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第八章 領主館
9.紹介
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レセンデス王は席に着いた私たちを見回し満足げにうなずく。
それを合図に動き出した執事が注いだワインのグラスを持ち上げる。
『ラ・カドリナ王国とダリスカーナ大公国の未来に乾杯!』
「乾杯」
上機嫌で言う王にとりあえず唱和しながら、私は違和感を覚える。
まだ今回の戦について戦後の処理について、何の話し合いも成立していないのに、王様はどうしてこんなに機嫌が良いのだろう。
何か事前に通達でもあったのだろうか。
私の知らない、事情があるのだろうか。
しかし、こっそり周りを見回してみると、左隣のアレク様も右側のエルヴィーノ様もそのお隣のエセルバート様も困惑したような、釈然としない表情をしている。
それだけでなく、向かいに座るラ・カドリナ国の将軍や第二王子も不得要領な顔でワイングラスを持っている。
ひとりだけ満面の笑みを浮かべている、若い女性だけがなんだか場から浮いている。
『おお、そうであった。
まだ互いに紹介もしていなかった』
レセンデス王は私たちの表情をどう読んだのか、にこにこと笑みを浮かべて話し出す。
『朕の隣に居るのが、我が国の誇る精鋭部隊の隊長であり将軍であるサルディネロ。
その隣は、第二王子のロレンシオ。
この度の処理について見学させようと連れてきた』
そう言って王は、笑みを深くしてロレンシオ王子の横にいる女性を見遣る。
『そしてロレンシオの隣にいるのが、第一王女のセレスティナ。
朕の掌中の珠じゃ。
幼いころ、アレッサンドロ大公とも面識があろう』
セレスティナ王女はアレク様の方を向いてにこっと微笑んだ。
『お久しぶりでございます、アレッサンドロ大公様
お変わりなくて嬉しいわ』
可愛らしい声で挨拶する。
アレク様は「…お久しぶりですね、あなたはずいぶん大きくなられた」とにこりともせずに言う。
エルヴィーノ様が心なし、緊張するのが感じられて、私は嫌な予感が自分の中で大きくなっていくのを感じる。
「ではこちらもご紹介いたしましょう。
余の隣に居るのが、最愛の妃クレメンティナ」
私はぱっと顔が赤くなるのが判って、羞ずかしくなって頭を下げる。
「妃の横に居るのが今回の内紛の討伐軍の大将、エルヴィーノ・ヴァラリオーティ。
そしてその隣は、言わずともお判りでしょうが、エセルバート・アシュバートン。
ダイアナ前妃の護衛のため、たまたま我が国に滞在していて今回、参加してくれた」
『ほう…内紛、ねえ…
アシュバートン卿がたまたま参加、と…』
ワイングラスをくるりと回して、レセンデス王は意味深に呟く。
『粗餐ですが召し上がってください。
その後、協議しましょう』
レセンデス王が朗らかに言い、私たちは食事を始める。
冷めてしまったお皿は女中がさっと取り替えてくれ、私たちは久しぶりの温かい食事を味わった。
アレク様もエルヴィーノ様も、両隣から私の食事を手伝おうとする。
「あの、大丈夫です、大丈夫です」
向かい側の将軍は怪訝そうな表情を浮かべ、ロレンシオ王子は吹き出すのを堪えているようで、セレスティナ王女は先程とは打って変わって刺すような視線で見ている。
私は居たたまれない思いで味も分からぬままに口の中に押し込んだ。
『...そちらのお嬢さんは食事のマナーに不都合があるのかな。
こう言っては失礼だが、貴族とはいえ辺境の野育ちのお嬢さんにダリスカーナのような大国のお妃が務まるとも思えないが』
王の揶揄するような声音に、私は竦んで涙が浮かんでくる。
王様の仰る通りだ...
やっぱり私では無理なんだわ。
私はどう言われてもいいけれど、アレク様が貶められるのは耐えられない。
「ラ・カドリナ国の王ともあろうお方が本当に失礼ですね。
お言葉を返すようですが、そちらの王女様から先程から余やエルヴィーノは不躾にジロジロジロジロ見られていて、非常に不愉快だ。
王女の躾が行き届いているとは言い難いのでは」
アレク様の冷たい声と言い方に、セレスティナ王女はむっとしたような顔でぷいっと横を向いた。
『それは失礼した。
セレスティナはずっとアレッサンドロ殿に憧れておったのでな。
一昨年前、貴殿がグレート・スカイルランド国のヘザリントン家の令嬢と結婚なさった折にはそれはもう嘆いて』
『お父様!』
レセンデス王の言葉にセレスティナ王女は焦ったように抗議する。
しかしレセンデス王はナプキンで口を拭うと、サラッととんでもないことを言い出した。
『宰相殿とヴァラリオーティ侯爵からバルベルデ伯爵の蜂起の理由について手紙を頂いたとはいえ、わざわざ朕が終戦の協議にこんな田舎まで来たのは』
そこで意味深に言葉を切り、セレスティナ王女をちらっと愛情のこもった眼で見遣る。
『この度、その妃陛下を離縁なさったとお聞きしまして、アレッサンドロ殿に、セレスティナとの婚姻を考えていただきたいと思っておるからです』
それを合図に動き出した執事が注いだワインのグラスを持ち上げる。
『ラ・カドリナ王国とダリスカーナ大公国の未来に乾杯!』
「乾杯」
上機嫌で言う王にとりあえず唱和しながら、私は違和感を覚える。
まだ今回の戦について戦後の処理について、何の話し合いも成立していないのに、王様はどうしてこんなに機嫌が良いのだろう。
何か事前に通達でもあったのだろうか。
私の知らない、事情があるのだろうか。
しかし、こっそり周りを見回してみると、左隣のアレク様も右側のエルヴィーノ様もそのお隣のエセルバート様も困惑したような、釈然としない表情をしている。
それだけでなく、向かいに座るラ・カドリナ国の将軍や第二王子も不得要領な顔でワイングラスを持っている。
ひとりだけ満面の笑みを浮かべている、若い女性だけがなんだか場から浮いている。
『おお、そうであった。
まだ互いに紹介もしていなかった』
レセンデス王は私たちの表情をどう読んだのか、にこにこと笑みを浮かべて話し出す。
『朕の隣に居るのが、我が国の誇る精鋭部隊の隊長であり将軍であるサルディネロ。
その隣は、第二王子のロレンシオ。
この度の処理について見学させようと連れてきた』
そう言って王は、笑みを深くしてロレンシオ王子の横にいる女性を見遣る。
『そしてロレンシオの隣にいるのが、第一王女のセレスティナ。
朕の掌中の珠じゃ。
幼いころ、アレッサンドロ大公とも面識があろう』
セレスティナ王女はアレク様の方を向いてにこっと微笑んだ。
『お久しぶりでございます、アレッサンドロ大公様
お変わりなくて嬉しいわ』
可愛らしい声で挨拶する。
アレク様は「…お久しぶりですね、あなたはずいぶん大きくなられた」とにこりともせずに言う。
エルヴィーノ様が心なし、緊張するのが感じられて、私は嫌な予感が自分の中で大きくなっていくのを感じる。
「ではこちらもご紹介いたしましょう。
余の隣に居るのが、最愛の妃クレメンティナ」
私はぱっと顔が赤くなるのが判って、羞ずかしくなって頭を下げる。
「妃の横に居るのが今回の内紛の討伐軍の大将、エルヴィーノ・ヴァラリオーティ。
そしてその隣は、言わずともお判りでしょうが、エセルバート・アシュバートン。
ダイアナ前妃の護衛のため、たまたま我が国に滞在していて今回、参加してくれた」
『ほう…内紛、ねえ…
アシュバートン卿がたまたま参加、と…』
ワイングラスをくるりと回して、レセンデス王は意味深に呟く。
『粗餐ですが召し上がってください。
その後、協議しましょう』
レセンデス王が朗らかに言い、私たちは食事を始める。
冷めてしまったお皿は女中がさっと取り替えてくれ、私たちは久しぶりの温かい食事を味わった。
アレク様もエルヴィーノ様も、両隣から私の食事を手伝おうとする。
「あの、大丈夫です、大丈夫です」
向かい側の将軍は怪訝そうな表情を浮かべ、ロレンシオ王子は吹き出すのを堪えているようで、セレスティナ王女は先程とは打って変わって刺すような視線で見ている。
私は居たたまれない思いで味も分からぬままに口の中に押し込んだ。
『...そちらのお嬢さんは食事のマナーに不都合があるのかな。
こう言っては失礼だが、貴族とはいえ辺境の野育ちのお嬢さんにダリスカーナのような大国のお妃が務まるとも思えないが』
王の揶揄するような声音に、私は竦んで涙が浮かんでくる。
王様の仰る通りだ...
やっぱり私では無理なんだわ。
私はどう言われてもいいけれど、アレク様が貶められるのは耐えられない。
「ラ・カドリナ国の王ともあろうお方が本当に失礼ですね。
お言葉を返すようですが、そちらの王女様から先程から余やエルヴィーノは不躾にジロジロジロジロ見られていて、非常に不愉快だ。
王女の躾が行き届いているとは言い難いのでは」
アレク様の冷たい声と言い方に、セレスティナ王女はむっとしたような顔でぷいっと横を向いた。
『それは失礼した。
セレスティナはずっとアレッサンドロ殿に憧れておったのでな。
一昨年前、貴殿がグレート・スカイルランド国のヘザリントン家の令嬢と結婚なさった折にはそれはもう嘆いて』
『お父様!』
レセンデス王の言葉にセレスティナ王女は焦ったように抗議する。
しかしレセンデス王はナプキンで口を拭うと、サラッととんでもないことを言い出した。
『宰相殿とヴァラリオーティ侯爵からバルベルデ伯爵の蜂起の理由について手紙を頂いたとはいえ、わざわざ朕が終戦の協議にこんな田舎まで来たのは』
そこで意味深に言葉を切り、セレスティナ王女をちらっと愛情のこもった眼で見遣る。
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