草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

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第一部

10:現状(ミーシャ)

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勤務時間終了間近にブルック所長がヒューブ先輩を迎えに来た。今日は初日だし、早めに解散することにして、ミーシャも帰り支度を始める。
ちょっと小太りで鼬みたいな顔をしたバルト君が声をかけて、他の面子を連れて先に研究室から出ていった。ミーシャは研究室の施錠をすると、足早に歩きだした。1度自宅である領館に戻り、マーサに今夜は食事がいらない事を伝えてから、果実酒の瓶を数本持って、自分の馬に乗り、街から少し離れている研究所に比較的近いブルック所長の家に向かう。
ブルック所長の家に着くと、庭先の木に馬を繋いでから玄関の呼び鈴を鳴らした。すぐに玄関のドアが開き、ブルック所長が出迎えてくれる。一緒に居間に行くと、ルートとヒューブ先輩は先に飲み始めていたようだ。


「やぁ。ミーシャちゃん。お疲れー」

「お疲れ様です。遅くなってすいません」

「いやいや。先に始めてて、ごめんね」

「いえ。あ、これもどうぞ」

「ありがとう」


果実酒の瓶を差し出すと、ヒューブ先輩は嬉しそうな顔で瓶を受け取った。ミーシャはルートの隣に座った。すぐにブルック所長がミーシャにグラスを渡してくれる。


「ありがとうございます」

「あぁ。今夜はフェリックスが夜勤だから、ツマミは簡単なものしかないぞ」


ブルック所長は神殿警備隊隊長でミーシャの狩りの師匠でもあるフェリックスと結婚している。フェリックスは中々の料理上手だ。美味しいものがたらふく食べられると、ちょっと期待していたので、少し残念である。しかし、ブルック所長が用意してくれている手作りの燻製肉や腸詰めもかなり美味しいことは知っているので、十分嬉しい。
ルートに酒を注いでもらい、全員で改めて乾杯してからグラスに口をつける。
ミーシャがヒューブ先輩に久しぶりに会ってから、ずっと気になっていたことを、ブルック所長がズバッと切り出した。


「なぁ、ヒューブ」

「はい?」

「お前随分と老けたな」

「あー……」


ヒューブ先輩が苦笑して頭を掻いた。


「……そんなに老けて見えます?」

「あぁ。隈も酷いし、顔色もあまり良くない。眠れてないのか?」

「えぇ……まぁ……」

「何かあったのか?」


ヒューブ先輩がちょっと口ごもり、酒を口に含んだ。一気にグラスの酒を飲み干すと、小さく溜め息を吐いて話し始めた。


「んー……愚痴みたいな話なんですけど」

「構わん。話せ。別に口外はしない」

「ははっ。そうしてもらえると助かります。やー、俺は一応貴族の生まれですけど、実家は中流貴族の中でも下の方の家柄じゃないですか」

「あぁ」

「そんな俺が薬師局局長に就任したもんだから、王宮内での風当たりが強くて。なんか王宮の他の上層部とか上級貴族から嫌味言われて無茶振りされるのが今の仕事……みたいな」

「王宮は実力主義だろ?」

「まぁ、そうなんですけど……先代の局長は上級貴族の出だったし、穏やかな顔してかなり切れ者だったじゃないですか」

「あぁ」

「先代が引退する時、薬師局で一番の古株だった俺に局長を継ぐよう話がきて、リヒトを補佐として副局長につけるからってことで引き受けたんですけど。どうも俺は局長なんて器じゃなかったみたいでして」

「と、言うと?」

「んー。俺が局長になってから、どうも周囲に舐められるようになったというか、軽んじられるようになったというか。俺は実家の家の身分も低めだから、どうにでもできると思われてる感じなんですよ。上級貴族からコネ採用を強要されたり、コネ採用の為に薬師局の規模自体大きくさせられたり……みたいな」

「ほう?」

「特に、だいたい10年前に王宮医務局の局長が変わってから、なんかドンドン王宮内での当たりがキツくなってきてまして。コネ採用させられた連中はプライドだけ高くて、実際はまるで使えないし、採用人数の関係で本当に有能な平民とか下級貴族の者を中々採用できなくて、全体的に質が下がった感じなんです。局員にも俺より上の貴族の出の奴等から反発されてるし」

