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二人だけの特別な時間
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ヴァリアーズ家の執事であるアンブローズの朝は早い。日が昇る前に起き出し、今日一日の予定を確認してから、手早く身支度を整える。起きてきた他の使用人達と一緒に朝食を取りつつ、今日の打ち合わせをする。仕えている主の起床の時間に間に合うように全てを整え、万全の状態で主を起こしに行く。本来ならば主を起こすのはメイドの仕事だが、これだけはアンブローズがどうしてもやりたくてやっている。
アンブローズが勤めている屋敷には、まだ幼い主が1人で暮らしている。ヴァリアーズ家当主である父親と母親、上の兄弟は、王都の屋敷に住んでいる。此処はヴァリアーズ家の領地内にある屋敷だ。領地の中でも、静かな田舎にある。身体があまり丈夫ではない主が、静かな環境で大きく元気に成長できるようにとの配慮で、まだ10歳の主だけがこの屋敷にいる。アンブローズの主の名前は、メルディアンス・ヴァリアーズ。誰もが認める美しくて心優しい主である。アンブローズが残りの人生をかけて仕えると心に誓った大事な主だ。
アンブローズはメルディアンスの寝室のドアをノックする前に、ドアの前で懐から小さな鏡を取り出し、素早く身嗜みチェックを行った。
アンブローズは現在49歳である。結婚はしていない。縁談の話が無かった訳ではないが、メルディアンスが生まれる前までは亡くなったメルディアンスの祖父に仕えており、仕事が何よりも大事だったから、結婚はしなかった。きっちり整えているブラウンの髪は、白髪が多くなったし、顔の皺も増えてきている。若い頃は、百合のような美男子だと言われていたアンブローズであるが、着実に老けてきている。40歳を超えた頃から伸ばして整えるようになった口髭は、自分では中々似合っていると思う。落ち着いた渋みがあると、周囲からの評判もいい。
アンブローズは鏡を懐に仕舞うと、メルディアンスの寝室のドアをノックした。アンブローズの唯一絶対の主の体調チェックをせねば。そして、可愛い主の寝起きを堪能しなければいけない。アンブローズは微かに笑みを浮かべ、静かにメルディアンスの寝室に入った。
アンブローズが勤めている屋敷には、アンブローズを含めて、使用人は10人もいない。皆メルディアンスがもっと小さかった頃から仕えており、可愛らしく優しいメルディアンスに心底メロメロである。
毎日が穏やかに過ぎていく屋敷に、半年程前、1人の男が料理人として加わった。料理人として仕えていた男が60歳が近くなり、腰を痛めたので、自分の代わりにと推薦してきた男だ。歳は50歳で、妻を20年前に亡くしている。子供はいないらしい。事前に面接に来た男は、大柄で、まるで熊のような厳つい顔立ちと体格をしていたが、とても穏やかな落ち着いた話し方と表情をする男で、料理の腕前もかなりのものだった。10年来の相棒であるメイド長とも一応相談した結果、アンブローズは男を採用した。
ニールという男は、とても働き者だ。前料理人の男から、メルディアンスの好き嫌いや、苦手な食べ物を食べてもらう為の工夫を全て聞き取り、前料理人の味を忠実に再現している。更には食が細いメルディアンスにもっと食べてもらえるようにと、毎日遅くまで厨房で試行錯誤を繰り返している。メルディアンスに食べ慣れた味を提供しつつ、少しずつ自分の味を供していくニールの姿は、自分の職務に誇りを持っていると同時に、自分の役目をしっかりと理解し、まだ幼い主の為にできる限りの心配りをしていることが分かる。アンブローズはニールを高く評価している。
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アンブローズは書類を机に置き、眼鏡を外して、目頭を指で押さえた。王都の屋敷とのやり取りや金銭関係その他、屋敷の書類仕事は全てアンブローズが行っている。日中はメルディアンスの側に控えていたり、屋敷内の使用人達を取り仕切っていたりするので、書類仕事はメルディアンスが寝た後にすることが殆どだ。
老眼になり、眼鏡をかけても、ランプの灯りだけで細かい文字を見ることが地味に辛くなってきた今日この頃である。
懐中時計を懐から取り出して時間を確認すれば、そろそろ日付が変わる時間である。寝なければいけない時間を過ぎているが、できたら、もう少し書類を捌いておきたい。しかし、目の奥がじんと鈍く重いので、少しだけ目を休めたい。アンブローズは気分転換がてら、厨房へと向かった。
厨房を覗けば、今日もニールがランプを灯した薄暗い厨房で、静かに作業をしていた。厨房内のテーブルの上には、何冊もノートが置いてある。それはニールの研究ノートだ。メルディアンスが好んで量を食べてくれるような料理を、ニールは毎日この時間まで1人で研究している。アンブローズは鍋を見ているニールに声をかけた。
「ニール。今夜もお疲れ様です」
「あ、アンブローズさん。お疲れ様です。また書類仕事ですか?」
「えぇ」
「遅くまで大変ですね」
「いえ。貴方も毎日遅くまで頑張っていますね」
「ははっ。いやぁ、俺は自分の為ですよ。料理人としちゃあやっぱり、『美味しい』って笑って沢山食べてもらいたいんですよ」
「坊っちゃまが食べてくださる量は少しずつ増えておりますし、食事が楽しそうでいらっしゃいます。貴方の努力のお陰です。ありがとうございます」
「いやぁ。ははっ。そう言ってもらえると、励みになります。飲み物を取りに来たんですか?」
「えぇ。少し気分転換に紅茶でも飲もうかと」
「ついでに新作のデザートを味見してもらえませんか?人参のケーキなんですけど、南瓜のソースを添えてみようかと思ってるんです」
「ほう。それは珍しいですね」
「どちらも身体にいい野菜だけど、メルディアンス様はあんまり得意じゃないでしょう?デザートにしたら食べやすいかと思いまして」
「素晴らしいです。是非とも味見をさせていただきたい」
「ははっ。ありがとうございます」
照れたように笑って、ニールが薄いオレンジ色のケーキを切り、鍋の中の黄色いソースを少しだけかけた。色合いが明るく華やかで、とても可愛らしい。紅茶を淹れてくれたニールと共に椅子に座り、ニールの試作品のケーキを食べてみる。人参のケーキだけを先に食べてみると、柔らかい優しい甘さがふわっと口の中に広がる。人参特有の香りは気にならず、言われなければ人参が使われていると気づかないかもしれない。これだけでも十分美味しい。南瓜のソースと共に口に含んでみれば、南瓜の柔らかい甘みと人参のケーキの優しい甘さがいい具合に絡み合って、より美味しくなる。見た目が可愛らしいし、味も美味しい。ニールが淹れてくれた少し濃いめの紅茶ともよく合う。これはメルディアンスも好みそうだ。アンブローズは微笑んで、どこか緊張している様子のニールを真っ直ぐに見た。
「とても美味しいです。これは本当に坊っちゃまが好んでくださるでしょう。優しい甘さがいいですね」
「ありがとうございます。明日の午後のお茶の時間に、早速お出ししてもいいですか?」
「えぇ。是非ともお願いします。紅茶もこれと同じものをご用意いたしましょう。とても相性がいいです」
「やぁ。よかった。そう言ってもらえると、ここ一週間の苦労が報われます。あ、明日メルディアンス様に召し上がってもらわないと分からないんですけどね」
「きっとお気に召してくださいますよ。明日も一日よろしくお願いします。さて。素敵な休憩ができました。貴方もそろそろ休みなさい。お互いにいい歳ですからね」
「あ、はい。アンブローズさんもできたら休んでくださいね。我々ぐらいの歳になると、中々無理ができなくなりますから」
「……そうですね。特別急ぎな訳ではないですし、今日は私も休みます。歳はとりたくないですね。若い頃は二日三日徹夜しても平気だったのですが」
