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この世界には、男、女、以外にもα、β、Ωといった性別もある。
アルファは優れた能力を持つものが多いと言われ、ごく少数しかいない。ベータは能力は可もなく不可もないが、一番人数が多い。オメガは他より能力は劣るが、子を生むことだけにおいて優れており、人数は少ない。それが一般的なオメガバース性の見解だ。
オメガはさらに発情期という、三ヶ月に一度、フェロモンが過剰に出て妊娠しやすい時期がある。このフェロモンはアルファを誘惑する成分が含まれている。
発情期の時期に、アルファがオメガのうなじを噛むとツガイの成立だ。
ゴールド家本家に生まれたアルファで次期当主の俺、ウィリアム・ゴールドは、今、絶賛女の子に追いかけられている。
ゴールド家の分家のオメガの女の子達は、次期当主である俺とツガイになりたいらしい。女の子たちも実家からの圧力をかけられているんだろうが、正直学校でもこんなに追いかけられるなんて迷惑だ。
いつもなら俺の幼馴染のルイが絶対0度の眼差しで女の子たちを遠ざけてくれるのだが、今日は風邪で休んでしまったため、これ幸いと女の子たちが俺に近寄ってくる。
昼休み、ゆっくりご飯も食べられやしない。
王立学園の中を走り回って、いつもは来ない裏庭でガラス張りの温室を見つけた。
ここで女の子たちを撒こうと、温室の中へ飛び込む。
誰もいないだろうと思って飛び込んだら、女の子が一人いて驚いた。
女の子も人がいきなり温室に入ってきて驚いたのだろう、振り向いて俺を見る。
まじかよ、よりにもよってシルバー家のアリアじゃねぇか。
まさか家同士の仲が最悪なシルバー家の次期当主がこんなところにいるなんて。なぜ、こんな所にいるのかと不審に思ったが、手元を見るとジョウロがあって、花に水やりをしているようだ。
「ウィリアム様ー。待ってくださーい」
うわっ。もうそこまで追ってきてる。一か八か、この大きな植木鉢の後ろに隠れとこう。
「ウィリアム様ー。どこですかー? って、あら、あなた。シルバー家の方じゃない」
「あら、ほんと。こんな所で一人でいったい何をしているの?」
「ふふっ、きっとお友達がいないものだから、一人寂しくこんな所にいるんじゃない」
「えー、可哀想。この方って、次期当主ではなかったかしら。それなのに、お友達がいないなんて」
うふふふ、なんて笑いながら嫌味を言う。なんていうか、女子って怖っ。
シルバー家に思うところはあるが、次期当主に対してこんな態度を取るなんて。この子達の家は、分家の中でも末端の地位のはずだ。いくら、敵対している家だとしても、自分たちよりも上の地位の人間にこんな口をきくなんて……やはり、この子たちはいくら分家だとしても仲良くはなりたくないものだ。
どんなに失礼な事を言われても、アリア・シルバーはまったく気にした様子を見せず、シレッとした顔をしている。
その様子にこれ以上話しても意味がないと思ったらしい。
「ふん。ねぇ、ウィリアム様がこちらに来たと思うんだけど、どっちに行ったか分かる?」
入ってきた出入り口の他に、三箇所ある出入り口のどっちに俺が行ったのか聞いている。
まずいまずい。俺がここに隠れてるって言われたら、捕まること間違いなしだ。
そしてやれ、ウィリアム様の好きな女性のタイプは? だの、好きな料理は? とか、私はウィリアム様みたいな男性が好みです、と言いながら上目遣いで腕に胸を押し付けてくるんだ。本気でやめてほしい。
アリア・シルバーが教える前に、そろりそろりと右の出入り口に行こうかと足を動かす。
「……さあ?」
どっちに行ったか聞かれた彼女は、少し間をあけた後にそんな風に返した。
「まったく、役に立たないんだから。こんな人と話しているより早くウィリアム様を追わないと」
「そうよね、今日はいつも邪魔してくるルイ様がせっかくいないんだもの」
「行きましょ」
そう言って、俺を追いかけていた女の子たちは温室を去って行き、アリア・シルバーは彼女たちがいなくなると中断していた花の水やりを始めた。
しばらくした後、あの子たちが出ていったと確信を持ってから俺は植木鉢の後ろから出ていく。
「あー、あのさ」
「なんですか」
「いや、俺があそこに隠れてること言わないでくれてありがとう」
シルバー家の者だけど、教えないでいてくれたお陰で助かったことにはかわりないから一応礼を告げる。
「別に。だって、彼女たちからはどっちに行ったかを聞かれたけど、あなたはどっちにも行かなかったでしょ」
澄ました表情で淡々と花に水をかけていく。
あー、なるほど。確かに俺はどっちにも行ってないから、教えなかったという訳か。まじか、ウケる。
「まぁ、でも助かったことにかわりないから、やっぱありがとな」
彼女はチラと俺を見ると、違う花へ水をかけに行く。
さて、あの女の子たちを撒けたのはいいがどうしたものか。せっかく撒けたのにここから出たらまた見つかるかもしれない……
「なぁ、俺もう少しここにいてもいい?」
ダメ元で聞いてみる。ここって彼女以外に人がいなくて、隠れるにはもってこいだ。
「どうして私に聞くんですか? ここは学校の敷地で私個人の場所というわけではありませんから、ご自由に」
いてもいいんだ。やった。
俺は取り敢えず、すぐ側にあったベンチに腰を下ろした。
今日一日、あの子たちに追いかけ回されたからストレスが半端ない。ボーっとしていたが、なんとはなしに彼女を目で追う。
ジョウロの中の水が無くなったのか、水道に行き水を汲む。そしてまた違う花へ水を与えを繰り返すと、あらかた水をあげ終わったのか、今度は雑草を抜いたり砂利を除いたりしていた。
「いつもここでこんな事してんの?」
いや、なんで俺話しかけてんの?
相手はあのシルバー家の人間だぞ。一瞬、後悔した。
さっきはたまたま助けてもらったような形にはなったが、こんな世間話みたいなことを彼女がするはずない。
「ええ、まぁ。人が全然来なくて居心地がいいし、せっかくこんなに立派な温室だから、たくさんお花が咲いていたら素敵でしょ。まぁ、あなたが来てしまったから全然人が来ないというわけではなくなったけど」
「そりゃぁ悪かったな」
なんだ、意外と話せるじゃん。家族や親族から、シルバー家の連中の悪い印象の話ししか聞いていなかったから、拍子抜けだ。
その後は特に話しかけることもなく、俺は予鈴が鳴るまでずっと彼女の作業を見続けていた。
午後の授業の予鈴が鳴った。
「あの、さ。俺、またここに来てもいいか?」
「さっきも言いましたよ。別にここは私の場所というわけではありませんから、どうぞ」
「おう! ありがと!」
そんな会話を交わして俺は教室へ戻る。心なしか、足取りが軽くなった気がする。
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