合わせて笑う。
今頃イベント会場では、新年へのカウントダウンが始まっている頃だろう。手を繋いだまま2人で時計を見つめた。

零時きっかり。
新しい年はクリスからの頬へのキスで始まった。ニーファも笑って、すぐにお返しする。2人でクスクス笑いながら、顔を近づけ、額を合わせた。


「今年もよろしくね」

「よろしくお願いします」


ニーファにとって、幸せな新年の幕開けとなった。
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