「この歳になると駄目ですねぇ。じわじわとあちらこちらにガタがきちゃってますよ」
「私は老眼がね……」
「俺は膝がちょっと……」
アンブローズはニールと顔を見合わせ、同時に小さく吹き出した。ニールとは、不思議と砕けた話ができる。深夜の厨房限定だが。長年の相棒のようなメイド長や他の使用人達とも親しくない訳ではないが、それでも彼らを取り纏める執事として、一応一線は引いている。主とは言わずもがなだ。アンブローズは、子供の頃は友人と呼べる相手がいたが、今では疎遠になっており、たまにある休日を一緒に過ごすような人はいない。ニールが屋敷に勤め始めてから、この深夜の厨房での試食会が、アンブローズの密かな楽しみになっている。
アンブローズは片付け始めたニールを少し手伝い、ニールと共にランプを消した暗い厨房を後にした。
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ニールが作った人参のケーキは、メルディアンスが非常に喜んで食べてくれた。珍しくおかわりまでしてくれたので、アンブローズはその日の深夜、厨房までニールにこの事を伝えに出向いた。メルディアンスがとても喜んで食べてくれた事を伝えると、ニールが嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。照れたように短く刈っている白髪混じりの黒髪を掻き、ニールがへへっと笑った。
「やぁ。本当に嬉しいですねぇ。次も気に入ってくださるものを作らないと」
「もう次のものを考えているのですか?」
「はい。魚をね、もっと食べやすくできないかと思って。細かく刻んで下味をつけて、くり抜いた蕪に入れて煮たらどうかと考えてます。蕪もデカいやつじゃなくて、小さな一口で食べられそうな柔らかいものを使って」
「それは可愛らしいでしょうね。一口で食べられるのなら、坊っちゃまも抵抗なく食べられるでしょう。しかし、作るのが大変ではないですか?」
「ものは試しです。とりあえずやってみます。それに蕪の皮を剥いて中をくり抜くだけなら、すぐにできますよ。他のメニューと味と彩りのバランスを考えながら、効率よく作れば問題ないです」
「素晴らしいですね。では、次の新作も期待しております。ふふっ。坊っちゃまが明日も人参のケーキがよいと仰ってましたよ」
「おぉっ!あ、でも。俺は嬉しいんですが、続けてで飽きませんかね」
「坊っちゃまのご希望ですから。明後日は流石に別のものをお願いします。そうですね……先日お出ししたクッキーをお願いします。プラムのジャムを使ったクッキーです。あれも坊っちゃまのお気に入りです」
「はい。では、明後日はジャムクッキーで。……あー、あの」
「はい?」
「アンブローズさんは、何か食べたいものはありませんか?えーと、いつも試食に付き合ってもらってるんで、何かお礼をしたいんです。俺は料理を作ることしかできないので、なんだか申し訳無いんですが……」
「試食は私も楽しませていただいてますよ。太るのが少々心配ではありますが」
「アンブローズさんは細いから少しくらい太っても問題ないですよ。俺はちょっとアレですけど」
「ふふっ。さて。折角の申し出ですし、ワインに合うものを作っていただけますか?この領地で作られている赤ワインの10年ものを持っているのです。1人だと中々飲まないので、いい機会ですから、少し付き合ってください」
アンブローズの言葉に、ニールがきょとんと目を丸くした後、ぱぁっと明るい笑みを浮かべた。
「いいですね。ワインを飲むのは久しぶりです。前はよく飲んでいたんですけど、ここに勤め始めてからは、新作を試行錯誤するのが楽しくて全然飲まなくなったんです。ご馳走になってもいいんですか?」
「えぇ。勿論。美味しいワインのお供をお願いしますね」
「赤か……鹿はお好きですか?」
「好きです」
「では、鹿肉をお出しします。ははっ。腕がなりますね」
「楽しみにしております。そうですね……三日後の夜は如何ですか?貴方は準備が必要なのでは?」
「そうですね。それくらい時間があった方が色々と仕込めます。では、三日後の夜に」
「えぇ。流石に此処でワインを飲むのは気が咎めます。私の部屋でよろしいですか?」
「はい。お邪魔させてもらいます」
「お待ちしておりますよ」
アンブローズは随分と久方ぶりに、ワクワクと胸が高鳴った。ニールとは友人という訳でなく、上司と部下の関係だが、歳が同じくらいの男と仕事抜きで酒を飲むなんて久しぶりだ。たまには、誰かと酒と食事と会話を楽しんでもいいだろう。アンブローズは自室に戻ると、いそいそと手帳を取り出し、三日後の予定を書き加えた。
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ニールはアンブローズを眺めて、堪えきれずに小さく笑った。アンブローズが小さな子供の様に、椅子の上でお山座りをしながら、ニコニコと楽しそうに笑い、ワインを飲んでいる。椅子の上でお山座りをするなど、普段のキッチリとした隙のないアンブローズからは想像もできなかった。まだワイングラスで2杯程しかワインを飲んでいない。どうやら、アンブローズは酒に弱いらしい。年相応に皺があるが、とても美しく整っている顔をゆるめ、アンブローズが機嫌よく話しかけてきた。
「この鹿肉の煮込みは本当に絶品ですね。坊っちゃまには少し早い気がしますけど。坊ちゃまが大人になられたら、是非召し上がっていただきたいですね」
「ありがとうございます。作った甲斐があります」
「貴方はとても素晴らしい料理人です。まるで魔法使いの様です」
「魔法使い?えーと、絵本に出てくる?」
「えぇ。美味しいものを沢山作れるでしょう?貴方が作ったものを食べると、皆笑顔になります。貴方は笑顔の魔法使いです」
「……ははっ。ありがとうございます」
常とは違う、まるで無邪気な子供の様なアンブローズの笑みと言葉に、なんとも面映ゆくなる。ニールは照れくさくて、誤魔化すようにガシガシと頭を掻きながら、込み上げてくる嬉しさに、へらっと笑った。いつも試食に付き合ってくれるアンブローズへのお礼のつもりで申し出て作った料理が、ここまでアンブローズに喜んでもらえると、逆にニールのご褒美みたいだ。ニールが作った鹿肉の煮込みや付け合わせの飾り切りした野菜を食べながら、アンブローズの落ち着いた深い蒼色の瞳が、キラキラと輝く。アンブローズが美味しそうに食べて笑ってくれるのが、とても嬉しくて、ニールは味わい深いワインを一口飲んだ後、口を開いた。
「アンブローズさん。良ければ、また一緒にこうして飲みませんか?本当に美味しそうに食べてくれるから、すごく嬉しいし、楽しいです」
「ふふっ。いいですね。私も楽しいです」
「貴方が好きなものを教えてください。何でもいいですよ。俺が精一杯美味しくしちゃいます」
「それはそれは。頼もしいですね。……次は、魚が食べたいです。あっさりしたものがいいですね。白ワインに合うような。デザートも欲しいです。果物を使ったものが食べたいです。食べると、ほっと一息つけるような……そんな甘いものが食べたいですね」
「分かりました。色々と考えてみます。楽しみにしていてください。貴方のご期待に添えるよう、頑張ります」
「はい。楽しみにしております。貴方は何が好きですか?」
「俺ですか?俺はちょっと野性味のある肉が好きですね。猪とか。この屋敷じゃ食べることはありませんけど、美味いんですよ。猪」
「ほう。猪は食べたことがありませんね」
「機会があれば、是非一度試してみてください。赤ワインも合うんですけど、俺は蒸留酒と一緒に楽しむのが好きですね。こうね、キリッとした味わいと香りのものが、本当に相性がいいんですよ」
「そんなことをお聞きしたら、食べたくなってしまうではありませんか」
「いやぁ。本当に美味いんですよ」
