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第二章 都へ
7.バルトロの告白
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私は部屋に押し込められ、バルトロは鎧戸を閉めるときだけ扉を開け放したままで入ってきた。
黙って鎧戸を閉めるとすぐに出て行き、扉をバタンと音を立てて閉じた。
私は閉じられた扉に身を寄せ、外に立っているだろうバルトロに声をかける。
「バルトロ…聞こえる?」
身じろぎしたような衣擦れの音が聞こえ、「うん」というバルトロの小さな声が聞こえた。
「鎧戸、閉めてくれてありがとう」
「女の子には重いからさ。
だけど部屋に入ったこと、隊長には言わないでくれよ」
「言わないわ」
私は子供みたいなバルトロの言い方に、少し笑って答える。
「バルトロは、年はいくつなの?」
「この間、19になった」
「え、そうなの?」
てっきり年下だと思った。
「え、ってなんだよ。
そういうクラリッサは?」
「18歳、に今年なったの」
「俺よりひとつ、年下なんだな。
しっかりしてるから、ワンチャン年上かと思った」
くすっと笑う。
「俺は北部の生まれで、貧しい村の小作人の四男だった。
働いても働いても全然儲からず、いつも疲れ切っている両親や兄ちゃん姉ちゃんたちを見て、俺は村で生きていくのに嫌気がさしてガキの頃に逃げだした。
北部では一番大きな町に出て、生きていくために物乞いでも盗みでも何でもやった」
独り言のように話す、バルトロの小さな声を、私は聞き逃すまいと扉に耳をつけるようにして聞き入っていた。
シエーラでも飢饉の年などには、一家離散になる小作人や逃げ出す次男坊三男坊がいた。
お兄様たちはできる限り、そのような人が出ないように心を配っていたけど、どうしようもない時もあった。
その人たちがその後どうなるか、私は考えたことがなかった。
そうか…生きるために…そんなことまで…
「その頃、北部の国境付近で隣国との小競り合いがあった。
その小さな戦の中隊長として、エルヴィーノ隊長が遠征に加わっていた。
あの人は俺の恩人なんだ。
こんな俺を拾って、養って兵としての教育をしてくれて、こうやって討伐にも参加させてくれた。
なのに、俺は…」
顔を覆ってしまったらしく、声がくぐもる。
私は「バルトロ?」と小さく訊き、扉に身体を押し付けるようにしてバルトロの言葉を待った。
「アドルナートさんに言われたんだ。
クラリッサはお前に釣り合う女性じゃない。
ご主人様のお気に入りだから、さっさと諦めろって」
「え…」
私は、思ってもみなかった言葉に、呆然として絶句する。
「俺は、クラリッサみたいな女の子に初めて会った。
最初は俺と変わらないような、食い詰めてどこかから逃げてきた女なのかと思った。
痩せ方とか、手の荒れ方とかが姉ちゃんに似てたから。
だけど目を覚まして動き出したら、すごく賢くて歌がめっちゃ上手で、でも力がなくて可愛くて。
黙ってれば品があるのに、気が強くて隊長にずけずけ言うところとか、とても魅力的で、俺は」
そこで息を呑むようにして言葉を切り、大きく息を吐きだしながら、ため息のように言った。
「初めて人を好きになった。
クラリッサ、俺はお前が好きだ」
私が口を開く前に、バルトロは言葉を続ける。
「判ってる。
俺のようなクズみたいな男が、クラリッサのような人に想いを懸けるなんて身の程知らずだって。
ましてや、恩人の想い人に…
だから、もう二度とこんなこと言わない。
でも生まれて初めて好きになった人に、伝えたかったんだ。
ごめん、こんなこと言って困らせて」
苦し気な声で呟くように聞こえてくる独白に、私はぎゅっと瞳を閉じた。
「あの…ありがとう、バルトロ、そんなふうに思ってくれて。
私もあなたと同じで、生活に追われててこの年まで恋をしたことがないの。
だから、あなたの想いに応えることはできないごめんなさい」
震える声で言うと、バルトロは驚いたように「え、でも、生活に追われてるって感じじゃ…」と言いかける。
「今は、私の出自については話すことができないの。
ついでに言うと、エルヴィーノ様のお気に入りっていうのは、アドルナートの勘違いなのよ。
確かに私は、エルヴィーノ様について都へ行こうと思っている。
だけどそれは、色恋の話じゃなくて、行方不明の兄を探しに行くの」
「あ、隊長がなんか話してた…」
と言いかけて、がたっと音がする。
「何?」
「しっ!アドルナートさんが来た離れて」
緊張した声で囁くバルトロは、扉から体を離したようだ。
私も急いで離れ、ベッドに腰かけた。
コンコンとノックの音がする。
「クラリッサ!
急いで支度してくれ!
ご主人様と、お客様がクラリッサの歌をご所望だ」
ええ~…
何なの、部屋に居ろとかすぐに来いとか。
ぶつくさ呟きながらも私はすぐに支度を始めた。
また、歌を歌っていいの?
