草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

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第一部

13:薬草採り(アレックス)

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サンガレアに来て1ヶ月が経った。
新薬の研究の方は前進しているような、していないような微妙なところだ。無駄に焦って思考が停止してしまうことが一番いけない。アレックス達はわりと暢気に世間話も交えつつ、日々薬事魔術陣について語り合っていた。
休みの日は毎日街に出かけている。
フィオナがヒューブ局長を誘う→快諾したヒューブ局長がアレックスも誘う→アレックス快諾→フィオナがっかり、という図式が完全に出来上がっている。
別にフィオナの恋路をわざわざ邪魔するつもりは毛頭ないが、かといって協力してやる義理もない。アレックスだって、折角の機会なのだからヒューブ局長と過ごしたい。

今日は休日だ。
アレックス達は山に来ていた。
数日前にミーシャ部長から、薬草採りに行かないかと誘われたのだ。ブルック所長とルート副所長も一緒である。
故郷を出て、王都に落ち着くまでは、ずっと薬師の師匠と旅をしていた。当然、山にも入っていた。山へ行くのは10年以上ぶりだ。久しぶりの山での薬草採りをアレックスは楽しみにしていた。
楽しみにしていた……のだが。

アレックスは脇腹を押さえて、荒い息を吐いていた。顔や首筋を流れる大量の汗の感触が不快だ。ヒューブ局長はしゃがみこんで、同じく荒い息を吐いている。
街の入り口から馬車で山の麓まで移動し、山に登り始めた時はまだ良かった。山の下の方は道が整備されていて、子供連れが散策している程楽な道だった。そこからミーシャ部長達の後を追って、整備されている道を外れた辺りから一気にキツくなった。道なき道を進み、山を登っていく。途中、薬草を見つけて採取して、また上を目指して登る。アレックスは田舎育ちだし、何年も旅をしていたから体力はある方だと思っていた。しかし、体力も筋力も使わなければ衰える。基本的に王都では王宮と自宅の往復で歩くだけだ。完全に衰えている。


「大丈夫ですか?」

「……あんまり」


フィオナがしゃがみこんだヒューブ局長の背を優しく擦りながら、水筒を手渡した。ヒューブ局長が水筒の水を一気に飲んだ。大きく息を吐いて、ノロノロと立ち上がる。


「……ルートさぁ、俺と同じガリ勉もやしっ子じゃなかった?」

「鍛えられました。主に子育てで。子育ては体力勝負です」


涼しい顔をしたルート副所長が力強く頷いた。アレックスとヒューブ局長以外は皆平然とした顔で、汗もそんなにかいていない。


「この近くに川がありますから、そこで休みましょうか。そこまで歩けますか?」

「……歩く」

「はい」


そこからまた重い足を引きずるようにして歩きだした。然程歩かず、川に出た。思わず安堵の溜め息を吐く。清流からの風が気持ちいい。
アレックスとヒューブ局長、ルート副所長は川の近くに腰かけた。


「私達ちょっとそこら辺回ってきますね」


ミーシャ部長達が川の側の藪を分け行って、山の中に消えた。
ルート副所長が靴と靴下を脱いで、ズボンの裾を捲り上げた。そのまま川の側の大きめの石に腰かけて、素足を川の水に浸す。アレックスとヒューブ局長も真似をして、靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を捲り上げて、ルート副所長と並んで座り、川の水に足を浸ける。流れる冷たい水が、火照った足に心地よい。そのまま、ぼーっと、清流の音を聞き、涼しい風に吹かれていた。なんだかとても心が落ち着く。ヒューブ局長とルート副所長は、ぽつぽつ話をしていた。昔話やルート副所長の孫の話のようだ。アレックスは邪魔をしないように、静かに日の光でキラキラ光る水面を眺めていた。

どれくらい時間が経ったのだろうか。
ぼーっとしていて少し眠くなった頃に、背後からガサガサと草をかき分けるような音がした。ミーシャ部長達が戻ってきたのだろう。
アレックスは何気なく背後を振り返る。
バカデカい熊と目が合った。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うおっ!なにっ!?って、熊ぁぁぁぁぁ!!??」


アレックスは思わず叫んでしまった。隣のヒューブ局長も叫んだ。叫んだ瞬間、熊相手に大声で叫ぶのは下策過ぎるどころか、まったく逆効果なことを思い出す。足をつけていたので分かるが川の流れは速く、水の色合いから川の中程はかなり深い。背後は熊、全面は川。
詰んだ。ヤバい。俺死んだ。
気が遠くなるのを感じたアレックスは次の瞬間、目を見開いた。
ひょこっと熊の下からフィオナが顔を出したのだ。よくよく見れば、熊を持ち上げているようにも見える。…………は?


