草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
9 / 31
第一部

9:王宮からの助っ人(ミーシャ)

しおりを挟む
サンガレア領薬事研究所。
いくつもある会議室の1つにミーシャ・サンガレアはいた。王宮に勤めていた頃からの先輩でもあるブルック所長、そして最愛の夫である副所長のルートも一緒だ。

今日はミーシャが部長を勤める第3研究部への助っ人が王宮薬師局から派遣されてくる。メインの研究員として、王宮薬師局時代の先輩である、今は局長となったヒューブ先輩が来てくれる。それから息子から名前を聞いたことがある子と、弟の曾孫のフィオナも来てくれると聞いている。
いくら専門とはいえ、まさか薬師局長が来てくれるとは思っていなかった。
第3研究部は主に新薬の開発をしている。今研究中の新薬があと一歩で完成するのだが、その一歩が進まない。既に10年かけている研究で、成功したら、この国の医療に大きく貢献することが期待されているものだ。故に、研究のリーダーであるミーシャの責任は大きい。研究は少数精鋭で行っている為、第3研究部はミーシャを合わせても5人しかいない。今回の研究の要となる薬事魔術陣の専門は1人だけだ。ミーシャや他の面子も、それなりに知識も経験もあるが、専門の者には遠く及ばない。専門の彼が完全に煮詰まってしまっては、研究がどうしても滞る。彼へのいい刺激になるかもしれないと、ブルック所長に王宮薬師局への助っ人依頼を打診したところ、たまたまいた母のマーサに話を聞かれ、結果王宮薬師局長に来てもらうというレベルにまで話が大きくなった。誤算である。
確かにヒューブ先輩は薬事魔術陣研究の第一人者である。しかし、彼は局長という立場にいる。助っ人として呼ぶには大物過ぎやしないだろうか。なんだか申し訳ない気分になってくる。
ちなみに第3研究部の薬事魔術陣担当の子は、ヒューブ先輩が来ると聞いて非常に喜んでいた。彼もその筋じゃ名が知れている実力のある研究者なのだが、それだけヒューブ先輩が優れた研究者ということなのだろう。研究者としての自分の研究に対するプライドとか、そんなん関係ないと言わんばかりに、ミーハーな喜び方をしていた。普通、自分ができないから、他にできそうな大物呼びましたって言われたら、気分を害するのではないだろうか。実際はめっちゃ喜ばれた。何故だ。よく分からない。

ぼんやり思考していると、会議室のドアが開いて、マーサに連れられた3人組が入ってきた。
ブルック所長とルートが素早く立ち上がって立礼するので、ミーシャもそれに倣う。


「おっはよー。連れてきたよー」

「おはようございます。マーサ様。ありがとうございます」

「いえいえー。後はよろしくね」

「御意」


マーサは連れてきた彼らにも少し声をかけると、そのまま1人会議室から出ていった。
厳つい髭を生やしたブルック先輩がヒューブ先輩に声をかけた。


「久しぶりだな。ヒューブ。悪かったな。わざわざ来てもらうことになって」

「お久しぶりです、先輩。いや俺としても願ったり叶ったりな感じですよ。今回の研究は俺も気になってたから、関われることになって幸運です」

「そうか。よろしく頼む」

「はい。ルートとミーシャちゃんも久しぶり」

「お久しぶりです。ヒューブ先輩」

「お久しぶりです。今回はわざわざありがとうございます」


ミーシャはヒューブ先輩に頭を下げた。そしてヒューブの顔を見て、少し驚いた。快活な印象の男前だったのに、今は随分と老けて草臥れた雰囲気になっている。肉体年齢が変わっている筈はない。しかし、目の下には濃い隈があり、以前会ったときよりも明らかにやつれている。髭もキチンと剃って髪を整えてあり、服装も乱れていないのに、どこか疲れているような印象を受ける。


「ミーシャ君が研究部の部長だから、彼女に施設の案内と研究部員の紹介をしてもらってくれ」

「分かりました。ミーシャちゃん。よろしくね」

「あ、はい」

「ブルック所長。その前に一応自己紹介しといた方がよいのでは?初対面の子がいますから」

「あぁ。そうだな。所長のブルック・ターナーだ」

「副所長のルート・サンガレアです」

「第3研究部部長のミーシャ・サンガレアよ」

「アレックス・フーパーと申します。よろしくお願いいたします」


爽やかな好青年風の男の子が緊張した様子で名乗って頭を下げた。多分肉体年齢は30代頭くらいだろうから、男の子と言うのは少しおかしいかもしれないが、数百年生きているミーシャからすれば、可愛らしい男の子だ。
自己紹介した後、仕事に戻るブルック所長とルートが会議室から先に出ていった。彼らを見送ってから、王宮から来てくれた3人に声をかける。


