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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
6.厨にて
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「あっ…はっはい!
おい、お前らそこ退け!」
料理長さんはベンチに座っていた人たちをどかして「こちらへ…」と招いた。
絶対にイヤとは言えないよな…権力振りかざしてごめん。
そう思いながらも、あたしは黙ってベンチの方へ歩いた。
「お足元が悪いので…お気をつけて…」
料理長さんがあたしの手を取ってくれる。
床である、土の地面は一面にびしょぬれで、十二単の裾がぬかるみに浸かってしまっている。
ああ~!もっと軽装で来るんだった!
式部さん、内侍さん、ごめんなさい!!
丼のような器を持った男の人たちは、ベンチから追いやられ、立って食べている。
ちょっと会釈して、ベンチに座り、話しかける。
「それは、何を食べているの?」
3人は驚いてぶっと噎せ、慌てて噛んで飲み込み、緊張した面持ちであたしの方をそっと見る。
「この者どもが食べているのは、硯水と申しまして、間食のようなものです。
朝が早いので、夜まで腹が保たないから、仕事の合間に交代でここに来て食べているのです」
へえ…そうだよね、全然動かないあたしでも一日二食はちょっとなあって思うもん。
丼の中をみせてもらうと、あ、うどんじゃん。
でもあれだよね、味付けが塩だけなんだよね。
塩分きついよな~
「美味しい?」
と訊くと、三人は一斉に頷いた。
「こ、こんなお屋敷は他にありません!
俺らのような者にまで、こんな美味い食い物をふるまってくれるなんて…」
ひとりが裏返ったような声で言って、他の者はまた頷いた。
「お殿様の、篤い施しだ。
食べたら頑張って働け!」
料理長が厳しく言う。
三人はしゃっちょこばって、あたしに深々とお辞儀をすると、みづさんに丼を渡して出て行った。
「ねえ…あたし思うんだけど…」
あたしは考え込みながら言う。
「はっ!何でございましょう!」
と料理長さんは仕事の手を止めて直立不動になった。
「ああ、お仕事しながら聞いて頂戴ね。
調味料が少ないと思うのよね。
醤油って知ってる?」
料理長はまた包丁の手を止め、少し考えた。
「ああ…唐渡りの者から、聞いたことがあります。
魚を醤に漬けて発酵させて作るものだとか」
魚醤か…ちょっと臭いがきついよね。
でもまあ、無いより全然いい。
あたしは、うんうんと頷いた。
そうだ!あたしパチッと掌を合わせた。
「だし!出汁がないのよ!
出汁と醤油があれば、さっきのうどんだって、もっとずっと美味しくなるわ!」
料理長を始め、そこにいた人たちはぽかんとしてあたしを見た。
「だし…?それはどのようなものですか?」
もっと美味しくなると聞いて、料理長の職人魂に火がついたらしい。
他の人に指示を出して仕事を代わり、あたしの傍に来た。
あたしはできるだけ詳しく、出汁について知っていることを話した。
よく知らないこともたくさんあって、料理長の質問に詰まることも多々あったけど。
料理長は、それは真剣に聞いてくれた。
うふふ…これでもっと美味しい食事にありつけるかしら…
あたしはほくそ笑む。
あっ!
最初の目的は、ダイエットのためのウォーキングだったんだ…
おい、お前らそこ退け!」
料理長さんはベンチに座っていた人たちをどかして「こちらへ…」と招いた。
絶対にイヤとは言えないよな…権力振りかざしてごめん。
そう思いながらも、あたしは黙ってベンチの方へ歩いた。
「お足元が悪いので…お気をつけて…」
料理長さんがあたしの手を取ってくれる。
床である、土の地面は一面にびしょぬれで、十二単の裾がぬかるみに浸かってしまっている。
ああ~!もっと軽装で来るんだった!
式部さん、内侍さん、ごめんなさい!!
丼のような器を持った男の人たちは、ベンチから追いやられ、立って食べている。
ちょっと会釈して、ベンチに座り、話しかける。
「それは、何を食べているの?」
3人は驚いてぶっと噎せ、慌てて噛んで飲み込み、緊張した面持ちであたしの方をそっと見る。
「この者どもが食べているのは、硯水と申しまして、間食のようなものです。
朝が早いので、夜まで腹が保たないから、仕事の合間に交代でここに来て食べているのです」
へえ…そうだよね、全然動かないあたしでも一日二食はちょっとなあって思うもん。
丼の中をみせてもらうと、あ、うどんじゃん。
でもあれだよね、味付けが塩だけなんだよね。
塩分きついよな~
「美味しい?」
と訊くと、三人は一斉に頷いた。
「こ、こんなお屋敷は他にありません!
俺らのような者にまで、こんな美味い食い物をふるまってくれるなんて…」
ひとりが裏返ったような声で言って、他の者はまた頷いた。
「お殿様の、篤い施しだ。
食べたら頑張って働け!」
料理長が厳しく言う。
三人はしゃっちょこばって、あたしに深々とお辞儀をすると、みづさんに丼を渡して出て行った。
「ねえ…あたし思うんだけど…」
あたしは考え込みながら言う。
「はっ!何でございましょう!」
と料理長さんは仕事の手を止めて直立不動になった。
「ああ、お仕事しながら聞いて頂戴ね。
調味料が少ないと思うのよね。
醤油って知ってる?」
料理長はまた包丁の手を止め、少し考えた。
「ああ…唐渡りの者から、聞いたことがあります。
魚を醤に漬けて発酵させて作るものだとか」
魚醤か…ちょっと臭いがきついよね。
でもまあ、無いより全然いい。
あたしは、うんうんと頷いた。
そうだ!あたしパチッと掌を合わせた。
「だし!出汁がないのよ!
出汁と醤油があれば、さっきのうどんだって、もっとずっと美味しくなるわ!」
料理長を始め、そこにいた人たちはぽかんとしてあたしを見た。
「だし…?それはどのようなものですか?」
もっと美味しくなると聞いて、料理長の職人魂に火がついたらしい。
他の人に指示を出して仕事を代わり、あたしの傍に来た。
あたしはできるだけ詳しく、出汁について知っていることを話した。
よく知らないこともたくさんあって、料理長の質問に詰まることも多々あったけど。
料理長は、それは真剣に聞いてくれた。
うふふ…これでもっと美味しい食事にありつけるかしら…
あたしはほくそ笑む。
あっ!
最初の目的は、ダイエットのためのウォーキングだったんだ…
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