ニールは、楽しそうなアンブローズと顔を見合わせて笑った。酒が入っているからだろうが、アンブローズがいつもよりもずっとリラックスした雰囲気で、楽しそうに話している。ニールも笑いながら、アンブローズとの会話と美味しいワインを楽しんだ。
用意した料理とワインが全て無くなると、次の約束をしてから、ニールはアンブローズの部屋を出た。厨房で後片付けをして、自分に与えられた小さな部屋へと向いながら、ニールは小さく口角を上げた。アンブローズと一緒に酒を飲むのは、本当に楽しかった。ニールは職場となったこの屋敷に来るまでは、此処から馬車で片道二日はかかる大きな街で働いていた。知り合いが誰もいない住み込みの仕事に不安を抱えていたが、この屋敷の主も使用人達も、皆とても優しい。特にアンブローズは、何かとニールを気にかけてくれて、こうして一緒に酒と料理を楽しんでくれた。酒精に頬を赤く染め、子供の様に無邪気な笑みを浮かべていたアンブローズを思い出し、ニールはクックッと笑いながら、自室へと入った。次に作るものを考えながら、寝間着に着替えてベッドに上がる。なんともワクワクする気持ちが湧き上がってきて、ニールはその夜、中々寝つけなかった。
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ニールとアンブローズの、2人だけのお楽しみ会の様な夜が10回を超えたある日の夜。ニールは蒸留酒を、アンブローズは白ワインを其々飲みつつ、ニールが作った試作品の料理を食べていた。ここ数回で、最初の1杯は2人で同じ酒を飲み、2杯目からは其々好きなものを飲むという流れができた。毎回、アンブローズが好みそうな小さなデザートも用意している。アンブローズが気に入れば、メルディアンスに供することもある。アンブローズは口調は変わらないが、回を重ねる毎に、より砕けた雰囲気でニールと接してくれるようになった。ニールは、自分でも不思議になる程、それが嬉しくて堪らない。
椅子の上でお山座りをしているアンブローズが、美味しそうに牡蠣のパイ包み焼きを食べながら、ニコニコと笑って口を開いた。
「牡蠣って精力が増進するらしいですね」
「あぁ。聞いたことはあります」
「先代様がよく召し上がっていたのですよ」
「そうなんですか?愛妾でもいたんですか?」
「愛妾はおりませんでしたよ。玩具はいましたけど」
「玩具?」
「えぇ。最初のうちはご自身で楽しんで、勃たなくなったら、若い男複数人に犯させて、それをご覧になって楽しんでいらっしゃいました」
「それはまた。悪趣味な」
「まぁ、その玩具は私だったのですけどね」
「…………はぁ!?」
ニールはアンブローズの言葉に目を剥いた。アンブローズはニコニコ笑ったまま、美味しそうに今度はデザートの苺のムースを食べ始めた。
「ふふっ。これも美味しいです。苺のソースがいいですね。少し酸味が強めで、ムースがしっかり甘いから、とてもバランスが良くて。いくらでも入りそうな気がします」
「あ、あぁ……ありがとうございます」
アンブローズが美味しそうに食べながら褒めてくれるが、ニールはそれどころではなかった。目の前の美しい男が玩具にされていた。アンブローズは、先代当主が現当主へ当主の座を譲った後に、先代当主専属の執事になったと聞いている。先代当主はメルディアンスが生まれる1年前に亡くなったそうだ。
「……あの。先代様には、何年お仕えしていたんですか?」
「そうですね……ざっと15年程ですね」
「15年……」
15年も玩具にされていたとは。ニールの胸に、じわぁっと苦いものが広がった。顔を顰めるニールを見て、アンブローズが苦笑した。
「終わったことですよ」
「いやでも」
「まぁ。当時は嫌でしたけどね。私は執事で、男娼ではない」
「そうでしょうとも」
「愛されていたのでしたら、まだよかったかもしれませんが、最初から最後まで玩具でしたからね」
「……腹立つ」
「ふふっ。ニール。襲いかかってくる3秒前の熊のような顔をしていますよ。……貴方は優しいですね」
「別に優しくなんてないですよ。友人が理不尽な目に合っていたと知ったら、そりゃあ腹も立ちますよ」
「友人……えぇ。私も貴方のことを友人だと思っております」
「あ、ありがとうございます」
「しかしですね」
「ん?」
「そろそろ次にいこうかと」
「次?」
「『友人』じゃ物足りなくなってきたのですよ」
「ん?」
「私は大変『具合』がいいそうです」
「ぶっ!はぁぁっ!?」
「ニール。ちょっと味見をしてみませんか?」
「あ、味見……」
「えぇ。奥方を亡くされてから、そっちの方はどうなんです?」
「……とんとさっぱり」
「おや。そうなのですね。では、とりあえず口で」
「へ?」
アンブローズがワイングラスに残っていた白ワインを飲み干し、椅子から立ち上がった。丸いテーブルを挟んで向かい合うように座っていたニールの側にやって来て、いきなりテーブルの下にアンブローズが潜り込んだ。
「アンブローズさん?」
慌ててニールがテーブルの下を覗き込むと、アンブローズがにっこりと無邪気に笑って、椅子に座ったままのニールの股間をするりと撫でた。
「アンブローズさん!?」
「随分と久しぶりですから、あまり自信はありませんけれど、それなりに上手いと思います」
「え、え……だ、駄目ですよ」
「少しだけ。ね?」
やわやわとアンブローズの手が優しくニールの股間を揉み始めた。妻を亡くしてからは女を抱いていないし、最近は自慰もしなくなった。アンブローズの手つきは、優しいのに、酷く性感を煽ってくる。アンブローズを止めなければいけないのだが、ふと思ってしまった。この美しく普段は穏やかに落ち着いている男は、どんな風に乱れるのだろうか。ニールはゴクリと生唾を飲み込んだ。
アンブローズがニールのズボンのベルトを外し、ズボンの前立てのボタンを全て外してしまった。ズボンの前立てを広げ、下に穿いている白いブリーフをずらし下ろされる。僅かに反応してしまっているニールのペニスを露にすると、アンブローズが、パァッと顔を輝かせた。
「おぉ。これはこれは。大きいですね。素晴らしいです」
「ありがとうございます?」
「ふふっ。では、こちらもいただきます」
「えっと……召し上がれ?」
「ふふっ……ん……」
「んっ……」
アンブローズがまだ殆ど萎えているニールのペニスの先っぽをパクンと口に含んだ。アンブローズの熱い口内と舌の感触に、思わずぶるりと身体が震えた。久方ぶり過ぎる快感が、身体の中へと広がっていく。アンブローズがニールのペニスの全体を舐め終える頃には、ニールのペニスは完全に勃起してしまった。自慢じゃないが、ニールのペニスは大きい。結婚した頃、妻に挿れるのに苦労した覚えがある。アンブローズの熱い舌がペニスの裏筋をねっとりと這い、カリを擽り、亀頭をぬるりぬるりと優しく舐め回している。急速に込み上げてくる射精感に、ニールが低く唸ると、アンブローズが楽しそうに目を細めて、ちゅぽっと濡れた音を立てながら、ニールのペニスから口を離した。
「少々お待ちください。あ、椅子ごと後ろに下がっていただけますか?」
「え、あ、はい」
ガタガタと音を立て、ニールが椅子に座ったまま後ろに下がれば、テーブルの下からアンブローズが出てきた。アンブローズがくるりとニールに背を向け、テーブルに手をついて、ニールに尻を突き出すような体勢になった。アンブローズが片手で、黒いズボンを尻より少し下の辺りまでずり下ろした。アンブローズの肉付きが薄い尻が丸見えになる。もしや下着を穿いていなかったのだろうか。アンブローズの尻、より具体的に言うと、アナルの辺りに、謎の黒いリングがある。
アンブローズが自分の薄い尻肉を掴んで、大きく広げた。
「これを抜いてごらんなさい」
「……あぁ」
「……んっ、はぁぁっ……」
「……すごいな……」
ニールは熱に浮かされたような頭の状態で、椅子から立ち上がり、アンブローズのアナルから飛び出ている黒いリングに指を引っ掛け、ゆっくりと引き抜き始めた。縦に割れていたアンブローズのアナルが皺を伸ばしながらゆっくりと盛り上がっていき、黒い濡れた球体が顔を出した。にゅるんっと一つの球体が出れば、紐で繋げられた他の球体が、まだアンブローズのアナルの中に入っていることが分かる。ニールは奇妙な興奮に鼻息を荒くして、引き続き、ゆっくりと黒いリングを引っ張った。
「あぁっ……ふぅぅんっ、あ、はぁぁ……」
「……気持ちいいんですか?」
「んぅ……きもちいい……」
アンブローズが腰をくねらせ、尻を振り、控えめに気持ちよさそうな蕩けた声を上げている。2個目が出てきたら、次は3個目。合計で6個も黒い球体がアンブローズのアナルから出てきた。球体を全て引き抜いたアンブローズのアナルは、ぽっかりと口を開け、ひく、ひく、と大きく収縮していた。中の方からとろりとした透明の液体が溢れてきて、たらりと会陰の方へと垂れていく。ニールはその光景に酷く興奮して、思わず自分のペニスを掴んだ。アンブローズがテーブルの上に両手をついて、顔だけで振り返り、赤く頬を染め、にっこりと笑った。
「おいでなさい」
「あ、あぁ」
ニールは上擦った声で返事をしてから、アンブローズのアナルに自分の勃起したペニスの先っぽを押しつけた。執事服を着たまま、尻だけを出しているアンブローズのほっそりとした腰を掴み、ゆっくりと腰を動かして、アンブローズの熱いアナルの中へとペニスを押し込んでいく。キツい入り口を通り過ぎれば、ペニスが柔らかく熱い肉で包まれていく。女に挿れるのとは違う感覚が、何故だか酷く興奮を煽る。アンブローズのアナルが皺を目一杯伸ばし、ニールの太いペニスを飲み込んでいく。気持ちがいいなんてものじゃない。ニールは半分程ペニスを挿れると、少しだけ腰を引いた。引き抜くペニスにアンブローズのアナルが絡みつき、縁が捲れて、赤い肉が僅かに見える。ニールは口内に溢れてきた唾をごくっと飲み込み、更にペニスを押し込んでいった。
アンブローズの尻に下腹部を押しつける程深くペニスを押し込むと、ペニスの先っぽにまるで吸いつくようにアンブローズの中が蠢いた。熱く柔らかい肉が竿に絡みつき、ペニスの根元近くをキツく締めつけられている。酷く気持ちがいい。ニールは熱い息を吐きながら、腰を揺すって、アンブローズの吸いつくような奥深くを小刻みに突き上げ始めた。アンブローズが裏返った声を上げ、腰を震わせ、背をしならせる。アナルの入り口が更にキツく締まり、ニールに興奮と快感を齎してくる。
「あぁ……すごい……こんな、奥まで届くなんて……いいっ……ふ、ふふっ。ニール。私の中はどうですか?」
「……最高です」
「ふっ、ふふっ。好きに動いてください。……あぁっ、ふっ、んんんんんんっ」
「あぁ……本当に、これはすごい」
ゆっくりと腰を引き、アンブローズのアナルの中の感触を楽しみながら、またゆっくり腰を動かしてペニスを深く押し込む。ニールは自分のペニスを咥えこんでいるアンブローズのアナルをじっと見つめながら、徐々に腰を大きく速く激しく動かしていった。アンブローズが抑えた声量で気持ちよさそうに喘いで、身体を震わせている。ニールはアンブローズの腰を両手で掴み、パンパンパンパンッと肌がぶつかる音がする程、速く強く、アンブローズの奥深くをペニスで突き上げた。気持ちよくて堪らない。『きもちいい』と何度も言いながら、蕩けた意味のない声を上げているアンブローズが、酷くいやらしい。アンブローズが、いつもカッチリと隙なく着こなしている執事服から尻だけを露出して、ニールのペニスをアナルで咥えこみ、身体を震わせてよがっている。
ニールはアンブローズの反応がいい所を探りながら、夢中で腰を振った。奥深くを突き上げる度に、抑えているのであろうアンブローズの喘ぎ声が少し大きくなり、アナルの入り口で更にキツくペニスを締めつけられる。堪らなく気持ちがよく、酷く興奮する。
「あ、あぁっ!いいっ!イクッ!イクッ!あ、あっ、あぁぁぁぁっ!」
「あぁっ……俺もっ……ぐ、うぅっ……」
アンブローズがビクンビクンッと腰を震わせながら、きゅっと痛い程キツくアナルの入り口でニールのペニスを締めつけた。ニールはアンブローズの尻に下腹部を強く押しつけ、そのままアンブローズの奥深くに精液を吐き出した。
はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐きながら、熱く柔らかいアンブローズの中の感触の心地よさと快感の余韻に浸る。
ニールは少し経ってから、ゆっくりと萎えたペニスをアンブローズのアナルから引き抜いた。アンブローズの薄くて固い尻肉を両手で掴んで大きく広げれば、口を開けてくぽくぽと大きく収縮しているアンブローズのアナルから、こぽぉっと白いニールの精液が溢れ出し、垂れ落ちていった。酷くいやらしい光景に、また股間が熱くなっていく。年甲斐もないと分かっているが、またアンブローズのアナルにペニスを挿れたくて仕方がない。
ニールがアンブローズの尻肉を揉みしだいていると、アンブローズが顔だけで振り返り、蕩けた顔でにっこりと笑った。
「次はベッドで」
「あぁ」
ニールはアンブローズの痩せた身体を横抱きに抱え上げ、部屋の隅にあるベッドへと移動した。
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アンブローズは目覚めるとすぐに、腰やアナルの痛みに低く呻いた。腰とアナルだけではなく、身体のあちこちが鈍く痛い。アンブローズのすぐ後ろから、豪快な鼾が聞こえてくる。アンブローズはのろのろと寝返りをうち、すぐ隣で寝ているニールを見た。気持ちよさそうに寝ているニールの頬をつんつんと指先で突き、アンブローズはゆるく口角を上げた。狙ってやったことなのだが、ここまで上手くいくとは思っていなかった。ニールのペニスは太くて長く、アンブローズの結腸にまで届き、随分と久しぶりに脳みそが溶けるような快感を与えてくれた。アンブローズの身体を夢中で貪っていたニールは、いつもの穏やかさが無く、それがとても充足感を齎してくれた。先代当主が生きていた頃は、アンブローズは先代当主の玩具だった。お互いに相手を好いていた訳ではない。先代当主は、ただ単に若く美しかった真面目なアンブローズが乱れるのを見るのが好きなだけだった。自分のペニスが使えなくなっても、道具や人を使って、アンブローズで遊んでいた。この歳だが、自分から進んで誰かに抱かれたいと思ったのは、生まれて初めてだ。自ら望んで抱かれるのは、こんなに気持ちがよくて満たされるものなのかと、アンブローズは驚いた。ニールは優しく、でも激しく情熱的で、本当に素敵だった。アンブローズがニールの大きな身体にしがみつけば、ニールは何度もキスをしてくれた。
ニールの寝顔をもっと堪能していたいが、もう起きなければいけない時間だ。身体は酷く重く、あちこちが痛いが、大事な可愛い主の為に、今日も一日働かなければ。
アンブローズはニールを起こし、寝惚けているニールの唇にキスをして、さらっと恋人宣言をしてから、驚くニールに急いで身支度を整えさせ、ニールを部屋から追い出した。痛む身体を無理矢理動かして身支度を整え、今日の予定を確認する。アンブローズは、しゃんと背筋を伸ばすと、部屋から出た。
今夜は、アンブローズがニールの部屋に夜這いをしに行こう。そこで改めてニールを口説けばいい。アンブローズは、何回目の夜からかは覚えていないが、気づけばニールのことが好きになっていた。ニールを逃してやる気はない。
アンブローズは不敵な笑みを浮かべながら、他の使用人達が集まっている部屋へと歩いていった。
(おしまい)
アンブローズが勤めている屋敷には、まだ幼い主が1人で暮らしている。ヴァリアーズ家当主である父親と母親、上の兄弟は、王都の屋敷に住んでいる。此処はヴァリアーズ家の領地内にある屋敷だ。領地の中でも、静かな田舎にある。身体があまり丈夫ではない主が、静かな環境で大きく元気に成長できるようにとの配慮で、まだ10歳の主だけがこの屋敷にいる。アンブローズの主の名前は、メルディアンス・ヴァリアーズ。誰もが認める美しくて心優しい主である。アンブローズが残りの人生をかけて仕えると心に誓った大事な主だ。
