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11:家族
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カートが無事に2歳の誕生日を迎えたので、ミゲルとムートは子供がつくることができる施設へと再び申し込み、2人目の子供をつくった。カートの3歳の誕生日の少し前に産まれた男の子を、ムートはセシルと名付けた。
カートは家から1番近い保育所に通うようになり、ミゲルは復職し、代わりにムートが育児休暇に入った。カートの保育所への送り迎えはミゲルがする。ムートは昼間はひたすら乳児であるセシルの世話をしている。カートでそれなりに赤ちゃんの世話には慣れているが、カートとセシルではやはり個性が違う。セシルはカート程すんなりミルクを飲んでくれない。時間をかけて飲ませても、すぐに吐いてしまうことも多い。カートよりも少し手がかかるセシルの世話をするムートの負担を少しでも減らす為に、ミゲルは久しぶりの仕事に四苦八苦しながらも、家では元気いっぱいなカートの相手をしつつ、家事に奔走している。
子供が2人になると洗濯物がぐっと増えた。ムートと2人の時は1回でよかった洗濯が、毎朝2回か多い時は3回になった。ミゲルは毎朝起きたらすぐに洗濯をしつつ、朝食と自分の弁当とムートの分の手早く食べられるような昼食を作り、ムートがカートに朝食を食べさせている間に洗濯物を干して、自分も手早く朝食をとってから制服に着替え、カートを着替えさせてから、ムートにキスをしてカートを連れて家を出る。カートが保育所に通い始めて約1ヶ月。カートは保育所にも慣れ、仲がいい友達もできた。ミゲルも他の子供達の保護者と少し立ち話をする程度には親しくなった。
就業時間が終わるとすぐにミゲルは職場を出る。ちなみにムートの後任はカーターである。昨年課長に就任したばかりの慣れないカーターを補佐しつつ、自分の仕事もこなさなくてはならないので結構忙しくて大変だが、わりと手のかかるセシルの相手をしているムートはもっと大変なのだ。ムートはもうすぐ47歳になる。順調に老けてきている。まだギリギリ30代前半のミゲルよりも無理がきかない年齢だ。睡眠不足な毎日はキツかろう。少しでもムートを寝かせてやりたいので、翌日が休日の日は、ムートをカートと寝かせて、ミゲルがセシルと寝ている。ムートはミゲルがその提案をした時にかなり渋っていたが、ミゲルはなんとかムートを説得した。ムートがミゲルを助けてくれていたように、ミゲルだってムートを手助けしたい。そう自然と思う程、ミゲルの中でムートの存在は大きくなっている。小さい子供達を育てるのは大変だが、毎日の子供達の少しずつの成長が嬉しくて、ムートと顔を見合わせて笑うことが多い。慌ただしい日々ではあるが、ミゲルは確かに幸せを感じている。
ーーーーーー
カートが4歳、セシルが1歳になった。カートは兎に角元気で、外を走り回ることが好きだ。じっとしていることがほぼない。休みの度にミゲルはセシルを抱っこしたムートと共に街の広場へ行き、小さな子供が遊べるスペースでカートを遊ばせている。そこにはカートと仲がいい保育所の友達も来るので、危険がないよう見守りながら、保育所でもよく会う保護者と立ち話をしたりもする。セシルはつい先日漸くすこーしだけ歩いた。それでもまだ殆んど歩けないので、ハイハイ移動が多い。流石に土の上をハイハイさせるわけにはいかないので、カートが遊んでいる間はセシルは抱っこ待機である。
子供用の砂場で友達と遊ぶカートを眺めながら、ムートからセシルを受けとる。セシルはカートより言葉が早くて、『ぱー』『とー』『にー』と家族の名前を呼べるようになっている。カートもセシルもムートが大好きだ。家ではいつも2人でパパの取り合いっこをしている。取り合いの標的であるパパムートは、いつもデレデレして喜んでいる。
