113 / 172
第六章 シエーラの戦闘
13.朝食と戦況
しおりを挟む
翌朝、私は寝返りを打とうとして、酷い身体の痛みに思わず呻いて目を覚ました。
広いベッド周りに下がる、どっしりとしたカーテンのせいでベッドの上は暗く、私はなんとか起き上がって手を伸ばし、カーテンを開けた。
「お、起きたか」
差し込む朝日の眩しさに眉をしかめていると、目の前に人が立った。
アレク様…
私は昨夜のことを思い出して、赤くなりながら寝具で身体を隠す。
アレク様はくすっと笑ってベッドの上に膝をついて乗ってきて、私の頤に指をかけて仰向かせ、唇に優しくキスした。
「可愛い顔をよく見せて」
唇を離してアレク様は、照れて下を向く私を愛しげな瞳で見つめる。
私は、下着の上に長衣を羽織っただけの、アレク様のラフな格好をちらっと見てまたうつむく。
長衣がはだけていて筋肉質な胸が見えて、目のやり場に困ってしまう。
「やっと俺のものになったな。
嬉しくて昨夜は加減を忘れてしまった。
…立てるか?」
アレク様は私の手を引いてベッドから降ろそうとするが、腰が抜けたようになってしまっていて、立つことができない。
「…悪かったなぁ…今夜はもうちょっと考えるから」
申し訳なさそうに言うとアレク様は胸にかけた寝具ごと私を抱き上げて、寝室の大きな椅子に座らせた。
今夜…も…?
思わず身体を縮めると、アレク様は屈んで頬にキスして耳元に口を寄せ、甘い声で囁く。
「昨夜は最高だった…
可愛い声を今日も聞かせて」
私は言葉も出ずに真っ赤になって顔を背ける。
アレク様はくすくす笑って体を起こして、私の頭を撫でる。
その時、寝室の外から遠慮がちにノックの音がして「…アレク様、そろそろ…」とフランシスカの声がした。
「ああ、起きているよ、入ってきて大丈夫だ」
アレク様が声をかけると、「失礼いたします」の声と共に扉が開いてフランシスカと、私付きの侍女が入ってきて片足を折ってお辞儀した。
「おはようございます、お食事を準備いたしました。
お召し替えをお願いいたします」
「今日は忙しいぞ。
結婚に関する外国の使節団は、国の情勢を鑑みてとりあえず断ったが、それでも会わなきゃならない人もいるし…
旅の準備は、フランシスカにアンナベッラ、そち達に頼んだ」
「畏まりました」
二人は足を止めてお辞儀する。
私は抱えられるようにして着替えて髪を整えてもらい、アレク様に抱えあげられて食卓へ着く。
朝食用のテーブルは小さく、すぐそばにアレク様が座ってあれこれ世話を焼く。
「アレク様、あの、わたくしひとりで大丈夫でございます」
「さようでございますよ、アレク様。
わたくしどもの仕事を取り上げないでくださいまし。
エセルバート様がお越しでございます」
私の言葉を引き取ってフランシスカが言い、アレク様は不貞腐れたように横を向いた。
「可愛くて…クレメンティナのくるくる変わる豊かな表情を一秒だって見逃したくないんだよ。
新婚の朝くらい、気を使えよお前ら…」
私はあからさまな賛辞に照れてしまってうつむき、フランシスカとアンナベッラは咳払いして明後日の方を向く。
「おはようございます」と大きな声で言いながら入ってきたエセルバート様が「おお、ご機嫌宜しゅう、首尾よくご結婚の儀を終えられた由、おめでとう存じます」と快活に言ってお辞儀をした。
ぅわ…恥ずかしい…けど、王族や貴族の結婚って後継ぎを作るため、一般の人よりもずっと重い意味を持つんだよね。
私だって、レオ兄様のお嫁様に赤ちゃんができたと聞いたとき、ちょっと安心したもの。
これでステファネッリ家も安泰だわって。
…私も、アレク様のお子を、身ごもらないといけないんだなぁ。
「うん、ありがとう。
で、どうだ、シエーラの状況は」
アレク様は結局、また私に近づいて髪を撫でる。
エセルバート様は暗く厳しい表情になった。
「芳しくありません。
今日にもエルヴィーノ殿の部隊が到着しますが、傭兵の雇用期限が切れます」
「傭兵には物資を配って略奪を止めさせろ。
それから報奨金の額を上げて、希望者には雇用期間延長して。
各地からの援軍や援助物資はどうなってる」
「それについては私から申し上げます」
エセルバート様の巨躯の後ろから手になにか抱えた人が出てきて、私はビックリする。
アレク様はそんな私を見て、ふっと笑って「よし、話せ、地図はそこに広げろ」と言い、立ち上がって部屋の中ほどにある大きな机の方へ歩いて行った。
私もなんとか立ち上がり、よろよろとフランシスカにつかまりながらテーブルの方へ歩み寄る。
「クレメンティナは座ってろ」
「そうですよ、ご無理なさらず」
アレク様とエセルバート様が口々に言うが、私は首を横に振る。
「わたくしもお話を聞かせて頂きとうございます。
わたくしに構わず、お話しくださいませ」
できるだけ凛とした声で言うと、アレク様は「こっちへ来い」と言って私を支えながら、卓上に広げられた地図に目を落とした。
「昨日、報告が来た時点での状況を地図に起こしました」
参謀次長の言葉を聞いて私は眩暈がする。
シエーラの大部分が、赤く塗られた戦闘地になっている。
私の家のあたりも、もちろん領主館も。
畑も、果樹園も。
しっかりしなくちゃ。これが現実。
私はエセルバート様と参謀次長の言葉に集中した。
広いベッド周りに下がる、どっしりとしたカーテンのせいでベッドの上は暗く、私はなんとか起き上がって手を伸ばし、カーテンを開けた。
「お、起きたか」
差し込む朝日の眩しさに眉をしかめていると、目の前に人が立った。
アレク様…
私は昨夜のことを思い出して、赤くなりながら寝具で身体を隠す。
アレク様はくすっと笑ってベッドの上に膝をついて乗ってきて、私の頤に指をかけて仰向かせ、唇に優しくキスした。
「可愛い顔をよく見せて」
唇を離してアレク様は、照れて下を向く私を愛しげな瞳で見つめる。
私は、下着の上に長衣を羽織っただけの、アレク様のラフな格好をちらっと見てまたうつむく。
長衣がはだけていて筋肉質な胸が見えて、目のやり場に困ってしまう。
「やっと俺のものになったな。
嬉しくて昨夜は加減を忘れてしまった。
…立てるか?」
アレク様は私の手を引いてベッドから降ろそうとするが、腰が抜けたようになってしまっていて、立つことができない。
「…悪かったなぁ…今夜はもうちょっと考えるから」
申し訳なさそうに言うとアレク様は胸にかけた寝具ごと私を抱き上げて、寝室の大きな椅子に座らせた。
今夜…も…?