アンブローズはメルディアンスの寝室のドアをノックする前に、ドアの前で懐から小さな鏡を取り出し、素早く身嗜みチェックを行った。
アンブローズは現在49歳である。結婚はしていない。縁談の話が無かった訳ではないが、メルディアンスが生まれる前までは亡くなったメルディアンスの祖父に仕えており、仕事が何よりも大事だったから、結婚はしなかった。きっちり整えているブラウンの髪は、白髪が多くなったし、顔の皺も増えてきている。若い頃は、百合のような美男子だと言われていたアンブローズであるが、着実に老けてきている。40歳を超えた頃から伸ばして整えるようになった口髭は、自分では中々似合っていると思う。落ち着いた渋みがあると、周囲からの評判もいい。
アンブローズは鏡を懐に仕舞うと、メルディアンスの寝室のドアをノックした。アンブローズの唯一絶対の主の体調チェックをせねば。そして、可愛い主の寝起きを堪能しなければいけない。アンブローズは微かに笑みを浮かべ、静かにメルディアンスの寝室に入った。
アンブローズが勤めている屋敷には、アンブローズを含めて、使用人は10人もいない。皆メルディアンスがもっと小さかった頃から仕えており、可愛らしく優しいメルディアンスに心底メロメロである。
毎日が穏やかに過ぎていく屋敷に、半年程前、1人の男が料理人として加わった。料理人として仕えていた男が60歳が近くなり、腰を痛めたので、自分の代わりにと推薦してきた男だ。歳は50歳で、妻を20年前に亡くしている。子供はいないらしい。事前に面接に来た男は、大柄で、まるで熊のような厳つい顔立ちと体格をしていたが、とても穏やかな落ち着いた話し方と表情をする男で、料理の腕前もかなりのものだった。10年来の相棒であるメイド長とも一応相談した結果、アンブローズは男を採用した。
ニールという男は、とても働き者だ。前料理人の男から、メルディアンスの好き嫌いや、苦手な食べ物を食べてもらう為の工夫を全て聞き取り、前料理人の味を忠実に再現している。更には食が細いメルディアンスにもっと食べてもらえるようにと、毎日遅くまで厨房で試行錯誤を繰り返している。メルディアンスに食べ慣れた味を提供しつつ、少しずつ自分の味を供していくニールの姿は、自分の職務に誇りを持っていると同時に、自分の役目をしっかりと理解し、まだ幼い主の為にできる限りの心配りをしていることが分かる。アンブローズはニールを高く評価している。
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アンブローズは書類を机に置き、眼鏡を外して、目頭を指で押さえた。王都の屋敷とのやり取りや金銭関係その他、屋敷の書類仕事は全てアンブローズが行っている。日中はメルディアンスの側に控えていたり、屋敷内の使用人達を取り仕切っていたりするので、書類仕事はメルディアンスが寝た後にすることが殆どだ。
老眼になり、眼鏡をかけても、ランプの灯りだけで細かい文字を見ることが地味に辛くなってきた今日この頃である。
懐中時計を懐から取り出して時間を確認すれば、そろそろ日付が変わる時間である。寝なければいけない時間を過ぎているが、できたら、もう少し書類を捌いておきたい。しかし、目の奥がじんと鈍く重いので、少しだけ目を休めたい。アンブローズは気分転換がてら、厨房へと向かった。
厨房を覗けば、今日もニールがランプを灯した薄暗い厨房で、静かに作業をしていた。厨房内のテーブルの上には、何冊もノートが置いてある。それはニールの研究ノートだ。メルディアンスが好んで量を食べてくれるような料理を、ニールは毎日この時間まで1人で研究している。アンブローズは鍋を見ているニールに声をかけた。
「ニール。今夜もお疲れ様です」
「あ、アンブローズさん。お疲れ様です。また書類仕事ですか?」
「えぇ」
「遅くまで大変ですね」
「いえ。貴方も毎日遅くまで頑張っていますね」
「ははっ。いやぁ、俺は自分の為ですよ。料理人としちゃあやっぱり、『美味しい』って笑って沢山食べてもらいたいんですよ」
「坊っちゃまが食べてくださる量は少しずつ増えておりますし、食事が楽しそうでいらっしゃいます。貴方の努力のお陰です。ありがとうございます」
「いやぁ。ははっ。そう言ってもらえると、励みになります。飲み物を取りに来たんですか?」
「えぇ。少し気分転換に紅茶でも飲もうかと」
「ついでに新作のデザートを味見してもらえませんか?人参のケーキなんですけど、南瓜のソースを添えてみようかと思ってるんです」
「ほう。それは珍しいですね」
「どちらも身体にいい野菜だけど、メルディアンス様はあんまり得意じゃないでしょう?デザートにしたら食べやすいかと思いまして」
「素晴らしいです。是非とも味見をさせていただきたい」
「ははっ。ありがとうございます」
照れたように笑って、ニールが薄いオレンジ色のケーキを切り、鍋の中の黄色いソースを少しだけかけた。色合いが明るく華やかで、とても可愛らしい。紅茶を淹れてくれたニールと共に椅子に座り、ニールの試作品のケーキを食べてみる。人参のケーキだけを先に食べてみると、柔らかい優しい甘さがふわっと口の中に広がる。人参特有の香りは気にならず、言われなければ人参が使われていると気づかないかもしれない。これだけでも十分美味しい。南瓜のソースと共に口に含んでみれば、南瓜の柔らかい甘みと人参のケーキの優しい甘さがいい具合に絡み合って、より美味しくなる。見た目が可愛らしいし、味も美味しい。ニールが淹れてくれた少し濃いめの紅茶ともよく合う。これはメルディアンスも好みそうだ。アンブローズは微笑んで、どこか緊張している様子のニールを真っ直ぐに見た。
「とても美味しいです。これは本当に坊っちゃまが好んでくださるでしょう。優しい甘さがいいですね」
「ありがとうございます。明日の午後のお茶の時間に、早速お出ししてもいいですか?」
「えぇ。是非ともお願いします。紅茶もこれと同じものをご用意いたしましょう。とても相性がいいです」
「やぁ。よかった。そう言ってもらえると、ここ一週間の苦労が報われます。あ、明日メルディアンス様に召し上がってもらわないと分からないんですけどね」
「きっとお気に召してくださいますよ。明日も一日よろしくお願いします。さて。素敵な休憩ができました。貴方もそろそろ休みなさい。お互いにいい歳ですからね」
「あ、はい。アンブローズさんもできたら休んでくださいね。我々ぐらいの歳になると、中々無理ができなくなりますから」
「……そうですね。特別急ぎな訳ではないですし、今日は私も休みます。歳はとりたくないですね。若い頃は二日三日徹夜しても平気だったのですが」
「この歳になると駄目ですねぇ。じわじわとあちらこちらにガタがきちゃってますよ」
「私は老眼がね……」
「俺は膝がちょっと……」
アンブローズはニールと顔を見合わせ、同時に小さく吹き出した。ニールとは、不思議と砕けた話ができる。深夜の厨房限定だが。長年の相棒のようなメイド長や他の使用人達とも親しくない訳ではないが、それでも彼らを取り纏める執事として、一応一線は引いている。主とは言わずもがなだ。アンブローズは、子供の頃は友人と呼べる相手がいたが、今では疎遠になっており、たまにある休日を一緒に過ごすような人はいない。ニールが屋敷に勤め始めてから、この深夜の厨房での試食会が、アンブローズの密かな楽しみになっている。
アンブローズは片付け始めたニールを少し手伝い、ニールと共にランプを消した暗い厨房を後にした。