「ムーちゃん」
「なんだい?」
「2人は見てますから、あっちの屋台がある所でゆっくり珈琲でも飲んできてください。あ、鈴カステラがあったら買ってきてもらえませんか?おやつにしましょうよ」
「はーい。じゃあ、ちょっと行ってくるね。何かあったらすぐに呼んでよ」
「はい」
ムートがミゲルの唇にキスをして、ミゲルが抱っこしているセシルの頬にキスをしてから、広場内の屋台が立ち並んでいるスペースへとのんびり歩いていった。
ミゲルはセシルを抱っこしたまま、砂場のすぐそばのベンチに座った。時折砂場で遊ぶカートを端末で写真を撮ったりしていると、ポンポンと軽く肩を叩かれた。振り返ると、そこには私服姿のカーターがいた。
「課長」
「こんにちは。お子さん達ですか?」
「こんにちは。そうですよ。この子が次男のセシルで、あそこで遊んでいるのが長男のカートです」
「隣に座ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ミゲルと拳1つ分あけて、カーターがベンチに座った。じーっとミゲルが抱っこしているセシルを見つめて、ふっと優しげな微笑みを浮かべた。
「可愛いですね。課長そっくり」
「課長はもう貴方ですよ」
「あー……まぁ、そうなんですけどね。初めまして、セシル君。カーターです」
「とー?」
「父さんの職場の上司だよ。多分いい人だよ」
「えー。多分じゃなくて普通にいい人ですぅ」
「ははっ」
「副課長って仕事の時は眼鏡じゃないですか。今眼鏡かけてませんけど、見えるんですか?」
「あぁ。あれは伊達です。視力はいい方ですよ」
「お洒落ですか?キャラ付けですか?」
「後者ですね」
「ふーん。眼鏡かけてないと、なんだか印象違いますね」
「1年会わなかったら忘れそうでしょう?」
「んー?そうですか?眼鏡ない方が若く見えますよ」
「そうですか?」
「はい。今日はかちょ、じゃなかった。ムートさんはご一緒じゃないんですか?」
「一緒に来てますけど、ちょっと休憩中です。屋台があるスペースで珈琲でも飲んでる筈ですよ。いつもずっとセシルの相手をしてくれてますから。たまには少しくらい息抜きしないと」
「へぇー。小さいお子さん2人ってやっぱり大変ですか?」
「そうですね。まぁ、多少は。僕もあの人も、とっくに身内は亡くなってたり、疎遠になってますから。お互いしか頼れる相手はいませんからね」
「あー……それは俺もですね。長生き手続きしてると、確かに金は貯まりますけど。こう……なんというか甘えられる身内ってのがいなくなりますよね。どうしても」
「そうなんですよねぇ。まぁ仕方がないことですけど」
「俺も結婚したいですねぇ。相手いませんけど」
「貴方は顔もいいし、仕事もできるし、いくらでも貴方と結婚したい人はいるんじゃないんですか?」
「やー。やっぱこう……お互い対等で本当に信頼しあって協力しあえる相手がいいじゃないですか。俺もできたら子供がほしいですし。……その点、副課長達ってなんか安定感ありますよね」
「安定感?」
「なーんかお互い大事にしあってるんだなぁ、って端から見てて思いますもん。かちょ、ムートさんが異動する前も、ムートさん忙しそうでしたけど、帰る時は毎日楽しそうにいそいそと帰ってましたし。『ミーちゃんとカートが待ってるから』って。副課長も仕事終わったら即帰りますし」
「……あの人、もしかして僕のこと職場でも『ミーちゃん』って呼んでたんですか?」
「えぇ。皆知ってますよ」
「えぇぇ……」
「いいんじゃないんですか?微笑ましくて」
「オッサン2人が互いに『ちゃん』呼びしてるのを、正直職場には知られたくないですよ」
「はははっ。……出世は自分が評価されてるってことで素直に嬉しいんですけど。仕事に必死で恋人つくるどころじゃないし。俺が家族をもてるのはいつになるのかなぁ。なんか本当に羨ましいんですよね。副課長達が」