「何叫んでるんですか、アレックス先輩。うるさいですよ」


叫んでたのはヒューブ局長もだ。そう言いたいが言葉が出ない。フィオナが両手で熊を持ち上げたまま、藪から出てきた。嘘だろおい。
フィオナがドンッと熊を地面に下ろす。熊はピクリとも動かない。


「おー。フィオナ。熊獲ってきたの?」

「うん。ちょうどいいのがいたから」

「1人で?」

「うん」


ルート副所長が暢気にフィオナに話しかけると、平然とフィオナも応えた。
熊を。獲ってきた。1人で。
アレックスは思わず顔を引き吊らせた。熊を単身で狩るってどういうことだ。確かに薬草採りの筈なのに、ブルック所長とフィオナは何故か弓を装備していた。念のための護身用かと思っていた。フィオナは女なのに弓を使うのかと内心頭を傾げていたが、あまり興味もなかったので何も聞かなかった。それが熊を狩ってきただけでなく、女性にしても小柄な身体でバカデカい熊を持ち上げて運んできたのだ。驚いたどころではない。完全にトラウマ案件だ。本当に信じられない。


「あー……ビックリしたぁ。フィオナちゃんすごいね」


ヒューブ局長がそう言うが、その発言は暢気すぎやしないだろうか。すごいとか、そういうレベルの話ではない。フィオナが照れたように顔を赤らめて、嬉しそうに笑った。


「ヒューブ局長には珍しいかな、って思いまして」

「あぁ、うん。熊の実物って初めて見るわ。俺」

「内臓の一部とか脂とかも薬になるんです」

「一応知ってるけど、本当なんだな」

「はい。脂は傷によく効きますよ」

「へぇー」

「お肉も美味しいです!」

「食べるの?熊を?」

「はい!」


故郷の山にも熊が出たので、子供の頃に熊の肉を食べたことがある。それでも熊狩りは村の男達が何人もで慎重に行ったものだ。狩った熊を山から下ろすのにも何人も人手がいる。1人で狩って、持ってくるなんて本当に信じられない。

フィオナが近づいてきて、アレックスが座っている隣で手を洗った。フィオナがふと顔を上げたかと思えば、何故かじっと水面を見つめた。
フィオナが急に装備を外して服を脱ぎ出した。あっという間に色気がまるでない下着姿になる。凹凸の少ない肢体が目に写った。

…………は?

意味が分からないフィオナの行動に言葉も出ないアレックスを余所に、フィオナが大振りのナイフ片手に流れの速い川の中に飛び込んだ。

…………は?


「フィオナちゃんっ!?」


ヒューブ局長が慌てた声を上げた。フィオナは川の深くなっているところで、水の中に潜ってしまった。
……おいおいおいおい。
顔を引き吊らせたまま、フィオナが消えた水面をじっと見る。暫くすると、フィオナが水面から顔を出した。
泳いで近づいてくる。片手に何か動くものを持っている。川の中のフィオナが立ち上がった。ビチビチ激しく動く、かなりデカい魚を片手で担ぎ上げ、そのまま川の速い流れなどものともせずに、岸に上がった。


「フィオナやったね。大物じゃん」

「うん」

「何このデカい魚」

「ヒューブ先輩。この魚はデカい程美味いんですよ」

「あ、そうなんだ」

「昼飯に焼きましょうか」

「よろしく」


ヒューブ局長とルート副所長が暢気に話してる。フィオナは魔力を使ったのか、フィオナの周りに風が集まったかと思うと、濡れた身体や濡れて張りついていた下着が乾いた。そのまま何事もなかったように服を着始めた。そして、大きな魚をその場で捌き始める。
……いやいやいやいや。お前なんなのホントに。

鹿を担いで戻ってきたブルック所長らと一緒に、デカい魚を焼いて、持参していた握り飯と一緒に食べてからその日は下山した。軽く塩を振って焼いた魚は非常に美味かった。帰りはフィオナが熊を持ち上げて歩いて下りた。アレックスはそんなフィオナにドン引きし、ヒューブ局長は『フィオナちゃん、すごいねー』で軽く済ませた。
後日、ブルック所長の家にお呼ばれして、熊料理を食べた。非常に美味かった。
しかしアレックスはなんとも言えないモヤモヤ感を抱いていた。

単身で熊を狩り、川に飛び込んでデカい魚をナイフ1本で捕る。

ありえないだろう。どんだけ野生児だ。
アレックスはフィオナに対する意識を少し変えた。
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