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16:想いを伝えて

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 マルチェロは、今とても困っていた。全裸でベッドに寝転がり、じっとビオンダに見つめられている。手を動かしているビオンダの瞳は真剣そのもので、じわじわと身体が熱くなり始める。マルチェロは禁欲生活をずっと続けている。ビオンダに裸を見られるのは今更なのだが、ビオンダに見つめられると、どうしても身体が熱くなってしまう。気合でうっかり勃起しないように、なんとか堪えているが、ビオンダが満足するまで描き終えるまで、勃起しないでいる自信があまりない。

 マルチェロはビオンダのことが好きだ。ビオンダに依存している自覚もあるが、それ以上に、何気ない優しさをくれるビオンダのことを、月日を重ねる毎に、どんどん好きになっていく。汚い自分がキレイなビオンダに触れたらいけないと思っているが、ビオンダに触れたくて堪らなくなる時がある。ビオンダと深く繋がって、熱を分け合えたら、きっと今よりももっと幸せになれる。マルチェロは強欲だ。今でさえ、こんなにも幸せなのに、もっともっとと求めてしまう。

 ビオンダのじっと肌を舐めるような視線に、じわじわと堪え切れなくなってきた。ビオンダの、マルチェロを熱心に見つめる瞳を見ているだけで、本当に堪らなくなる。ビオンダに『好きだ』と伝えていない。伝えたいが、伝えられない。どうやって伝えたらいいのかが分からない。

 マルチェロはいよいよ我慢の限界がきて、ゆるく勃起し始めた自分のペニスを隠すように、ぱたんと俯せに寝返りをうった。


「疲れたか?」

「あー。うん。まぁ?」

「なぁ」

「なに」

「もしかして勃ってるのか?」

「…………」


 隠したつもりだったが、ゆるく勃起しているところを、しっかりビオンダに見られていたらしいい。マルチェロは恥ずかしくて、枕を引き寄せ、頭を隠すように、枕を自分の頭にのせて、枕を握り締めた。我慢の限界がきて、もう引っ込みがつかないくらいの勢いでペニスが勃起してしまっている。ずっと禁欲生活をしていたせいで、本当にめちゃくちゃ溜まっている。何より、あんなに真剣な眼差しでビオンダに見つめられたら、胸がドキドキして、身体がどうしても熱くなってしまう。マルチェロがなんとか勃起したペニスを萎えさせようと、喫茶店の店長の禿げ頭を思い出していると、ビオンダがベッドに上がってくる気配がした。服を脱ぐような、衣擦れの音がし始める。まさか、ビオンダも服を脱いでいるのだろうか。確認したいが、ビオンダの裸を見てしまったが最後、襲ってしまう自信しかない。汚い自分は、キレイなビオンダに触れてはいけない。そう思うのに、どうしても期待してしまう自分がいる。ビオンダに、触れられるのかもしれないと。

 マルチェロが必死でそんな期待を振り払おうとしていると、ビオンダの温かい手がマルチェロの素肌の肩に触れた。思わず、ビクッと身体が小さく震えてしまう。ビオンダが、マルチェロの頭にのせている枕を掴んで、無理やり枕を奪い取った。ビオンダに名前を呼ばれて、マルチェロはおずおすと少しだけ顔を横に向けて、すぐ側に全裸で座っているビオンダを見上げた。ビオンダは胡坐をかいていて、嫌でも薄い陰毛に包まれたまん筋までチラッと見えてしまう。益々ペニスが硬くなり、どっと先走りが溢れ出る感覚がした。
 ビオンダがマルチェロを見下ろして、ゆるく笑った。


「俺でいいなら、セックスするか?」

「……したくない」

「俺にはもう興奮しないか」

「めちゃくちゃするけど、しない」

「何故」

「……好きだから、したくない……」


 マルチェロはビオンダの顔を見られなくて、シーツに顔を埋めた。言ってしまった。ビオンダはマルチェロなんかに好かれても、きっと嬉しくない。マルチェロは汚い。ビオンダの優しさにつけこんで、それまでの生活を捨てさせて、こんな遠くに連れてきてしまった。この島での、ビオンダとの生活は本当に穏やかで、満ち足りたものだ。マルチェロにとっては幸せそのものだが、ビオンダにとっては、もしかしたら違うかもしれない。ビオンダの反応が怖くて、顔を上げられない。情けなくて弱い自分が嫌になる。なんだか感情が高ぶってきて、じわぁっと涙が込み上げてきたマルチェロの頭を、優しく髪を梳くように、ビオンダが撫でた。


「マルチェロ。好きだからセックスをするんじゃないのか」

「…………俺は、好きじゃなくても、セックスしてきた。俺、マジで汚ねぇ」

「アンタはキレイだろ。唯、懸命に生きてきただけだ。なぁ、マルチェロ」

「……なに」

「俺もアンタが好きだ。アンタと愛し合えたら、もっと幸せになれると思ってる。アンタは、『精霊の悪戯』なんていう中途半端な生き物の俺を、すごく大事にしてくれている。俺も、アンタのことが、本当に大事なんだ。なぁ。俺達、愛し合えないか?」


 マルチェロはおずおずとシーツから顔を上げ、ビオンダを見上げた。ビオンダはとても穏やかで優しい顔をしていた。マルチェロはずずっと鼻を小さく啜って、もぞもぞと身動ぎして、胡坐をかいて座るビオンダの腹に顔を埋めるようにして抱きついた。ビオンダの素肌の温もりに、胸の奥が熱くなっていく。嬉しくて、嬉しくて、本当に夢みたいだ。ビオンダは今にも泣きそうな顔を見れらないように、ビオンダの腹に顔を押しつけて、口を開いた。


「アンタと、死ぬまで一緒にいたい。皺くちゃの爺になっても、ずっと一緒に笑っていたい。……アンタと愛し合いたい」

「俺なんかで本当にいいのか?」

「そういうアンタこそ、俺みたいなのでいいのかよ」

「アンタはキレイだ。見た目じゃなくて、懸命に生き生きと生きる姿が美しい」

「キレイなのはアンタの方だろ。俺なんかよりずっとキレイだ」

「マルチェロ。このまま一緒に生きよう。アンタがいないと、もう駄目になっちまってる。アンタが面倒みてくれないと、俺は間違いなく早死にするぞ」

「俺がアンタをとことん長生きさせてやる。生活能力無し人間」

「マルチェロ。キスしてくれよ」

「……今、絶対不細工な顔してるから、ちょっと待ってくれ」

「泣いていてもアンタはキレイだぞ」

「俺のちんけなプライドの問題だ」

「そんなもんか」

「ん」


 マルチェロはビオンダに優しく頭を撫でられながら、次から次へと溢れてくる涙をビオンダの腹に擦りつけた。泣き顔なんて、ビオンダに見せたくない。好きな相手には、少しでも格好いいところをみせたいではないか。現在進行形で情けない姿を晒しているのだが。

 マルチェロは自然と涙が止まるまで、ビオンダに優しく頭を撫でられながら、ずっとビオンダの腹に顔を埋めていた。


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