思わず身体を縮めると、アレク様は屈んで頬にキスして耳元に口を寄せ、甘い声で囁く。
「昨夜は最高だった…
可愛い声を今日も聞かせて」
私は言葉も出ずに真っ赤になって顔を背ける。
アレク様はくすくす笑って体を起こして、私の頭を撫でる。
その時、寝室の外から遠慮がちにノックの音がして「…アレク様、そろそろ…」とフランシスカの声がした。
「ああ、起きているよ、入ってきて大丈夫だ」
アレク様が声をかけると、「失礼いたします」の声と共に扉が開いてフランシスカと、私付きの侍女が入ってきて片足を折ってお辞儀した。
「おはようございます、お食事を準備いたしました。
お召し替えをお願いいたします」
「今日は忙しいぞ。
結婚に関する外国の使節団は、国の情勢を鑑みてとりあえず断ったが、それでも会わなきゃならない人もいるし…
旅の準備は、フランシスカにアンナベッラ、そち達に頼んだ」
「畏まりました」
二人は足を止めてお辞儀する。
私は抱えられるようにして着替えて髪を整えてもらい、アレク様に抱えあげられて食卓へ着く。
朝食用のテーブルは小さく、すぐそばにアレク様が座ってあれこれ世話を焼く。
「アレク様、あの、わたくしひとりで大丈夫でございます」
「さようでございますよ、アレク様。
わたくしどもの仕事を取り上げないでくださいまし。
エセルバート様がお越しでございます」
私の言葉を引き取ってフランシスカが言い、アレク様は不貞腐れたように横を向いた。
「可愛くて…クレメンティナのくるくる変わる豊かな表情を一秒だって見逃したくないんだよ。
新婚の朝くらい、気を使えよお前ら…」
私はあからさまな賛辞に照れてしまってうつむき、フランシスカとアンナベッラは咳払いして明後日の方を向く。
「おはようございます」と大きな声で言いながら入ってきたエセルバート様が「おお、ご機嫌宜しゅう、首尾よくご結婚の儀を終えられた由、おめでとう存じます」と快活に言ってお辞儀をした。
ぅわ…恥ずかしい…けど、王族や貴族の結婚って後継ぎを作るため、一般の人よりもずっと重い意味を持つんだよね。
私だって、レオ兄様のお嫁様に赤ちゃんができたと聞いたとき、ちょっと安心したもの。
これでステファネッリ家も安泰だわって。
…私も、アレク様のお子を、身ごもらないといけないんだなぁ。
「うん、ありがとう。
で、どうだ、シエーラの状況は」
アレク様は結局、また私に近づいて髪を撫でる。
エセルバート様は暗く厳しい表情になった。
「芳しくありません。
今日にもエルヴィーノ殿の部隊が到着しますが、傭兵の雇用期限が切れます」
「傭兵には物資を配って略奪を止めさせろ。
それから報奨金の額を上げて、希望者には雇用期間延長して。
各地からの援軍や援助物資はどうなってる」
「それについては私から申し上げます」
エセルバート様の巨躯の後ろから手になにか抱えた人が出てきて、私はビックリする。
アレク様はそんな私を見て、ふっと笑って「よし、話せ、地図はそこに広げろ」と言い、立ち上がって部屋の中ほどにある大きな机の方へ歩いて行った。
私もなんとか立ち上がり、よろよろとフランシスカにつかまりながらテーブルの方へ歩み寄る。
「クレメンティナは座ってろ」
「そうですよ、ご無理なさらず」
アレク様とエセルバート様が口々に言うが、私は首を横に振る。
「わたくしもお話を聞かせて頂きとうございます。
わたくしに構わず、お話しくださいませ」
できるだけ凛とした声で言うと、アレク様は「こっちへ来い」と言って私を支えながら、卓上に広げられた地図に目を落とした。
「昨日、報告が来た時点での状況を地図に起こしました」
参謀次長の言葉を聞いて私は眩暈がする。
シエーラの大部分が、赤く塗られた戦闘地になっている。
私の家のあたりも、もちろん領主館も。
畑も、果樹園も。
しっかりしなくちゃ。これが現実。
私はエセルバート様と参謀次長の言葉に集中した。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる