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次の休日。
ミーシャは軍詰め所に来ていた。
「フラれました」
「飲むか?」
「飲みます」
訓練場でジル中隊長に会うなり開口一番にそう言うと、慰めるように肩を叩かれた。
そのまま昼間でも酒を出している店へと移動した。
昼間だというのに薄暗い店に2人で入り、きつめの酒を注文する。ミーシャは普段飲まない辛くてキツい酒をあおった。
「で?ルート殿はなんだって?」
「無理だし釣り合わないって言われました」
「そうか」
「サクッとフラレるつもりが、追いすがっちゃいました。迷惑かけてしまいました」
「ルート殿の様子は?」
「仕事の時はいつも通りです。家では……なんかお互いぎこちない感じです」
「まぁ、そうなるよなぁ」
「家族になりたいって言ったんです。ほだされる余地があるなら考えてくれって」
「それも無理って言われたのか?」
「……分かったって言ってくれました」
「なら、完全にフラれたわけじゃないんだな」
「そう……なんでしょうか?」
「それも無理なら無理って言ってるだろう?」
「……そうかもしれません」
「諦められるのか?」
「分かりません」
「まぁ、今日のところは飲んで一旦忘れちまえよ」
「……はい」
結局店が閉まる夜更けまでずっとジル中隊長と酒を飲んでいた。
どれだけキツい酒を飲んでも酔えなかった。
帰り道。酒臭い息を吐きながらミーシャは空を見上げた。
ーーーーーー
告白をして2週間。
表面上はいつも通りの日常を送っている。
1週間くらいはお互いぎこちなかったが、今はまるで告白自体なかったような、そんな空気である。
(一応フッてもらったんだから、これでいいのよね)
ミーシャはそう自分に言い聞かせた。
いつも通り2人で出勤する。
今日は調合前の薬草類の在庫管理をしなければならない。
ルート先輩と2人で、結構な広さの保管室で在庫の確認作業を手分けして行っていた。
午前中いっぱい黙々と作業をして、そろそろ休憩かという時間になる頃、ふっと保管室の灯りが消えた。
「ミーシャ。窓を開けてくれ」
「はい」
窓を開けると薄暗い保管室に灯りが射し込んだ。作業を中断して魔導灯の下に2人とも集まり、天井を見上げた。
「魔力切れか?」
「故障じゃなきゃいいんですけど」
「見てみるか。脚立を持ってこよう」
「わざわざ脚立を持ってこなくても、私が先輩肩車したら届きますよ」
「肩車?」
「はい。ちょっと失礼します」
「うわっ」
ミーシャは立っているルート先輩の背後から股に頭を突っ込み、そのまま抱えあげた。ルート先輩は慌ててミーシャの頭に手を置いた。
「ミーシャ!高いっ!!」
「肩車ですから。先輩これなら手が届きますよ。魔導灯みてください」
「あ、あぁ」
ルート先輩が魔導灯をごそごそ弄ると、パラパラと埃が落ちてきた。
「あぁ。魔石の魔力切れだ」
「じゃあ、魔石貸してください。魔力入れますんで」
「いいのか」
「はい」
「じゃあ頼んだ」
ルート先輩から魔石を手渡される。
魔力が空っぽになった魔石は濁った白色をしている。ミーシャは掌にのせた魔石に意識を集中し、ぐっと握りこんだ。
暫くして掌を開くと、先程とは違った透明感のある琥珀色になっていた。
「できました」
「悪いな」
ルート先輩に魔石を手渡して、魔導灯につけてもらう。
また埃が落ちてきた。鼻の頭についた埃をふぅ、と息で飛ばした。
「できたぞ」
「ありがとうございます」
「起動させるぞ」
「はい」
ルート先輩が魔導灯を起動させると、パッと室内が明るくなった。
「故障じゃなくて良かったですね」
「だな。そろそろ下ろしてくれ」
「あ、はーい」
ミーシャは肩車をといて、ルート先輩を床に下ろした。
「……肩車なんて初めてされた」
ルート先輩がはにかむように小さく笑った。
ミーシャは胸がキュンキュンするのを無視して、服の埃を払った。
「結構楽しいですよね。子供の頃はよくしてもらってました」
「視界が全然違うな」
「そうなんですよね。気に入ったのならまたしますか?」
「流石に肩車をねだる歳じゃないから結構だ」
「そうですか?あー、もしかして、ぐらついて不安でした?」
「いや、安定感半端なかった」
「一応鍛えてますから」
「凄いな、お前」
「そうでもないです」
ミーシャは照れて笑った。
告白する前みたいに普通に触れたり、話せることが嬉しかった。埃で汚れた床をざっと掃除しているとヒューブ先輩がやってきた。
「2人とも休憩中に何やってるんだ?」
「魔導灯の魔石の魔力が切れたので付け替えてました」
「あー、そういや前に替えてから結構たつしな。補充用の魔石あったか?」
「いえ、ミーシャに入れてもらいました」
「あぁ。ミーシャちゃん魔石の魔力注入もできるんだ」
「はい」
「本当、便利だなぁ。ミーシャちゃん」
「ヒューブ先輩。何か用事でもありましたか?」
「あ、そうそう。今夜飲みに行くんだけどお前らも誘おうと思ってさ。どうよ?」
「行きます」
「私も行きます」
「おーし。じゃあ、仕事終わったら店に直行な。残業にならないようにしろよ」
「はい」
「頑張ります」
ヒューブ先輩は2人の返事にへらりと笑って、手を振って保管室から出ていった。それを見送ると、ミーシャはちり取りの中の中身をゴミ箱に捨てた。
「続きする前に昼飯食うか」
「はい」
2人して手をはたいて、連れだって食堂へと向かう。途中の水場で手を洗い、食堂のカウンターへ並んだ。
今日は豚肉料理がメインらしい。
辺りに広がる美味しそうな匂いに、ミーシャのお腹がくぅぅー、っと小さくなった。聞こえたのであろうルート先輩が軽く吹き出した。
「お前の腹の虫は実に素直だな」
「正直者なんです」
恋する乙女として恥ずかしいことこの上ないが、ルート先輩が可笑しそうに笑ってくれたので、よしとする。
食事を2人でとって、休憩もそこそこに中断していた作業を再開した。
今日は何がなんでも残業できない。
自分が酒を飲みたいというより、飲んで潰れたルート先輩の世話をしなければならないからだ。万が一、誰かにお持ち帰りなんてされたら堪らない。
後輩の1人がルート先輩を狙っている気がするので、尚更である。
ミーシャは、丁寧に、でも素早く確認作業を必死こいてやった。
ミーシャは軍詰め所に来ていた。
「フラれました」
「飲むか?」
「飲みます」
訓練場でジル中隊長に会うなり開口一番にそう言うと、慰めるように肩を叩かれた。
そのまま昼間でも酒を出している店へと移動した。
昼間だというのに薄暗い店に2人で入り、きつめの酒を注文する。ミーシャは普段飲まない辛くてキツい酒をあおった。
「で?ルート殿はなんだって?」
「無理だし釣り合わないって言われました」
「そうか」
「サクッとフラレるつもりが、追いすがっちゃいました。迷惑かけてしまいました」
「ルート殿の様子は?」
「仕事の時はいつも通りです。家では……なんかお互いぎこちない感じです」
「まぁ、そうなるよなぁ」
「家族になりたいって言ったんです。ほだされる余地があるなら考えてくれって」
「それも無理って言われたのか?」
「……分かったって言ってくれました」
「なら、完全にフラれたわけじゃないんだな」
「そう……なんでしょうか?」
「それも無理なら無理って言ってるだろう?」
「……そうかもしれません」
「諦められるのか?」
「分かりません」
「まぁ、今日のところは飲んで一旦忘れちまえよ」
「……はい」
結局店が閉まる夜更けまでずっとジル中隊長と酒を飲んでいた。
どれだけキツい酒を飲んでも酔えなかった。
帰り道。酒臭い息を吐きながらミーシャは空を見上げた。
ーーーーーー
告白をして2週間。
表面上はいつも通りの日常を送っている。
1週間くらいはお互いぎこちなかったが、今はまるで告白自体なかったような、そんな空気である。
(一応フッてもらったんだから、これでいいのよね)
ミーシャはそう自分に言い聞かせた。
いつも通り2人で出勤する。
今日は調合前の薬草類の在庫管理をしなければならない。
ルート先輩と2人で、結構な広さの保管室で在庫の確認作業を手分けして行っていた。
午前中いっぱい黙々と作業をして、そろそろ休憩かという時間になる頃、ふっと保管室の灯りが消えた。
「ミーシャ。窓を開けてくれ」
「はい」
