94 / 161
第八章 崩御と弾劾
10.招集
しおりを挟む
それからのことは、後になって思い返してみても、靄の中に霞んでよく思い出せない。
とにかく陛下の崩御と王太子の即位を国内外に報せ、国葬と同時に戴冠式をやらなければならない。
実務的なこと、タイムスケジュールなどが頭の中を駆け巡ったけど、もちろん私にはそんなことを頼まれるわけでもなく相談すらされない立場だ。
私も何かお手伝いできることはないかしら…
だけど、そういう対外的なことはアンヌ=マリーとバルバストル大公爵がすべて抜かりなくやってくれるのかな。
私は王妃様のことが心配で、ずっとお傍についていたいと思ったのだけれど、王妃様に「一人にしてちょうだい」と言われてしまい、しおしおと部屋を後にした。
やっぱり、アンヌ=マリーが王妃陛下になるのか…
私はもう用なしってことなのか…
王太子はさっき『力を貸してくれ、俺のカスタード姫』と言ったけど。
どう、力を貸したらいいのよ。
何も言わず離婚に同意しろってこと?
それは別にいいけど。
そう思いながらも、私は涙が止まらなかった。
王太子の気持ちが判らない。
私のことをどう思っているのか。
なぜ、嫌うような素振りをしながら、抱きしめたりするのか。
何かを決意したようにすっと背筋を伸ばして、陛下のベッド越しに前を見据えた王太子は、とても凛々しく王者の威厳に満ちていて、私は感動すら覚えた。
この国を背負って立つ。
そういう気概に溢れていた。
一瞬。
その隣に立つのは、私でありたいと、そう、願ってしまった。
部屋に戻って顔を洗い、化粧を直してぽつんと座る。
何もする気が起こらない。
いつもなら朝からウキウキと今日、何をしようかと考えるのが楽しみなのに。
しかも、いつもは誰かしら声をかけてくれたり、部屋に遊びに来てくれたりするのだけど…
今日は誰も来ないし、連絡も来ない。
もともと全然無いに等しいけど、王太子妃という立場がもたらす僅かな権力。
それすらも無くなってしまえば、もう、誰も私に声もかけてくれないのね。
私自身に魅力があるなんて、そんなことは思ったことはないけれど…
でもどこかでそういうことがあるかもしれないと、願っていたのだろうか。
やっぱり私という人間は、どこまで行ってもつまらないのだな。
私はしょんぼりと肩を落とし、侍女たちが何とか気をまぎらわそうといろいろ提案してくれることにも乗れないでいた。
実はその頃、王宮内外どころか国をも揺るがすような出来事がまさに起こっていたのだ。
私は一人村八分状態だったからまったく知らなかったのだけど、お医師が「あと一両日中には陛下が身罷るでしょう」と言ったその日に王侯貴族が臨時に召集され、都にいない者は早馬で来いと言うお達しがあったらしい。
ルーマデュカは広いし、今は冬で領地に帰っている貴族も多かったから、街道は領主である貴族とお供の者たちで大変なことになったみたい。
そして、そこまでしていったい何の話があったのかというと。
ティエリー卿ガストン・ドゥ・バルバストル公爵ならびにその令嬢アンヌ=マリーの弾劾だったのだ。
とにかく陛下の崩御と王太子の即位を国内外に報せ、国葬と同時に戴冠式をやらなければならない。
実務的なこと、タイムスケジュールなどが頭の中を駆け巡ったけど、もちろん私にはそんなことを頼まれるわけでもなく相談すらされない立場だ。
私も何かお手伝いできることはないかしら…
だけど、そういう対外的なことはアンヌ=マリーとバルバストル大公爵がすべて抜かりなくやってくれるのかな。
私は王妃様のことが心配で、ずっとお傍についていたいと思ったのだけれど、王妃様に「一人にしてちょうだい」と言われてしまい、しおしおと部屋を後にした。
やっぱり、アンヌ=マリーが王妃陛下になるのか…
私はもう用なしってことなのか…
王太子はさっき『力を貸してくれ、俺のカスタード姫』と言ったけど。
どう、力を貸したらいいのよ。
何も言わず離婚に同意しろってこと?
それは別にいいけど。
そう思いながらも、私は涙が止まらなかった。
王太子の気持ちが判らない。
私のことをどう思っているのか。
なぜ、嫌うような素振りをしながら、抱きしめたりするのか。
何かを決意したようにすっと背筋を伸ばして、陛下のベッド越しに前を見据えた王太子は、とても凛々しく王者の威厳に満ちていて、私は感動すら覚えた。
この国を背負って立つ。
そういう気概に溢れていた。
一瞬。
その隣に立つのは、私でありたいと、そう、願ってしまった。
部屋に戻って顔を洗い、化粧を直してぽつんと座る。
何もする気が起こらない。
いつもなら朝からウキウキと今日、何をしようかと考えるのが楽しみなのに。
しかも、いつもは誰かしら声をかけてくれたり、部屋に遊びに来てくれたりするのだけど…
今日は誰も来ないし、連絡も来ない。
もともと全然無いに等しいけど、王太子妃という立場がもたらす僅かな権力。
それすらも無くなってしまえば、もう、誰も私に声もかけてくれないのね。
私自身に魅力があるなんて、そんなことは思ったことはないけれど…
でもどこかでそういうことがあるかもしれないと、願っていたのだろうか。
やっぱり私という人間は、どこまで行ってもつまらないのだな。
私はしょんぼりと肩を落とし、侍女たちが何とか気をまぎらわそうといろいろ提案してくれることにも乗れないでいた。
実はその頃、王宮内外どころか国をも揺るがすような出来事がまさに起こっていたのだ。
私は一人村八分状態だったからまったく知らなかったのだけど、お医師が「あと一両日中には陛下が身罷るでしょう」と言ったその日に王侯貴族が臨時に召集され、都にいない者は早馬で来いと言うお達しがあったらしい。
ルーマデュカは広いし、今は冬で領地に帰っている貴族も多かったから、街道は領主である貴族とお供の者たちで大変なことになったみたい。
そして、そこまでしていったい何の話があったのかというと。
ティエリー卿ガストン・ドゥ・バルバストル公爵ならびにその令嬢アンヌ=マリーの弾劾だったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる