1 / 1
薬屋さんと元騎士さんのささやかな幸せ
ブロディは、カウンターに頬杖をついて、ぼーっとしていた。営んでいる薬屋は、今日も閑古鳥が鳴いている。ブロディは薬師だ。主に、自分が作った薬を売っている。店の場所が、花街の奥の分かりにくい所なので、基本的に、常連くらいしか客は来ない。
ブロディは、今年で六十二歳になる。そろそろ、店を誰かに任せて、悠々自適な老後生活をしたいが、店を任せられる当てはないし、優雅な老後生活ができる程の金もない。
ブロディは、退屈な店番をしながら、今日も一日を過ごしていく。
ブロディは男しか愛せない。容姿が、そこら辺の人混みに埋もれそうな程、平凡なのだが、それでも三十代前半までは、たまに恋人ができていた。しかし、若さが無くなると、ブロディは全く相手にされなくなった。四十代前半までは、一晩限りの相手を求めるバーに行ったりもしていたが、見事に空振りばかりで、そのうち、行くのをやめた。
この歳になって、今更恋人が欲しいとは思わないが、自分が普通に女を愛せて、普通に結婚していたら、今頃、一人ぼっちじゃなかっただろうなぁと思うようになった。
ブロディは、男を見る目が無いのか、歴代の恋人は、ヒモ野郎や暴力野郎、浮気野郎ばかりだった。ブロディの見た目が、気弱そうに見えるから、多分、いいカモにされていたのだろう。実際、気弱な方だし。元恋人に、薬屋の売上を持ち逃げされたこともある。多分、最初から、それが狙いだったのかもしれない。
ブロディは、カウンターに頬をつけて、大きな溜め息を吐いた。一人ぼっちには慣れているが、寂しいものは寂しい。このまま、孤独死するしかないかと思うと、本気で泣きたくなる。猫か犬でも飼いたいが、家でも薬を扱っているから、下手に生き物は飼えない。
ブロディは、夕暮れ時の閉店時間まで、ぼーっとカウンターで過ごし、鈍く傷む腰を擦りながら、店仕舞いを始めた。
店の看板を店内に入れようとしたタイミングで、コツコツと石畳を杖でつくような音が聞こえた。何気なく、音がする方を見れば、一人の同年代くらいの男が歩いてきていた。
ブロディが、なんとなく軽い看板を持ったまま、男が近づいてくるのを待っていると、男に声をかけられた。若い頃はさぞかしモテただろうと思われる、小洒落た格好をした男だ。顔立ちも、皺があっても端正に整っているのが分かる。
「もう店仕舞いかな」
「あ、あぁ。あ、でも、急ぎなら……」
「評判がいい薬屋があると聞いてね。本当は、もう少し早めに来る筈だったんだけど、ちょっと店の場所が分かりにくくて迷ってしまって、この時間になってしまった。腰に貼る湿布と、膝に塗る痛み止めの軟膏が欲しいんだ」
「どっちもある。一応、初めての客には簡単な問診と、場合によっては、患部を診せてもらっている。それでもいいなら」
「構わないよ。その方が安心だ。ふむ。信頼できる薬師だとは聞いていたけど、本当のようだね」
「……そりゃどうも」
ブロディは、看板を元の場所に戻すと、男を店内に入れた。
問診票に書かれた名前は、アンリベール。歳はブロディより二つ年上で、数年前から腰と膝が悪いそうだ。湿布や塗り薬にも、種類がある。今、使っているものについて、分かる範囲で話を聴いてから、店の奥にある診察スペースで、アンリベールの腰と膝を診た。どちらも、加齢によるものだが、腰の方は、かぶれた痕があった。
「肌は弱い方?」
「うん。前に使っていた湿布だと、いつもかぶれてね」
「……なら、ちょっと肌に優しいものを作ってくる。効き目は変わらない。時間は大丈夫か? 小半時はかかるんだが」
「問題ないよ」
「では、薬草茶でよければ、それを淹れるから、飲みながら待っていてくれ」
「ありがとう」
ブロディは、診察スペースから出ると、診察スペースの隣の調合スペースで、手早く薬草茶を淹れた。診察スペースの椅子に座っているアンリベールに、香草茶を渡し、早速、アンリベールに合わせた湿布を作り始める。
黙々と作業していると、小半時を少し過ぎたくらいで、湿布が完成した。膝に塗る痛み止めも用意し、アンリベールが待つ診察スペースへと戻る。
「待たせてすまない。腰の湿布は、基本的には、風呂上がりに。一日一回が望ましいが、どうしても痛む時は、貼り替えてもらっても構わない。ただし、貼り替えは一日一回までにしてくれ。それ以上は、肌がかぶれるだろうし、薬が効き過ぎる。膝の方は、朝起きた時と、風呂上がりの二回塗ってくれ。どうしても暫くぬるぬるするから、服に薬がつくのが嫌なら、ガーゼと包帯でもしておいてくれ。こっちは、薬の使い方と注意点を書いた紙。一応、読んでおいてくれ。薬が合わなかったら、すぐに使うのをやめて、また来てもらえると助かる」
「ありがとう。思っていたよりも丁寧だなぁ。助かるよ」
「別に。これが仕事だ」
「薬草茶もご馳走様。美味しかったよ。蜂蜜でも入れたのかい? ほんのり甘くて飲みやすかった」
「蜂蜜も入れてある。滋養強壮にいいやつだ。……アンタ、酒が好きだろう。酒は少し控えめにした方がいい。内臓に負担がかかっている」
「おや。そんなことまで分かるのか」
「顔色を見れば、なんとなく」
「へぇー。あ、これ。今日のお代。また来るよ。あ、ねぇ。君の名前は?」
「ブロディ」
「知ってるだろうけど、私はアンリベール。ありがとう。ブロディ。また来るよ」
「……どうも」
アンリベールが、薬を入れた袋を片手に、すっかり日が暮れた道を歩いて帰っていった。花街なので、細い道を抜ければ、明るい大通りがある。帰りの心配はいらないだろう。
ブロディは、今度こそ店仕舞いをして、二階の自宅へと上がった。
ーーーーーー
ブロディが、ぼーっと店番をしていると、カランカランと店の入り口につけている鈴がなった。また、来たのかもしれない。店のカウンターに姿を現したのは、案の定、アンリベールである。アンリベールは、何故か知らないが、三日と開けずに、ブロディの店にやってくるようになった。アンリベールが店を訪れるようになって、もう四ヶ月になる。
「やぁ。ブロディ。暇だから来たよ」
「ほぼ毎日じゃないか。そんなに暇なのか」
「まぁね。独り身だし」
「奥さんは?」
「私は結婚していないよ。男しか愛せないからね。君と一緒。君もそうだろう? なんとなく分かるよ」
「まぁ、そうだけど」
ブロディは、アンリベールに小さな椅子を差し出すと、香草茶を淹れに、調合スペースに向かった。香草茶を差し出してやると、アンリベールが、嬉しそうに顔を皺くちゃにして笑った。
「このお茶が気に入ってね。美味しいよね」
「そりゃどうも」
アンリベールは、引退するまでは、王宮で働く騎士だったらしい。今でも、すっと背筋が伸びていて、いつも身奇麗にしている。物好きなことに、毎日のようにブロディの店に来ては、気が済むまでお喋りをして、帰っていく。ブロディは、そんなに話上手という訳でもないのに、アンリベールは、いつも楽しそうだ。
ブロディは、アンリベールが来ると、退屈ではなくなるので、実はちょっと嬉しかったりする。茶飲み友達って、こんな感じかなと、勝手に思っている。
「ブロディ。店の定休日はいつだい?」
「気が向いた時」
「じゃあ、明日にでも、気が向かないかな。珈琲は好きかい? 美味しい喫茶店があるんだ」
「珈琲は殆ど飲んだことがない。……けど、嫌いじゃない」
「おや。じゃあ、明日、飲みに行こう。最近は、酒を控えるようにしているから、珈琲ばかりでね」
「寝る前の珈琲はオススメしない。寝付きが悪くなる。温かいミルクにした方がいい」
「ふふっ。温かいミルクだなんて、子供みたいだ」
「すぐに寝付ける」
「そうしてみようかな。じゃあ、明日はデートということで」
「……デート?」
ブロディは、驚いて目を丸くした。ぽかんと間抜けに口を開けているブロディを見て、アンリベールが可笑しそうに笑った。
「一応、これでも口説いてたつもりだったんだけど?」
「……物好きにも程があるな」
「そうかな。結構いい趣味してると思うけど」
「僕なんかのどこがいいんだ」
「なんとなく。なんていうんだろうね。君の雰囲気や店の雰囲気が、すごく落ち着くんだよね」
「……そりゃどうも?」
「とりあえず、明日はデートをしてみようよ。あ、なんなら同棲も大歓迎だよ。君と過ごす時間は、とても楽しくて、穏やかでいられるからね。もっと君のことが知りたいし、私のことも知ってほしいかな」
「い、いきなり同棲はちょっと……? アンタなら、もっと若くていい男をいくらでも恋人にできるだろう。僕なんかを選ぶなんて、趣味が悪い」
「そうかな。君の仕事ぶりは、いつもとても丁寧で、見ていて気持ちがいいよ。それに、若い頃のような、燃えるような恋はこりごりでね。まぁ、色々あって。穏やかな恋がしたいのさ」
「この歳でか?」
「いくつになっても恋をしてもいいじゃないか。私は、君と恋がしたい」
「……そ、そうか」
穏やかに微笑みながら言われて、ブロディは、じわじわと顔が熱くなった。この歳で恋なんて、と思う反面、心の中の天秤が、ちょっと恋がしたいという方に傾いている。我ながらチョロいにも程がある。
アンリベールは、今日も夕暮れ時まで店に居て、客が来ない間は、ずっと喋っていた。
翌朝。ブロディは、衣装箪笥の前で唸っていた。デートに着ていける服が無い。基本的に、必要な買い物以外は外に出ないから、まともな服が無い。仕方がなく、ブロディは、無難な白いシャツと草臥れた黒いズボンを着て、年季が入った茶色いジャケットを羽織り、財布と家の鍵をジャケットの内ポケットに入れて、家を出た。
待ち合わせ場所の花街の入り口に向かうと、もうアンリベールは来ていた。アンリベールが、ブロディを見ると、ふわっと嬉しそうに笑った。
「やぁ。デート日和だね」
「曇ってるが」
「カンカン照りより過ごしやすいじゃない」
「まぁ、そうだけど」
「さて、手を繋ごうか」
「正気か? 爺二人で」
「いいじゃないか。私は手を繋ぎたい」
「…………まぁ、いいけど」
ブロディは、差し出されたアンリベールの手をやんわりと握った。アンリベールの手は、騎士をしていたというだけあって、意外な程ゴツくて、温かかった。