「じゃあ、早速研究所内を簡単に案内してから、研究室に行きましょうか。研究部員は研究室にいますので」

「うん。よろしく」


3人を先導する形でミーシャは歩き出し、会議室を出た。子供の頃からミーシャにくっついて研究所に出入りしていたフィオナは兎も角、他2人は初めてだから、彼等が利用するであろう食堂などを中心にざっくり説明しながら研究所内を歩き回る。ヒューブ先輩はミーシャがまだ王宮に勤めて数年の頃に慰安旅行で1度研究所に来たことがあるが、如何せん大昔の事で、その後に何度か研究所自体を建て替えているので、今の研究所に来るのは初めてだ。
一通り研究所内を案内してから、最後にミーシャ達の根城ともいえる第3研究部の部屋に着いた。
ミーシャがドアを開けると、室内にいた4人がパッと立ち上がった。ヒューブ先輩達を研究室に入れる。皆に着席をすすめて、とりあえず全員分のお茶を淹れるために給湯室に向かった。すかさずフィオナが後ろをついてきて、手伝ってくれる。全員分のお茶を淹れて配ると、ミーシャも椅子に座った。


「じゃあ、とりあえず自己紹介から始めますか」

「ミーシャちゃん。俺からするよ」

「お願いします」

「王宮薬師局局長のヒューブ・ライオネルだ。よろしく」

「アレックス・フーパーです。よろしくお願いします」

「フィオナ・カシニアです。よろしくお願いします」


ミーシャの所の研究部員とフィオナは普通に顔見知りだ。フィオナは研究部員に対して小さく笑って、手を振った。


「じゃあ、次はうちの面子ね。バルト君からお願い」

「はい。バルト・フリッツです。よろしくお願いします」

「ショーン・ムジークです。よろしくお願いします」

「カーティス・コネリーです!よろしくお願いします!」

「フリン・ハサウェイでっす!よろしくお願いしまっす!」


普段は落ち着いた面倒見のいいお兄さんといった感じのカーティス君がとても元気よく自己紹介した。余程テンションが上がっているようだ。そんなにヒューブ先輩に会えたのが嬉しいのか。彼が第3研究部の薬事魔術陣の担当者である。他の3人はいつも通りのテンションだ。フリンちゃんが元気がいいのはいつものことである。


「よろしくね。じゃあ早速だけど、ミーシャちゃん。研究の詳細と進展具合を教えてくれる?」

「分かりました。カーティス君、資料ちょうだい」

「はいっ!」


大変元気のよいお返事をして、カーティス君が立ち上がり、3人分の資料を持ってきた。
それからは資料を見ながら、研究の詳細と進展具合について、昼休憩になる時間まで使って詳しく3人に説明をした。

説明が殆ど終わる頃に、昼休憩を知らせる鐘の音が鳴った。皆でゾロゾロと食堂に移動する。
研究所の食堂のメニューは日替わり定食、カレー、うどんの3種類しかない。今日の日替わり定食のメインは揚げた鶏肉の甘酢あんかけだったので、ミーシャは迷わず日替わり定食を選んだ。
母であるマーサが様々な調味料や料理を開発・普及させたので、サンガレアは食文化が非常に豊かである。
他の面々も好きなものを頼み、料理をのせたお盆を持ってテーブルに移動する。王宮から来た3人と世間話をしながら食事をしていると、ブルック所長がやって来た。


「ヒューブ。よかったら今夜俺の家で飲まないか?ミーシャ君も」

「いいですねぇ。お邪魔してもいいですか?」

「あぁ。勿論。就業時間が終わる頃に研究室に迎えに行く」

「はい。お願いします」

「ミーシャ君も来るだろ?ルートも来る」

「はい。あ、私は1度帰ってから行きますね。去年浸けた果実酒が結構いい出来なんです。持っていきますね」

「あぁ。頼んだ」


用件だけ言うと、ブルック所長はミーシャ達から離れて行った。残業にならないように、仕事を片付ける為だろう。ブルック所長にしろ、ルートにしろ、研究所所長として管理職の仕事をしながらも各々研究部の部長も兼任しているので、かなり忙しい。


「アレックス君とフィオナ様は俺達と一緒に飲まないか?」


ショーン君がアレックス君とフィオナに話しかけて誘った。一緒に酒でも飲んで交流してくれていた方が、ミーシャ的にも今後やりやすい。他2人を置いて、ヒューブ先輩だけをブルック所長の家に呼ぶのも、ちょっと気まずかったので、実にナイスだ。ショーン君。


「あ、それじゃあ……ご一緒してもいいですか?」

「私も行きます。あ、ショーンさん。私のことは呼び捨てでお願いします。今は研究員として来てますから」

「えー……フィオナ様を呼び捨ては無理ですよ」

「そこをなんとか」

「んー……じゃあフィオナちゃんで」

「それでお願いします」


部員とフィオナ達の間でも、話はついたようである。これで今夜のことは一安心だ。あとは午後から早速研究に取りかかるだけである。
ミーシャは気合いを入れるように、目の前の美味しい料理を頬張った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...