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ニールが作った人参のケーキは、メルディアンスが非常に喜んで食べてくれた。珍しくおかわりまでしてくれたので、アンブローズはその日の深夜、厨房までニールにこの事を伝えに出向いた。メルディアンスがとても喜んで食べてくれた事を伝えると、ニールが嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。照れたように短く刈っている白髪混じりの黒髪を掻き、ニールがへへっと笑った。
「やぁ。本当に嬉しいですねぇ。次も気に入ってくださるものを作らないと」
「もう次のものを考えているのですか?」
「はい。魚をね、もっと食べやすくできないかと思って。細かく刻んで下味をつけて、くり抜いた蕪に入れて煮たらどうかと考えてます。蕪もデカいやつじゃなくて、小さな一口で食べられそうな柔らかいものを使って」
「それは可愛らしいでしょうね。一口で食べられるのなら、坊っちゃまも抵抗なく食べられるでしょう。しかし、作るのが大変ではないですか?」
「ものは試しです。とりあえずやってみます。それに蕪の皮を剥いて中をくり抜くだけなら、すぐにできますよ。他のメニューと味と彩りのバランスを考えながら、効率よく作れば問題ないです」
「素晴らしいですね。では、次の新作も期待しております。ふふっ。坊っちゃまが明日も人参のケーキがよいと仰ってましたよ」
「おぉっ!あ、でも。俺は嬉しいんですが、続けてで飽きませんかね」
「坊っちゃまのご希望ですから。明後日は流石に別のものをお願いします。そうですね……先日お出ししたクッキーをお願いします。プラムのジャムを使ったクッキーです。あれも坊っちゃまのお気に入りです」
「はい。では、明後日はジャムクッキーで。……あー、あの」
「はい?」
「アンブローズさんは、何か食べたいものはありませんか?えーと、いつも試食に付き合ってもらってるんで、何かお礼をしたいんです。俺は料理を作ることしかできないので、なんだか申し訳無いんですが……」
「試食は私も楽しませていただいてますよ。太るのが少々心配ではありますが」
「アンブローズさんは細いから少しくらい太っても問題ないですよ。俺はちょっとアレですけど」
「ふふっ。さて。折角の申し出ですし、ワインに合うものを作っていただけますか?この領地で作られている赤ワインの10年ものを持っているのです。1人だと中々飲まないので、いい機会ですから、少し付き合ってください」
アンブローズの言葉に、ニールがきょとんと目を丸くした後、ぱぁっと明るい笑みを浮かべた。
「いいですね。ワインを飲むのは久しぶりです。前はよく飲んでいたんですけど、ここに勤め始めてからは、新作を試行錯誤するのが楽しくて全然飲まなくなったんです。ご馳走になってもいいんですか?」
「えぇ。勿論。美味しいワインのお供をお願いしますね」
「赤か……鹿はお好きですか?」
「好きです」
「では、鹿肉をお出しします。ははっ。腕がなりますね」
「楽しみにしております。そうですね……三日後の夜は如何ですか?貴方は準備が必要なのでは?」
「そうですね。それくらい時間があった方が色々と仕込めます。では、三日後の夜に」
「えぇ。流石に此処でワインを飲むのは気が咎めます。私の部屋でよろしいですか?」
「はい。お邪魔させてもらいます」
「お待ちしておりますよ」
アンブローズは随分と久方ぶりに、ワクワクと胸が高鳴った。ニールとは友人という訳でなく、上司と部下の関係だが、歳が同じくらいの男と仕事抜きで酒を飲むなんて久しぶりだ。たまには、誰かと酒と食事と会話を楽しんでもいいだろう。アンブローズは自室に戻ると、いそいそと手帳を取り出し、三日後の予定を書き加えた。
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ニールはアンブローズを眺めて、堪えきれずに小さく笑った。アンブローズが小さな子供の様に、椅子の上でお山座りをしながら、ニコニコと楽しそうに笑い、ワインを飲んでいる。椅子の上でお山座りをするなど、普段のキッチリとした隙のないアンブローズからは想像もできなかった。まだワイングラスで2杯程しかワインを飲んでいない。どうやら、アンブローズは酒に弱いらしい。年相応に皺があるが、とても美しく整っている顔をゆるめ、アンブローズが機嫌よく話しかけてきた。
「この鹿肉の煮込みは本当に絶品ですね。坊っちゃまには少し早い気がしますけど。坊ちゃまが大人になられたら、是非召し上がっていただきたいですね」
「ありがとうございます。作った甲斐があります」
「貴方はとても素晴らしい料理人です。まるで魔法使いの様です」
「魔法使い?えーと、絵本に出てくる?」
「えぇ。美味しいものを沢山作れるでしょう?貴方が作ったものを食べると、皆笑顔になります。貴方は笑顔の魔法使いです」
「……ははっ。ありがとうございます」
常とは違う、まるで無邪気な子供の様なアンブローズの笑みと言葉に、なんとも面映ゆくなる。ニールは照れくさくて、誤魔化すようにガシガシと頭を掻きながら、込み上げてくる嬉しさに、へらっと笑った。いつも試食に付き合ってくれるアンブローズへのお礼のつもりで申し出て作った料理が、ここまでアンブローズに喜んでもらえると、逆にニールのご褒美みたいだ。ニールが作った鹿肉の煮込みや付け合わせの飾り切りした野菜を食べながら、アンブローズの落ち着いた深い蒼色の瞳が、キラキラと輝く。アンブローズが美味しそうに食べて笑ってくれるのが、とても嬉しくて、ニールは味わい深いワインを一口飲んだ後、口を開いた。
「アンブローズさん。良ければ、また一緒にこうして飲みませんか?本当に美味しそうに食べてくれるから、すごく嬉しいし、楽しいです」
「ふふっ。いいですね。私も楽しいです」
「貴方が好きなものを教えてください。何でもいいですよ。俺が精一杯美味しくしちゃいます」
「それはそれは。頼もしいですね。……次は、魚が食べたいです。あっさりしたものがいいですね。白ワインに合うような。デザートも欲しいです。果物を使ったものが食べたいです。食べると、ほっと一息つけるような……そんな甘いものが食べたいですね」
「分かりました。色々と考えてみます。楽しみにしていてください。貴方のご期待に添えるよう、頑張ります」
「はい。楽しみにしております。貴方は何が好きですか?」
「俺ですか?俺はちょっと野性味のある肉が好きですね。猪とか。この屋敷じゃ食べることはありませんけど、美味いんですよ。猪」
「ほう。猪は食べたことがありませんね」
「機会があれば、是非一度試してみてください。赤ワインも合うんですけど、俺は蒸留酒と一緒に楽しむのが好きですね。こうね、キリッとした味わいと香りのものが、本当に相性がいいんですよ」
「そんなことをお聞きしたら、食べたくなってしまうではありませんか」
「いやぁ。本当に美味いんですよ」
ニールは、楽しそうなアンブローズと顔を見合わせて笑った。酒が入っているからだろうが、アンブローズがいつもよりもずっとリラックスした雰囲気で、楽しそうに話している。ニールも笑いながら、アンブローズとの会話と美味しいワインを楽しんだ。
用意した料理とワインが全て無くなると、次の約束をしてから、ニールはアンブローズの部屋を出た。厨房で後片付けをして、自分に与えられた小さな部屋へと向いながら、ニールは小さく口角を上げた。アンブローズと一緒に酒を飲むのは、本当に楽しかった。ニールは職場となったこの屋敷に来るまでは、此処から馬車で片道二日はかかる大きな街で働いていた。知り合いが誰もいない住み込みの仕事に不安を抱えていたが、この屋敷の主も使用人達も、皆とても優しい。特にアンブローズは、何かとニールを気にかけてくれて、こうして一緒に酒と料理を楽しんでくれた。酒精に頬を赤く染め、子供の様に無邪気な笑みを浮かべていたアンブローズを思い出し、ニールはクックッと笑いながら、自室へと入った。次に作るものを考えながら、寝間着に着替えてベッドに上がる。なんともワクワクする気持ちが湧き上がってきて、ニールはその夜、中々寝つけなかった。
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ニールとアンブローズの、2人だけのお楽しみ会の様な夜が10回を超えたある日の夜。ニールは蒸留酒を、アンブローズは白ワインを其々飲みつつ、ニールが作った試作品の料理を食べていた。ここ数回で、最初の1杯は2人で同じ酒を飲み、2杯目からは其々好きなものを飲むという流れができた。毎回、アンブローズが好みそうな小さなデザートも用意している。アンブローズが気に入れば、メルディアンスに供することもある。アンブローズは口調は変わらないが、回を重ねる毎に、より砕けた雰囲気でニールと接してくれるようになった。ニールは、自分でも不思議になる程、それが嬉しくて堪らない。
椅子の上でお山座りをしているアンブローズが、美味しそうに牡蠣のパイ包み焼きを食べながら、ニコニコと笑って口を開いた。
「牡蠣って精力が増進するらしいですね」
「あぁ。聞いたことはあります」
「先代様がよく召し上がっていたのですよ」
「そうなんですか?愛妾でもいたんですか?」
「愛妾はおりませんでしたよ。玩具はいましたけど」
「玩具?」
「えぇ。最初のうちはご自身で楽しんで、勃たなくなったら、若い男複数人に犯させて、それをご覧になって楽しんでいらっしゃいました」
「それはまた。悪趣味な」
「まぁ、その玩具は私だったのですけどね」
「…………はぁ!?」
ニールはアンブローズの言葉に目を剥いた。アンブローズはニコニコ笑ったまま、美味しそうに今度はデザートの苺のムースを食べ始めた。
「ふふっ。これも美味しいです。苺のソースがいいですね。少し酸味が強めで、ムースがしっかり甘いから、とてもバランスが良くて。いくらでも入りそうな気がします」
「あ、あぁ……ありがとうございます」
アンブローズが美味しそうに食べながら褒めてくれるが、ニールはそれどころではなかった。目の前の美しい男が玩具にされていた。アンブローズは、先代当主が現当主へ当主の座を譲った後に、先代当主専属の執事になったと聞いている。先代当主はメルディアンスが生まれる1年前に亡くなったそうだ。
「……あの。先代様には、何年お仕えしていたんですか?」
「そうですね……ざっと15年程ですね」
「15年……」
15年も玩具にされていたとは。ニールの胸に、じわぁっと苦いものが広がった。顔を顰めるニールを見て、アンブローズが苦笑した。
「終わったことですよ」
「いやでも」
「まぁ。当時は嫌でしたけどね。私は執事で、男娼ではない」
「そうでしょうとも」
「愛されていたのでしたら、まだよかったかもしれませんが、最初から最後まで玩具でしたからね」
「……腹立つ」
「ふふっ。ニール。襲いかかってくる3秒前の熊のような顔をしていますよ。……貴方は優しいですね」
「別に優しくなんてないですよ。友人が理不尽な目に合っていたと知ったら、そりゃあ腹も立ちますよ」
「友人……えぇ。私も貴方のことを友人だと思っております」
「あ、ありがとうございます」
「しかしですね」
「ん?」
「そろそろ次にいこうかと」
「次?」
「『友人』じゃ物足りなくなってきたのですよ」
「ん?」
「私は大変『具合』がいいそうです」
「ぶっ!はぁぁっ!?」
「ニール。ちょっと味見をしてみませんか?」
「あ、味見……」
「えぇ。奥方を亡くされてから、そっちの方はどうなんです?」
「……とんとさっぱり」
「おや。そうなのですね。では、とりあえず口で」
「へ?」
アンブローズがワイングラスに残っていた白ワインを飲み干し、椅子から立ち上がった。丸いテーブルを挟んで向かい合うように座っていたニールの側にやって来て、いきなりテーブルの下にアンブローズが潜り込んだ。
「アンブローズさん?」
慌ててニールがテーブルの下を覗き込むと、アンブローズがにっこりと無邪気に笑って、椅子に座ったままのニールの股間をするりと撫でた。
「アンブローズさん!?」
「随分と久しぶりですから、あまり自信はありませんけれど、それなりに上手いと思います」
「え、え……だ、駄目ですよ」
「少しだけ。ね?」
やわやわとアンブローズの手が優しくニールの股間を揉み始めた。妻を亡くしてからは女を抱いていないし、最近は自慰もしなくなった。アンブローズの手つきは、優しいのに、酷く性感を煽ってくる。アンブローズを止めなければいけないのだが、ふと思ってしまった。この美しく普段は穏やかに落ち着いている男は、どんな風に乱れるのだろうか。ニールはゴクリと生唾を飲み込んだ。
アンブローズがニールのズボンのベルトを外し、ズボンの前立てのボタンを全て外してしまった。ズボンの前立てを広げ、下に穿いている白いブリーフをずらし下ろされる。僅かに反応してしまっているニールのペニスを露にすると、アンブローズが、パァッと顔を輝かせた。
「おぉ。これはこれは。大きいですね。素晴らしいです」
「ありがとうございます?」
「ふふっ。では、こちらもいただきます」
「えっと……召し上がれ?」
「ふふっ……ん……」
「んっ……」
アンブローズがまだ殆ど萎えているニールのペニスの先っぽをパクンと口に含んだ。アンブローズの熱い口内と舌の感触に、思わずぶるりと身体が震えた。久方ぶり過ぎる快感が、身体の中へと広がっていく。アンブローズがニールのペニスの全体を舐め終える頃には、ニールのペニスは完全に勃起してしまった。自慢じゃないが、ニールのペニスは大きい。結婚した頃、妻に挿れるのに苦労した覚えがある。アンブローズの熱い舌がペニスの裏筋をねっとりと這い、カリを擽り、亀頭をぬるりぬるりと優しく舐め回している。急速に込み上げてくる射精感に、ニールが低く唸ると、アンブローズが楽しそうに目を細めて、ちゅぽっと濡れた音を立てながら、ニールのペニスから口を離した。
「少々お待ちください。あ、椅子ごと後ろに下がっていただけますか?」
「え、あ、はい」
ガタガタと音を立て、ニールが椅子に座ったまま後ろに下がれば、テーブルの下からアンブローズが出てきた。アンブローズがくるりとニールに背を向け、テーブルに手をついて、ニールに尻を突き出すような体勢になった。アンブローズが片手で、黒いズボンを尻より少し下の辺りまでずり下ろした。アンブローズの肉付きが薄い尻が丸見えになる。もしや下着を穿いていなかったのだろうか。アンブローズの尻、より具体的に言うと、アナルの辺りに、謎の黒いリングがある。
アンブローズが自分の薄い尻肉を掴んで、大きく広げた。
「これを抜いてごらんなさい」
「……あぁ」
「……んっ、はぁぁっ……」
「……すごいな……」
ニールは熱に浮かされたような頭の状態で、椅子から立ち上がり、アンブローズのアナルから飛び出ている黒いリングに指を引っ掛け、ゆっくりと引き抜き始めた。縦に割れていたアンブローズのアナルが皺を伸ばしながらゆっくりと盛り上がっていき、黒い濡れた球体が顔を出した。にゅるんっと一つの球体が出れば、紐で繋げられた他の球体が、まだアンブローズのアナルの中に入っていることが分かる。ニールは奇妙な興奮に鼻息を荒くして、引き続き、ゆっくりと黒いリングを引っ張った。
「あぁっ……ふぅぅんっ、あ、はぁぁ……」
「……気持ちいいんですか?」
「んぅ……きもちいい……」
アンブローズが腰をくねらせ、尻を振り、控えめに気持ちよさそうな蕩けた声を上げている。2個目が出てきたら、次は3個目。合計で6個も黒い球体がアンブローズのアナルから出てきた。球体を全て引き抜いたアンブローズのアナルは、ぽっかりと口を開け、ひく、ひく、と大きく収縮していた。中の方からとろりとした透明の液体が溢れてきて、たらりと会陰の方へと垂れていく。ニールはその光景に酷く興奮して、思わず自分のペニスを掴んだ。アンブローズがテーブルの上に両手をついて、顔だけで振り返り、赤く頬を染め、にっこりと笑った。
「おいでなさい」
「あ、あぁ」
ニールは上擦った声で返事をしてから、アンブローズのアナルに自分の勃起したペニスの先っぽを押しつけた。執事服を着たまま、尻だけを出しているアンブローズのほっそりとした腰を掴み、ゆっくりと腰を動かして、アンブローズの熱いアナルの中へとペニスを押し込んでいく。キツい入り口を通り過ぎれば、ペニスが柔らかく熱い肉で包まれていく。女に挿れるのとは違う感覚が、何故だか酷く興奮を煽る。アンブローズのアナルが皺を目一杯伸ばし、ニールの太いペニスを飲み込んでいく。気持ちがいいなんてものじゃない。ニールは半分程ペニスを挿れると、少しだけ腰を引いた。引き抜くペニスにアンブローズのアナルが絡みつき、縁が捲れて、赤い肉が僅かに見える。ニールは口内に溢れてきた唾をごくっと飲み込み、更にペニスを押し込んでいった。
アンブローズの尻に下腹部を押しつける程深くペニスを押し込むと、ペニスの先っぽにまるで吸いつくようにアンブローズの中が蠢いた。熱く柔らかい肉が竿に絡みつき、ペニスの根元近くをキツく締めつけられている。酷く気持ちがいい。ニールは熱い息を吐きながら、腰を揺すって、アンブローズの吸いつくような奥深くを小刻みに突き上げ始めた。アンブローズが裏返った声を上げ、腰を震わせ、背をしならせる。アナルの入り口が更にキツく締まり、ニールに興奮と快感を齎してくる。
「あぁ……すごい……こんな、奥まで届くなんて……いいっ……ふ、ふふっ。ニール。私の中はどうですか?」
「……最高です」
「ふっ、ふふっ。好きに動いてください。……あぁっ、ふっ、んんんんんんっ」
「あぁ……本当に、これはすごい」
ゆっくりと腰を引き、アンブローズのアナルの中の感触を楽しみながら、またゆっくり腰を動かしてペニスを深く押し込む。ニールは自分のペニスを咥えこんでいるアンブローズのアナルをじっと見つめながら、徐々に腰を大きく速く激しく動かしていった。アンブローズが抑えた声量で気持ちよさそうに喘いで、身体を震わせている。ニールはアンブローズの腰を両手で掴み、パンパンパンパンッと肌がぶつかる音がする程、速く強く、アンブローズの奥深くをペニスで突き上げた。気持ちよくて堪らない。『きもちいい』と何度も言いながら、蕩けた意味のない声を上げているアンブローズが、酷くいやらしい。アンブローズが、いつもカッチリと隙なく着こなしている執事服から尻だけを露出して、ニールのペニスをアナルで咥えこみ、身体を震わせてよがっている。
ニールはアンブローズの反応がいい所を探りながら、夢中で腰を振った。奥深くを突き上げる度に、抑えているのであろうアンブローズの喘ぎ声が少し大きくなり、アナルの入り口で更にキツくペニスを締めつけられる。堪らなく気持ちがよく、酷く興奮する。
「あ、あぁっ!いいっ!イクッ!イクッ!あ、あっ、あぁぁぁぁっ!」
「あぁっ……俺もっ……ぐ、うぅっ……」
アンブローズがビクンビクンッと腰を震わせながら、きゅっと痛い程キツくアナルの入り口でニールのペニスを締めつけた。ニールはアンブローズの尻に下腹部を強く押しつけ、そのままアンブローズの奥深くに精液を吐き出した。
はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐きながら、熱く柔らかいアンブローズの中の感触の心地よさと快感の余韻に浸る。
ニールは少し経ってから、ゆっくりと萎えたペニスをアンブローズのアナルから引き抜いた。アンブローズの薄くて固い尻肉を両手で掴んで大きく広げれば、口を開けてくぽくぽと大きく収縮しているアンブローズのアナルから、こぽぉっと白いニールの精液が溢れ出し、垂れ落ちていった。酷くいやらしい光景に、また股間が熱くなっていく。年甲斐もないと分かっているが、またアンブローズのアナルにペニスを挿れたくて仕方がない。
ニールがアンブローズの尻肉を揉みしだいていると、アンブローズが顔だけで振り返り、蕩けた顔でにっこりと笑った。
「次はベッドで」
「あぁ」
ニールはアンブローズの痩せた身体を横抱きに抱え上げ、部屋の隅にあるベッドへと移動した。
------
アンブローズは目覚めるとすぐに、腰やアナルの痛みに低く呻いた。腰とアナルだけではなく、身体のあちこちが鈍く痛い。アンブローズのすぐ後ろから、豪快な鼾が聞こえてくる。アンブローズはのろのろと寝返りをうち、すぐ隣で寝ているニールを見た。気持ちよさそうに寝ているニールの頬をつんつんと指先で突き、アンブローズはゆるく口角を上げた。狙ってやったことなのだが、ここまで上手くいくとは思っていなかった。ニールのペニスは太くて長く、アンブローズの結腸にまで届き、随分と久しぶりに脳みそが溶けるような快感を与えてくれた。アンブローズの身体を夢中で貪っていたニールは、いつもの穏やかさが無く、それがとても充足感を齎してくれた。先代当主が生きていた頃は、アンブローズは先代当主の玩具だった。お互いに相手を好いていた訳ではない。先代当主は、ただ単に若く美しかった真面目なアンブローズが乱れるのを見るのが好きなだけだった。自分のペニスが使えなくなっても、道具や人を使って、アンブローズで遊んでいた。この歳だが、自分から進んで誰かに抱かれたいと思ったのは、生まれて初めてだ。自ら望んで抱かれるのは、こんなに気持ちがよくて満たされるものなのかと、アンブローズは驚いた。ニールは優しく、でも激しく情熱的で、本当に素敵だった。アンブローズがニールの大きな身体にしがみつけば、ニールは何度もキスをしてくれた。
ニールの寝顔をもっと堪能していたいが、もう起きなければいけない時間だ。身体は酷く重く、あちこちが痛いが、大事な可愛い主の為に、今日も一日働かなければ。
アンブローズはニールを起こし、寝惚けているニールの唇にキスをして、さらっと恋人宣言をしてから、驚くニールに急いで身支度を整えさせ、ニールを部屋から追い出した。痛む身体を無理矢理動かして身支度を整え、今日の予定を確認する。アンブローズは、しゃんと背筋を伸ばすと、部屋から出た。
今夜は、アンブローズがニールの部屋に夜這いをしに行こう。そこで改めてニールを口説けばいい。アンブローズは、何回目の夜からかは覚えていないが、気づけばニールのことが好きになっていた。ニールを逃してやる気はない。
アンブローズは不敵な笑みを浮かべながら、他の使用人達が集まっている部屋へと歩いていった。
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あけましておめでとうございます
昨年は新しい扉(趣味)を開けてしまい
どっぷり まー様にハマっております
楽しく拝読させて頂いてます
いやぁ年始からやられました
あのセリフは鼻血ものでした ふふふ
更新楽しみにしております
Chibiro様
あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします!!
ウェルカム!ニューワールド!!
本当に嬉しいお言葉をくださり、感謝感激であります!
心の奥底からありがとうございますっ!
今年も楽しく性癖を曝け出しながら、執筆活動をしてまいります!
お付き合いいただけますと幸いであります。
お読みくださり、本当にありがとうございました!!
まー様、明けましておめでとうございます
昨年もたくさんのお話ありがとうございます
今年もたくさんお星さま押させてください
昨日の作品も今日の作品もとても沁みました
大人の穏やかだけど、色に惑わされ静かに決して、生きてゆく姿
いつも美しいです
鹿の子様
あけましておめでとうございます!
本年も何卒よろしくお願いいたします!!
ものすっごく嬉しいお言葉をいただけて、新年早々幸せな気持ちでいっぱいです!!
本当に!全力で!ありがとうございます!!
今年も楽しく創作活動をしてまいります。
お付き合いいただけますと幸いであります!