97 / 172
第五章 宮廷
17.新・大公妃
しおりを挟む
アレク様はバルコニーの端近に立って、一斉にお辞儀するご愛妾候補の女性たちを見回し、アレク様は頷いて「顔を上げて」と言った。
「余はそなたたちひとりひとりのデータを見て全員と面談をし、様々な話を聞いた。
また、ダンスパーティやいろいろな催しの中でつぶさに観察した。
ずいぶん待たせて申し訳なかったが、この件に関する余の本気度は判ってもらえたかと思う。
余は、この国の行く末を案じ、国民の幸せを切に願っている」
「そして、その結果」
そこで大きく息を吸って、ぐっと胸に力を籠める。
私は耳を塞ぎたくなって、目を閉じ両手をぎゅうっと握りしめた。
「―――クレメンティナ・ベアトリーチェ・ディ・ステファネッリ・ダ・シエーラ」
おお…と場がどよめく。
「へ?」
私は間抜けな声で言って口を開けたまま、こちらを振り返って微笑むアレク様をぽかんと眺める。
「クラリッサ、こちらへおいで」
アレク様はくすくす笑いながら手を差し伸べた。
突然のことに頭が真っ白になって足が竦む私の肩を、誰かがそっと押して進ませる。
振り向くと、にぃ兄様がにこっと笑って私をアレク様の方へと導いていく。
「娘とヴァージンロードを歩く父親の気分」
苦笑するように言って、アレク様の前まで行き「妹をよろしくお願い申し上げます」と頭を下げた。
私の腰を押して、一歩前に出る私の耳元に口を寄せ「幸せに」と囁いて離れる。
差し出すアレク様の手に自分の手を置くと、強い力で引き寄せられ肩を抱かれた。
額にアレク様の頬の感触と、吐息を感じて頬が赤くなる。
ち…かい…
で、また徽章が痛い…
アレク様は私を離すと、私の手を取り片膝を床について胸に手をあてた。
私を見上げて力強い声ではっきりと言葉を紡ぎだす。
「クレメンティナ・ステファネッリ殿。
余の妃になってくれますか」
私は今日イチ、混乱して、いろんな場面が思考が断片的に頭を駆け巡り、答えを躊躇する。
アレク様が、まさかの大公陛下だったこと。
侯爵様とにぃ兄様、エルヴィーノ様のこと、侯爵の地位。
お母様とレオ兄様のこと、お嫁様とお腹の赤ちゃん。
シエーラが大変な状況にあって、それにお館様が関わっていて。
そして、婚姻の破棄を告げられた大公妃様の真っ青な顔色…
アレク様のことは、好き…だけど。
考えなくちゃいけないことがいっぱいあって、私、この状況で大公妃とか…無理っ!
誰か助けて。
そんな思いで、玉座の向こう側にいるお母様やお兄様方を見る。
お母様やお兄様方、エルヴィーノ様と新ヴァラリオーティ侯爵様が、懸命に首を縦に振っている。
へ?
私が皆さんを凝視していると、宰相様も加わり、アレク様を掌で指して、私に頷けと促していらっしゃるようだ。
いつの間にか戻って来られていたエセルバート様もOKをハンドサインで送っていらっしゃる。
…なんか判んないけど、これは…
私は余計に混乱しつつ、皆さんの熱気に押されるようにして、アレク様の真剣なお顔に視線を戻し、うなずいた。
「はい、喜んで」
消え入りそうな声で答えると、アレク様はその端正なお顔をくしゃっと歪めて「やった…」と呟いた。
そしてすごい勢いで立ち上がると、私の腰の下に腕を回してぐいっと持ち上げた。
抱き上げたまま、笑いながらくるっと横に一回転する。
急に視界が高くなってそのうえ遠心力がかかり、私は慌ててアレク様にしがみついた。
アレク様は笑って、ゆっくり私を降ろした。
大広間に集った方々は、唖然として私たちを見上げている。
その時、比較的前の方にいた、偉そうな貴族が険しい顔で声を上げた。
「しかし、そのお方は」
「地方の貧乏貴族の令嬢でご愛妾候補にも挙がっていなかったお方を、とは、どういうおつもりですか」
貴族の言葉を遮るように、背後から宰相様が大きな声で問う。
…だけどなんて言うか、棒読み??
