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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
5.厨、発見。
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あたしはさっき来た廊下の端まで戻り、庭とは反対側の薄暗い廊下の方へ進んだ。
あの子が行った方向としてはこっちだと思う。
ざわざわと人の声がする。
蔀が下がっている部屋の前まで来て、あたしは右に進路を取った。
しっかし、広いなあ…
迷路みたい。
あたし、自分の部屋に間違えずに帰れるかな。
廊下の突き当りの左側から女性の声がして、身をすくめているとやがて声が消えた。
どこかへ移動したらしい。
あたしは蔀を上げて、部屋のなかを覗いてみた。
長机があって、あたしがさっき食べたような朝食のお膳がいくつか載っている。
配膳室…?のようなところかな?
式部さん達はいつもここから、あたしの部屋まで食事を運んでくれてるのか…
結構遠いよね。
ありがとう。
その部屋の奥まったところに、外へ通じているらしい仕切りが見える。
あたしは思い切って部屋を横切って、そこにあった草鞋を拝借して土間に降りた。
外に出るとすぐそばにもう一つ建物があって、ちょっと覗いてみると…
ビンゴ!
厨房だ!
5.6人の人が忙しそうに立ち働いている。
隅の方にベンチのようなものがあって、何か食べている人が3人くらいいた。
邪魔しちゃ悪いよね、と思いながらも、光景が珍しくてつい見入ってしまう。
あ、さっきの女の子だ。
隅の方で大柄な女性に怒られている。
「まったく!お前は何をやらせてもダメだね!
たかだか柑子を運んでくるのに、こんなに遅くなって!
右大臣様のお情けで置いてやってるのに解ってないね!」
あっ!
あたしは思わず声を上げた。
「あの、みづさん(だろう、たぶん)怒らないであげて。
わたくしが呼び止めて遠回りさせちゃったの」
そこにいた皆が振り向き、場が固まった。
凍り付いたような空気の中、あたしは泣きそうになった。
「ひ…姫様!伊都子姫様!!」
この調理場の中では一番偉い人っぽい口ひげを生やした男の人が、慌てふためいたように頭の上の短い烏帽子をひっつかんでむしり取りながら、あたしに駆け寄ってきた。
床に膝をついて、顔に驚愕というより恐怖を浮かべて、あたしを見上げる。
「姫様がなんで…こんなところに…
何ぞ、私どもの手落ちでもございましたでしょうか」
胸の前で握りしめた烏帽子が、細かく震えている。
「いえいえ、違うのよ。
立ってちょうだい、お話ししづらいわ。
厨に興味があっただけ。
いつも美味しい食事を、ありがとうって伝えに来ただけよ」
ガタガタと震える料理長(だと思う)の肘を取って立たせて、あたしはなるべく優しく言った。
「みづさん、わたくしが悪いのよ、その子を怒らないでね」
みづさんは「は…はひっ!」というような声を発して、直立不動になった。
女の子は目を剥いて、あたしとみづさんを見比べている。
「もし良かったら、あなたがたのお仕事ぶりを、少し拝見させていただきたいの」
あたしは皆を見まわして言った。
あの子が行った方向としてはこっちだと思う。
ざわざわと人の声がする。
蔀が下がっている部屋の前まで来て、あたしは右に進路を取った。
しっかし、広いなあ…
迷路みたい。
あたし、自分の部屋に間違えずに帰れるかな。
廊下の突き当りの左側から女性の声がして、身をすくめているとやがて声が消えた。
どこかへ移動したらしい。
あたしは蔀を上げて、部屋のなかを覗いてみた。
長机があって、あたしがさっき食べたような朝食のお膳がいくつか載っている。
配膳室…?のようなところかな?
式部さん達はいつもここから、あたしの部屋まで食事を運んでくれてるのか…
結構遠いよね。
ありがとう。
その部屋の奥まったところに、外へ通じているらしい仕切りが見える。
あたしは思い切って部屋を横切って、そこにあった草鞋を拝借して土間に降りた。
外に出るとすぐそばにもう一つ建物があって、ちょっと覗いてみると…
ビンゴ!
厨房だ!
5.6人の人が忙しそうに立ち働いている。
隅の方にベンチのようなものがあって、何か食べている人が3人くらいいた。
邪魔しちゃ悪いよね、と思いながらも、光景が珍しくてつい見入ってしまう。
あ、さっきの女の子だ。
隅の方で大柄な女性に怒られている。
「まったく!お前は何をやらせてもダメだね!
たかだか柑子を運んでくるのに、こんなに遅くなって!
右大臣様のお情けで置いてやってるのに解ってないね!」
あっ!
あたしは思わず声を上げた。
「あの、みづさん(だろう、たぶん)怒らないであげて。
わたくしが呼び止めて遠回りさせちゃったの」
そこにいた皆が振り向き、場が固まった。
凍り付いたような空気の中、あたしは泣きそうになった。
「ひ…姫様!伊都子姫様!!」
この調理場の中では一番偉い人っぽい口ひげを生やした男の人が、慌てふためいたように頭の上の短い烏帽子をひっつかんでむしり取りながら、あたしに駆け寄ってきた。
床に膝をついて、顔に驚愕というより恐怖を浮かべて、あたしを見上げる。
「姫様がなんで…こんなところに…
何ぞ、私どもの手落ちでもございましたでしょうか」
胸の前で握りしめた烏帽子が、細かく震えている。
「いえいえ、違うのよ。
立ってちょうだい、お話ししづらいわ。
厨に興味があっただけ。
いつも美味しい食事を、ありがとうって伝えに来ただけよ」
ガタガタと震える料理長(だと思う)の肘を取って立たせて、あたしはなるべく優しく言った。
「みづさん、わたくしが悪いのよ、その子を怒らないでね」
みづさんは「は…はひっ!」というような声を発して、直立不動になった。
女の子は目を剥いて、あたしとみづさんを見比べている。
「もし良かったら、あなたがたのお仕事ぶりを、少し拝見させていただきたいの」
あたしは皆を見まわして言った。
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