バツありオッサン2人の契約結婚

丸井まー(旧:まー)

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1:契約結婚をしよう

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ミゲル・ファイファーは上司であるムート・ヘンネルとサシで酒を飲みつつ、久しぶりの外食を楽しんでいた。本当にたまたま、たまには外食でもするかと入った飲食店でムートに遭遇したのだ。そのままなんとなく一緒に食事をすることになった。個室のある店なので、個室で普段は食べないような少しお値段お高めの旨い料理に舌鼓を打ち、自然と普段は殆んど飲まない酒も進んでいる。
ミゲルとムートは土の宗主国サンガレア領の1番大きな中央の街の役所で税務課に勤務している。ムートは課長であり、ミゲルは副課長である。
ムートが口髭を生やした整った顔を酒精でほんのり赤らめ、上機嫌に口を開いた。


「ミゲル君さー、最近家建てたんでしょ?」

「えぇ。学校にも職場にも近い街中に一軒家建てました。2階建ての、狭いけど庭付きです」

「すごいね。街中なんて地価も税金も高いじゃない」

「頑張りました」


ミゲルは最近念願であった自分の家を建てた。昔から子供が好きで、自分の家で子供を育てることが夢だったのだ。


「家を建てたってことは、いよいよ結婚かい?」

「その予定はありませんよ」

「おや?そのつもりで建てたんじゃないの?」

「いえ、全く。子供は適当な種馬見つけて子種だけ提供してもらってつくるつもりですけど」

「……はい?」


この世は男女比が平等ではなく、6:4で男の方が多い。当然溢れる男が出てくるので、土の宗主国では複婚や同性婚が認められている。王都とサンガレア領には男同士でも子供をつくることができる施設がある。もっとも、施設で子供をつくるには多額の金銭が必要になり、1人つくるだけで、ざっくり一般庶民の年収10年分は必要である。その為、やたら同性愛に寛容なサンガレア以外では、自然に子供ができない男夫婦は少数だし、あまりいい目で見られない。

ミゲルはサンガレア生まれのサンガレア育ちで、男しか愛せない質である。子供が好きで、どうしても自分の子供が欲しかったから、今まで何十年も必死で働いてきた。

宗主国の王族は500年生きるし、サンガレアは異世界から召喚されるという1000年も生きるらしい土の神子を戴く特別領である。よって、国に仕える者やサンガレア領の公的機関では、通称・長生き手続きと呼ばれるものを受けることができる。長生き手続きをすると、神殿で神より祝福を受け、その時点から老化が止まり、長生き手続きを放棄するまで、ずっと生き続けられる。長生き手続きを放棄すると、それからは普通に老いていく。もっとも、100年以上、生きて働き続ける者は少ない。長生き手続きは働いている本人しか受けられない為、結婚を期に止める者が殆どなのだ。誰だって伴侶と同じ時を生きたいものである。

ミゲルも長生き手続きをしていた。男が好きな男が子供をもとうと思ったら、公的機関で長生き手続きをして長く働いて貯金をするのが1番手っ取り早いからだ。
ミゲルは元々生まれ故郷のアレクシアというそこそこ大きな街の役所に勤めていた。しかし、そこで結婚をして離婚をしてから中央の街に引っ越して、中央の街の役所に就職し直し、それ以来80年以上独り身で働き続けている。
全ては念願の持ち家と子供をつくるためだ。1人っ子は少し可哀想だから、2人子供をつくれる額の金を貯めた。それ以外にも子供達が大きくなって、王都の国立高等学校に進学したいと望んだ場合に備えて、子供達に不自由させることがないだけの額の養育費も貯めている。
いよいよ貯金が目標額に達し、家も建てたし、あとは子供をつくるだけである。


「君、もしかして結婚もせずに子供だけつくる気かい?」

「いえ。施設で子供をつくるには結婚していることが条件ですから、今から契約結婚してくれるような適当な種馬を探します」

「契約結婚」

「はい。子育ても僕がしますし、養育費を請求する気もないです。ただ子種だけを提供してくれる書類上の伴侶を探します」

「いや、それ普通に結婚した方がいいんじゃないの?」

「ちゃんとした結婚する気はないです。……1度で散々懲りたので」

「あー……君バツ1だったっけ?」

「はい。今にして思えば、何故結婚なんてしたのか分からないレベルのクソ野郎と離婚してます」

「ちなみにどんなクソ野郎だったんだい?」

「僕のことを家政婦兼性欲処理人形の金蔓としか思ってなかった感じですね。当時同居していた向こうの親にも散々いびられたし。おまけに10年以上かけて貯めた子供貯金もほぼ全額花街通いで使い果たされました。『伴侶なんだから共有財産だろう』とか寝言抜かしやがってましたね。そんなのと5年も夫婦生活していた自分が信じられませんよ。いやもうマジで」