「…へったくそ」
私の頭の上でチッと舌打ちして、小さな声でアレク様は毒づく。
そして背を伸ばして貴族と宰相様に交互に視線を遣った。
「それについては問題ない。
クレメンティナは、元々、余の愛妾候補としてシエーラから首都ピストリアに向かう途中で、山賊に襲われた。
エルヴィーノ・ヴァラリオーティ率いる山賊討伐隊に助けられて、まあ、いろいろあって余が一時保護した」
端折り過ぎでは…
私は青くなる。
一番大事な『身代わり』ってとこが抜けてるし!
「先程、皆も聞いての通り、クレメンティナの父親はヴァラリオーティ侯爵家の嫡子だ。
結婚したステファネッリ家の爵位を継いではいたが、血統としては申し分ないだろう」
「それについて、お話があります」
唐突に新ヴァラリオーティ侯爵様が一歩前に出て話し出す。
「私はレオンツィオ・ステファネッリ殿の御辞退により、ヴァラリオーティの名を継ぎ侯爵家を存続させることができました。
恩返しというわけではないが、従妹のクレメンティナ嬢を引き取り、正式に私の妹クレメンティナ・ヴァラリオーティとして、大公陛下に嫁がせましょう」
「そういうことなら、仕方ないですな。
承諾するしかありませんね、エヴァンジェリスタ公爵殿」
またまた棒読みの一本調子で宰相様が言い、エヴァンジェリスタ公爵と呼ばれた貴族様はぎろっと宰相様を睨んで不服そうに黙り込んだ。
「大公陛下・大公妃陛下万歳!」
大広間の後方で大きな声がして、振り返るとオズヴァルド様が両手を上げて、それから大きく拍手した。
だんだんとご愛妾候補の令嬢たちや、貴族の方々も笑顔になって拍手する。
アレク様は私の腰を抱き寄せて反対の手で私の頬を撫でて仰向かせ、唇にそっとキスした。
「余はそなたたちひとりひとりのデータを見て全員と面談をし、様々な話を聞いた。
また、ダンスパーティやいろいろな催しの中でつぶさに観察した。
ずいぶん待たせて申し訳なかったが、この件に関する余の本気度は判ってもらえたかと思う。
余は、この国の行く末を案じ、国民の幸せを切に願っている」
「そして、その結果」
そこで大きく息を吸って、ぐっと胸に力を籠める。
私は耳を塞ぎたくなって、目を閉じ両手をぎゅうっと握りしめた。
「―――クレメンティナ・ベアトリーチェ・ディ・ステファネッリ・ダ・シエーラ」
おお…と場がどよめく。
「へ?」
私は間抜けな声で言って口を開けたまま、こちらを振り返って微笑むアレク様をぽかんと眺める。
「クラリッサ、こちらへおいで」
アレク様はくすくす笑いながら手を差し伸べた。
突然のことに頭が真っ白になって足が竦む私の肩を、誰かがそっと押して進ませる。
振り向くと、にぃ兄様がにこっと笑って私をアレク様の方へと導いていく。
「娘とヴァージンロードを歩く父親の気分」
苦笑するように言って、アレク様の前まで行き「妹をよろしくお願い申し上げます」と頭を下げた。
私の腰を押して、一歩前に出る私の耳元に口を寄せ「幸せに」と囁いて離れる。
差し出すアレク様の手に自分の手を置くと、強い力で引き寄せられ肩を抱かれた。
額にアレク様の頬の感触と、吐息を感じて頬が赤くなる。
ち…かい…
で、また徽章が痛い…
アレク様は私を離すと、私の手を取り片膝を床について胸に手をあてた。
私を見上げて力強い声ではっきりと言葉を紡ぎだす。
「クレメンティナ・ステファネッリ殿。
余の妃になってくれますか」
私は今日イチ、混乱して、いろんな場面が思考が断片的に頭を駆け巡り、答えを躊躇する。
アレク様が、まさかの大公陛下だったこと。
侯爵様とにぃ兄様、エルヴィーノ様のこと、侯爵の地位。
お母様とレオ兄様のこと、お嫁様とお腹の赤ちゃん。
シエーラが大変な状況にあって、それにお館様が関わっていて。
そして、婚姻の破棄を告げられた大公妃様の真っ青な顔色…
アレク様のことは、好き…だけど。
考えなくちゃいけないことがいっぱいあって、私、この状況で大公妃とか…無理っ!