窓を開けると薄暗い保管室に灯りが射し込んだ。作業を中断して魔導灯の下に2人とも集まり、天井を見上げた。
「魔力切れか?」
「故障じゃなきゃいいんですけど」
「見てみるか。脚立を持ってこよう」
「わざわざ脚立を持ってこなくても、私が先輩肩車したら届きますよ」
「肩車?」
「はい。ちょっと失礼します」
「うわっ」
ミーシャは立っているルート先輩の背後から股に頭を突っ込み、そのまま抱えあげた。ルート先輩は慌ててミーシャの頭に手を置いた。
「ミーシャ!高いっ!!」
「肩車ですから。先輩これなら手が届きますよ。魔導灯みてください」
「あ、あぁ」
ルート先輩が魔導灯をごそごそ弄ると、パラパラと埃が落ちてきた。
「あぁ。魔石の魔力切れだ」
「じゃあ、魔石貸してください。魔力入れますんで」
「いいのか」
「はい」
「じゃあ頼んだ」
ルート先輩から魔石を手渡される。
魔力が空っぽになった魔石は濁った白色をしている。ミーシャは掌にのせた魔石に意識を集中し、ぐっと握りこんだ。
暫くして掌を開くと、先程とは違った透明感のある琥珀色になっていた。
「できました」
「悪いな」
ルート先輩に魔石を手渡して、魔導灯につけてもらう。
また埃が落ちてきた。鼻の頭についた埃をふぅ、と息で飛ばした。
「できたぞ」
「ありがとうございます」
「起動させるぞ」
「はい」
ルート先輩が魔導灯を起動させると、パッと室内が明るくなった。
「故障じゃなくて良かったですね」
「だな。そろそろ下ろしてくれ」
「あ、はーい」
ミーシャは肩車をといて、ルート先輩を床に下ろした。
「……肩車なんて初めてされた」
ルート先輩がはにかむように小さく笑った。
ミーシャは胸がキュンキュンするのを無視して、服の埃を払った。
「結構楽しいですよね。子供の頃はよくしてもらってました」
「視界が全然違うな」
「そうなんですよね。気に入ったのならまたしますか?」
「流石に肩車をねだる歳じゃないから結構だ」
「そうですか?あー、もしかして、ぐらついて不安でした?」
「いや、安定感半端なかった」
「一応鍛えてますから」
「凄いな、お前」
「そうでもないです」
ミーシャは照れて笑った。
告白する前みたいに普通に触れたり、話せることが嬉しかった。埃で汚れた床をざっと掃除しているとヒューブ先輩がやってきた。
「2人とも休憩中に何やってるんだ?」
「魔導灯の魔石の魔力が切れたので付け替えてました」
「あー、そういや前に替えてから結構たつしな。補充用の魔石あったか?」
「いえ、ミーシャに入れてもらいました」
「あぁ。ミーシャちゃん魔石の魔力注入もできるんだ」
「はい」
「本当、便利だなぁ。ミーシャちゃん」
「ヒューブ先輩。何か用事でもありましたか?」
「あ、そうそう。今夜飲みに行くんだけどお前らも誘おうと思ってさ。どうよ?」
「行きます」
「私も行きます」
「おーし。じゃあ、仕事終わったら店に直行な。残業にならないようにしろよ」
「はい」
「頑張ります」
ヒューブ先輩は2人の返事にへらりと笑って、手を振って保管室から出ていった。それを見送ると、ミーシャはちり取りの中の中身をゴミ箱に捨てた。
「続きする前に昼飯食うか」
「はい」
2人して手をはたいて、連れだって食堂へと向かう。途中の水場で手を洗い、食堂のカウンターへ並んだ。
今日は豚肉料理がメインらしい。
辺りに広がる美味しそうな匂いに、ミーシャのお腹がくぅぅー、っと小さくなった。聞こえたのであろうルート先輩が軽く吹き出した。
「お前の腹の虫は実に素直だな」
「正直者なんです」
恋する乙女として恥ずかしいことこの上ないが、ルート先輩が可笑しそうに笑ってくれたので、よしとする。
食事を2人でとって、休憩もそこそこに中断していた作業を再開した。
今日は何がなんでも残業できない。
自分が酒を飲みたいというより、飲んで潰れたルート先輩の世話をしなければならないからだ。万が一、誰かにお持ち帰りなんてされたら堪らない。
後輩の1人がルート先輩を狙っている気がするので、尚更である。
ミーシャは、丁寧に、でも素早く確認作業を必死こいてやった。
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