「なんでまた、そんな絵に描いたようなクズと結婚なんてしたのさ。というか、当然慰謝料は貰ったんだろう?」

「いえ、全く。元旦那は単なる雇われ理髪師でしたから。慰謝料を請求しても支払い能力がまるでないので。金にだらしなくて貯金するという概念もないような男だったんです。もう関わるのが嫌だったので、慰謝料も請求しませんでしたよ」

「本当になんでそんなのと結婚したのよ」

「ほら、僕って見た目が普通じゃないですか。『1年会わなかったら、顔と名前忘れそう』って言われたことがあるくらい無個性な見た目なんですよ」

「えー……いやまぁ、そんなに目立つ感じでは確かにないけども」

「当然モテませんし、告白してもフラれるばっかりだったんです」

「おやま」

「なので、初めて『お前だけを愛してる』とか言われてのぼせ上がっちゃったんですよね。向こうは口煩い自分の親の世話をして、家事をして、ついでに金も稼いでくれるような相手が欲しかっただけなのに。今にして思えば本当に僕は頭の中がお花畑だったんですよ。貯金に励んでいた約10年ちょい合わせると、15年以上無駄にしました。本当に馬鹿だったんですよねー、僕」

「ありゃま」

「なので結婚する気はないんです。でも子供をもつことが夢だったので、それだけは叶えたいんですよ」

「まー、僕もバツ2だからさ。今更結婚には夢も希望もないけどね」

「あれ?課長ってバツ1じゃないんですか?確か……50年くらい?前に離婚してましたよね」

「それ2回目の離婚ね」

「課長。なんか変な性癖とか持ってるんですか?それか金遣い荒いとか」

「ないよそんなの。失敬な。1度目は女と結婚したの!2度目は男と結婚したけど浮気されたんだよ。それも5股かけられてて」

「わぉ。課長って男も女もいけるんですね」

「いや?男専門だけど」

「え?じゃあ何で女と結婚したんですか?」

「僕の両親さ、よその領地からサンガレアに移住したんだよね。だからかもしれないけど、同性愛にバリバリ偏見もっててさー。『男同士なんて気持ち悪い』っていつも言ってたんだよね」

「そりゃまた保守的な」

「でしょ?だから、男しか愛せないって言い出せなくてさー。役所に就職しても、最初の頃は長生き手続きもできなかったんだよね。『どうせすぐに結婚して子供をもつんだから』って言われてさ。30歳で殆ど無理矢理女と結婚させられたんだよね」

「うわぁ……」

「でも当然うまくいくわけないじゃない。僕は女には全然勃起しないもの。それに女と一緒のベッドで寝るのも嫌でさ。お互い3年耐えたけど、もう無理ってなって離婚だよ。その時に親に同性愛者だって、やっと告白したってわけ」

「告白して、どうなったんです?」

「まぁ、普通に勘当されるよね」

「うわ、キッツ」

「それから長生き手続きして、60年くらい前に結婚したわけよ。そんときに長生き手続きも止めてさ、結婚10年目に子供をつくろうかってなった時に浮気発覚。もう施設に申し込みまでしてたんだよ?しかも1人とは結婚前からずっと浮気してたんだよ?ありえなくない?もうね、即座に離婚届け叩きつけて、施設にも申し込み取り消しに行って、以来ずっと独り身だね」

