厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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28:すっかり秋

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 ゴンドロフが子守の手伝いをするようになって一か月が過ぎた。季節はすっかり秋本番になっており、もうすぐ秋の豊穣祭がある。

 出勤するアキムを見送り、洗濯物を干してから肩掛け鞄を持って家を出る。通い慣れた道を歩いてアイナの家に行くと、家の外にまでリリンの泣き声が聞こえてきた。どうやら今日はご機嫌斜めなようである。

 玄関の呼び鈴を押すと、元気いっぱいに泣いているリリンを抱っこしたアイナが出てきた。


「おはよう。ゴンちゃん」

「おぅ。おはよう。リリンはご機嫌斜めか?」

「そうなのよー。起きた時からずっと泣いてるのよー」

「飯は食ったか? リリン抱っこしとくから、まだなら先に食っとけよ。んで、寝ろ」

「ありがとーー! リリーン。ゴンちゃんよー」

「おー。リリン。おはよう。今日も元気だな。ぽかぽかしてねぇから、単に泣きたい気分なだけだな。おっぱいとおむつはやったんだろ?」

「うん。マジかー。泣きたい気分かー」

「そういう時もある。ほれ。リリン。ぬいぐるみで遊ぶぞ」


 ゴンドロフは元気いっぱい泣きまくっているリリンを抱っこして、リリンがお気に入りのぬいぐるみを片手に、ゆっくりと居間を歩き始めた。赤ん坊はおっぱいで泣き、おむつで泣き、眠くて泣き、あとなんか知らんけど泣くものだ。

 アイナが朝食を食べている間にリリンをあやしていると、そのうち泣き疲れて眠くなってきたのか、リリンの身体がぽかぽか温かくなってきた。これは寝るなーと思いながら、居間をぐるぐる歩いて、リリンが寝落ちたら、そっと赤ん坊用のベッドに寝かせた。
 次に泣くのは多分おっぱいかおむつの時だろう。

 ゴンドロフが朝食を食べているアイナの向かい側に座ると、アイナが紅茶を淹れてくれた。礼を言って飲んでいると、朝からがっつり食べているアイナが口を開いた。


「ゴンちゃん。秋の豊穣祭はどうするの?」

「あー? なんも考えてねぇな」

「いつもはどうしてたの?」

「娼館に泊まってはっちゃけてた」

「ふぅん。私がマリットさんと恋人になるまでは、いつもお兄ちゃんと秋の豊穣祭に行ってたのよ。お兄ちゃんと行けば? 秋の豊穣祭でしか食べられない屋台のご飯も割と多いわよ」

「野郎2人で祭りに行くのか。微妙」

「ひたすら食い倒れてお酒飲んだらいいじゃない。もう街中に、お兄ちゃんがゴンちゃんの男だって噂広まってるし、生ぬるい目で見られるだけじゃないかな?」

「それはそれでどうなんだ。まぁ、気が向いたら行くかね」

「私は今年もお留守番かなぁ。まだリリンを連れて人混みに行くのはちょっとね」

「あー。どっから湧いてくんだよってくらい人が多いしな」

「そー。楽しいんだけどー。特に中央広場は人が多すぎてちょっとねー」

「食いたいもんがあれば買ってくるぞ」

「いいの!? 私の好きなものはお兄ちゃんが知ってるからよろしく!! って、私ちょっとゴンちゃんに甘えすぎじゃないかしら?」

「あー? 別に大した手間でもねぇし。細けぇことはいいんじゃね? まぁ気にするな。リリンの世話もいい暇潰しになってっし。リリン可愛いしな」

「いつもほんっとありがとーー! ゴンちゃんが手伝いに来てくれるお陰で、かなり心に余裕ができてきたわー。なんなら、いっそのことお兄ちゃんと結婚しない? 男同士でも結婚できたわよね? 確か」

「ねーな」

「ないのかぁ。まぁ、考えといてよ。ゴンちゃんなら大歓迎だから! 遊びまくってたお兄ちゃんが落ち着いただけでも感謝だしー。お兄ちゃんが遊びまくってたせいで、私も色々あったのよ……」

「あー。アキムに泣かされた女に絡まれたりとか?」

「そうそう。それに私も美人でしょ? お兄ちゃんと一緒で私も遊んでるって噂流れててー。変なのに絡まれたりとか日常茶飯事だったわねー。婚期逃すかと思ってたわよ。ギリギリ結婚できたけど。お義母さんが私に当たりが強いのも、その噂があるからかも? こちとら! 結婚するまで! 処女だったわー!」

「お、おう。なんか大変だったな」

「マリットさんが一人息子ってのもあるのかもだけどー。お義母さんが子離れできてない上に、マリットさんもお義母さんには弱いしっ! 結婚したんだから嫁の私をもっと守れーー! と言いたい私なのよ」

「結婚も色々大変だなぁ」

「いやー。こんな愚痴、お兄ちゃんには聞かせられないから、ゴンちゃん聞いてくれて助かるー。ごめんねー。いつも愚痴まで聞いてもらってー」

「構わん構わん。愚痴ってスッキリする方がいいだろ。溜め込むだけだと、いつか派手に爆発すんぞ」

「ありがとー。よし。愚痴ってスッキリしたから、楽しいことをしよーっと。てことで、リリンが寝てる間に、一緒に林檎のケーキ作らない? 気分転換に甘いもの食べたいの。お兄ちゃんにも持って帰ってよ」

「おー。いいぞー。ちゃちゃっと洗濯物を終わらせるか」

「うん。あとは干すだけだから。首がすわって一か月くらい経ってしっかりしてきたからねー。おんぶ紐使えるようになって楽だわーゴンちゃんサイズのおんぶ紐作る?」

「俺がおんぶしてたら絵面が愉快じゃねぇか? つーか、正面からじゃ見えねぇだろ。リリン」

「それは確かにー。ごっつい身体つきだもんねー。おっぱいデカくて羨ましい」

「胸筋な」

「そんだけデカけりゃおっぱいでよくない? 人生で一番おっぱいが大きい今の私よりデカいんだけど。羨ましい」

「掌すっぽりサイズこそ至高だぞ」

「マジかー」

「それに無駄におっぱいがデカいと肩凝りやべぇぞ。ぶるんぶるん揺れると地味にいてぇし。あと割と視線を感じるしな。なんかきめぇぞ」

「それはちょっと……? ささやかサイズがちょうどいいのかしら……」

「そうそう。どれ。食い終わったなら動くか」

「はぁい」


 ゴンドロフは立ち上がり、アイナと手分けして洗濯物を干してから、台所へ向かった。
 朝食の後片付けをしてから、アイナに言われるがままに林檎の皮を剝いて切り、小麦粉などを計量して混ぜているものに林檎を入れ、ケーキ型なるものにケーキ生地を入れて魔導オーブンで焼き始める。

 焼き始めたタイミングでリリンが泣き出した。ゴンドロフが手早くおむつを替え、アイナが奥の部屋へおっぱいをあげに行った。
 ゴンドロフは魔導オーブンの前にしゃがみ、徐々に膨れていくケーキを眺め始めた。じわじわと膨らみ、ふわふわと甘い匂いが漂ってくるのが地味に楽しい。

 アイナに分量を教えてもらえば、自分でも作れそうな気がする程簡単だった気がする。
 おっぱいを飲んでご機嫌なリリンを抱っこしたまま、アイナが台所に戻ってきた。


「いい匂いー。いい感じに焼けてきてるわね」

「熱々を食うのか?」

「んー。ちょっと冷ました方が味が落ち着くかなぁ。午後のお茶の時間がちょうどいいかも」

「味見してぇなぁ」

「あははー。午後のお茶の時間まで我慢我慢ー。あ、リリンがぽかぽかしてきた」

「おっ。寝るか?」

「寝そうかも。あー、泣いたー。さぁ! 楽しい寝ぐずりの時間だよ!」

「ははっ! 俺が寝かせとくわ。アイナは休まなくても大丈夫か?」

「うん。今日は調子いいから、お昼ご飯を作るわ。がっつり肉が食べたいのよねー。鶏肉のトマト煮込みはお兄ちゃんに今度作ってもらうからー。んー。豚肉多めの野菜炒めにしようかなー」

「ベーコンがあれば、ゴロゴロスープがいい」

「いいわよー。あるから作るわ」

「よーし。リリン。こいこーい」

「はぁい。よろしくー。ゴンちゃん」


 ゴンドロフは寝ぐずりで泣きまくっているリリンを抱っこして、居間をぐるぐる歩きながら、優しくゆらゆらとリリンを揺らした。
 そのうちリリンが泣き止み始め、すやぁと寝落ちた。

 ゴンドロフはリリンの可愛い寝顔に小さく笑うと、アイナの手伝いをしに台所へと向かった。

 午後のお茶の時に食べた林檎のケーキはかなり美味く、ゴンドロフはアイナに聞いた作り方や分量を、いつも持参している料理本の隅っこにメモした。
 持って帰った林檎のケーキはアキムにも好評で、甘いものを自作するのも割と楽しいかもしれないと思った。我ながら主夫レベルが上がりつつあるなと自画自賛しながら、ゴンドロフはご機嫌に、今日もなんとなくアキムと一緒に寝た。

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