黒と白が交わる時

丸井まー(旧:まー)

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黒い男

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雑貨屋や魔導製品専門店、土の神子を戴く聖地神殿が近くにあることから有名な観光地である中央の街ならではの土産物屋などをいくつか見て回り、ミーケお勧めのパンケーキ屋へと入った。カミロはパンケーキとやらのことも知らない。パンなのか、ケーキなのか。パンは普通に食べていたから分かるが、ケーキというものはサンガレアに来て魔術研究所の食堂のデザートで初めて食べた。甘い食べ物で、カミロは食堂の日替わり定食のデザートがケーキの時は少し嬉しい。ケーキにも様々な種類があるらしい。食堂でデザートとして出るのはいつもパウンドケーキというものなのだそうで、それ以外のケーキは食べたことがない。パンケーキとやらはケーキの一種なのだろうか。
カミロはなんだかワクワクしながら、イアソン達と共にパンケーキ屋に入った。

店の中は人でいっぱいだった。なんだか女と子供が多い気がする。店員がカミロ達の側にやって来て、全てテーブルが埋まっているから少し待っていて欲しいと頼んできた。
イアソン達は笑って頷いて、店に入ってすぐの所に置いてある長椅子に座った。店員がメニュー表を4枚持ってきてくれたので、カミロはメニュー表を受け取って読み始めた。
パンケーキとは甘いものや肉などと一緒のものなど、複数種類があった。やはりパンなのか、ケーキなのか、よく分からない。甘いものならケーキなのだろう。しかしソーセージやハムなどを添えているものもある。それはケーキと呼べるのか。否、カミロはケーキというものをパウンドケーキしか知らない。きっとカミロには想像もできないようなケーキもあるのだろう。ケーキとは種類によっては甘いだけではなく、肉と一緒に食べたりもするものなのだ。多分。カミロはなんとなく納得して、メニュー表を眺めながら、どれを注文すればいいのか悩んだ。甘いものだけでも10種類くらいある。どれにすべきなのだろうか。

カミロが少し俯いてじっとメニュー表を見つめていると、目の前に人が立つ気配がした。カミロが顔を上げると、『黒い男』が立っていた。
正確に言うと、黒いのは髪と瞳だけだ。服装は白い襟なしのシャツだし、ズボンは濃い青色である。しかし、黒髪の印象が強烈過ぎて、カミロは『黒い男』だと思った。黒い髪と瞳なんて該当するのは土の神子マーサの血を引く者だ。つまりサンガレア公爵家の人間だ。
『黒い男』が口を開いた。


「アンタ、もしかしてカミロ・リベロ?」

「…………はい」

「ふーん。本当に白いんだな。アーがアンタの名前をたまに言ってたんだよね。特に高等学校の試験の後」

「あー?」

「アイーシャ。俺の妹。三つ子だから歳は同じだけど」


どう反応したらいいのか分からず、固まるカミロの隣に座っているイアソンが『黒い男』に声をかけた。


「もしかしてジャファー様ですか?」

「そう」

「あー。大きくなりましたねぇ。ちょっと前までちっこかったのに。俺のこと分かります?何度か魔術研究所でお会いしたことあるんですけど」

「…………あぁ。もしかして、アーが懐いてる魔術師のお兄さん?」

「そうなりますかね。イアソン・パークっす。こっちの2人はアフラックとミーケ。全員第2研究部所属の魔術師です。カミロも含めて」

「へぇ。第2研究部って確かシャール兄様がいるとこだよね」

「そうっすよ」

「ふーん。あ、そうだ。テーブル空くの待ってるんでしょ?相席する?俺ら2人だけどテーブル空いてなくて6人用のテーブルになっちゃったから座れるよ」

「いいんすか?」

「うん」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん」


『黒い男』が近くにいた店員に声をかけ、そのまま奥にあるテーブルに向けて歩きだした。イアソンが立ち上がってついて歩きだしたので、カミロ達も続く。
『黒い男』が足を止めたテーブルには1人の土の民の若い男がいた。


「ジャファー。遅かったな。トイレ混んでた?」

「いや。知り合い?見つけたから。一緒でいい?混んでるし」

「俺はいいよ」


『黒い男』がカミロ達の方を振り返って、土の民の若い男を指差した。


「ディオ・パンツァー。俺の友達兼仕事仲間」

「どうも、初めまして。ディオ・パンツァーです。ジャファーと一緒にサンガレア公爵家の畑の管理してます」


ディオという男がにこやかに笑った。イアソン達も各々自己紹介したので、カミロも名前を告げた。とりあえず全員椅子に座ると、『黒い男』が小さく首を傾げた。


「俺も一応自己紹介した方がいい?」

「知り合いじゃないのか?ジャファー」

「会ったことあるのはイアソンさんだけ。それも確か小学生の頃」

「へぇー」

「ジャファー・サンガレア。先代サンガレア公爵と土の神子の息子。農業やってる」


『黒い男』改めジャファーが名乗ったタイミングで、店員が注文を聞きに来た。カミロは注文するメニューが結局決まっていなかったので、適当にイアソンと同じものを頼んだ。
イアソンが店員が置いていった水を飲みながら、ジャファーに話しかけた。


「アイーシャ様とスイーシャ様は元気ですか?」

「2人とも元気」

「アイーシャ様、何でうちの研究所に就職してくれなかったんですかねー。アイーシャ様の専門って魔導製品関係でしょ?王宮で働くより、うちの研究所の方がよっぽど自由に楽しく研究できるのに」

「好きな男が王都にいるからね」

「おや。そうなんすか?」

「うん。ナイル君とディー君の部下。国軍の小隊長」

「……ナイル、ディー。すんません。誰でしたっけ?」

「ターニャ兄様は分かる?」

「そりゃ勿論。一応マーサ様のお子様ぐらいは」

「ディー君はターニャ兄様の息子で、ナイル君はディー君の伴侶。ナイル君は中隊長やってる」

「へぇー。ぶっちゃけ、サンガレア公爵家ってご家族の人数多過ぎて覚えきれないんすよね。や、流石にマーサ様が産んだお子様達とうちの研究所に出入りしてる方々は覚えてるんすけど」

「まぁ、兄弟だけで18人いるし」

「改めて考えると、すげぇ人数っすね」

「まぁね。家系図すごいよ。会ったことない親戚も普通にいるし」

「へぇー」


カミロがぼんやり2人の会話を聞いていると、店員がパンケーキなるものと黒い液体が入ったカップを運んできた。
カミロの前に置かれた皿には丸くて薄いパンのようなものと白い生クリームなるものが大量にのっており、木苺という赤い果物や苺がいくつも盛られていた。黒い液体は珈琲と言う名前らしい。一口飲んだ珈琲はかなり苦い液体だった。生クリームというものは逆にかなり甘く、パンケーキなるものはほんのり甘かった。イアソンの真似をしてパンケーキと生クリーム、木苺を一緒に口に入れると、甘いが甘いだけじゃなくなって、少し酸味もあり、いい匂いが鼻に抜けて美味しいと思う。木苺の香りらしい。苦い珈琲も口の中が甘い状態で飲むと、口の中がスッキリする感じがする。
カミロが黙々と食べている間にも、イアソン達とジャファー達は食べながら普通に会話をしていた。
食べながら聞いていると、ジャファーとディオは王都国立高等学校の農学科を卒業しているのだとか。2人ともカミロと同じ歳らしい。そういえば、カミロが高等学校に在籍していた時には、サンガレア公爵家関係の者が何人も高等学校に在籍していると噂になっていた気がする。『友達』というものがおらず、噂話に疎いカミロの耳にさえ入ってくる程だった。土の神子マーサの血縁ということで、それだけ注目されていたのだろう。
ミーケはサンガレアの中央の街にある高等学校を卒業しているが、イアソンとアフラックはカミロ達と同じく王都国立高等学校の卒業生らしい。


「へぇー。アイーシャ様、万年2位だったんすね」

「そ。卒業試験の結果が出た後なんか、やけ食いって言ってデカいホールケーキ1人で食ってた」

「総合点1位はカミロだったんですか?」

「うん。試験終わる度に『次は1位とる』って毎回言っててさ。俺も名前と特徴だけは知ってたんだよね。『色なし』の天才、カミロ・リベロ。うちの魔術研究所に就職してるのは知らなかったけど」

「アイーシャ様、基本負けず嫌いですしね。負けっぱなしで卒業は悔しかったでしょうね。とはいえ、専門違うんすけどねー」

「まぁね」

「アイーシャ様、中学生くらいまでは結構うちの研究所に来てましたよね。イアソン先輩とかと遊びに。たまに見かけてましたし」

「そうそう。趣味で新しい魔導製品を所長達も一緒に作って遊んでたんだよ。高等学校の夏休み中もたまに来てたんだけどなー。王宮に就職してからは顔を見てないな」

「僕はアイーシャ様は少し遠目に1度だけ見たことがあるだけですね。真っ直ぐな黒髪の、ちょっと幼い感じの可愛らしい方でした」

「アーは童顔だから」

「ジャファー様もアイーシャ様もスイーシャ様も顔はあんまり似てませんよね。三つ子なのに。髪と瞳の色は一緒っすけど」

「よく言われる」

「3人とも美形ですけどね。系統が違いますよね。アイーシャさんは童顔の大人しそうな可愛い系で、スイーシャさんは大人っぽい、ちょっとキツめな美人系。ジャファーは男前」

「ディオ。アーが大人しいのは顔だけだし、スーがキツいのも顔だけだよ」

「まぁね。あの2人、面白いくらい顔と性格合ってないよな」

「それもよく言われる」

「ジャファーはすっげぇマイペースだし」

「よく言われる」

「はははっ」


なんだか和やかに会話が盛り上がって、全員がパンケーキを食べ終えたら、会計を済ませて一緒に店を出た。
店の前でジャファーとディオと別れて、街の入り口の馬車乗り場を目指して歩く。


「僕、まさかマーサ様のご子息とご一緒するなんて思ってませんでした」

「いや、ミーケ。シャール部長もマーサ様の息子じゃないか。義理だけど」

「まぁ、そうなんですけど」

「ジャファー様とスイーシャ様もアイーシャ様と一緒にマーサ様に連れられて、子供の頃は研究所にたまに来てたんだよな」

「イアソン先輩。スイーシャ様って、確か医学研究所で働いてるんでしたよね」

「そうそう。小児科が専門だった筈。多分」

「へぇー」


イアソン達の会話を聞きながら、カミロは別れたばかりのジャファーのことを頭に思い浮かべていた。なんだかよく分からない男だった。何故、カミロに話しかけてきたのだろうか。カミロを見るジャファーの瞳は黒くて、いまいち、そこにうつる感情が分からなかった。いや、そもそもカミロは人の感情を察するのがとても苦手なのだが。
カミロを嫌っている視線ではなかったと思う。多分。

カミロはよく分からない『黒い男』をとりあえず忘れることにした。カミロとジャファーが再び会うことはないだろう。相手はサンガレア公爵家の人間で、魔術師でもない。カミロとは接点がない。よく分からない者を覚えておく必要もない。
カミロは『黒い男』のことから、今日の夕食のことへと思考をシフトした。
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