「そいつは問題だな」

「はい。コネ採用を俺がキッパリ断って、今いる使えない奴等をクビにすれば済むだけの話なんですけど、情けないことにそれが中々できなくて……アレックスはすごく優秀で将来有望な奴なんですよ。平民は採用しないと言い張る馬鹿をなんとか黙らせて殆ど無理矢理採用したんです。本当はリヒトの研究部に配属するつもりだったんですけど、一部から猛反発くらっちゃって、結局使えない連中の集まってる部署でそいつらの尻拭いをさせちゃってるんですよね。もー、いつ辞表を叩きつけられるかハラハラしてた所に今回の話ですから、助かりましたよ。アレックスの刺激にもなるし、気分転換になるでしょうから。……俺も王宮から暫く離れられるし」

「なるほどな」

「ここ数年、キツイ酒を飲むか薬を飲まないと寝つけなくなってしまって……眠れてもすぐに目が覚めてしまうんですよね」

「よくないな」

「はい。現状をなんとかしないといけないんですけど、中々難しくて……」

「……まぁ、とりあえず今は飲めよ。こっちにいる間は王宮の事を忘れて、のんびりするといい」

「はい。……研究の事だけ考えられるなんて、すごく久しぶりです」


ヒューブ先輩が疲れた顔で笑った。黙って話を聞いていたミーシャは色々納得した。通りでここ数年、息子のリヒトもあまり帰ってこないわけだ。ヒューブ先輩の補佐でいっぱいいっぱいなのだろう。しかし、王宮薬師局がそんな面倒な事になっているとは思わなかった。色々心配になるが、すでに大昔に王宮を離れているミーシャにできることはない。息子のリヒトがなんとかヒューブ先輩の助けになることを祈るだけだ。
ミーシャはヒューブ先輩のグラスに酒を注いだ。せめてサンガレアにいる間だけでも、平穏に過ごしてほしい。疲れきった心も身体も癒してから、帰ってくれるのが一番だ。
その為にミーシャができることを精一杯頑張る決意をした。





ーーーーーー
だいぶ遅い時間になってから、お開きとなった。ルートと共にヒューブ先輩を宿に送り届けてから帰路につく。酒を結構飲んだので酔っている。その状態で馬に乗るのは少し危ないから、念のため馬はブルック所長の家に置いてきて、ルートと2人で手を繋いで歩いて帰る。
ルートが歩きながら溜め息を吐いた。


「王宮薬師局ヤバいな」

「ねー。本当に」

「リヒト大丈夫かな」

「ちょっと心配よね。でも私リヒトよりヒューブ先輩の方が心配だわ」

「そうだな。かなり印象変わってるもんな」

「えぇ。……なんとかできたらいいのだけど」

「んー。王宮の事は俺達にはどうしようもないからなぁ」

「そうなのよねぇ」

「まぁ、お前は毎日会うのだから、気をつけてやってくれよ」

「うん」

「フィオナも一緒だから、まぁサンガレアにいる間は勤務時間以外も大丈夫とは思うけど」

「そうね。でも眠れないのは問題よね」

「あぁ。心を病みかねない」

「うちじゃゆっくり眠れるといいのだけど、完全に眠れないのが癖になってたら難しいわよね」

「そうなんだよなぁ」


2人揃って溜め息を吐いた。ヒューブ先輩は今は独り身だから、きっと自宅でも疲れを癒してくれる者がいないのだろう。疲れやストレスを溜め込むだけ溜め込んでいる状態だ。かなり危うい。


「ねぇ。休みの日に気分転換にブルック所長も誘って山にでも薬草採りに行かない?疲れたら夜眠れるかもしれないし」

「あぁ。それはいいな。アレックス君とフィオナも誘おう」

「えぇ。すぐにはちょっと無理だけど、1ヶ月もしたら色々慣れてくるでしょうから、そのくらいに皆で行きましょう」

「明日にでもブルック所長に話しておくよ」

「お願いね」


話しながら歩いていると、領館に着いた。
風呂に入り、ルートと共にベッドに潜り込む。ルートは横になると、すぐに寝息を立て始めた。穏やかで規則正しいルートの寝息を聞きながら、明日から色々頑張ろうと、ミーシャも目を閉じた。
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