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第五章 宮廷
7.朝食と衝撃の話
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私たちが侍従長に案内されたのは、結構広い部屋だった。
広いテーブルにほかほかと湯気の立つ料理がたくさん並んでいて、エルヴィーノ様は「よく判ってるな、さすがだよ」とくすくす笑いながら呟いた。
「今日はご愛妾候補が一堂に会するからな。
オレは詳しいことは知らないが…あれ、どうなるんだ?
100人近くに膨れ上がってるそうだなぁ」
オズヴァルド様は言いながらさっさと食卓に着く。
100人近く…眩暈がしそうだわ。
私は慇懃な態度の侍従長が引いてくれた椅子に腰かけながら思う。
オズヴァルド様の向かいにエルヴィーノ様が座って、ナプキンを首にかけて言った。
「一回、全員をボツにしたりして、各方面からえらいブーイングが来たそうだ。
まあ、当然だけど。
オズヴァルドの妹君まで入ってるとは知らなかった。
大公国の各地に役人たちが派遣されて愛妾候補の人数はさらに増えて、でも第一陣も帰れってわけにもいかなくなっちゃって…
らしからぬ失策ってとこだな」
私は昨日フランシスカから教わったテーブルマナーを実践しなくてはと緊張しつつ、ナプキンをかけてフォークを取る。
ぎごちない私の動きを見たエルヴィーノ様が不審そうに「…どうした?クレメンティナ」と訊き、私は「あの、宮廷のマナーを…」と口ごもりながら答えた。
途端にエルヴィーノ様とオズヴァルド様が噴き出す。
「そんなの、今ここでは必要ないよ。
晩餐会でちょっとそれっぽいことをすればいいさ」
「何とも可愛らしいねぇ…真面目なんだな。
これは皮肉でもなんでもないよ、オレにしては珍しく、素直な感想」
二人は笑いながらこもごもに言う。
私はお二人の言葉に恥じらって、珍しくあまり食が進まなかった。
「ほら、いつものようにたくさんお食べ、大舞台がこの後に控えているのだから。
今日はあなたが主役だよ」
エルヴィーノ様は立ち上がって私の隣に来て、椅子を運ばせて座る。
一昨日の朝のようにパーネを切って食べさせてくださり、私が遠慮してもしても「良いから」と笑って取り合わずあれこれ世話を焼いてくれる。
その様子を腕を組んで見ていたオズヴァルド様が、何とも言えない表情で、驚きとも不審げともつかない口調で呟く。
「…ここにいるのは本当に、あのエルヴィーノか?
エルヴィーノの皮を被った別人じゃないのか?
ちょっと前までのあのひねくれてやさぐれた、斜に構えた男はどこ行ったんだ」
エルヴィーノ様は少し笑って「そうだなあ」と言い、私の口をナプキンで優しく拭う。
「クレメンティナのまっすぐな生き方が俺を変えたんだろうな。
この人の真摯な生きざまは、人の心を打つんだよ。
都の女どもとは根本的に人生に対しての考え方が違う。
従容と運命に従うようでいて、しかし芯がしっかり通っていてしなやかに自分を曲げない。
元々の性格だけではなくて、きっとお父上とお母上の生き方や、教育に由来するものなんだろうけど」
口を開けたまま黙って聞いているオズヴァルド様を見て、エルヴィーノ様はにやっと笑う。
「アレクも俺に負けず劣らず、激変したぞ。
後で驚くなよ」
「あ、ああ…
それについては、昨日、少しだけ会ってすごく感じた」
「昨日?」
驚いたようにエルヴィーノ様はオズヴァルド様の方に向き直る。
「よくそんな時間あったな」
「無理くりスケジュールこじ開けたって感じだったけどな…
ほら、あの、南部の蜂起のことで。
オレも軍医として同行させる気らしい」
オズヴァルド様も腕組みを解いて、椅子に座りなおした。
「あっ、その話はここでは」
エルヴィーノ様は私の顔をちらっと見て慌てたように制する。
「え、南部の蜂起って、なんですか?!」
私はエルヴィーノ様へ身体を向けて前へ乗り出す。
エルヴィーノ様は困ったように視線を泳がせたが、やがてひとつ、大きく息をついた。
「まだ、はっきりしたことは判らない。
だから貴女にはまだ知らせないでおこうと、アレクと話したんだ。
セノフォンテにもまだ話してない」
「…シエーラ地方で蜂起があったと、連絡が来た。
隣国の都市と結託して、兵を挙げたらしい。
先日の南部の小競り合いは、中央の戦力を見定めるためのカモフラージュだったようだ。
どうもおかしいと思ったんだよ」
私は身体が小刻みに震えだすのを抑えられなかった。
お母様…レオ兄様は…ご無事だろうか。
エルヴィーノ様は私の顔を見て、ぎゅっと抱きしめ、背中を撫でさする。
「だからまだ、確定ではないから。
大丈夫だ、兵を送って、もしも本当だったら鎮圧に乗り出してるから。
そんなに大事にはならないよ、大丈夫」
その時、扉の外から声がかかった。
「クレメンティナ様、お召し替えのお時間でございます。
別室にご案内いたします」
広いテーブルにほかほかと湯気の立つ料理がたくさん並んでいて、エルヴィーノ様は「よく判ってるな、さすがだよ」とくすくす笑いながら呟いた。
「今日はご愛妾候補が一堂に会するからな。
オレは詳しいことは知らないが…あれ、どうなるんだ?
100人近くに膨れ上がってるそうだなぁ」
オズヴァルド様は言いながらさっさと食卓に着く。
100人近く…眩暈がしそうだわ。
私は慇懃な態度の侍従長が引いてくれた椅子に腰かけながら思う。
オズヴァルド様の向かいにエルヴィーノ様が座って、ナプキンを首にかけて言った。
「一回、全員をボツにしたりして、各方面からえらいブーイングが来たそうだ。
まあ、当然だけど。
オズヴァルドの妹君まで入ってるとは知らなかった。
大公国の各地に役人たちが派遣されて愛妾候補の人数はさらに増えて、でも第一陣も帰れってわけにもいかなくなっちゃって…
らしからぬ失策ってとこだな」
私は昨日フランシスカから教わったテーブルマナーを実践しなくてはと緊張しつつ、ナプキンをかけてフォークを取る。
ぎごちない私の動きを見たエルヴィーノ様が不審そうに「…どうした?クレメンティナ」と訊き、私は「あの、宮廷のマナーを…」と口ごもりながら答えた。
途端にエルヴィーノ様とオズヴァルド様が噴き出す。
「そんなの、今ここでは必要ないよ。
晩餐会でちょっとそれっぽいことをすればいいさ」
「何とも可愛らしいねぇ…真面目なんだな。
これは皮肉でもなんでもないよ、オレにしては珍しく、素直な感想」
二人は笑いながらこもごもに言う。
私はお二人の言葉に恥じらって、珍しくあまり食が進まなかった。
「ほら、いつものようにたくさんお食べ、大舞台がこの後に控えているのだから。
今日はあなたが主役だよ」
エルヴィーノ様は立ち上がって私の隣に来て、椅子を運ばせて座る。
一昨日の朝のようにパーネを切って食べさせてくださり、私が遠慮してもしても「良いから」と笑って取り合わずあれこれ世話を焼いてくれる。
その様子を腕を組んで見ていたオズヴァルド様が、何とも言えない表情で、驚きとも不審げともつかない口調で呟く。
「…ここにいるのは本当に、あのエルヴィーノか?
エルヴィーノの皮を被った別人じゃないのか?
ちょっと前までのあのひねくれてやさぐれた、斜に構えた男はどこ行ったんだ」
エルヴィーノ様は少し笑って「そうだなあ」と言い、私の口をナプキンで優しく拭う。
「クレメンティナのまっすぐな生き方が俺を変えたんだろうな。
この人の真摯な生きざまは、人の心を打つんだよ。
都の女どもとは根本的に人生に対しての考え方が違う。
従容と運命に従うようでいて、しかし芯がしっかり通っていてしなやかに自分を曲げない。
元々の性格だけではなくて、きっとお父上とお母上の生き方や、教育に由来するものなんだろうけど」
口を開けたまま黙って聞いているオズヴァルド様を見て、エルヴィーノ様はにやっと笑う。
「アレクも俺に負けず劣らず、激変したぞ。
後で驚くなよ」
「あ、ああ…
それについては、昨日、少しだけ会ってすごく感じた」
「昨日?」
驚いたようにエルヴィーノ様はオズヴァルド様の方に向き直る。
「よくそんな時間あったな」
「無理くりスケジュールこじ開けたって感じだったけどな…
ほら、あの、南部の蜂起のことで。
オレも軍医として同行させる気らしい」
オズヴァルド様も腕組みを解いて、椅子に座りなおした。
「あっ、その話はここでは」
エルヴィーノ様は私の顔をちらっと見て慌てたように制する。
「え、南部の蜂起って、なんですか?!」
私はエルヴィーノ様へ身体を向けて前へ乗り出す。
エルヴィーノ様は困ったように視線を泳がせたが、やがてひとつ、大きく息をついた。
「まだ、はっきりしたことは判らない。
だから貴女にはまだ知らせないでおこうと、アレクと話したんだ。
セノフォンテにもまだ話してない」
「…シエーラ地方で蜂起があったと、連絡が来た。
隣国の都市と結託して、兵を挙げたらしい。
先日の南部の小競り合いは、中央の戦力を見定めるためのカモフラージュだったようだ。
どうもおかしいと思ったんだよ」
私は身体が小刻みに震えだすのを抑えられなかった。
お母様…レオ兄様は…ご無事だろうか。
エルヴィーノ様は私の顔を見て、ぎゅっと抱きしめ、背中を撫でさする。
「だからまだ、確定ではないから。
大丈夫だ、兵を送って、もしも本当だったら鎮圧に乗り出してるから。
そんなに大事にはならないよ、大丈夫」
その時、扉の外から声がかかった。
「クレメンティナ様、お召し替えのお時間でございます。
別室にご案内いたします」
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