草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

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第二部

1:新婚さんの悩み

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ヒューブが浅い眠りから目覚めると、すぐ隣から規則正しい寝息が聞こえた。横を見れば、フィオナがこちらを向いて眠っている。長い金色の睫毛が伏せられていると、少しだけ幼く見える。じーっとフィオナの寝顔を観察する。フィオナは寝顔まで美しい。
フィオナと結婚して一緒に暮らし始めて1ヶ月程経つ。毎日一緒に寝ているが、セックスはしていない。というか、できない。ヒューブは勃起不全だ。フィオナとの結婚が決まってから、禁酒をし、自分で調合した薬で治療を始めたが、今のところ成果は出ていない。
ヒューブは自分の股間を撫で、溜め息を吐いた。やっぱり今日も朝勃ちしていない。勃起不全になったのは、3人目の妻に浮気されて離婚してからだから、結構な年数が経っている。一朝一夕で治るとは思えないが、ヒューブは少しでも早く勃起不全を治したい。フィオナに触れたいからだ。

毎晩一緒に寝ているが、本当にただ寝ているだけだ。フィオナは毎晩、ヒューブがおやすみのキスをすると、はにかんで幸せそうに笑ってから、すぐに寝落ちる。寝付きがいいのは何よりだが、ヒューブとしては、セックス本番ができなくても、もう少し夫婦としての触れ合いがしたい。
気持ちよさそうにぐっすりと寝ているフィオナの頭をやんわりと撫でながら、ヒューブは小さな溜め息を吐いた。






------
ヒューブは大量のレタスを手で千切っていた。隣では義兄になったアレックスがトマトを切っている。魔導コンロの前には、部下の1人であり、リヒトの伴侶でもあるロンが大鍋で大量のカレーを煮込んでいる。
今日は王都のサンガレア公爵家の邸に来ている。
『夏の強化合宿~王都編~』と題し、将軍であるマーシャルを中心とする一族の軍人並びに戦闘能力がある者全員が参加しての、強化訓練が行われている。広い庭の方から、怒号と罵声と剣のぶつかり合う激しい音が聞こえてくる。
土の神子マーサの伴侶リチャードの血の繋がらない弟であるギルバートの伴侶フランクが、大量のスイカを切り分けている。
剣を扱う者は全員訓練に参加しているので、完全なる非戦闘員の者達で昼食を作っている。本来なら『夏の強化合宿』はサンガレア公爵家本家があるサンガレア領で行われるものなのだが、将軍をしているマーシャルが忙しくて中々帰れないということで、王都の邸で、簡易版の強化合宿をすることになった。王都に住む親戚が全員集まって、3日間、強化合宿が行われる。フィオナも合宿に参加している。そもそも、サンガレア公爵家の人間は、よほどの理由がない限り、男女関係なく、基本的に子供の頃から剣を習う。剣術馬鹿な元将軍のリチャードと愉快な仲間達(サンガレア領軍の精鋭達)に鍛えられたフィオナ達は並の腕前ではない。

アレックスと2人で野菜サラダを作り終えたヒューブは、カレーをフランクに任せたロンも一緒に、邸の調合室で今度は傷薬などを作り始めた。
刃を潰した練習用の剣を使っているが、初日の昨日だけでも、皆割と派手な怪我をしている。手加減はしているらしいので流石に骨折はないが、酷い打撲や擦過傷で、訓練後は、薬師達は治療で大忙しになった。
ヒューブは打撲に効く湿布薬を作りながら、アレックスに話しかけた。


「アレックス」

「何でしょう」

「アレックスってフィオナちゃんと仲いいじゃない」

「そんなことはないです」

「いやいや。端から見てたら仲良しだからな」

「……えぇ……」

「そんな嫌そうな顔するなよ。フィオナちゃんの誕生日が近いんだ。プレゼントは何がいいと思う?」

「ヒューブ局長があげたものなら、何でもうれションして喜びますよ」

「いや、うれションって。犬じゃあるまいし」

「ヒューブ局長大好きな番犬じゃないですか。むしろ駄犬?」

「……うん。ロンは何か思いつかないか?フィオナちゃんを子供の頃から知っているだろ?」

「そうですね……ヒューブ局長があげたものなら雑草でも大喜びしますよ」

「いや雑草って……」

「多分ですけど、ものよりヒューブ局長が1日構ってやる方が喜ぶんじゃないですか」

「あー。そうかも。アレックス君、分かってるねー」

「不本意ですけど一応義理の妹なので。あと、あいつ結構単純ですし」

「アレックス君、ほんとフィオナと仲良しだよね」

「仲良くないです」

「……んーーーー。参考になるような、ならないような……デートでもすればいいかな」

「いいと思います。確実に鼻息荒くして喜びます」

「あ、旅行はどうですか?サンガレアなら転移陣使えば一瞬で行けますし。フィオナは自然が好きですから、一緒に湖や近くの山に行かれてみてはどうですか?」

「いいね。ロン。それ採用。でも、それ以外に何かプレゼントがしたいんだよね」

「……『ヒューブ局長による頭撫で撫で券』とか?」

「子供か。『肩たたき券』じゃあるまいし」

「涎垂らして喜びますよ」

「アレックスの中のフィオナちゃんはどうなってるの?」

「ヒューブ局長大好き野生児ですね。最近は忠犬というか、駄犬というか、なんか犬要素が加わりました。あいつ、何故か毎日のように惚気をすっごい長文で携帯通信具に送ってきやがるんですよ。家で一緒なのに、職場でもヒューブ局長見かけたら尻尾を全力で振る犬みたいな雰囲気になるし」

「フィオナは割と犬っぽいですよね。1度懐いたらとことん好いてくる感じの」

「猫ではないですよね」

「犬だねぇ」

「……いや、俺も正直に言うと、フィオナちゃんってわんこっぽいなと思うけど」


ヒューブの頭の中に、満面の笑顔でブンブン尻尾を振るフィオナが思い浮かんだ。可愛いがどうなんだ。この想像。違和感がないことに違和感を抱く程しっくりくる想像だった。
サンガレアに旅行に行くとして、フィオナの誕生日プレゼントはしっかりと用意をしておきたい。その為の参考になることを聞きたかったのだが、あまり参考になりそうにない。
今度は擦過傷用の軟膏を手際よく作りながら、ヒューブがうーんと考え込んでいると、アレックスが口を開いた。


「お揃いのアクセサリーはどうです?ピアスとか。仕事中でもつけられるようなやつ」

「アレックス。採用。お揃い……あっ、でも俺って結構な歳じゃない。若いお嫁さん貰って浮かれてるって思われないかな」

「大丈夫ですよ。フィオナが喜ぶ方が大事ですし」

「それもそうか。……サンガレアで一緒に選ぶかな。いや、特注で作らせるか……」


ヒューブは悩みながら、夫婦揃っての休暇を取る為の仕事の算段を考え始めた。
結婚式は王都でしたので、言わば新婚旅行である。
『新婚旅行』という響きに、ヒューブはなんだか急に照れくさくなって、力一杯軟膏をねりねりした。
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