誰か助けて。
そんな思いで、玉座の向こう側にいるお母様やお兄様方を見る。
お母様やお兄様方、エルヴィーノ様と新ヴァラリオーティ侯爵様が、懸命に首を縦に振っている。
へ?
私が皆さんを凝視していると、宰相様も加わり、アレク様を掌で指して、私に頷けと促していらっしゃるようだ。
いつの間にか戻って来られていたエセルバート様もOKをハンドサインで送っていらっしゃる。
…なんか判んないけど、これは…
私は余計に混乱しつつ、皆さんの熱気に押されるようにして、アレク様の真剣なお顔に視線を戻し、うなずいた。
「はい、喜んで」
消え入りそうな声で答えると、アレク様はその端正なお顔をくしゃっと歪めて「やった…」と呟いた。
そしてすごい勢いで立ち上がると、私の腰の下に腕を回してぐいっと持ち上げた。
抱き上げたまま、笑いながらくるっと横に一回転する。
急に視界が高くなってそのうえ遠心力がかかり、私は慌ててアレク様にしがみついた。
アレク様は笑って、ゆっくり私を降ろした。
大広間に集った方々は、唖然として私たちを見上げている。
その時、比較的前の方にいた、偉そうな貴族が険しい顔で声を上げた。
「しかし、そのお方は」
「地方の貧乏貴族の令嬢でご愛妾候補にも挙がっていなかったお方を、とは、どういうおつもりですか」
貴族の言葉を遮るように、背後から宰相様が大きな声で問う。
…だけどなんて言うか、棒読み??
「…へったくそ」
私の頭の上でチッと舌打ちして、小さな声でアレク様は毒づく。
そして背を伸ばして貴族と宰相様に交互に視線を遣った。
「それについては問題ない。
クレメンティナは、元々、余の愛妾候補としてシエーラから首都ピストリアに向かう途中で、山賊に襲われた。
エルヴィーノ・ヴァラリオーティ率いる山賊討伐隊に助けられて、まあ、いろいろあって余が一時保護した」
端折り過ぎでは…
私は青くなる。
一番大事な『身代わり』ってとこが抜けてるし!
「先程、皆も聞いての通り、クレメンティナの父親はヴァラリオーティ侯爵家の嫡子だ。
結婚したステファネッリ家の爵位を継いではいたが、血統としては申し分ないだろう」
「それについて、お話があります」
唐突に新ヴァラリオーティ侯爵様が一歩前に出て話し出す。
「私はレオンツィオ・ステファネッリ殿の御辞退により、ヴァラリオーティの名を継ぎ侯爵家を存続させることができました。
恩返しというわけではないが、従妹のクレメンティナ嬢を引き取り、正式に私の妹クレメンティナ・ヴァラリオーティとして、大公陛下に嫁がせましょう」
「そういうことなら、仕方ないですな。
承諾するしかありませんね、エヴァンジェリスタ公爵殿」
またまた棒読みの一本調子で宰相様が言い、エヴァンジェリスタ公爵と呼ばれた貴族様はぎろっと宰相様を睨んで不服そうに黙り込んだ。
「大公陛下・大公妃陛下万歳!」
大広間の後方で大きな声がして、振り返るとオズヴァルド様が両手を上げて、それから大きく拍手した。
だんだんとご愛妾候補の令嬢たちや、貴族の方々も笑顔になって拍手する。
アレク様は私の腰を抱き寄せて反対の手で私の頬を撫でて仰向かせ、唇にそっとキスした。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる