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問題児双子と暮らす日々

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思えば、苦労の多い人生だった。
ヘロニモは、田舎の小さな村の農家の家に、三男として生まれた。ヘロニモが生まれた数年後に隣国との戦争が始まり、父は兵隊として出征し、すぐに戦死した。ヘロニモは幼い頃から小さな弟をおんぶして、農作業の手伝いをしていた。いつでも腹を空かせていた記憶しかない。
ヘロニモが14歳の時、2つ上の兄に兵役命令の手紙がきた。兄は身体も気も弱く、母が『兵役の訓練にも堪えられない。すぐに死んでしまう』とあまりにも泣くので、ヘロニモが歳を誤魔化して、兵役についた。
兵隊となったヘロニモは、訓練後、最前線の戦場に送られた。ただ死にたくない一心で、がむしゃらに敵兵を殺して生きた。初めて人を殺した時は、手が震えて、思わず吐いてしまったが、すぐに慣れた。殺さなければ、ヘロニモが殺されるだけだ。ヘロニモは戦争が自国の勝利で終結するまでの10年間、何度も死にそうな目に合いながらも、なんとか生き抜いた。

戦争が終わると同時に兵役が終わり、ヘロニモは故郷の村へと帰った。
家に帰れば、ヘロニモは死んだことになっていた。おそらく誤報だったのだろう。葬式をして、ヘロニモの墓まであった。出兵前、『帰ってきたら結婚しよう』と幼い約束をし、涙ながらに別れた幼馴染の少女は、立派な大人の女になり、ヘロニモの兄と結婚して、三児の母になっていた。幼かった弟達も大きく成長して、家業に精を出していた。
ヘロニモが死んだと思って葬式までした家族達は困惑していたが、ヘロニモも困惑した。暫く実家にいて、農作業の手伝い等をしていたが、なんとなく居心地が悪く、ヘロニモは退役時に渡された僅かな金を持って、実家を出ることにした。

家族の笑顔を守れたのは嬉しい。だが、もうヘロニモは家族の中にいないことになっていて、なんだか虚しさを感じる。兄の代わりに兵隊になって、死ぬような思いを散々したのに、その兄は、ヘロニモと結婚の約束をした女と結婚して、子供までいる。なんだかやり切れない思いがヘロニモの中に燻り、いっそ家を出て、二度と帰らないでいようと思った。
ヘロニモは1人家を出て、一番近くの大きな街に向かった。

ヘロニモは学がない。辛うじて最低限の読み書き計算はできるが、それだけだ。身体を動かす仕事くらいしかできないので、暫くは日雇いの人足として働いていたが、ある日、街の警邏隊の募集のチラシを見つけた。このまま日雇いの人足を続けるよりも、安定した仕事に就きたい。ヘロニモは警邏隊の入隊試験を受け、なんとか合格した。

それから10年。ヘロニモは35歳になるが、未だに結婚もできず、仕事ばかりをしている。大きな街故に、警邏隊の仕事は多い。迷子探しから犯罪者の確保まで、仕事の幅は広い。更に、ヘロニモが入隊した頃は、兵隊崩れの破落戸が多かったので、治安が悪かった。警邏隊に入ってからも、何度も危険な目にあったし、一度は本気で死にかけた。悪運が強かったのか、なんとか死なずにすんだが、ヘロニモは左手に少し後遺症が残った。日常生活にも仕事にも、そこまで支障がない程度のものだから、自分は運がいいと思うしかなかった。

ヘロニモは無駄に真面目で、手を抜くということを知らなかったからか、厄介な仕事を押しつけられることが多かった。それを律儀にこなしていたら、気づいたら少し出世して、班長という立場になっていた。部下は皆、他の班で問題児と認定されていた者ばかりである。ヘロニモは毎日胃が痛い思いをしながら、働いている。

昨年、ヘロニモは小さくてボロい中古の一軒家を買った。男でも25歳くらいまでには結婚するのが一般的だから、ヘロニモはとっくに婚期を逃している。結婚しようと思っていた恋人がいたこともあるのだが、友達だと思っていた男に寝取られた。
おっさんと呼ばれる歳になり、もうこの先、女と縁があるとも思えないし、終の棲家にするつもりで、思い切って家を買った。警邏隊を引退したら犬を飼いたくて、狭いが庭がある家にした。家自体は平屋で部屋数も少なく、雨漏りする程ボロいが、休みの度にチマチマ補修作業をして、なんとか暮らせるようにした。街の中心部からは少し離れているが、静かで逆にいい。
ヘロニモはこれから先も1人で生きて、誰に看取られるでもなく、1人で死ぬのだろう。寂しい気もするが、もう諦めている。仕事ができるうちは、仕事に励んだらいい。問題児共の相手は大変だが、同時に大事な部下達である。

ヘロニモは、今日も1人の家で適当に作った朝食を食べてから、仕事へと出かけた。




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ヘロニモは上司の部屋から出ると、大きな疲れた溜め息を吐いた。
気が短くて喧嘩っ早い部下が、職務中に乱闘騒ぎを起こし、その叱責を受けていた。ギリギリと痛む胃の辺りを片手で擦りながら、ヘロニモは班の部屋へと向かった。
一昨日は、過ぎた女好きの部下が職務中にナンパを繰り返したことで叱責され、その前は、拷問大好きな双子の兄弟が捕まえた犯罪者を玩具にして遊び(=拷問)、叱責され、更にその前は、血の気が多すぎる部下が捕まえた犯罪者を八割殺しにして叱責された。
ヘロニモは殆ど毎日のように、部下のやらかしたことで上司からキツく叱責されている。そろそろ本気で胃に穴でも開きそうな気がする。

班の部屋に入ると、部下達は全員いた。今回、ヘロニモが叱責される原因となった部下には始末書を書くよう指示し、勤務時間中なのにカードゲームで賭けをして遊んでいる奴らには、拳骨をしてから、巡回へ行かせた。毎日毎日、こんな感じである。胃が痛いし、班長になってから一気に白髪が増えた。ヘロニモは黒髪だから、白髪が目立つ。常に疲れた顔をしているし、顔に戦場で受けた傷痕が残っていることもあって、実年齢よりも老けて見えると、よく言われる。
昔は男前だと言われていたが、今はもう草臥れたおっさんである。
ヘロニモは、始末書を書くのをバックレようとする部下に拳骨を落とし、部下を見張りながら、面倒くさい書類仕事を始めた。

勤務時間が終わると、ヘロニモはすぐに帰り支度をして、さっさと警邏隊の詰所を出た。余程忙しい時以外は、残業なんてしたくない。それに明日は休みだ。尚更早く家に帰りたい。家に帰っても誰もヘロニモを待っていないが、職場にダラダラ残っていると、仕事を押しつけられたりするのだ。
ヘロニモは途中の店で買い物をしてから、愛すべき小さな我が家へと帰った。

独り暮らしが10年も続けば、自炊くらいできるようになる。今の家を買う前は、警邏隊の官舎に住んでいたのだが、結婚資金を貯めるつもりで節約した生活をしていた。友達と思っていた男と恋人の裏切りがあって、結婚はもう完全に諦めている。
今は老後の生活資金を貯める為に、節約した生活をしている。


ヘロニモが安いワインと安いチーズで晩酌していると、玄関の呼び鈴がなった。仕事絡みでしか、ヘロニモの家を訪ねてくる者はいない。ヘロニモは嫌な予感に眉間に皺を寄せた。
玄関のドアを開けると、顔もガタイのいい体格もそっくりな男が2人、腹が立つ程眩しい笑顔で立っていた。部下のミルグとニルグである。右目の下に泣き黒子がある方が兄のミルグ、唇の左下に黒子がある方が弟のニルグだ。2人とも顔がそっくりで、黒子以外では見分けがつかない程である。2人は今年で22歳になる。淡い金髪と青い瞳の美丈夫で、街の女に割と人気がある。拷問大好きな問題児なのに。

ミルグとニルグが無駄に爽やかな笑みを浮かべて口を開いた。


「「はんちょー。とーめーてー」」

「かーえーれー」

「もー。はんちょー、聞いてよー」

「マジ最悪なんだってばー」

「……お前ら今度は何やらかしやがった」


何気なくミルグとニルグの足元を見れば、一泊泊まりどころじゃない大荷物があった。


「「官舎追い出されたー」」

「マジで何やりやがった馬鹿野郎共!」

「別に?」

「ちょっと遊びで小型爆弾作ったら、うっかり爆発しちゃってー」

「そしたら、隣の部屋との間の壁が壊れちゃってー」

「ついでに床にも穴が開いちゃってー」

「「隣人と下の人に『こんにちは!』しちゃった」」

「こんの……馬鹿野郎共!!」

「「ぎゃんっ!!」」

「危険物を作るな!!ド阿呆共!」

「いったい……もー!すぐ拳骨しないでよー!」

「いったい……俺達の頭が凹んだら、はんちょーのせいだからねー!」

「うっさいわ!」


また派手な事をやらかしやがった問題児共に、頭が痛くなってくる。休み明けに、また上司や官舎の管理人から叱責を受けることが確定した。
ヘロニモが自分の眉間の深い皺をぐりぐり指先で伸ばしていると、ミルグがとんでもないことを言い出した。


「家が見つかるまでお世話になりまーす」

「よろしくー」

「……はぁ!?なんで俺ん家!?」

「だってー、行くあてないしー」

「はんちょー、寂しい独り暮らしでしょ。俺達が一緒に住んであげるー」

「よろしく。ダーリン」

「よろしくー。ハニー」

「誰がダーリンハニーだ。馬鹿共」


全力で追い返してやりたいが、今は冬の真っ只中で、外は雪がちらついている。
ミルグとニルグは戦災孤児だったから、頼れる家族はいないし、拷問大好き問題児なので、友達らしい友達も確かいなかった筈である。
我ながらお人好しだと思うのだが、ヘロニモは寒空の下に部下達を放置するのも忍びなく、渋々2人を家の中に入れた。
明日は双子も休みだから、明日のうちに新しい家を探しに行かせればいいだろう。今夜一晩くらいなら、泊めてやってもいい。
ヘロニモは風呂を沸かし直し、形のいい鼻先が赤くなっている2人を、とりあえず風呂に入らせた。

ヘロニモの家は部屋数が少なく、台所風呂トイレ以外は、居間とヘロニモの部屋と物置にしてる部屋しかない。
2人を居間で寝かせる気満々だったのに、今は狭いヘロニモのベッドで、ヘロニモは双子に挟まれていた。2人とも筋肉ムキムキなので、体温が高い。温かいを通り越して暑い。熱々トーストサンドイッチの具になった気分である。


「……おい」

「「なにー?」」

「お前ら今すぐ居間に行け」

「居間にはベッドどころかソファーもないじゃん」

「この寒いのに床で寝るとかマジ無理ー」

「狭い。暑い。邪魔くさい」

「はんちょー。明日、ベッド買いに行こうよー」

「もっとデカいやつー」

「ベッドより先に家を探せ」

「「あっは!おやすみー」」

「笑って流すな!」


その日、ヘロニモはムキムキの双子に挟まれて眠った。翌朝、不動産屋や様々な店が開く時間帯になると、ヘロニモは二度寝している2人を叩き起こし、家を探しに行かせた。2人は馬鹿でかいベッドを一つ買って帰ってきた。
こうして、有耶無耶な感じで、ヘロニモと双子との生活が始まってしまった。




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ヘロニモは今日も上司から部下の事で叱責を受け、たまに仕事で一緒になる班の同僚からは小言と皮肉を言われた。
心身共に疲れて家に帰れば、今日は休みだった双子に出迎えられた。何故か、2人とも裸エプロンである。ムッキムキに鍛えられた裸体に、白いふりふりのエプロンだけを着けた馬鹿共を見た瞬間、ヘロニモは疲れがどっと出て、思わずその場に膝から崩れ落ちた。


「おかえりー。ダーリン」

「おかえりー。ハニー」

「……お前ら。なんだその格好」

「可愛いっしょー?」

「男の浪漫だよねー」

「「ちゃんとパンツ穿いてないよー」」

「きたねぇもん見せんな。服を着ろ。馬鹿共。風邪引くだろうが」


双子が白いエプロンを捲って、無駄にデカいペニスを見せてきたので、ヘロニモはげんなりしながら、のろのろと立ち上がった。


「今日はどこも何も破壊してないだろうな」

「してなーい」

「あ、魔導洗濯機が動かなくなったよー」

「何やらかしやがった」

「「解体して遊んだだけ」」

「解体すんな馬鹿野郎共!!」

「ちゃんと組み立て直しましたー」

「何故か部品が余ったけどー」

「このっ、このっ……馬鹿野郎共!!ちゃんと戻せないなら解体すんな!!」


ヘロニモは、疲れて帰宅した直後に、裸エプロンの双子をその場に正座させ、説教をする羽目になった。
双子が分解しやがった魔導洗濯機は修理に出すしかあるまい。
双子がヘロニモの家に勝手に住み着いてから、頻繁にこういうことがある。ヘロニモがいくら『新しい家を探せ』と言っても、2人共ヘラヘラ笑って流している。毎晩、強制的に一緒に寝させられるし、頻繁に何かやらかしやがるしで、ヘロニモは家でも中々気が抜けない日々を過ごしていた。

ヘロニモは説教を終えると、疲れた溜め息を吐き、台所へと向かった。双子はまともな料理ができない。隙あらば余計な事をして、嘗て食材だった何かに加工してしまうので、料理をすることを禁じている。
ヘロニモは台所にまでついてきた裸エプロンの双子の尻を蹴って台所から追い出すと、手早く夕食を作り始めた。

まともな服を着た双子と一緒に夕食を食べる。今日は一段と冷えるから、根菜いっぱいのシチューにした。
昼食はいつも自作の弁当を自分の机で食べているので、双子と暮らし始めた最初の頃は、誰かと一緒に食事をすることに違和感を覚えていたが、今ではもうすっかり慣れてしまった。双子が居着いて、もう半月を過ぎている。ガツガツと美味そうに食べる双子の食いっぷりは、見ていて少し気持ちがいい。


「「うめー」」

「よかったな」


ヘロニモは適当に返事しながら、熱々のシチューをのんびり食べた。

夕食の後片付けをして、順番に風呂に入ると、双子にベッドに強制連行された。双子がベッドで寝るのに拘るのならばと、自分が居間で寝る為に買った寝袋の出番は未だにない。毎日、寝る時間になると、双子に両腕を掴まれて無理矢理ベッドに連行され、狭い自室の殆どを占めている大きなベッドで、双子に挟まれて寝ている。ヘロニモもそれなりに鍛えているが、無駄にムッキムキな男2人に捕まえられると、流石に逃げるのは厳しい。
ヘロニモは割と早い段階で諦めて、双子と一緒に寝ている。
寝付きがいい双子の豪快な鼾を聞きながら、ヘロニモは小さく溜め息を吐いて、静かに目を閉じた。




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冬の寒さが和らぎ、春の訪れを感じる季節になった。
双子は相変わらずヘロニモの家に居着いている。クドい程頻繁に『新しい家を探しに行け』と言っているが、双子はヘラヘラ笑って聞き流している。

休日の朝。ヘロニモは洗濯物を干し終えると、日課の筋トレをしている双子に声をかけた。
双子は隙あらば捕まえた犯罪者を拷問して遊ぶし、他にも下らない悪戯を頻繁にしやがるが、身体を鍛えることに関してだけは真面目である。ヘロニモも毎日筋トレをしているが、双子程ではない。


「おい。買い物行くぞ」

「「はーい」」


双子が軽い返事をして、腕立て伏せをやめ、立ち上がった。朝から汗臭い2人を着替えさせ、買い物をしに市場へ向かう。双子は若いし、身体がデカいから、量を食べる。食料品を数日分まとめ買いしようと思ったら、ヘロニモ1人じゃ持ちきれないくらいの量になるので、休みの度に双子に荷物持ちをさせている。
食料品店よりも市場の方が安い食材が多い。休みの日に、ある程度市場でまとめ買いした方が節約になる。

双子が住み着いた最初の頃に、家賃と生活費だと言って、給料全額を渡してきた。とりあえず叱ってから、必要な分だけを貰うようにして、残りは貯金させるようにした。金は大事だ。金が無ければ、ひもじい思いをするし、最悪の場合、病気になっても医者に診てもらえず死ぬこともある。双子はまだ若い。ヘロニモは双子に貯金の大切さを滾々と語った。

買い物を済ませて家に帰ると、ミルグが買ったばかりの酒を出してきた。


「ダーリン。たまには昼酒しようぜー」

「しない。元あった場所に戻してこい」

「いいじゃん。ハニー。たまには」

「駄目だ。俺はこれからお前らが破壊しやがった椅子の修理をする」

「もうちょい頑丈なの買い直せば?」

「椅子がボロッちくて、俺達の体重に耐えきれないしー」

「補強すれば、まだ使える。筋肉デブ共」

「「ひどーい」」

「乙女心が傷ついちゃったわ。ダーリン」

「責任とってよね。ハニー」

「素直にきめぇ。暇なら手伝え」

「「はぁーい」」


ヘロニモは双子に手伝わせて、夕方まで時間をかけて、壊れた椅子を補強しながら修理した。

夕食を食べ終えた頃に、ニルグが酒瓶とグラスを運んできた。
無駄に爽やかな笑みを浮かべている。


「今度こそ飲もー」

「さーんせーい」

「……まぁ、いいだろう」

「「うぇーい」」


双子は酒が好きだ。ヘロニモも割と好きな方である。普段は安酒しか飲まないが、今日は双子が自腹で買った少し上等な蒸留酒である。用意周到なことに、酒の肴用に美味い干し肉まで買ってあった。明日も休みである。多少飲み過ぎても問題ない。
ヘロニモは双子と一緒に酒盛りを始めた。

飲み始めて一刻程で、面倒くさい酔っ払いが2人出来上がった。
ミルグがヘロニモに横から抱きつき、ヘロニモの頬にぐりぐりと頬擦りをしてきた。


「しゅきしゅきダーリン。ちょー愛してるー」

「うぜぇ」


ニルグが反対側からヘロニモに抱きつき、ヘロニモの頬にぐりぐりと頬擦りをしてくる。


「しゅきしゅきハニー。ちょー愛してるー」

「きめぇ」


両頬をぐりぐりと頬擦りされて、邪魔で酒が飲めない。邪魔くさい2人を離したいが、無駄に力が強い筋肉だるま達は酔っ払っていても力が強く、ヘロニモは抵抗をすぐに諦め、2人の好きにさせた。
こんな草臥れたおっさんに『すき』だの『愛してる』だの言うなんて、相当酔っている。双子の黒歴史が一つ増えたと思えば、なんだか少し面白かった。明日の朝にでも揶揄ってやろうと思っていると、ミルグの手がヘロニモの胸の辺りを、ニルグの手がヘロニモの太腿を撫で回し始めた。


「やめろ。馬鹿共」

「ダーリン。セックスしよー」

「ハニーを天国にご案内ー」

「やるか。馬鹿共」

「「したーい」」

「寝ろ。酔っ払い」

「「えー。じゃあ寝るー」」


ヘロニモは酔っ払った双子に両側から腕を掴まれて椅子から立ち上がり、そのままズルズルと寝室化している部屋へと強制連行された。まだ酒が残ってたのに。

双子は寝付きがいいし、今は酒が入っているからすぐに寝るだろう。双子が寝た後になんとか脱出して、残りの酒を飲もうとヘロニモが考えていると、何故かベッドの上で双子が服を脱ぎ始めた。


「何してんだ。お前ら」

「え?だって、服着たままセックスしないでしょ。ダーリン」

「は?」

「ほらほら。ハニーも服脱いでー」

「は?……ちょっ、おい!脱がすな!お前らとセックスなんぞせんぞ!」

「「一緒に気持ちいいことしよー」」


無駄に爽やかな笑みを浮かべてヘロニモの服を脱がせてくる双子に、ヘロニモは焦った。戦時中に、男同士で性欲処理をすることはあった。ヘロニモも何度か上官にケツを掘られたり、上官に命じられてケツを掘ったりしたことがある。だがそれも昔の話だし、ヘロニモは普通に女が好きだ。残念ながら女に縁が無くなって久しいが。
ミルグもニルグも若いし、まだまだ結婚適齢期の真っ只中だ。胃が痛くなる程の問題児だが、一応可愛い部下である。未来ある若人に、ここで道を外させる訳にはいかない。ヘロニモはじったんばったん暴れて抵抗しながら、説得を試みた。