黙って鎧戸を閉めるとすぐに出て行き、扉をバタンと音を立てて閉じた。
私は閉じられた扉に身を寄せ、外に立っているだろうバルトロに声をかける。
「バルトロ…聞こえる?」
身じろぎしたような衣擦れの音が聞こえ、「うん」というバルトロの小さな声が聞こえた。
「鎧戸、閉めてくれてありがとう」
「女の子には重いからさ。
だけど部屋に入ったこと、隊長には言わないでくれよ」
「言わないわ」
私は子供みたいなバルトロの言い方に、少し笑って答える。
「バルトロは、年はいくつなの?」
「この間、19になった」
「え、そうなの?」
てっきり年下だと思った。
「え、ってなんだよ。
そういうクラリッサは?」
「18歳、に今年なったの」
「俺よりひとつ、年下なんだな。
しっかりしてるから、ワンチャン年上かと思った」
くすっと笑う。
「俺は北部の生まれで、貧しい村の小作人の四男だった。
働いても働いても全然儲からず、いつも疲れ切っている両親や兄ちゃん姉ちゃんたちを見て、俺は村で生きていくのに嫌気がさしてガキの頃に逃げだした。
北部では一番大きな町に出て、生きていくために物乞いでも盗みでも何でもやった」
独り言のように話す、バルトロの小さな声を、私は聞き逃すまいと扉に耳をつけるようにして聞き入っていた。
シエーラでも飢饉の年などには、一家離散になる小作人や逃げ出す次男坊三男坊がいた。
お兄様たちはできる限り、そのような人が出ないように心を配っていたけど、どうしようもない時もあった。
その人たちがその後どうなるか、私は考えたことがなかった。
そうか…生きるために…そんなことまで…
「その頃、北部の国境付近で隣国との小競り合いがあった。
その小さな戦の中隊長として、エルヴィーノ隊長が遠征に加わっていた。
あの人は俺の恩人なんだ。
こんな俺を拾って、養って兵としての教育をしてくれて、こうやって討伐にも参加させてくれた。
なのに、俺は…」
顔を覆ってしまったらしく、声がくぐもる。
私は「バルトロ?」と小さく訊き、扉に身体を押し付けるようにしてバルトロの言葉を待った。
「アドルナートさんに言われたんだ。
クラリッサはお前に釣り合う女性じゃない。
ご主人様のお気に入りだから、さっさと諦めろって」
「え…」
私は、思ってもみなかった言葉に、呆然として絶句する。
「俺は、クラリッサみたいな女の子に初めて会った。
最初は俺と変わらないような、食い詰めてどこかから逃げてきた女なのかと思った。
痩せ方とか、手の荒れ方とかが姉ちゃんに似てたから。
だけど目を覚まして動き出したら、すごく賢くて歌がめっちゃ上手で、でも力がなくて可愛くて。
黙ってれば品があるのに、気が強くて隊長にずけずけ言うところとか、とても魅力的で、俺は」
そこで息を呑むようにして言葉を切り、大きく息を吐きだしながら、ため息のように言った。
「初めて人を好きになった。
クラリッサ、俺はお前が好きだ」
私が口を開く前に、バルトロは言葉を続ける。
「判ってる。
俺のようなクズみたいな男が、クラリッサのような人に想いを懸けるなんて身の程知らずだって。
ましてや、恩人の想い人に…
だから、もう二度とこんなこと言わない。
でも生まれて初めて好きになった人に、伝えたかったんだ。
ごめん、こんなこと言って困らせて」
苦し気な声で呟くように聞こえてくる独白に、私はぎゅっと瞳を閉じた。
「あの…ありがとう、バルトロ、そんなふうに思ってくれて。
私もあなたと同じで、生活に追われててこの年まで恋をしたことがないの。
だから、あなたの想いに応えることはできないごめんなさい」
震える声で言うと、バルトロは驚いたように「え、でも、生活に追われてるって感じじゃ…」と言いかける。
「今は、私の出自については話すことができないの。
ついでに言うと、エルヴィーノ様のお気に入りっていうのは、アドルナートの勘違いなのよ。
確かに私は、エルヴィーノ様について都へ行こうと思っている。
だけどそれは、色恋の話じゃなくて、行方不明の兄を探しに行くの」
「あ、隊長がなんか話してた…」
と言いかけて、がたっと音がする。
「何?」
「しっ!アドルナートさんが来た離れて」
緊張した声で囁くバルトロは、扉から体を離したようだ。
私も急いで離れ、ベッドに腰かけた。
コンコンとノックの音がする。
「クラリッサ!
急いで支度してくれ!
ご主人様と、お客様がクラリッサの歌をご所望だ」
ええ~…
何なの、部屋に居ろとかすぐに来いとか。
ぶつくさ呟きながらも私はすぐに支度を始めた。
また、歌を歌っていいの?
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