杖をつくアンリベールの歩みに合わせて、のんびりと街中の方へと向かう。アンリベールが案内してくれた喫茶店は、落ち着いた雰囲気の店構えで、店内に入れば、客層も年齢が高めだから、ブロディも安心して入れた。若者が多いお洒落な店は、どうにも気後れしてしまう。
テーブル席に座り、珈琲を注文すると、そう待たずに珈琲が運ばれてきた。いつも、自分で淹れた薬草茶ばかり飲んでいるので、珈琲を飲むのは随分と久しぶりだ。
ブロディが、どこか懐かしい味に目を細めていると、アンリベールが顔を皺くちゃにして笑った。
「中々、美味しいだろう? 落ち着いた店だから、私のお気に入りなんだ」
「確かに美味いな」
「ふふっ。気に入ってもらえて嬉しい」
アンリベールが、顔を皺くちゃにして、本当に嬉しそうに笑った。不思議だなぁと思う。アンリベール程、年老いても格好いい男なら、ブロディみたいな平凡な爺よりも、もっと素敵な相手がいる筈なのに。それなのに、アンリベールは、ブロディと恋がしたいと言う。
アンリベールと、とりとめのないお喋りをしながら、ブロディは、ちょっとだけ小さく胸がときめくのを感じた。チョロ過ぎる気がするが、アンリベールは格好いいし、なんだかんだで、一緒にお喋りをしていて楽しいから仕方がない。
ブロディは、のんびりと珈琲をアンリベールとのお喋りを楽しんだ。
ーーーーーー
アンリベールに口説かれ始めて、早一ヶ月。我ながら、本当にチョロいのだが、ブロディは、アンリベールのことが、かなり好きになっていた。アンリベールといると、楽しくて、それまで感じていた退屈や孤独感が無くなる。アンリベールが皺くちゃの笑みを見せてくれると、嬉しくて、心臓がドキドキする。
五日に一回のペースで、アンリベールとデートをしている。喫茶店に行ったり、隠れ家的な美味しい飲食店に行ったりと、正直、かなり楽しい。薄墨色だったブロディの世界が、アンリベールのお陰で、パァッと一気に色づいた気がする。
今日は、普通に店を開けている。馴染みの娼館から依頼された薬を作っていると、アンリベールがやって来た。診察スペースと調合スペースの間に椅子を置いて、アンリベールが静かに香草茶を飲みながら、ブロディが薬を作るところを眺めている。アンリベールは、奇特なことに、ブロディが薬を作るところを見るのが好きらしい。見ていて面白いものではないと思うのだが、いつも、静かに見ている。別に邪魔にはならないので、好きにさせているが、物好きだなぁと思う。
依頼された薬を作り終えた頃に、馴染みの娼館の者が薬を取りに来た。出来上がった薬を渡して、金を受け取れば、今日の仕事は終わりである。ふと、ブロディは思い立ち、店仕舞いを始めた。
「おや。今日はもう店仕舞いかい?」
「あぁ。…………その、なんだ」
「ん?」
「飯、食わねぇか。……二階で」
アンリベールがきょとんとした後で、とても嬉しそうに、顔を皺くちゃにして笑った。ブロディは、顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
「是非とも! もしかして、君の手料理?」
「大したものは作れないが」
「すごく嬉しいな。是非ともご馳走になるよ」
「言っておくが、上は散らかり放題だからな」
「そうなのかい? 君の店はいつもキレイにしてあるじゃないか」
「店はな」
ブロディは、店仕舞いをすると、じんわり熱い頬を手で扇ぎながら、アンリベールを連れて、店の奥にある階段から二階に移動した。
二階のブロディの家は、一応、それなりに片付けてはいるが、それでも、生活感があって、キレイとは言い難い。アンリベールが、ブロディの家に入ると、楽しそうに笑った。
「ブロディの匂いがする」
「薬臭いだけだろ」
「いいじゃない。君の匂い、私は好きだよ」
「……そりゃどうも」
「あ、ねぇ。一緒にやってもいいかい? これでも、簡単な料理はできるんだ」
「騎士様だったのに?」
「引退した後は暇だったから、通いの家政婦にちょっと習ってみたんだよ。意外と楽しいから、腰が悪くなるまでは、頻繁に料理をしていたんだ」
「へぇ。じゃあ、一緒に作ろう」
「うん。何を作るんだい?」
「鶏肉のシチュー」
「南瓜はある? 南瓜ゴロゴロの甘いシチューが好きなんだ」
「ある。……僕もいつも南瓜を入れてる」
「ふふっ。なんか嬉しいな」
「そうか」
ほんの些細なことなのだが、アンリベールと共通点があって、なんだか、じんわりと嬉しい。
ブロディは、アンリベールとお喋りをしながら、南瓜ゴロゴロのシチューを作った。
南瓜ゴロゴロのシチューと、買い置きの胡桃のパン、それから、ワインを一杯だけ。質素なものだが、アンリベールは、とても嬉しそうに美味しそうに食べてくれた。
温かいシチューで腹が膨れた後、ちびちびワインを飲みながら、アンリベールがテーブルの上で手を伸ばしてきた。なんとなく、ブロディも手を伸ばせば、アンリベールがブロディの手を握って、指を絡めた。
「ねぇ。ブロディ。泊まっていくのはアリかな」
「……別に構わない」
「ふふっ。ありがとう。ちなみに、私はまだ枯れていないんだけど、ブロディはどうかな?」
「……枯れてない」
「期待してもいいかな?」
「……好きにすればいい」
ブロディは、ワインのせいだけじゃなくて、顔と身体が熱くなり始めた。こんな六十を越えたいい歳をして、可笑しい気がするが、アンリベールと触れ合いたい。
食事の後片付けを一緒にすると、ブロディは、ぶっきらぼうに、アンリベールをシャワーに誘った。
一緒にシャワーを浴びた後。ブロディは、全裸のまま、アンリベールと手を繋いで、寝室に入った。並んでベッドに腰掛けて、アンリベールと、初めてのキスをした。唇を触れ合わせながら、アンリベールが、ちょっと困ったように凛々しい眉を下げた。
「抱かれるのが好きだったのだけど、腰が死ぬよねぇ」
「僕も抱かれるばかりだった。僕も腰が悪い」
「本番は諦めるのが一番かな? 触り合って、舐め合おうか」
「……ん。この歳で尻を使うと、後が怖い」
「確かに。あと十歳若かったらなぁ。まぁ、いいけどね」
ブロディは、アンリベールと抱きしめ合いながら、ベッドに寝転がった。ねっとりと舌を絡ませ合い、何度もお互いの唇を吸い合う。アンリベールが触れれば、ブロディのペニスは、久しぶりに勃起した。手を伸ばして、アンリベールのペニスに触れれば、ゆるやかな角度で硬くなっている。本当に、アンリベールは物好きだ。こんな冴えない爺相手に欲情するなんて。可笑しいが、同時に、とても嬉しい。
味わうようなキスをしながら、お互いのペニスを扱きあう。はぁっと熱い息を吐いたアンリベールが、唇を触れ合わせたまま囁いた。
「ね。舐め合いっこ、しよう」
「ん」
ブロディは、完全にベッドに上がると、アンリベールと頭が上下逆になるように寝転がった。目の前にあるアンリベールのペニスは、そこそこ大きくて、使ったことが殆ど無いのか、意外な程、無垢な淡い色をしていた。うっすら先走りが滲んでいるアンリベールのペニスの亀頭をべろーっと舐めると、自分のペニスの竿に熱くぬるついたものが這う感覚がした。久しぶり過ぎる快感に、堪らず低く唸ってしまう。
アンリベールの舌使いは絶妙で、ブロディも、負けじと舌を動かし、ペニスの根元あたりをゆるく手で扱きながら、パクンとアンリベールのペニスを咥え、頭を前後に動かして、舌を這わせながら、アンリベールのペニスを唇で扱き始めた。
アンリベールの足が、ビクッと震える。どんどん濃くなる先走りの味に、興奮し過ぎて、いっそ心臓が止まりそうだ。そんな洒落にならないことを思いながら、ブロディは、アンリベールのペニスを射精するまで可愛がりつつ、アンリベールがもたらす快感に、腰を震わせた。
お互いに、口内に射精すると、のろのろと起き上がって、精液臭い口で、何度もキスをして、めちゃくちゃに舌を絡めあって、抱きしめ合った。
お互い、荒い息を吐きながら、なんだか可笑しくなって、ブロディは、クックッと低く笑った。アンリベールも、楽しそうに笑っている。
「この歳で裸で寝たらマズいかな」
「流石にちょっと。もう秋口だ。風邪を引く」
「残念。服を着てから一緒に寝るよ」
「あぁ」
「ねぇ。ブロディ。此処に住んでもいいかな」
「……好きにしたらいい」
「ふふっ。じゃあ、好きにするよ。毎朝、珈琲を淹れてあげる。美味しい珈琲の淹れ方を練習したんだ」
「寝る前は薬草茶を淹れる。寝付きがよくなるやつ」
「ふふっ。いいね。とても素敵だ」
「シャワーで汗を流したら、香草茶を淹れよう」
「うん。楽しみ」
アンリベールが、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして笑った。
それから、半月後。ブロディの薬屋に、住人が一人増えた。カウンターで接客をしたり、掃除の手伝いをしてくれている。格好いいお爺ちゃんがいる薬屋があると、花街でちょっと話題になり、最近、娼婦の客が増えた。売上が増えてありがたいが、ブロディは、地味に忙しくなった。ブロディの薬もそれなりに評価されて、常連になる者が増えた。
ブロディは、地味に忙しかった一日を終えると、アンリベールと一緒に、二階に上がった。
一緒に夕食を作り、ちょこっとだけ触れ合いをしてから、薬草茶を淹れる。
居間で薬草茶を飲みながら、アンリベールが、幸せそうに笑った。
「君が淹れてくれる薬草茶を飲むのが、一番好きだよ」
「僕は朝の珈琲が一番好きだ」
「ふふっ。明日の朝も気合を入れて珈琲を淹れなきゃ」
「ん」
香草茶の柔らかい香りと共に、穏やかな空気が流れて、ブロディは、手を伸ばして、テーブルの上で、アンリベールと手を繋いで指を絡めた。
薬屋さんと元騎士さんのささやかな幸せな日々は、のんびりと穏やかに続いていく。
(おしまい)
ブロディは、今年で六十二歳になる。そろそろ、店を誰かに任せて、悠々自適な老後生活をしたいが、店を任せられる当てはないし、優雅な老後生活ができる程の金もない。
ブロディは、退屈な店番をしながら、今日も一日を過ごしていく。
