厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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21:まさかの弊害

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 アキムは、討伐依頼の仕事に出かけるゴンドロフをギルドの受付で見送ると、小さく息を吐いた。

 一昨日の夜、男に戻ったゴンドロフと二度目のセックスをしてしまった。アキムが根負けした形である。確かにかなり気持ちよかったのだが、それ故に、なんかぁぁぁぁ……! って心境である。
 おっさんは完全に守備範囲外だ。ゴンドロフにペニスを舐められたら勃起しちゃった自分が悔しくて、アキムは思い出してギリギリと歯ぎしりをした。

 アキムは頭を切り替えて仕事をしながら、適当な街の女と遊ぼうと決めた。ゴンドロフは一か月程帰ってこない。それならば、遊びまくるしかない。
 アキムは早速今夜にでも遊び相手の人妻に会いに行こうと決めると、愛想笑いを浮かべて、サクサク仕事をこなした。

 一日の仕事が終わると、アキムはうきうきと遊び相手の家へと向かった。今から行く遊び相手は、旦那が夜に花街で働いているので、恐らく今夜も遊んでくれるだろう。

 アキムは遊び相手の家に着くと、玄関の呼び鈴を押した。すぐに遊び相手の女が顔を出し、ちょっと驚いた顔をした後、困ったような顔をした。


「今夜遊べる?」

「ごめん。無理よ」

「あ、旦那さんいるんだ」

「違うわ。『赤腕のゴンドロフ』の男になったんでしょ。A級冒険者の男に手を出すとか怖すぎて無理よ」

「は?」

「街で噂になってるわ。そういうことだから、多分貴方と遊ぶような豪胆な子なんていないんじゃないかしら」

「いやいやいや。待って待って。俺、ゴンちゃんの男じゃないからね!?」

「だって、女の身体になった『赤腕のゴンドロフ』を男に戻して、今も一緒に暮らしてるんでしょ? 無理よー。怖すぎー。『真性の猛者』って呼ばれてるって聞いたわよ。ほんと無理」

「え、えぇぇ……」

「そういうことだから。今後は貴方と遊べないわ。じゃあね。楽しかったわ」

「え、あ、ちょっ!」


 無情にも、玄関のドアがぱたんと閉じた。
 アキムはがっくりしながら、別の遊び相手の元へと向かった。そうしたら、同じようなことを言われた。諦めずに、三人目の元に行っても駄目で、四人目、五人目も駄目だった。
 こうなったらナンパしようと、一夜の相手を探すバーに行ってみたが、全滅した。女達は口を揃えたかのように『A級冒険者の男に手を出すのは無理』と言っていた。

 この街のギルドにはᏚ級冒険者はいないし、そもそもᏚ級冒険者なんて伝説的存在だ。A級冒険者もゴンドロフ達しかいない。この街では、唯一のA級冒険者であるゴンドロフ達は特別な存在でもある。

 アキムは家に帰ると、玄関で蹲って頭を抱えた。まさかの弊害に頭が痛くなる。
 アキムがゴンドロフの男になったと街に噂が広がっているのなら、本当に余程豪胆で猛者な女じゃないと遊んでくれないかもしれない。これは非常に由々しき問題である。

 アキムはのろのろと立ち上がり、しょんぼりと肩を落として、とりあえず風呂場へ向かった。
 1人だと広めな浴槽のお湯に浸かりながら、これからどうしようかと考える。

 アキムは女が大好きだ。男のゴンドロフとも2回セックスしちゃったが、あれは接触事故である。ゴンドロフとの同居を解消する気はない。たまにヤバい感じの女に付き纏われたり、遊び相手の女の旦那に押しかけられたりするので、番犬としていて欲しい。
 それに、妹が嫁いでからずっと1人だったので、ゴンドロフがいる生活は寂しくないし、なんだかんだで楽しい。変に気を使うこともないし、下らないことでゲラゲラ笑い合うのもなんかいい。

 アキムは、ゴンドロフと同居しながら、どうやって遊び相手を見つけようか考え始めた。
 街の女が駄目なら、旅をしてきた冒険者の女はどうだろうか。割と少ないが、女の冒険者もいる。女の冒険者ならば、一夜限りの遊びをしてくれるんじゃないだろうか。

 アキムは女の冒険者と遊ぶと決めると、お湯から出て、身体を拭いてパンツを穿いた。
 そういえば、まだ夕食を食べていない。思い出したら急速に腹が減ってくる。

 アキムは台所で簡単な料理を手早く作ると、居間のテーブルでもそもそと食べ始めた。
 なんだか静かである。ちゃんと美味しくできているのに、何故か物足りない。
 全身で『美味しい!』とガツガツ食べてくれるゴンドロフがいないからだろうか。
 アキムはむぅと唇を尖らせた。

 ゴンドロフと暮らした期間は短い。それなのに、ゴンドロフがアキムの生活に早くも溶け込んでしまっている気がする。
 ゴンドロフが意外と気さくで、何を作っても美味しそうに食べてくれて、なんでも挑戦してみようとするからだろうか。家事はともかく、男同士のセックスまで挑戦しなくてよかった気はするが。

 女と遊べないとなると、どんどん溜まっていくし、ゴンドロフが帰ってくるのは約一か月後だ。その間、1人で家で過ごすのもなんかちょっと嫌である。

 アキムは大きな溜め息を吐いた。いっそ妹の家に行くか。姪っ子が生まれたばかりだから、人手があった方が助かるだろう。義両親とは同居しておらず、役所勤めの旦那と子供の三人暮らしだ。
 初めての子育てで大変な思いをしている妹の手助けをしていれば、寂しくもないし、街に広がった噂もそのうち消えていくだろう。

 アキムは明日から妹の家に行こうと決めると、早速泊まり込みの準備を始めた。居間のソファーを借りて寝たらいいので、着替えや髭剃りなど身の回りのものだけを鞄に詰めていく。
 アキムは準備が終わると、なんだかやたら広く感じるベッドで、不貞寝するように寝落ちた。

 翌日の夕方。仕事が終わると、アキムは真っ直ぐに妹の家へと向かった。
 妹の家の玄関の呼び鈴を押すと、姪っ子のリリンを抱っこした妹アイナが顔を出した。


「よっ! 元気か?」

「あら。お兄ちゃん。どうしたの?」

「暫くの間、色々手伝おうかと思って」

「それは助かるけど……まぁ入って。ものすごく散らかってるけど」

「お邪魔しまーす」


 家の中に入れば、中々に散らかっていた。多分、掃除をする余裕がないのだろう。


「マリット君は?」

「今日は職場の飲み会ですって。お世話になった人の送別会」

「ふぅん。晩飯食った?」

「まだよー。さっきまでおっぱい飲ませてたの」

「んじゃ、作るわ。リリン寝かせてこいよ」

「ありがとーー! お兄ちゃんのご飯久しぶりー」

「食いたいものは?」

「鶏肉のトマト煮込み! 材料はあるわ」

「じゃあ、作るからリリン寝かせてちょっと休憩しとけよ」

「うん。ありがとう」


 アキムは台所へ向かった。台所も中々に荒れている。アイナはきれい好きだが、本当に余裕がないのだろう。アイナ自身も疲れた顔をしていたし、逆によかったかもしれない。
 鶏肉のトマト煮込みはアイナの好物だ。そういえばゴンドロフも気に入っていた。ゴンドロフが帰ってきたら、また作ってやろう。
 アキムは手早く夕食を作り上げると、居間を簡単に片付けてから、テーブルに夕食を運んだ。

 疲れた顔をしたアイナが来て、テーブルの上を見て歓声を上げた。


「お兄ちゃんのご飯だー。嬉しいー。早く食べましょうよ」

「うん。アイナ、かなり疲れた顔してるぞ。ちゃんと食べたり寝たりできてる?」

「全然。昼間だろうが夜中だろうがリリンが泣くからまとまった睡眠なんてずっととれてないし、ご飯もマリットさんのを用意するので精一杯よ。お義母さんもたまに手伝いに来てくれるけど、正直、小言が多くて逆にストレス」

「ありゃま。一か月くらい泊まるわ。家のことは俺がするから、アイナは休める時はちゃんと休めよ」

「いいの!? あ、でも。『赤腕のゴンドロフ』の男になったんじゃないの? 『真性の猛者』って二つ名ついたって聞いたけど」

「アイナまでそれ知ってんの!?」

「買い物に行ったら色んな人から色々聞かれたもの」

「うげぇー」

「まぁ、相手は男でも、落ち着いてくれたら私的にはいっかなー? って感じ?」

「違うから。思わぬ弊害がでちゃってるだけだから」

「そうなの?」

「んんっ。とりあえず、ゴンちゃんは一か月は帰らないから、アイナとリリンの世話するわ。アイナもさー、しんどいなら早めに言えよな」

「だって、私母親になったんだし」

「生みましたー。はい母親ですー。完璧なお母さんやりますー。って無理だろ」

「むぅ。それはそうだけど」

「手伝えることはなんでもやるから、遠慮するなよ」

「はぁい。ありがとう。お兄ちゃん。はぁー。なんか久しぶりにまともなご飯食べた気がするー。おーいしーい。マリットさん、料理できないし。お風呂入れとかおむつ替えたりはしてくれるけど」

「優しいけど、ぶきっちょっぽいもんな」

「そうなのよー。リリン、夜泣きも多いから今は寝室分けてるし」

「ありゃー。夜泣きの対応もさせたら?」

「お仕事してるんだから、それは駄目。私は今は専業主婦だし、私がやらなきゃ」

「倒れる前にちゃんと助けを求めろよ? まぁ、一か月は居座ってやるけど」

「ありがとーー。甘えちゃうわ。あ、リリンが泣いてる。おむつかしら」

「後片付けはしとくから、おむつ替えてこいよ。次のおむつの時に、おむつの替え方教えといて」

「分かったわ。ほんっと! 助かるー!」


 アイナが疲れた顔で嬉しそうに笑った。
 こんなに疲れた顔をしているのなら、もっと早くに様子を見にくればよかった。
 アキムはゴンドロフが帰ってくるまで、とことんアイナとリリンの世話をしまくろうと決めた。

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