「ん?課長って肉体年齢いくつなんですか?」

「えー?えっと、43?かな?」

「あれ?意外と若いんですね。もう50くらいかと思ってました」

「失敬だな君!そこまで歳くってないよ!」

「えー……だって、白髪も多いですし。なんか離婚したあたりから一気に老け込んだ感じだったじゃないですか」

「ぐっ……しょうがないだろ。離婚前後はストレス半端なかったし。ていうか、そういう君だって40代だろ?」

「違いますよっ!僕はまだ30歳です!」

「えぇー?またまたー」

「いやいやいや。本当ですから」

「いや君なんか常に草臥れてる雰囲気だから、本当に40代にしか見えないよ?」

「えっ、嘘」

「いやマジで」

「えぇ……ショック……」

「君さー、ぶっちゃけセックスとかしてる?なんかもう枯れてる雰囲気だよ?」

「……離婚してから1度もしてませんけど、なにか?」

「えー。だからそんな雰囲気なんじゃないの?僕でさえ、たまに花街行くのに。まぁ、年に3回くらいだけどさ」

「うぐぅ……セックスなんて痛いだけじゃないですか」

「それ、元旦那が下手すぎだっただけじゃないの?」

「……いやまぁ、頻繁に流血沙汰になってましたけど」

「は?なにそれ、ヤバいじゃない」

「病院の常連になってましたね。毎回医者から怒られてました」

「そりゃそうでしょうとも。君さ、もしかしてまともなセックスしたことないの?」

「……元旦那としかしたことないです」

「マジか。花街にでも行けばいいじゃない」

「お金かかるじゃないですか」

「まぁ、そうだけど。必要経費ってことで割りきったら?」

「嫌です。僕は毎月増えていく通帳の貯金額を見るのだけが楽しみなんです。無駄遣いなんてしたくありません」

「なにそれ寂しいにも程がある。もしかして芝居観に行ったりもしないの?」

「1度もないですね。新聞は流石に定期講読してますけど、基本的に本とかも買わないです」

「……君の趣味なに?」

「貯金です」

「あんまりだなっ!」

「なんでですか。楽しいですよ、貯金。いかに節約して生活するか考えるのも楽しいですし」

「休みの日とか何してるわけ?」

「家のことをして、通帳を眺めて、家計簿をつけて、あとは寝てます」

「……信じられないくらい枯れた生活だなぁ」

「ほっといてください」

「いや、まぁいいけどね。趣味は人各々だし?で?話戻すけど、種馬探すんでしょ?あてはあるのかい?」

「ないですね。どうしようか考え中です」

「ふーん。それなら僕なんてどう?僕も子供は欲しいんだよね。でも面倒な旦那はいらない」

「課長ですか?えー……大丈夫なんですか?精力的というか子種的な意味で」

「現役バリバリだよ!失敬な!それに一応施設で1度検査してもらったことあるし!元気ピンピンだよ!僕の精子」

「マジですか」

「マジです。あ、でもセックスはしたいからさ、セックスはありがいいな。僕、抱くのも抱かれるのも両方いけるし。ミゲル君の気分次第でどっちでもいいよ」

「えー。課長、僕で勃つんですか?」

「まぁ、多分?」

「多分ですか。セックス……んー……んー……」

「結局使わなかった子供貯金もあるし、それ以外にも貯金あるし、慰謝料をかなりぶんどってやったから、僕お金は持ってるよ。子供をつくるお金と養育費と生活費は折半でいいし」

「……なんか、僕に都合よすぎません?」

「僕としても君は都合がいいけどね。僕も子供が欲しいからさ。でも面倒な恋愛をするのも、惚れたのなんだので浮気を心配しちゃうような関係になるのも嫌だし。子供をつくって育てるだけを目的として結婚するなら別にミゲル君でもいいよ。君、すごく真面目だし」

「……セックス本当にするんですか?」

「うん。それだけは条件に入れさせてもらうよ。それ以外は、諸々の費用は折半だし、子育ても当然一緒にやるよ。僕は独り身が長いから家事もできるし。子供がある程度大きくなったら離婚すればいいんじゃない?」

「……家はどうします?」

「別に家族用の官舎を借りてもいいけど?」

「それだと家賃を払わなきゃいけないじゃないですか。それなら僕の家に住んでください。確か、夫婦が同居してることも施設の条件に入ってましたよね」

「そうそう。じゃあ、僕が君の家に引っ越すよ。そうだなぁ……とりあえず期間は10年にしとく?それなら子供を2人つくっても、離婚する頃には2人とも小学生になってるだろうし。あ、離婚しても子供とは定期的に会わせてよね。僕の子供でもあるんだから」

「それは勿論。えー……じゃあ、いいですか?お願いしても」

「いいよ。よろしくね、ミゲル君」

「はい。10年間の契約結婚ですね」

「うん。子供をつくって育てることが目的。外聞や子供達の手前、花街にも行けなくなるからセックスはするってことで。養育費も生活費も何もかも折半ね」

「……セックスには不安しか感じませんけど、それでいいです」

「じゃあ決まりだ」

「はい」


こうしてミゲルとムートは子供の為だけの契約結婚をすることになった。

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