ブロディは男しか愛せない。容姿が、そこら辺の人混みに埋もれそうな程、平凡なのだが、それでも三十代前半までは、たまに恋人ができていた。しかし、若さが無くなると、ブロディは全く相手にされなくなった。四十代前半までは、一晩限りの相手を求めるバーに行ったりもしていたが、見事に空振りばかりで、そのうち、行くのをやめた。
この歳になって、今更恋人が欲しいとは思わないが、自分が普通に女を愛せて、普通に結婚していたら、今頃、一人ぼっちじゃなかっただろうなぁと思うようになった。
ブロディは、男を見る目が無いのか、歴代の恋人は、ヒモ野郎や暴力野郎、浮気野郎ばかりだった。ブロディの見た目が、気弱そうに見えるから、多分、いいカモにされていたのだろう。実際、気弱な方だし。元恋人に、薬屋の売上を持ち逃げされたこともある。多分、最初から、それが狙いだったのかもしれない。
ブロディは、カウンターに頬をつけて、大きな溜め息を吐いた。一人ぼっちには慣れているが、寂しいものは寂しい。このまま、孤独死するしかないかと思うと、本気で泣きたくなる。猫か犬でも飼いたいが、家でも薬を扱っているから、下手に生き物は飼えない。
ブロディは、夕暮れ時の閉店時間まで、ぼーっとカウンターで過ごし、鈍く傷む腰を擦りながら、店仕舞いを始めた。
店の看板を店内に入れようとしたタイミングで、コツコツと石畳を杖でつくような音が聞こえた。何気なく、音がする方を見れば、一人の同年代くらいの男が歩いてきていた。
ブロディが、なんとなく軽い看板を持ったまま、男が近づいてくるのを待っていると、男に声をかけられた。若い頃はさぞかしモテただろうと思われる、小洒落た格好をした男だ。顔立ちも、皺があっても端正に整っているのが分かる。
「もう店仕舞いかな」
「あ、あぁ。あ、でも、急ぎなら……」
「評判がいい薬屋があると聞いてね。本当は、もう少し早めに来る筈だったんだけど、ちょっと店の場所が分かりにくくて迷ってしまって、この時間になってしまった。腰に貼る湿布と、膝に塗る痛み止めの軟膏が欲しいんだ」
「どっちもある。一応、初めての客には簡単な問診と、場合によっては、患部を診せてもらっている。それでもいいなら」
「構わないよ。その方が安心だ。ふむ。信頼できる薬師だとは聞いていたけど、本当のようだね」
「……そりゃどうも」
ブロディは、看板を元の場所に戻すと、男を店内に入れた。
問診票に書かれた名前は、アンリベール。歳はブロディより二つ年上で、数年前から腰と膝が悪いそうだ。湿布や塗り薬にも、種類がある。今、使っているものについて、分かる範囲で話を聴いてから、店の奥にある診察スペースで、アンリベールの腰と膝を診た。どちらも、加齢によるものだが、腰の方は、かぶれた痕があった。
「肌は弱い方?」
「うん。前に使っていた湿布だと、いつもかぶれてね」
「……なら、ちょっと肌に優しいものを作ってくる。効き目は変わらない。時間は大丈夫か? 小半時はかかるんだが」
「問題ないよ」
「では、薬草茶でよければ、それを淹れるから、飲みながら待っていてくれ」
「ありがとう」
ブロディは、診察スペースから出ると、診察スペースの隣の調合スペースで、手早く薬草茶を淹れた。診察スペースの椅子に座っているアンリベールに、香草茶を渡し、早速、アンリベールに合わせた湿布を作り始める。
黙々と作業していると、小半時を少し過ぎたくらいで、湿布が完成した。膝に塗る痛み止めも用意し、アンリベールが待つ診察スペースへと戻る。
「待たせてすまない。腰の湿布は、基本的には、風呂上がりに。一日一回が望ましいが、どうしても痛む時は、貼り替えてもらっても構わない。ただし、貼り替えは一日一回までにしてくれ。それ以上は、肌がかぶれるだろうし、薬が効き過ぎる。膝の方は、朝起きた時と、風呂上がりの二回塗ってくれ。どうしても暫くぬるぬるするから、服に薬がつくのが嫌なら、ガーゼと包帯でもしておいてくれ。こっちは、薬の使い方と注意点を書いた紙。一応、読んでおいてくれ。薬が合わなかったら、すぐに使うのをやめて、また来てもらえると助かる」
「ありがとう。思っていたよりも丁寧だなぁ。助かるよ」
「別に。これが仕事だ」
「薬草茶もご馳走様。美味しかったよ。蜂蜜でも入れたのかい? ほんのり甘くて飲みやすかった」
「蜂蜜も入れてある。滋養強壮にいいやつだ。……アンタ、酒が好きだろう。酒は少し控えめにした方がいい。内臓に負担がかかっている」
「おや。そんなことまで分かるのか」
「顔色を見れば、なんとなく」
「へぇー。あ、これ。今日のお代。また来るよ。あ、ねぇ。君の名前は?」
「ブロディ」
「知ってるだろうけど、私はアンリベール。ありがとう。ブロディ。また来るよ」
「……どうも」
アンリベールが、薬を入れた袋を片手に、すっかり日が暮れた道を歩いて帰っていった。花街なので、細い道を抜ければ、明るい大通りがある。帰りの心配はいらないだろう。
ブロディは、今度こそ店仕舞いをして、二階の自宅へと上がった。
ーーーーーー
ブロディが、ぼーっと店番をしていると、カランカランと店の入り口につけている鈴がなった。また、来たのかもしれない。店のカウンターに姿を現したのは、案の定、アンリベールである。アンリベールは、何故か知らないが、三日と開けずに、ブロディの店にやってくるようになった。アンリベールが店を訪れるようになって、もう四ヶ月になる。
「やぁ。ブロディ。暇だから来たよ」
「ほぼ毎日じゃないか。そんなに暇なのか」
「まぁね。独り身だし」
「奥さんは?」
「私は結婚していないよ。男しか愛せないからね。君と一緒。君もそうだろう? なんとなく分かるよ」
「まぁ、そうだけど」
ブロディは、アンリベールに小さな椅子を差し出すと、香草茶を淹れに、調合スペースに向かった。香草茶を差し出してやると、アンリベールが、嬉しそうに顔を皺くちゃにして笑った。
「このお茶が気に入ってね。美味しいよね」
「そりゃどうも」
アンリベールは、引退するまでは、王宮で働く騎士だったらしい。今でも、すっと背筋が伸びていて、いつも身奇麗にしている。物好きなことに、毎日のようにブロディの店に来ては、気が済むまでお喋りをして、帰っていく。ブロディは、そんなに話上手という訳でもないのに、アンリベールは、いつも楽しそうだ。
ブロディは、アンリベールが来ると、退屈ではなくなるので、実はちょっと嬉しかったりする。茶飲み友達って、こんな感じかなと、勝手に思っている。
「ブロディ。店の定休日はいつだい?」
「気が向いた時」
「じゃあ、明日にでも、気が向かないかな。珈琲は好きかい? 美味しい喫茶店があるんだ」
「珈琲は殆ど飲んだことがない。……けど、嫌いじゃない」
「おや。じゃあ、明日、飲みに行こう。最近は、酒を控えるようにしているから、珈琲ばかりでね」
「寝る前の珈琲はオススメしない。寝付きが悪くなる。温かいミルクにした方がいい」
「ふふっ。温かいミルクだなんて、子供みたいだ」
「すぐに寝付ける」
「そうしてみようかな。じゃあ、明日はデートということで」
「……デート?」
ブロディは、驚いて目を丸くした。ぽかんと間抜けに口を開けているブロディを見て、アンリベールが可笑しそうに笑った。
「一応、これでも口説いてたつもりだったんだけど?」
「……物好きにも程があるな」
「そうかな。結構いい趣味してると思うけど」
「僕なんかのどこがいいんだ」
「なんとなく。なんていうんだろうね。君の雰囲気や店の雰囲気が、すごく落ち着くんだよね」
「……そりゃどうも?」
「とりあえず、明日はデートをしてみようよ。あ、なんなら同棲も大歓迎だよ。君と過ごす時間は、とても楽しくて、穏やかでいられるからね。もっと君のことが知りたいし、私のことも知ってほしいかな」
「い、いきなり同棲はちょっと……? アンタなら、もっと若くていい男をいくらでも恋人にできるだろう。僕なんかを選ぶなんて、趣味が悪い」
「そうかな。君の仕事ぶりは、いつもとても丁寧で、見ていて気持ちがいいよ。それに、若い頃のような、燃えるような恋はこりごりでね。まぁ、色々あって。穏やかな恋がしたいのさ」
「この歳でか?」
「いくつになっても恋をしてもいいじゃないか。私は、君と恋がしたい」
「……そ、そうか」
穏やかに微笑みながら言われて、ブロディは、じわじわと顔が熱くなった。この歳で恋なんて、と思う反面、心の中の天秤が、ちょっと恋がしたいという方に傾いている。我ながらチョロいにも程がある。
アンリベールは、今日も夕暮れ時まで店に居て、客が来ない間は、ずっと喋っていた。
翌朝。ブロディは、衣装箪笥の前で唸っていた。デートに着ていける服が無い。基本的に、必要な買い物以外は外に出ないから、まともな服が無い。仕方がなく、ブロディは、無難な白いシャツと草臥れた黒いズボンを着て、年季が入った茶色いジャケットを羽織り、財布と家の鍵をジャケットの内ポケットに入れて、家を出た。
待ち合わせ場所の花街の入り口に向かうと、もうアンリベールは来ていた。アンリベールが、ブロディを見ると、ふわっと嬉しそうに笑った。
「やぁ。デート日和だね」
「曇ってるが」
「カンカン照りより過ごしやすいじゃない」
「まぁ、そうだけど」
「さて、手を繋ごうか」
「正気か? 爺二人で」
「いいじゃないか。私は手を繋ぎたい」
「…………まぁ、いいけど」
ブロディは、差し出されたアンリベールの手をやんわりと握った。アンリベールの手は、騎士をしていたというだけあって、意外な程ゴツくて、温かかった。
杖をつくアンリベールの歩みに合わせて、のんびりと街中の方へと向かう。アンリベールが案内してくれた喫茶店は、落ち着いた雰囲気の店構えで、店内に入れば、客層も年齢が高めだから、ブロディも安心して入れた。若者が多いお洒落な店は、どうにも気後れしてしまう。
テーブル席に座り、珈琲を注文すると、そう待たずに珈琲が運ばれてきた。いつも、自分で淹れた薬草茶ばかり飲んでいるので、珈琲を飲むのは随分と久しぶりだ。
ブロディが、どこか懐かしい味に目を細めていると、アンリベールが顔を皺くちゃにして笑った。
「中々、美味しいだろう? 落ち着いた店だから、私のお気に入りなんだ」
「確かに美味いな」
「ふふっ。気に入ってもらえて嬉しい」
アンリベールが、顔を皺くちゃにして、本当に嬉しそうに笑った。不思議だなぁと思う。アンリベール程、年老いても格好いい男なら、ブロディみたいな平凡な爺よりも、もっと素敵な相手がいる筈なのに。それなのに、アンリベールは、ブロディと恋がしたいと言う。
アンリベールと、とりとめのないお喋りをしながら、ブロディは、ちょっとだけ小さく胸がときめくのを感じた。チョロ過ぎる気がするが、アンリベールは格好いいし、なんだかんだで、一緒にお喋りをしていて楽しいから仕方がない。
ブロディは、のんびりと珈琲をアンリベールとのお喋りを楽しんだ。
ーーーーーー
アンリベールに口説かれ始めて、早一ヶ月。我ながら、本当にチョロいのだが、ブロディは、アンリベールのことが、かなり好きになっていた。アンリベールといると、楽しくて、それまで感じていた退屈や孤独感が無くなる。アンリベールが皺くちゃの笑みを見せてくれると、嬉しくて、心臓がドキドキする。
五日に一回のペースで、アンリベールとデートをしている。喫茶店に行ったり、隠れ家的な美味しい飲食店に行ったりと、正直、かなり楽しい。薄墨色だったブロディの世界が、アンリベールのお陰で、パァッと一気に色づいた気がする。
今日は、普通に店を開けている。馴染みの娼館から依頼された薬を作っていると、アンリベールがやって来た。診察スペースと調合スペースの間に椅子を置いて、アンリベールが静かに香草茶を飲みながら、ブロディが薬を作るところを眺めている。アンリベールは、奇特なことに、ブロディが薬を作るところを見るのが好きらしい。見ていて面白いものではないと思うのだが、いつも、静かに見ている。別に邪魔にはならないので、好きにさせているが、物好きだなぁと思う。
依頼された薬を作り終えた頃に、馴染みの娼館の者が薬を取りに来た。出来上がった薬を渡して、金を受け取れば、今日の仕事は終わりである。ふと、ブロディは思い立ち、店仕舞いを始めた。
「おや。今日はもう店仕舞いかい?」
「あぁ。…………その、なんだ」
「ん?」
「飯、食わねぇか。……二階で」
アンリベールがきょとんとした後で、とても嬉しそうに、顔を皺くちゃにして笑った。ブロディは、顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
「是非とも! もしかして、君の手料理?」
「大したものは作れないが」
「すごく嬉しいな。是非ともご馳走になるよ」
「言っておくが、上は散らかり放題だからな」
「そうなのかい? 君の店はいつもキレイにしてあるじゃないか」
「店はな」
ブロディは、店仕舞いをすると、じんわり熱い頬を手で扇ぎながら、アンリベールを連れて、店の奥にある階段から二階に移動した。
二階のブロディの家は、一応、それなりに片付けてはいるが、それでも、生活感があって、キレイとは言い難い。アンリベールが、ブロディの家に入ると、楽しそうに笑った。
「ブロディの匂いがする」
「薬臭いだけだろ」
「いいじゃない。君の匂い、私は好きだよ」
「……そりゃどうも」
「あ、ねぇ。一緒にやってもいいかい? これでも、簡単な料理はできるんだ」
「騎士様だったのに?」
「引退した後は暇だったから、通いの家政婦にちょっと習ってみたんだよ。意外と楽しいから、腰が悪くなるまでは、頻繁に料理をしていたんだ」
「へぇ。じゃあ、一緒に作ろう」
「うん。何を作るんだい?」
「鶏肉のシチュー」
「南瓜はある? 南瓜ゴロゴロの甘いシチューが好きなんだ」
「ある。……僕もいつも南瓜を入れてる」
「ふふっ。なんか嬉しいな」
「そうか」
ほんの些細なことなのだが、アンリベールと共通点があって、なんだか、じんわりと嬉しい。
ブロディは、アンリベールとお喋りをしながら、南瓜ゴロゴロのシチューを作った。
南瓜ゴロゴロのシチューと、買い置きの胡桃のパン、それから、ワインを一杯だけ。質素なものだが、アンリベールは、とても嬉しそうに美味しそうに食べてくれた。
温かいシチューで腹が膨れた後、ちびちびワインを飲みながら、アンリベールがテーブルの上で手を伸ばしてきた。なんとなく、ブロディも手を伸ばせば、アンリベールがブロディの手を握って、指を絡めた。
「ねぇ。ブロディ。泊まっていくのはアリかな」
「……別に構わない」
「ふふっ。ありがとう。ちなみに、私はまだ枯れていないんだけど、ブロディはどうかな?」
「……枯れてない」
「期待してもいいかな?」
「……好きにすればいい」
ブロディは、ワインのせいだけじゃなくて、顔と身体が熱くなり始めた。こんな六十を越えたいい歳をして、可笑しい気がするが、アンリベールと触れ合いたい。
食事の後片付けを一緒にすると、ブロディは、ぶっきらぼうに、アンリベールをシャワーに誘った。
一緒にシャワーを浴びた後。ブロディは、全裸のまま、アンリベールと手を繋いで、寝室に入った。並んでベッドに腰掛けて、アンリベールと、初めてのキスをした。唇を触れ合わせながら、アンリベールが、ちょっと困ったように凛々しい眉を下げた。
「抱かれるのが好きだったのだけど、腰が死ぬよねぇ」
「僕も抱かれるばかりだった。僕も腰が悪い」
「本番は諦めるのが一番かな? 触り合って、舐め合おうか」
「……ん。この歳で尻を使うと、後が怖い」
「確かに。あと十歳若かったらなぁ。まぁ、いいけどね」
ブロディは、アンリベールと抱きしめ合いながら、ベッドに寝転がった。ねっとりと舌を絡ませ合い、何度もお互いの唇を吸い合う。アンリベールが触れれば、ブロディのペニスは、久しぶりに勃起した。手を伸ばして、アンリベールのペニスに触れれば、ゆるやかな角度で硬くなっている。本当に、アンリベールは物好きだ。こんな冴えない爺相手に欲情するなんて。可笑しいが、同時に、とても嬉しい。
味わうようなキスをしながら、お互いのペニスを扱きあう。はぁっと熱い息を吐いたアンリベールが、唇を触れ合わせたまま囁いた。
「ね。舐め合いっこ、しよう」
「ん」
ブロディは、完全にベッドに上がると、アンリベールと頭が上下逆になるように寝転がった。目の前にあるアンリベールのペニスは、そこそこ大きくて、使ったことが殆ど無いのか、意外な程、無垢な淡い色をしていた。うっすら先走りが滲んでいるアンリベールのペニスの亀頭をべろーっと舐めると、自分のペニスの竿に熱くぬるついたものが這う感覚がした。久しぶり過ぎる快感に、堪らず低く唸ってしまう。
アンリベールの舌使いは絶妙で、ブロディも、負けじと舌を動かし、ペニスの根元あたりをゆるく手で扱きながら、パクンとアンリベールのペニスを咥え、頭を前後に動かして、舌を這わせながら、アンリベールのペニスを唇で扱き始めた。
アンリベールの足が、ビクッと震える。どんどん濃くなる先走りの味に、興奮し過ぎて、いっそ心臓が止まりそうだ。そんな洒落にならないことを思いながら、ブロディは、アンリベールのペニスを射精するまで可愛がりつつ、アンリベールがもたらす快感に、腰を震わせた。
お互いに、口内に射精すると、のろのろと起き上がって、精液臭い口で、何度もキスをして、めちゃくちゃに舌を絡めあって、抱きしめ合った。
お互い、荒い息を吐きながら、なんだか可笑しくなって、ブロディは、クックッと低く笑った。アンリベールも、楽しそうに笑っている。
「この歳で裸で寝たらマズいかな」
「流石にちょっと。もう秋口だ。風邪を引く」
「残念。服を着てから一緒に寝るよ」
「あぁ」
「ねぇ。ブロディ。此処に住んでもいいかな」
「……好きにしたらいい」
「ふふっ。じゃあ、好きにするよ。毎朝、珈琲を淹れてあげる。美味しい珈琲の淹れ方を練習したんだ」
「寝る前は薬草茶を淹れる。寝付きがよくなるやつ」
「ふふっ。いいね。とても素敵だ」
「シャワーで汗を流したら、香草茶を淹れよう」
「うん。楽しみ」
アンリベールが、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして笑った。
それから、半月後。ブロディの薬屋に、住人が一人増えた。カウンターで接客をしたり、掃除の手伝いをしてくれている。格好いいお爺ちゃんがいる薬屋があると、花街でちょっと話題になり、最近、娼婦の客が増えた。売上が増えてありがたいが、ブロディは、地味に忙しくなった。ブロディの薬もそれなりに評価されて、常連になる者が増えた。
ブロディは、地味に忙しかった一日を終えると、アンリベールと一緒に、二階に上がった。
一緒に夕食を作り、ちょこっとだけ触れ合いをしてから、薬草茶を淹れる。
居間で薬草茶を飲みながら、アンリベールが、幸せそうに笑った。
「君が淹れてくれる薬草茶を飲むのが、一番好きだよ」
「僕は朝の珈琲が一番好きだ」
「ふふっ。明日の朝も気合を入れて珈琲を淹れなきゃ」
「ん」
香草茶の柔らかい香りと共に、穏やかな空気が流れて、ブロディは、手を伸ばして、テーブルの上で、アンリベールと手を繋いで指を絡めた。
薬屋さんと元騎士さんのささやかな幸せな日々は、のんびりと穏やかに続いていく。
(おしまい)
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185
おー!老いらくの恋シリーズだー!好きです!またまたじんわりとした素敵なお話でした(⌒‐⌒)
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!
今すぐハグしたい気持ちでいっぱいですーー!!
ハグ(っ>ω<)`ω'*)ギュ~ッ♡
爺ラブスキーの方がいらっしゃって、本当に本当に嬉しいです!!
全力で!!ありがとうございますっ!!
今回は、ほんのりエロもある感じになりました。60代はまだ枯れてないですもんね。
とても楽しく執筆いたしましたので、お楽しみいただけたのでしたら、何よりも嬉しいです!!
お読み下さり、ありがとうございました!!