「落ち着け!お前ら!明日の朝、死ぬ程後悔するぞ!」

「あっは!夜明けの珈琲が楽しみだねー。ダーリン」

「ふはっ!朝からイチャイチャするのもいいよねー。ハニー」

「おいごらぁ!服を破るなっ!ちょっ、ちょっ、マジで落ち着け!馬鹿共ぉ!!」

「はぁはぁ、ダーリンのちんちん、デカい」

「はぁはぁ、ハニーのケツ、デカい」

「……うわぁ……」


服を破られながら全裸にひんむかれたヘロニモは、何気なくミルグとニルグの股間を見て、ドン引きした。2人とも勃起していやがる上に、巨根の部類に入るヘロニモのペニスよりも、ペニスが太くて長い。
明らかにヘロニモに欲情して、はぁはぁしている美丈夫台無しな2人を見て、ヘロニモはなんかもう色々諦めた。2人と一発ヤッても死にはしない。多分。一発ヤれば、2人の気も済むだろう。もしくは正気に戻るだろう。
ヘロニモは生き汚いが、割と諦めが早い方である。別に死ぬ訳でもないし、と早々と諦め、全裸でペニスを勃起させているミルグとニルグに、大人しく押し倒された。

そして現在、ミルグに勃起したペニスを舐められ、ニルグに陰嚢を舐め回されている。2人の拙い舌使いが、何故だか妙に興奮を煽る。既にペニス以外の全身をベロベロ舐め回された後だ。陰嚢を舐めていたニルグもヘロニモのペニスを舐め始め、ペニスを這う2人の熱い舌の感触に射精感がこみ上げてくる。ミルグが亀頭に舌を這わせながら、手を伸ばしてヘロニモの乳首を摘んで、くりくりと弄り始めた。真似するようにニルグも片手を伸ばしてヘロニモの反対側の乳首を指で弄り出す。2人ともセックスに慣れていないのか、上手とは言えない弄り方だが、それでもじんわり気持ちがいい。

はっ、はっ、と荒い息を吐きながら、ヘロニモは2人の頭を撫で回した。


「……っ、出すぞ」

「「んー」」


ヘロニモはこみ上げる射精感に抗うことなく、射精した。ヘロニモとて、まだ30代半ばで枯れていないし、双子と暮らし始めてからは自慰をする暇が無くなって溜まっていた。尿道を精液が勢いよく飛び出していく感覚が、酷く気持ちがいい。
びゅるびゅると飛び出した濃い精液が、ミルグとニルグの顔にかかる。ニルグがミルグの鼻筋についたヘロニモの精液を赤い舌で舐めとれば、ミルグがニルグの口元についたヘロニモの精液を舐めとった。そのまま、2人でヘロニモの精液を味わうかのように、舌を絡め合い始めた。倒錯的な光景に、ヘロニモは奇妙な興奮を覚えた。
ペニスの亀頭に残っていた精液も2人にキレイに舐めとられる。

ヘロニモのペニスを舐めながら自分のアナルを指で弄っていたミルグが、仰向けに寝転がっていたヘロニモに尻を向けて、四つん這いになった。ニルグがミルグのムッキリムッチリした尻肉を両手で掴み、ぐいっと広げた。ローションで濡れたミルグのアナルが丸見えになる。ミルグのアナルは微かに口を開け、くぽくぽと小さく収縮していた。
ヘロニモはゆるく勃起したままのペニスを片手で擦って完全に勃起させると、起き上がって膝立ちになり、誘われるがままに、ミルグのアナルにペニスを突っ込んだ。締めつけがキツい括約筋を通り過ぎれば、ペニスが熱くて柔らかい腸壁に包まれる。なんとなく予想がつく前立腺がある辺りを太いカリで擦るように腰を揺すれば、ミルグが気持ちよさそうな声を上げ、腰をくねらせた。久しぶりの他人の熱が心地よい。ヘロニモは更に深くペニスを押し込み始めた。ペニスの先っぽが肉の壁にぶつかる。結腸とかいうらしい。昔、尻狂いの上官に聞いたことがある。慣れないうちは痛いだけだが、慣れたら気持ちよ過ぎてハマるらしい。ミルグは慣れていないのだろう。そこをトンッと突くと、辛そうな声を上げた。痛くて苦しいセックスは好きじゃない。ヘロニモはペニスをゆっくり引き抜き、前立腺の辺りだけをペニスで擦るように腰を振り始めた。ペニスが半分程しか入っていないが、括約筋の締めつけがキツくて、十分気持ちがいい。前立腺は気持ちがいいようで、ミルグが大きく喘ぎ始めた。


