身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

文字の大きさ
149 / 172
第八章 領主館

9.紹介

しおりを挟む
 レセンデス王は席に着いた私たちを見回し満足げにうなずく。
 それを合図に動き出した執事が注いだワインのグラスを持ち上げる。

 『ラ・カドリナ王国とダリスカーナ大公国の未来に乾杯!』
 「乾杯」
 上機嫌で言う王にとりあえず唱和しながら、私は違和感を覚える。

 まだ今回の戦について戦後の処理について、何の話し合いも成立していないのに、王様はどうしてこんなに機嫌が良いのだろう。
 何か事前に通達でもあったのだろうか。
 私の知らない、事情があるのだろうか。

 しかし、こっそり周りを見回してみると、左隣のアレク様も右側のエルヴィーノ様もそのお隣のエセルバート様も困惑したような、釈然としない表情をしている。
 それだけでなく、向かいに座るラ・カドリナ国の将軍や第二王子も不得要領な顔でワイングラスを持っている。
 ひとりだけ満面の笑みを浮かべている、若い女性だけがなんだか場から浮いている。

 『おお、そうであった。
 まだ互いに紹介もしていなかった』
 レセンデス王は私たちの表情をどう読んだのか、にこにこと笑みを浮かべて話し出す。

 『朕の隣に居るのが、我が国の誇る精鋭部隊の隊長であり将軍であるサルディネロ。
 その隣は、第二王子のロレンシオ。
 この度の処理について見学させようと連れてきた』
 そう言って王は、笑みを深くしてロレンシオ王子の横にいる女性を見遣る。

 『そしてロレンシオの隣にいるのが、第一王女のセレスティナ。
 朕の掌中の珠じゃ。
 幼いころ、アレッサンドロ大公とも面識があろう』

 セレスティナ王女はアレク様の方を向いてにこっと微笑んだ。
 『お久しぶりでございます、アレッサンドロ大公様
 お変わりなくて嬉しいわ』
 可愛らしい声で挨拶する。

 アレク様は「…お久しぶりですね、あなたはずいぶん大きくなられた」とにこりともせずに言う。
 エルヴィーノ様が心なし、緊張するのが感じられて、私は嫌な予感が自分の中で大きくなっていくのを感じる。

 「ではこちらもご紹介いたしましょう。
 余の隣に居るのが、最愛の妃クレメンティナ」
 私はぱっと顔が赤くなるのが判って、羞ずかしくなって頭を下げる。

 「妃の横に居るのが今回の内紛の討伐軍の大将、エルヴィーノ・ヴァラリオーティ。
 そしてその隣は、言わずともお判りでしょうが、エセルバート・アシュバートン。
 ダイアナ前妃の護衛のため、たまたま我が国に滞在していて今回、参加してくれた」

 『ほう…内紛、ねえ…
 アシュバートン卿がたまたま参加、と…』
 ワイングラスをくるりと回して、レセンデス王は意味深に呟く。

 『粗餐ですが召し上がってください。
 その後、協議しましょう』
 レセンデス王が朗らかに言い、私たちは食事を始める。
 冷めてしまったお皿は女中がさっと取り替えてくれ、私たちは久しぶりの温かい食事を味わった。

 アレク様もエルヴィーノ様も、両隣から私の食事を手伝おうとする。
 「あの、大丈夫です、大丈夫です」
 向かい側の将軍は怪訝そうな表情を浮かべ、ロレンシオ王子は吹き出すのを堪えているようで、セレスティナ王女は先程とは打って変わって刺すような視線で見ている。
  私は居たたまれない思いで味も分からぬままに口の中に押し込んだ。

  『...そちらのお嬢さんは食事のマナーに不都合があるのかな。
 こう言っては失礼だが、貴族とはいえ辺境の野育ちのお嬢さんにダリスカーナのような大国のお妃が務まるとも思えないが』
  王の揶揄するような声音に、私は竦んで涙が浮かんでくる。

  王様の仰る通りだ...
  やっぱり私では無理なんだわ。
  私はどう言われてもいいけれど、アレク様が貶められるのは耐えられない。

  「ラ・カドリナ国の王ともあろうお方が本当に失礼ですね。
  お言葉を返すようですが、そちらの王女様から先程から余やエルヴィーノは不躾にジロジロジロジロ見られていて、非常に不愉快だ。
  王女の躾が行き届いているとは言い難いのでは」

  アレク様の冷たい声と言い方に、セレスティナ王女はむっとしたような顔でぷいっと横を向いた。

  『それは失礼した。
  セレスティナはずっとアレッサンドロ殿に憧れておったのでな。
  一昨年前、貴殿がグレート・スカイルランド国のヘザリントン家の令嬢と結婚なさった折にはそれはもう嘆いて』
  『お父様!』

   レセンデス王の言葉にセレスティナ王女は焦ったように抗議する。
 しかしレセンデス王はナプキンで口を拭うと、サラッととんでもないことを言い出した。

  『宰相殿とヴァラリオーティ侯爵からバルベルデ伯爵の蜂起の理由について手紙を頂いたとはいえ、わざわざ朕が終戦の協議にこんな田舎まで来たのは』
 そこで意味深に言葉を切り、セレスティナ王女をちらっと愛情のこもった眼で見遣る。

  『この度、その妃陛下を離縁なさったとお聞きしまして、アレッサンドロ殿に、セレスティナとの婚姻を考えていただきたいと思っておるからです』

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

処理中です...