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第八章 崩御と弾劾

10.招集

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 それからのことは、後になって思い返してみても、靄の中に霞んでよく思い出せない。

 とにかく陛下の崩御と王太子の即位を国内外に報せ、国葬と同時に戴冠式をやらなければならない。
 実務的なこと、タイムスケジュールなどが頭の中を駆け巡ったけど、もちろん私にはそんなことを頼まれるわけでもなく相談すらされない立場だ。

 私も何かお手伝いできることはないかしら…
 だけど、そういう対外的なことはアンヌ=マリーとバルバストル大公爵がすべて抜かりなくやってくれるのかな。

 私は王妃様のことが心配で、ずっとお傍についていたいと思ったのだけれど、王妃様に「一人にしてちょうだい」と言われてしまい、しおしおと部屋を後にした。
 やっぱり、アンヌ=マリーが王妃陛下になるのか…
 私はもう用なしってことなのか…

 王太子はさっき『力を貸してくれ、俺のカスタード姫』と言ったけど。
 どう、力を貸したらいいのよ。
 何も言わず離婚に同意しろってこと?
 それは別にいいけど。

 そう思いながらも、私は涙が止まらなかった。
 王太子の気持ちが判らない。
 私のことをどう思っているのか。
 なぜ、嫌うような素振りをしながら、抱きしめたりするのか。

 何かを決意したようにすっと背筋を伸ばして、陛下のベッド越しに前を見据えた王太子は、とても凛々しく王者の威厳に満ちていて、私は感動すら覚えた。
 この国を背負って立つ。
 そういう気概に溢れていた。
 
 一瞬。
 その隣に立つのは、私でありたいと、そう、願ってしまった。
 
 部屋に戻って顔を洗い、化粧を直してぽつんと座る。
 何もする気が起こらない。
 いつもなら朝からウキウキと今日、何をしようかと考えるのが楽しみなのに。

 しかも、いつもは誰かしら声をかけてくれたり、部屋に遊びに来てくれたりするのだけど…
 今日は誰も来ないし、連絡も来ない。
 もともと全然無いに等しいけど、王太子妃という立場がもたらす僅かな権力。
 それすらも無くなってしまえば、もう、誰も私に声もかけてくれないのね。
 
 私自身に魅力があるなんて、そんなことは思ったことはないけれど…
 でもどこかでそういうことがあるかもしれないと、願っていたのだろうか。
 やっぱり私という人間は、どこまで行ってもつまらないのだな。

 私はしょんぼりと肩を落とし、侍女たちが何とか気をまぎらわそうといろいろ提案してくれることにも乗れないでいた。

 実はその頃、王宮内外どころか国をも揺るがすような出来事がまさに起こっていたのだ。

 私は一人村八分状態だったからまったく知らなかったのだけど、お医師が「あと一両日中には陛下が身罷るでしょう」と言ったその日に王侯貴族が臨時に召集され、都にいない者は早馬で来いと言うお達しがあったらしい。
 ルーマデュカは広いし、今は冬で領地に帰っている貴族も多かったから、街道は領主である貴族とお供の者たちで大変なことになったみたい。

 そして、そこまでしていったい何の話があったのかというと。
ティエリー卿ガストン・ドゥ・バルバストル公爵ならびにその令嬢アンヌ=マリーの弾劾だったのだ。
 
 

 
 
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