「あっ!あっ!いいっ!すげぇ!もっと!あはっ!あーーーーっ!いいっ!」

「ミルグだけずるーい。俺もいーれるー」


膝立ちで腰を振るヘロニモの背後に、ニルグが移動した。全身を舐められている時に、アナルも舐められ、指で解されている。ニルグがヘロニモの腰を掴んで動くのをやめさせると、そのままヘロニモのアナルに自分のペニスの先っぽを押しつけ、ゆっくりとペニスを挿れ始めた。メリメリと狭いアナルを抉じ開けるようにして、ニルグのペニスがヘロニモのアナルの中へと入ってくる。アナルを使うのは相当久しぶりで、痛みや異物感が割と大きい。それでも太いカリでゴリッと前立腺を擦られると、快感が背を走り抜ける。ニルグの長くて硬いペニスが、ヘロニモの腹の奥深くまで入った。腹の奥をドンッと突かれると、鋭い痛みが走るが、同時に微かな快感もある。ヘロニモは完全に結腸に慣れる程アナルを使っていないし、そもそも結腸までとどく程の巨根の男とセックスをした経験が殆ど無いが、どうやらヘロニモにはアナルの才能があったらしい。殆ど初めてと言ってもいい結腸への刺激も、痛いだけではない。
ニルグが後ろから抱きつくようにして、両手でヘロニモの乳首を弄りながら、ガンガン腰を振り始めた。ミルグも身体を前後に動かすようにして、アナルでヘロニモのペニスを扱き始めた。


「あっあっ、ハニー、きもちいいっ」

「ふっ、ぐぅっ、はっ、……っ、あぁっ!」

「あっ、あっ、ダーリンのちんちん、きもちいいよぉ」


ペニスとアナルと乳首を同時に刺激されて、快感で脳みそが焼き切れそうだ。
ヘロニモは自分も小刻みに腰を振りながら、前後から与えられる快感にだらしなく涎を垂らして喘いだ。
一番最初にイッたのは、ヘロニモがペニスを突っ込んでいるミルグだった。ミルグが気持ちよさそうな声を上げながら、腰をビクビク震わせ、一際強くヘロニモのペニスをアナルで締めつけた。そのすぐ後に、ヘロニモの結腸をガンガン突きまくっていたニルグが、ヘロニモの身体にすがりつくように強く抱きつき、ヘロニモの腹の奥をぐりぐりするようにして、ヘロニモの中に射精した。ヘロニモもその刺激でミルグの中に射精した。

はぁー、はぁー、と、3人分の荒い息遣いが静かな部屋に響いている。
ミルグがゆっくりと前に動き、萎えたヘロニモのペニスをアナルから引き抜いた。
ミルグが、ニルグのペニスが入ったままのヘロニモに向かいあって、ヘロニモの唇にキスをすると、コロンと仰向けに寝転がり、膝を立てて両足を大きく広げ、腰を浮かせた。


「ダーリン、おかわりー」

「ハニー、俺もおかわりー」


早くもヘロニモのアナルの中で復活した硬いニルグのペニスで前立腺をぐりぐりと強く刺激される。ヘロニモはその刺激でゆるく勃ち上がった自分のペニスを軽く手で扱き、ミルグの身体に覆い被さるような体勢で、ミルグのアナルに再びペニスを突っ込んだ。


「あぁ……ダーリンのちんちん、おっきい……」

「はぁ、はぁ、っあ……」

「はぁ……ハニーのアナル最高ー」


ヘロニモは、力尽きて殆ど気絶するように寝落ちるまで、ミルグとニルグと絡まり合い、快感を貪った。





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ヘロニモは腰とアナルの痛みで目が覚めた。本気でクッソ痛い。思わず低く唸ると、ヘロニモの左胸に頬をつけて寝ていたニルグがむにゃむにゃと不明瞭な声をもらした。ミルグがヘロニモの右腕を勝手に枕にしているせいで、右腕が痺れて感覚が無い。
3人とも全裸のままで、ヘロニモは双子に両側からぴったりくっつかれている。

ヘロニモは小さく溜め息を吐いて、天井を見上げた。酒が入っていたとはいえ、やっちまった感が半端ない。流されたというか、諦めた結果とはいえ、部下とセックスをしてしまった。
ヘロニモが後悔で眉間に深い皺を寄せると、鼾をかいて寝ていたミルグとニルグが目を覚した。
ミルグがヘロニモの頬にキスをして、ヘラっと笑った。


「おはよー。ダーリン」


ニルグもヘロニモの頬にキスをして、ヘラっと笑った。


「おはよー。ハニー」

「……おう」

「昨日は素敵だったよ。ダーリン」

「昨日は可愛かったよ。ハニー」

「「俺達初めてだったから、ちゃんと責任とってねー」」

「……マジかよ……」


腰やアナルの痛みも相まって、ヘロニモが顔を顰めて低く唸ると、2人が少し身体を起こし、ヘロニモの顔を両側から覗き込んできた。


「ダーリン。ちょー愛してるー」

「ハニー。ちょー愛してるー」

「「末永くよろしくー」」


にっこりと笑う2人は、やけに嬉しそうである。
ヘロニモは暫く唸っていたが、色々と諦めて、小さく溜め息を吐いた。
ミルグもニルグも問題児だが、可愛気がない訳ではない。一緒に暮らし始めて、数カ月が経つ。あんまり認めたくはないが、2人に情が湧き始めているのも事実である。
ヘロニモは大きな溜め息を吐いてから、わしゃわしゃと両手で2人の頭を撫で回した。


「老後の介護はちゃんとしてくれ」

「「あっは!ガッテン承知!!」」


ヘロニモの身体に半ば乗り上げるように抱きつき直した2人を抱きしめ、ヘロニモは腹を括った。




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ヘロニモは仕事をサボろうとするミルグとニルグの尻を蹴り飛ばして仕事に行かせると、庭に出て洗濯物を干した。
洗濯物を干すヘロニモの足元を、愛犬シータが尻尾を振りながら、チョロチョロと走り回っている。
ヘロニモは昨年60歳になり、警邏隊を定年退職して、シータを飼い始めた。シータは茶色い毛並みの垂れ耳の犬で、ちょっと間抜けなところもあるが、可愛い家族である。
ヘロニモは洗濯物を干し終えると、シータの首輪にリードをつけ、散歩へと出かけた。

ミルグとニルグの双子は、未だに一緒に暮らしている。二人とも40を過ぎ、多少落ち着いてきたが、未だに問題児である。たまに2人の上官になった元部下が泣きついてくる。あの2人はきっと死ぬまで問題児なままだと思う。
2人共、すっかり爺になったヘロニモに、毎朝必ず愛を囁いてくる。物好きにも程があると思うが、悪い気はしない。この数十年で、完全に絆されてしまったヘロニモである。

何事もなければ、ヘロニモが先に逝く。だが、ミルグとニルグにはお互いがいる。ヘロニモが逝っても、2人で支え合って生きていくだろう。それだけは安心できる。傍から見たらおかしな関係かもしれないが、もう随分と前に開き直っている。ヘロニモ達の幸せの形は、これでいい。

今日も確実に定時で帰ってくるミルグとニルグを、シータと一緒に待つ。
2人がいると、家の中が一気に賑やかになる。
ヘロニモは夕食を作りながら、2人の帰りを待ち、いい歳して騒ぎながら帰ってきた2人を出迎えて抱きしめた。



(おしまい)


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