「……まぁ、気持ちは分かりますよ。僕もそうでしたから。子供がほしくて必死に働いて貯金してましたけど、周りはどんどん結婚して子供ができたりして。長く働けば働く程、なんというか、置いていかれることが多いんですよね」
「それですよー。俺が税務課で働き始めた頃にはムートさんがもう課長だったし、副課長もいたし。でも2人とももう長生き手続きやめてるから、長くても30年も今の職場にはいないでしょう?どんどん歳をとっていくし。なんかもう置いていかれてる感が半端なくて。最近本当寂しいなぁって思うことが多いんですよねぇ」
「そういう時に寄り添える相手がいるのが1番いいんですけどね」
「それが中々難しいんですよねー」
「ちなみに、どんな男性が好みなんですか?」
「えーと、優しくて包容力がある感じの人がいいですね。歳上で、少し甘やかしてくれているような。俺はできたら甘えたい派なんで」
「んー……どっかに転がってませんかね」
「やー。そこらへんに転がってたら、ちょっと不審に思いますよ」
「まぁ確かに。あ、焦るのだけはやめた方がいいですよ。失敗しますから。経験談です」
「失敗してるんですか?」
「えぇ。バツイチなんですよ。僕」
「へぇー」
「もう少し仕事に余裕ができたら、出会いを求めて色々出かけてみたらどうです?花街に公的機関で長く働いてる男性がよく集まる男専門向けバーがあるって聞いたことありますよ」
「あ、そこに前は通ってました。別れた彼氏とはそこで知り合ったんですよ」
「あ、そうなんですか」
「なんにせよ、まずは出会いからですねー」
「そうですね」
カーターと話している間に、セシルは眠ってしまった。カーターとプライベートな話をすることはあまりなかったので、少し新鮮である。
ふっと屋台があるスペース方面を見ると、両手に紙コップを持ったムートが歩いて此方に歩いてきている。ミゲルの隣に座っているカーターを見て、ムートが少し目を丸くした。
「あれー。カーター君じゃない」
「お久しぶりです。かちょ、じゃなかった。ムートさん」
「久しぶりー。どう?仕事の方は」
「やー。なんかもう必死ですねー。慣れるのに」
「はははっ。まぁ、最初の数年はね。どうしてもね。あ、ミーちゃん。はい。君の分の珈琲とカート用の冷たいラッシー」
「ありがとうございます。ちゃんと休憩できました?」
「うん。珈琲だけじゃなくて久しぶりにソフトクリームまで食べちゃった。あ、鈴カステラはあったよ。鞄に入ってる。あー、そう。聞いてよー」
「なんです?」
「顔見知りになりつつある店の人にさ、『今日はお孫さんは一緒じゃないんですか?』って言われた」
「ぶはっ」
「あーあ」
「酷くない?僕そんなに老けてる?」
「ムーちゃん。仮に20歳で結婚して子供ができたとします」
「うん」
「その子供がまた20歳で結婚して子供ができます」
「うん」
「さて、貴方は今年何歳になりますか?」
「……47」
「孫が普通にいておかしくないですよね」
「うぐぅ……無駄にした若さを取り戻したい……そこで笑い転げてるカーター君や」
「あ、はい」
「君、子供がほしかったら長生き手続きやめたらすぐにつくるんだよ。まずは2人だけの時間を楽しんでー、とか言ってたら、あっという間に無駄に年を取るからね」
「うわぁ。実感こもってますねぇ」
「はぁー。ま、いいけどねぇ」
溜め息を吐いたムートから珈琲を受け取り、遊んでいるカートを呼ぶ。水場で手を洗わせてから、ムートがカートにラッシーの入った紙コップを渡した。
折角久しぶりに会ったからということで、カーターも一緒に外食することになり、夕方になるまでムートがセシルを抱っこしてベンチに座ってゆっくりしている間に、カーターに興味津々なカートとカーターも一緒に砂場で遊んだ。カートはすぐにカーターに懐いた。
普段は外食なんてしないので、久しぶりの外食を家族とカーターと共に楽しみ、ミゲルははしゃぎすぎて疲れて寝てしまったカートを抱っこして、セシルを抱っこするムートと一緒に薄暗い道を歩いて家へと帰った。
カートは家から1番近い保育所に通うようになり、ミゲルは復職し、代わりにムートが育児休暇に入った。カートの保育所への送り迎えはミゲルがする。ムートは昼間はひたすら乳児であるセシルの世話をしている。カートでそれなりに赤ちゃんの世話には慣れているが、カートとセシルではやはり個性が違う。セシルはカート程すんなりミルクを飲んでくれない。時間をかけて飲ませても、すぐに吐いてしまうことも多い。カートよりも少し手がかかるセシルの世話をするムートの負担を少しでも減らす為に、ミゲルは久しぶりの仕事に四苦八苦しながらも、家では元気いっぱいなカートの相手をしつつ、家事に奔走している。
子供が2人になると洗濯物がぐっと増えた。ムートと2人の時は1回でよかった洗濯が、毎朝2回か多い時は3回になった。ミゲルは毎朝起きたらすぐに洗濯をしつつ、朝食と自分の弁当とムートの分の手早く食べられるような昼食を作り、ムートがカートに朝食を食べさせている間に洗濯物を干して、自分も手早く朝食をとってから制服に着替え、カートを着替えさせてから、ムートにキスをしてカートを連れて家を出る。カートが保育所に通い始めて約1ヶ月。カートは保育所にも慣れ、仲がいい友達もできた。ミゲルも他の子供達の保護者と少し立ち話をする程度には親しくなった。
就業時間が終わるとすぐにミゲルは職場を出る。ちなみにムートの後任はカーターである。昨年課長に就任したばかりの慣れないカーターを補佐しつつ、自分の仕事もこなさなくてはならないので結構忙しくて大変だが、わりと手のかかるセシルの相手をしているムートはもっと大変なのだ。ムートはもうすぐ47歳になる。順調に老けてきている。まだギリギリ30代前半のミゲルよりも無理がきかない年齢だ。睡眠不足な毎日はキツかろう。少しでもムートを寝かせてやりたいので、翌日が休日の日は、ムートをカートと寝かせて、ミゲルがセシルと寝ている。ムートはミゲルがその提案をした時にかなり渋っていたが、ミゲルはなんとかムートを説得した。ムートがミゲルを助けてくれていたように、ミゲルだってムートを手助けしたい。そう自然と思う程、ミゲルの中でムートの存在は大きくなっている。小さい子供達を育てるのは大変だが、毎日の子供達の少しずつの成長が嬉しくて、ムートと顔を見合わせて笑うことが多い。慌ただしい日々ではあるが、ミゲルは確かに幸せを感じている。
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カートが4歳、セシルが1歳になった。カートは兎に角元気で、外を走り回ることが好きだ。じっとしていることがほぼない。休みの度にミゲルはセシルを抱っこしたムートと共に街の広場へ行き、小さな子供が遊べるスペースでカートを遊ばせている。そこにはカートと仲がいい保育所の友達も来るので、危険がないよう見守りながら、保育所でもよく会う保護者と立ち話をしたりもする。セシルはつい先日漸くすこーしだけ歩いた。それでもまだ殆んど歩けないので、ハイハイ移動が多い。流石に土の上をハイハイさせるわけにはいかないので、カートが遊んでいる間はセシルは抱っこ待機である。
子供用の砂場で友達と遊ぶカートを眺めながら、ムートからセシルを受けとる。セシルはカートより言葉が早くて、『ぱー』『とー』『にー』と家族の名前を呼べるようになっている。カートもセシルもムートが大好きだ。家ではいつも2人でパパの取り合いっこをしている。取り合いの標的であるパパムートは、いつもデレデレして喜んでいる。
「ムーちゃん」
「なんだい?」
「2人は見てますから、あっちの屋台がある所でゆっくり珈琲でも飲んできてください。あ、鈴カステラがあったら買ってきてもらえませんか?おやつにしましょうよ」
「はーい。じゃあ、ちょっと行ってくるね。何かあったらすぐに呼んでよ」
「はい」
ムートがミゲルの唇にキスをして、ミゲルが抱っこしているセシルの頬にキスをしてから、広場内の屋台が立ち並んでいるスペースへとのんびり歩いていった。
ミゲルはセシルを抱っこしたまま、砂場のすぐそばのベンチに座った。時折砂場で遊ぶカートを端末で写真を撮ったりしていると、ポンポンと軽く肩を叩かれた。振り返ると、そこには私服姿のカーターがいた。
「課長」
「こんにちは。お子さん達ですか?」
「こんにちは。そうですよ。この子が次男のセシルで、あそこで遊んでいるのが長男のカートです」
「隣に座ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ミゲルと拳1つ分あけて、カーターがベンチに座った。じーっとミゲルが抱っこしているセシルを見つめて、ふっと優しげな微笑みを浮かべた。
「可愛いですね。課長そっくり」
「課長はもう貴方ですよ」
「あー……まぁ、そうなんですけどね。初めまして、セシル君。カーターです」
「とー?」
「父さんの職場の上司だよ。多分いい人だよ」
「えー。多分じゃなくて普通にいい人ですぅ」
「ははっ」
「副課長って仕事の時は眼鏡じゃないですか。今眼鏡かけてませんけど、見えるんですか?」
「あぁ。あれは伊達です。視力はいい方ですよ」
「お洒落ですか?キャラ付けですか?」
「後者ですね」
「ふーん。眼鏡かけてないと、なんだか印象違いますね」
「1年会わなかったら忘れそうでしょう?」
「んー?そうですか?眼鏡ない方が若く見えますよ」
「そうですか?」
「はい。今日はかちょ、じゃなかった。ムートさんはご一緒じゃないんですか?」
「一緒に来てますけど、ちょっと休憩中です。屋台があるスペースで珈琲でも飲んでる筈ですよ。いつもずっとセシルの相手をしてくれてますから。たまには少しくらい息抜きしないと」
「へぇー。小さいお子さん2人ってやっぱり大変ですか?」
「そうですね。まぁ、多少は。僕もあの人も、とっくに身内は亡くなってたり、疎遠になってますから。お互いしか頼れる相手はいませんからね」
「あー……それは俺もですね。長生き手続きしてると、確かに金は貯まりますけど。こう……なんというか甘えられる身内ってのがいなくなりますよね。どうしても」
「そうなんですよねぇ。まぁ仕方がないことですけど」
「俺も結婚したいですねぇ。相手いませんけど」
「貴方は顔もいいし、仕事もできるし、いくらでも貴方と結婚したい人はいるんじゃないんですか?」
「やー。やっぱこう……お互い対等で本当に信頼しあって協力しあえる相手がいいじゃないですか。俺もできたら子供がほしいですし。……その点、副課長達ってなんか安定感ありますよね」
「安定感?」
「なーんかお互い大事にしあってるんだなぁ、って端から見てて思いますもん。かちょ、ムートさんが異動する前も、ムートさん忙しそうでしたけど、帰る時は毎日楽しそうにいそいそと帰ってましたし。『ミーちゃんとカートが待ってるから』って。副課長も仕事終わったら即帰りますし」
「……あの人、もしかして僕のこと職場でも『ミーちゃん』って呼んでたんですか?」
「えぇ。皆知ってますよ」
「えぇぇ……」
「いいんじゃないんですか?微笑ましくて」
「オッサン2人が互いに『ちゃん』呼びしてるのを、正直職場には知られたくないですよ」
「はははっ。……出世は自分が評価されてるってことで素直に嬉しいんですけど。仕事に必死で恋人つくるどころじゃないし。俺が家族をもてるのはいつになるのかなぁ。なんか本当に羨ましいんですよね。副課長達が」
「……まぁ、気持ちは分かりますよ。僕もそうでしたから。子供がほしくて必死に働いて貯金してましたけど、周りはどんどん結婚して子供ができたりして。長く働けば働く程、なんというか、置いていかれることが多いんですよね」
