身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第五章 宮廷

17.新・大公妃

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 アレク様はバルコニーの端近に立って、一斉にお辞儀カーテシーするご愛妾候補の女性たちを見回し、アレク様は頷いて「顔を上げて」と言った。

 「余はそなたたちひとりひとりのデータを見て全員と面談をし、様々な話を聞いた。
 また、ダンスパーティやいろいろな催しの中でつぶさに観察した。
 ずいぶん待たせて申し訳なかったが、この件に関する余の本気度は判ってもらえたかと思う。
 余は、この国の行く末を案じ、国民の幸せを切に願っている」

 「そして、その結果」

 そこで大きく息を吸って、ぐっと胸に力を籠める。
 私は耳を塞ぎたくなって、目を閉じ両手をぎゅうっと握りしめた。

 「―――クレメンティナ・ベアトリーチェ・ディ・ステファネッリ・ダ・シエーラ」
 おお…と場がどよめく。
 
 「へ?」
 私は間抜けな声で言って口を開けたまま、こちらを振り返って微笑むアレク様をぽかんと眺める。
 「クラリッサ、こちらへおいで」
 アレク様はくすくす笑いながら手を差し伸べた。

 突然のことに頭が真っ白になって足が竦む私の肩を、誰かがそっと押して進ませる。
 振り向くと、にぃ兄様がにこっと笑って私をアレク様の方へと導いていく。
 「娘とヴァージンロードを歩く父親の気分」
 苦笑するように言って、アレク様の前まで行き「妹をよろしくお願い申し上げます」と頭を下げた。

 私の腰を押して、一歩前に出る私の耳元に口を寄せ「幸せに」と囁いて離れる。
 差し出すアレク様の手に自分の手を置くと、強い力で引き寄せられ肩を抱かれた。
 額にアレク様の頬の感触と、吐息を感じて頬が赤くなる。
 
 ち…かい…
 で、また徽章が痛い…
 
 アレク様は私を離すと、私の手を取り片膝を床について胸に手をあてた。
 私を見上げて力強い声ではっきりと言葉を紡ぎだす。
 「クレメンティナ・ステファネッリ殿。
 余の妃になってくれますか」
 
 私は今日イチ、混乱して、いろんな場面が思考が断片的に頭を駆け巡り、答えを躊躇する。
 アレク様が、まさかの大公陛下だったこと。
 侯爵様とにぃ兄様、エルヴィーノ様のこと、侯爵の地位。
 お母様とレオ兄様のこと、お嫁様とお腹の赤ちゃん。
 シエーラが大変な状況にあって、それにお館様が関わっていて。
 そして、婚姻の破棄を告げられた大公妃様の真っ青な顔色…
 
 アレク様のことは、好き…だけど。
 考えなくちゃいけないことがいっぱいあって、私、この状況で大公妃とか…無理っ!
 
 誰か助けて。
 そんな思いで、玉座の向こう側にいるお母様やお兄様方を見る。
 
 お母様やお兄様方、エルヴィーノ様と新ヴァラリオーティ侯爵様が、懸命に首を縦に振っている。
 へ?
 私が皆さんを凝視していると、宰相様も加わり、アレク様を掌で指して、私に頷けと促していらっしゃるようだ。
 いつの間にか戻って来られていたエセルバート様もOKをハンドサインで送っていらっしゃる。

 …なんか判んないけど、これは…
 私は余計に混乱しつつ、皆さんの熱気に押されるようにして、アレク様の真剣なお顔に視線を戻し、うなずいた。
 「はい、喜んで」

 消え入りそうな声で答えると、アレク様はその端正なお顔をくしゃっと歪めて「やった…」と呟いた。
 そしてすごい勢いで立ち上がると、私の腰の下に腕を回してぐいっと持ち上げた。
 抱き上げたまま、笑いながらくるっと横に一回転する。

 急に視界が高くなってそのうえ遠心力がかかり、私は慌ててアレク様にしがみついた。
 アレク様は笑って、ゆっくり私を降ろした。
 
 大広間に集った方々は、唖然として私たちを見上げている。
 その時、比較的前の方にいた、偉そうな貴族が険しい顔で声を上げた。
 「しかし、そのお方は」

 「地方の貧乏貴族の令嬢でご愛妾候補にも挙がっていなかったお方を、とは、どういうおつもりですか」
 貴族の言葉を遮るように、背後から宰相様が大きな声で問う。
 …だけどなんて言うか、棒読み??

 「…へったくそ」
 私の頭の上でチッと舌打ちして、小さな声でアレク様は毒づく。
 そして背を伸ばして貴族と宰相様に交互に視線を遣った。

 「それについては問題ない。
 クレメンティナは、元々、余の愛妾候補としてシエーラから首都ピストリアに向かう途中で、山賊に襲われた。
 エルヴィーノ・ヴァラリオーティ率いる山賊討伐隊に助けられて、まあ、いろいろあって余が一時保護した」
 
 端折り過ぎでは…
 私は青くなる。
 一番大事な『身代わり』ってとこが抜けてるし!
 
 「先程、皆も聞いての通り、クレメンティナの父親はヴァラリオーティ侯爵家の嫡子だ。
 結婚したステファネッリ家の爵位を継いではいたが、血統としては申し分ないだろう」
 「それについて、お話があります」
 唐突に新ヴァラリオーティ侯爵様が一歩前に出て話し出す。

 「私はレオンツィオ・ステファネッリ殿の御辞退により、ヴァラリオーティの名を継ぎ侯爵家を存続させることができました。
 恩返しというわけではないが、従妹のクレメンティナ嬢を引き取り、正式に私の妹クレメンティナ・ヴァラリオーティとして、大公陛下に嫁がせましょう」
 
 「そういうことなら、仕方ないですな。
 承諾するしかありませんね、エヴァンジェリスタ公爵殿」
 またまた棒読みの一本調子で宰相様が言い、エヴァンジェリスタ公爵と呼ばれた貴族様はぎろっと宰相様を睨んで不服そうに黙り込んだ。

 「大公陛下・大公妃陛下万歳!」
 大広間の後方で大きな声がして、振り返るとオズヴァルド様が両手を上げて、それから大きく拍手した。
 だんだんとご愛妾候補の令嬢たちや、貴族の方々も笑顔になって拍手する。

 アレク様は私の腰を抱き寄せて反対の手で私の頬を撫でて仰向かせ、唇にそっとキスした。

 
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