厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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34:隣町へ

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 早朝。ゴンドロフは着替えなどを入れた鞄を片手に、アキムと一緒にアイナの家に向かった。
 マリットは休みが取れなかったらしく、アイナとリリンだけを連れての旅行になる。
 アイナ達と合流すると、馬車組合に向かい、赤ん坊連れ用の馬車に乗って、街を出る。

 街から出ると、外は草原が広がっている。窓の外を見たアキムとアイナが歓声を上げた。


「わー。街の外ってこんな感じなんすねー」

「すごーい。建物がないわ。ていうか、馬車に乗ったのも初めてなんだけど、全然揺れないのね」

「これは赤ん坊が乗っても大丈夫な特殊な馬車だからな。揺れないように車輪に魔法がかかってんだよ。乗り合い馬車だと普通に揺れるし、長時間乗ってるとケツと腰が痛くなるぞ」

「「へぇー」」

「おっ。リリンも外見るか? ほれ」

「あーう!」

「あ、喜んでる」

「喜んでるわね。景色がどんどん流れていくのってすごく新鮮だわ! たーのしーい」

「分かるー。窓の外見てるだけで楽しいー」

「そんなもんか。もう半分過ぎてるぞ」

「はっや!」

「早いわねぇ。こんなに早いものなんだ」

「時間帯的に他に馬車が走ってねぇしな。それなりに速度出せるから、午前のお茶の時間には着くなこりゃ。町に着いたら宿を取って、とりあえず喫茶店にでも行くか?」

「うぃーっす! 葡萄の収穫したいっす! 葡萄もちょー好きー」

「私も葡萄好きー。あっ! ねぇねぇ、ゴンちゃん。あれってもしかして羊?」

「おっ。羊が見えてきたな」

「どこどこ? おー! いるっ! なんかもふもふしてる!」

「わー! なんか可愛いー! 近くで見てみたいわねー。もふもふしたい」

「あー。あーう」

「あら。リリンも羊が気になるの? ふふっ。可愛いものねー」

「羊のぬいぐるみとかあったら欲しいなー。リリンが乗れるサイズのやつとかねぇかな」

「やだー! それ絶対にちょー可愛いー。あるといいわね!」

「ははっ! おっ。町が見えてきたな」

「おぉ! ほんとにあっという間に着いちゃったっすね」

「あ、リリンが頑張ってる」

「おっ。頑張ってるな。おむつ替え終わる頃には着くな」

「あ、出たわね。よし。おむつ替えるわ。お兄ちゃん、鞄の中からおむつ取ってー」

「いいぞー。んー。はい。おむつとおしり拭き。臭わない箱も」

「ありがとー。リリン。キレイにするわよー」


 アイナがリリンのおむつを替え終えたタイミングで、町の入り口に到着した。
 馬車から降りて、町の入り口近くにいた中年の男に、赤ん坊連れでも大丈夫な宿屋の位置を聞くと、宿屋へと向かって歩き出す。
 宿屋に到着して部屋があるか聞けば、部屋も赤ん坊用のベッドもあるとのことだったので、部屋を取って、二階の部屋へと移動した。

 一部屋に大きめのベッドが二つある。赤ん坊用のベッドを持ってきてもらった。ゴンドロフはアキムと寝ればいいので、この部屋で問題ない。アイナの着替えの時だけ、ゴンドロフは外に出ていればいいだろう。

 荷物を置き、リリン用の鞄だけを持って部屋を出て、宿の者にオススメの喫茶店と飲食店、葡萄の収穫体験の場所を聞いてから、宿屋を出た。

 オススメの喫茶店に入り、メニュー表を見ると、葡萄のケーキや軽食もあった。朝が早かったのでかなり空腹である。とはいえ、昼食にがっつりこの町の名物料理を食べたいので、葡萄のケーキと紅茶だけを頼んだ。
 運ばれてきた葡萄のケーキは、爽やかな酸味のあるチーズケーキの上に艶々した葡萄が沢山のっているもので、初めて食べるものだが、かなり美味い。
 アキムとアイナも気に入ったみたいで、『明日も絶対に来よう』と喋っていた。

 喫茶店を出たら、オススメ飲食店を探しがてら町の散策をする。牧歌的な町並みは、デカい街生まれの兄妹には新鮮らしく、とても楽しそうにしている。
 ゴンドロフはご機嫌なリリンを抱っこして、わいわいお喋りしながら周囲を見回している兄妹に、なんだかほっこりした。

 昼食にはちょっと早いが、目当ての飲食店を見つけたので入ってみる。メニュー表を見て、羊肉料理を中心に何種類も料理を注文した。リリンには葡萄を頼んだ。ダメ元で店員に頼んでみれば、皮を剝いてすり潰してくれると笑顔で言ってくれた。店の奥の部屋でおっぱいをあげてもいいと言ってもらえたのがありがたい。

 葡萄の生産が盛んだから、ワインや葡萄の蒸留酒の生産もしている。アキムはワイン、ゴンドロフは蒸留酒も注文した。アイナはそもそも酒を飲まないらしいので葡萄ジュースを注文していた。
 然程待たずに料理と飲み物が運ばれてきた。それぞれの飲み物で乾杯をしてから、早速食べ始める。

 羊肉の炙り焼き、羊肉の香草焼き、ステーキにもつ煮込み、干し葡萄入りのパンと羊肉入りのスープ、デザートは葡萄だ。どれも美味い。わいわい喋りながら食べ、アキムとアイナが食べ切れない分はゴンドロフが食べた。
 リリンが葡萄のジュースを気に入ったようで、ちょっと興奮気味である。これは夜は興奮して寝ないかもなぁと思いつつ、ゴンドロフは賑やかで美味い昼食を楽しんだ。

 腹ごなしがてら町の外れにある葡萄農園に歩いていき、農園の入り口あたりにいた老爺に声をかけた。葡萄の収穫体験をさせてもらえることになったので、リリンはゴンドロフが抱っこして、やる気満々なアキムが籠を背負い、アイナが収穫用の鋏を持った。

 人の良さそうな老爺が葡萄の収穫の仕方を教えてくれたので、アイナが先に葡萄を収穫した。楽しそうに笑いながら、美味しそうな葡萄を収穫している。アイナと交代して、アキムも葡萄の収穫をした。2人とも果物が好きだし、初めてのことだからか、すごく楽しそうだ。
 気が済むまで葡萄の収穫を楽しむと、今夜、宿屋の部屋で食べる葡萄を買ってから、葡萄農園を後にした。


「はぁー。すっごい楽しかったー! 自分で収穫した葡萄を買って食べられるって素敵ね!」

「なー。いやー。ほんとめちゃくちゃ新鮮で楽しかったー」

「よかったな。晩飯は爺さんが美味いっつってた店で食うか」

「うん! 羊のお肉って初めて食べたけど、私好きだわ! すっごく美味しい!」

「俺も好きー。あ、雑貨屋。ぬいぐるみがないか、見てみない?」

「いいぞー」


 雑貨屋に入ると、羊毛を使ったちょっとした絨毯や町にあるという硝子工房で作られた硝子製品が色々売っていた。
 羊のぬいぐるみもあり、リリンが持てる小さなものと、リリンが乗れそうな大きなものを買った。
 羊毛でできた可愛らしい模様が入った毛布もあったので、アイナが嬉々として買っていた。

 一度宿屋に戻り、増えた荷物を置いて、リリンのおむつを替えてから、今度は夕食を食べに行く。
 葡萄農園の老爺オススメの店は、酒の種類も多く、料理も中々に美味かった。
 特に羊肉のステーキが絶品で、アキムとアイナが上機嫌に食べていた。


「旅行っていいわねー。すっごく楽しいー」

「なー。明日は昼飯までいるんすよね。草原行きましょー。草原。羊を近くで見たいっす! あわよくばもふもふしたいっす!」

「私ももふもふしたいわ!」

「おー。羊飼いがいるだろうから、頼んでみるか。じゃあ、明日は宿の一階の食堂で朝飯食ったら草原な」

「やったー」

「うぇーい。ちょー楽しみー」

「この酒うめぇなぁ。宿で飲むように買っとくか」

「俺もこのワイン、宿でも飲みてぇっす。草原から帰ったら、土産買わなきゃ。自分用にワイン買おっかなー」

「マリットさんもワイン好きだから、私も買っておかなきゃ」

「俺も蒸留酒を買うか。葡萄も新鮮なやつしか売ってねぇから、買って帰ればいいんじゃね? 帰りの道中のおやつ」

「「最高!」」


 アキムとアイナが弾けるような笑顔を浮かべた。
 ここまで喜んでもらえると、なんかちょっと嬉しい気がする。
 ゴンドロフは夕食を楽しむと、薄暗い道をリリンを抱っこして歩き、2人と一緒に宿屋へと戻った。

 リリンが興奮して夜泣きが愉快なことになったのはご愛嬌である。

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