「それですよー。俺が税務課で働き始めた頃にはムートさんがもう課長だったし、副課長もいたし。でも2人とももう長生き手続きやめてるから、長くても30年も今の職場にはいないでしょう?どんどん歳をとっていくし。なんかもう置いていかれてる感が半端なくて。最近本当寂しいなぁって思うことが多いんですよねぇ」
「そういう時に寄り添える相手がいるのが1番いいんですけどね」
「それが中々難しいんですよねー」
「ちなみに、どんな男性が好みなんですか?」
「えーと、優しくて包容力がある感じの人がいいですね。歳上で、少し甘やかしてくれているような。俺はできたら甘えたい派なんで」
「んー……どっかに転がってませんかね」
「やー。そこらへんに転がってたら、ちょっと不審に思いますよ」
「まぁ確かに。あ、焦るのだけはやめた方がいいですよ。失敗しますから。経験談です」
「失敗してるんですか?」
「えぇ。バツイチなんですよ。僕」
「へぇー」
「もう少し仕事に余裕ができたら、出会いを求めて色々出かけてみたらどうです?花街に公的機関で長く働いてる男性がよく集まる男専門向けバーがあるって聞いたことありますよ」
「あ、そこに前は通ってました。別れた彼氏とはそこで知り合ったんですよ」
「あ、そうなんですか」
「なんにせよ、まずは出会いからですねー」
「そうですね」
カーターと話している間に、セシルは眠ってしまった。カーターとプライベートな話をすることはあまりなかったので、少し新鮮である。
ふっと屋台があるスペース方面を見ると、両手に紙コップを持ったムートが歩いて此方に歩いてきている。ミゲルの隣に座っているカーターを見て、ムートが少し目を丸くした。
「あれー。カーター君じゃない」
「お久しぶりです。かちょ、じゃなかった。ムートさん」
「久しぶりー。どう?仕事の方は」
「やー。なんかもう必死ですねー。慣れるのに」
「はははっ。まぁ、最初の数年はね。どうしてもね。あ、ミーちゃん。はい。君の分の珈琲とカート用の冷たいラッシー」
「ありがとうございます。ちゃんと休憩できました?」
「うん。珈琲だけじゃなくて久しぶりにソフトクリームまで食べちゃった。あ、鈴カステラはあったよ。鞄に入ってる。あー、そう。聞いてよー」
「なんです?」
「顔見知りになりつつある店の人にさ、『今日はお孫さんは一緒じゃないんですか?』って言われた」
「ぶはっ」
「あーあ」
「酷くない?僕そんなに老けてる?」
「ムーちゃん。仮に20歳で結婚して子供ができたとします」
「うん」
「その子供がまた20歳で結婚して子供ができます」
「うん」
「さて、貴方は今年何歳になりますか?」
「……47」
「孫が普通にいておかしくないですよね」
「うぐぅ……無駄にした若さを取り戻したい……そこで笑い転げてるカーター君や」
「あ、はい」
「君、子供がほしかったら長生き手続きやめたらすぐにつくるんだよ。まずは2人だけの時間を楽しんでー、とか言ってたら、あっという間に無駄に年を取るからね」
「うわぁ。実感こもってますねぇ」
「はぁー。ま、いいけどねぇ」
溜め息を吐いたムートから珈琲を受け取り、遊んでいるカートを呼ぶ。水場で手を洗わせてから、ムートがカートにラッシーの入った紙コップを渡した。
折角久しぶりに会ったからということで、カーターも一緒に外食することになり、夕方になるまでムートがセシルを抱っこしてベンチに座ってゆっくりしている間に、カーターに興味津々なカートとカーターも一緒に砂場で遊んだ。カートはすぐにカーターに懐いた。
普段は外食なんてしないので、久しぶりの外食を家族とカーターと共に楽しみ、ミゲルははしゃぎすぎて疲れて寝てしまったカートを抱っこして、セシルを抱っこするムートと一緒に薄暗い道を歩いて家へと帰った。
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