草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

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第一部

12:初めての休日(アレックス)

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アレックスは自分の中ではいつもよりお洒落な格好をして、宿の廊下に立っていた。自分の部屋のドアに寄りかかり、ぼんやりと窓の外を眺めている。昨日酒を飲みながら決めた集合時間まで、まだ少しある。
今日は昼飯をどこかで食べたら、芝居を観に行くのだ。芝居を観るのは初めてだから、とてもワクワクする。

カチャと音を立てて、フィオナの部屋のドアが開いた。とても可愛らしいスカートを穿いている。髪型もいつもとは違うようだ。複雑に結い上げて、後ろはうなじを出している。フィオナの顔をチラッと見ると、どうやら化粧までしているらしい。気合い十分っといった様子だ。


「おはようございます」

「……おはよう」

「ヒューブ局長は?」

「まだ」

「そうですか」


フィオナは待ち遠しいのか、ヒューブ局長の部屋の前の廊下の窓際に立った。無言でヒューブ局長を待っていると、バタッと勢いよくヒューブ局長が部屋から出てきた。


「ごめん寝過ごした!」

「おはようございます!全然大丈夫です!」

「あ、そう?」

「おはようございます」

「あ、おはよう」


お洒落なシャツを着ているヒューブ局長はいつもと少し印象が違った。相変わらず草臥れた雰囲気ではあるが、いつもより少し若く見える。チラッとフィオナの方を見ると、頬を赤らめて、ヒューブ局長を見つめていた。


「じゃあ、行こうか」

「はいっ!」

「はい」

「お昼は朝ご飯を食べていないので、ガッツリ系がいいですか?それとも逆に控え目にしときますか?」

「ここの劇場ってさ、確か食べ物を食べながら観劇できたよね?」

「はい。劇場でキャラメルポップコーンとかサンドイッチとか色々売ってます。お酒も売ってますよ」

「んー。じゃあ、劇場でも何か食べたいから、軽めのがいいかな。アレックスもそれでいいか?」

「はい」

「分かりました」


頷いたフィオナが歩きだしたので、後ろをついていく。宿を出て、歩いて劇場方面へと向かい、途中にある喫茶店でサンドイッチ等、軽めのものを食べた。アレックスはハムとチーズ、レタスのサンドイッチを頼んだのだが、これがかなり美味かった。ハムもチーズも美味いのだが、なによりレタスが王都で食べるものとは段違いである。瑞々しくシャキシャキしていて、レタスの味自体が濃い。パンもしっかり小麦の味がしていて美味かった。
ちなみにフィオナはサンドイッチを6人前頼んで、全部完食していた。6人前は全然軽くねぇよ。サンドイッチは1人前でも、そこそこボリュームがあった。
ヒューブ局長はパンケーキを頼んでいた。

食べ終えると、劇場に行き、チケット販売場でチケットを購入してから、売店に行った。売店では沢山の種類の食べ物や飲み物が売られている。アレックスが初めて聞く名前のものが多い。少し悩んで、揚げ砂糖なるお菓子と冷たい緑茶を買った。フィオナ曰く、揚げ砂糖は元々は遠い風の宗主国の祝い菓子なのだとか。とても珍しいので、つい買ってしまった。一袋に丸い形の揚げ菓子が5個入っている。ヒューブ局長はキャラメルポップコーンなるものと果実水を買っていた。フィオナは一番でかい袋に入っている揚げた芋と揚げ砂糖とキャラメルポップコーンとパンに腸詰め肉を挟んだホットドッグなるもの、チュロスとかいう細長い揚げ菓子、一番大きなサイズのコップに入った林檎ジュースを買っていた。飲み物はサイズが大・中・小の3つあり、アレックスもヒューブ局長も中を選んでいた。……やっぱりフィオナは明らかに食べ過ぎだろ。
フィオナに呆れると同時に引きながら、劇場内に入り、チケットに記されている番号の椅子に座る。ヒューブ局長、アレックス、フィオナの並びだ。完全に偶然である。別に意図的に恋するフィオナの邪魔をしているわけでは断じてない。
芝居が始まるまで、あと少し時間があるので、早速揚げ砂糖を1つ食べてみる。表面はサクサク、中はふわっとしていて美味しい。甘さもそんなにくどくない為、5個くらいなら、すぐに食べきってしまいそうだ。
隣のヒューブ局長もキャラメルポップコーンなるものを食べていた。


「ヒューブ局長。お1ついかがですか?」

「あ、いいの?じゃあ貰うわ。これも美味いからアレックスも食べてみろよ」

「ありがとうございます」


ヒューブ局長がキャラメルポップコーンなるものを差し出してくれたので、少し貰った。これも美味い。サクサクのポップコーンとかいうものにかけられているキャラメルの甘さが程よい。その時、ヒューブ局長とは反対側の席から視線を感じた。フィオナが羨ましそうな目で見ていた。フィオナはキャラメルポップコーンも買っていたし、ヒューブ局長と交換できるものがない。なにやら悔しそうな顔をしている。恋する乙女よ。恋してるならもう少し考えて行動しろよ。アレックスは内心フィオナに呆れているが、それを表に出すことはしなかった。
芝居が始まる合図の音が聞こえたので、どうでもよくなったというのが正しい。

初めて観た芝居は非常に面白かった。土の宗主国の古典文学を大胆に喜劇にしたもので、芝居を観ている間は面白すぎてずっと笑っていた。隣のヒューブ局長も声を出して笑っていた。あまりにも面白かったから、アレックスは売店で売っていた原作の古典文学小説と喜劇にアレンジされた脚本の2冊を買ってしまった。読み比べたら、きっと面白い筈だ。たとえ1人でもまた観に来よう。アレックスは念のため公演スケジュールが書かれている紙も、売店のお兄さんから貰った。
芝居は休憩を挟んで3時間程だったので、もう夕方だ。芝居を見ながら揚げ砂糖を食べたが、小腹が空いている。


「ヒューブ局長。晩飯はどうしますか?」

「2人とも腹に入るなら、ついでだし、この近くで食べようか」

「「はい」」

「フィオナちゃん。この近くでお薦めの店とかある?」

「そうですね……オムライスが美味しい店とピィツァが美味しい店があります」

「あ、俺ピィツァがいい。アレックスは?」

「俺は何でもいいです」


どちらの料理も初めて聞く名前だ。ヒューブ局長の食べたいものをということで、ピィツァなるものを食べに行った。丸く薄い生地の上にトマトのソースと思われるものと野菜や肉類がのっていて、その上からチーズがたっぷりかかって焼いてある。切れ目が入っていて、手で掴んで食べるものらしい。ヒューブ局長やフィオナの真似をしてピィツァを1枚取り食べる。美味い。アレックスは1枚を早々と食べきると、のっている具の種類が違うものを1枚手に取った。これも美味い。


「やっぱ本場のピィツァは美味いなぁ。王都だとちょっと微妙な店が多いし、美味い店はとにかく値段が高いんだよな」


王都にもピィツァってあるのか。知らなかった。フィオナは美味しそうにピィツァを頬張っている。白ワインを飲みながら、満足するまで美味しいピィツァを食べまくった。

満腹になったので、宿に戻ることになった。晩飯を食べながら話し、明日は職人街と呼ばれる地区に行くことになった。観光の穴場スポットであるらしい。それと同時進行で食べ歩きをする。サンガレアの街は兎に角飲食店が多い。店に入って食べるスタイルの店も多いが、それ以上に持ち帰り専門の店が多い。街の様々な場所にベンチが置いてある小スペースがあり、そこに座って何かを食べている人を何度も見かけた。
薬事研究所の食堂の飯もかなり美味いし、サンガレアは飯が美味い土地柄なのだろう。食べ物にはまるで拘りがないアレックスではあるが、ここまで美味いものだらけだと楽しくなってくる。

宿の部屋の前で解散してから、部屋の風呂に入り、ベッドに潜り込む。
明日もとても楽しみだ。アレックスは子供のようにワクワクしながら、眠りについた。
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