裏のウラはやっぱり表

ヒーロ

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1話 オモテの顔⁉

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「うぅ~寒むぅ!」

3月半ばを終え徐々に春の空気を迎えようとしているのに少し肌寒い朝。
玄関を開けいつもの時間に家を出る一人の女性。

昨日は少し暖かかったのにと心の中で愚痴る彼女の名前は倉科実彩子(くらしなみさこ)。

着替える時間もないかと腕時計を見て駅へと急ぐ!

駅へ向かう途中、コンビニで栄養ドリンクを購入し一気に飲み干す。
社会人になり一人暮らしを始めこのルーチンが構築されてからいつの間にか5年の月日がたっていた。

(実彩子)
「よしっ!」

と一言つぶやきいつもの様に会社へ向かうのだが気持ちだけはいつもとどこか違っていた。

実彩子にとって今日は緊張の1日である。
1年間、練りに練った企画をプレゼンする大事な発表会が昼から行われるのである。

実彩子が働く会社では入社2年目から次年度のチャレンジプレゼンが出来るチャンスがある。
これは枠に囚われる事なく様々なアイデアを無駄にしない、誰にでも活躍できるチャンスを与え社内を活性化させる目的がある!

選ばれた企画はプレゼンした社員を中心にプロジェクトチームが構成され更にメンバーも自分が選任とまさに会社の主役になれ成功すれば出世できるチャンスとなる。
そんな方針から社員が実力と能力重視なので年功、男女問わず活躍している会社である。

学生時代テレビで女性が社会で活躍する特集を見ていつか自分もと夢見ていた実彩子もそんな社風に惹かれ熱望し入社した。
実彩子は2年目からチャレンジを続けるが落選を繰り返していた。
昨年は惜しくも最終選考までいくも落選…
その悔しさから今年こそはとプライベートの時間も削りこのチャンスにかけていた。

今日はその予選会!実彩子は会社に着く直前に一度立ち止まり行き交う人の邪魔にならない様に木陰に隠れ小さく深呼吸をし会社へ向かった。

(実彩子)
「おはようございます!」

緊張からかいつもより少し声が大きくなった気がした。照れながら自分の席に座ると

(高畠)
「気合い入ってるねぇ~」

係長の高畠(たかはた)がニヤニヤと声をかけてきた。

(実彩子)
「あっ係長おはようございます!」

嫌な絡みだなと思いながらも実彩子は挨拶をする。

(高畠)
「緊張してるの?大丈夫だよ去年は惜しいところまで行ったんだから余裕でしょ!」

(高畠)
「でも変なプレゼンはしないでよ!うちの部署に恥はかかせないでね!」

いつものように嫌みとも思わず空気を読まない高畠。

(実彩子)
「がんばります…」

ボソッと答える。

(佐織)
「相変わらずウザいよねっ!」

先輩の香川佐織(かがわさおり)が自分の机に書類を置きながら声をかけてきた。

佐織は実彩子にとって会社の愚痴を言い合える呑み仲間だ。

(実彩子)
「先輩、おはようございます!ほんと朝から気分悪くなりますよ!」

ふてくされながら挨拶をする!

(佐織)
「おはよ!準備は大丈夫?プレゼンはお昼からでしょ何か手伝おっか?」


(実彩子)
「大丈夫です!昨日の夜も最終確認したので!」

(佐織)
「今日の夜は久ぶりに呑み付き合いなさいよ!最近はこのプレゼンのために私も我慢してたんだから!」

ポンッと実彩子の肩を叩き佐織は座った。

(実彩子)
「もちろん!我慢して頂いたぶんとことん今日は付き合いますよ!」

佐織のおかげで少し気負いすぎている自分に気づき実彩子は改めて軽く深呼吸をした。

(久本)
「おぉーい!そろそろ朝礼やるぞ!」

部長の久本が皆に声をかける。

(高畠)
「はい!それでは朝礼始めます!」

いつもの様に高畠が仕切りはじめた。

皆が昨日の進捗確認したあとにいよいよ久本部長が今日の発表会について詳細を話しだした。
実彩子は真剣に聞かなければと心で思いながらもいざ始まるのかと考えたらまた緊張感が高まってきた。

(由香)
「倉科先輩、先輩っ!ちゃんと聞いてますかぁ?」

段々と久本部長の話が入ってこなくなった実彩子を見ていた後輩の前川由香(まえかわゆか)が心配そうに話しかけた。

(実彩子)
「あーごめんごめん!大丈夫聞いてたよ!」

(由香)
「今年の審査員に新しいあの新所長が入るなんて凄いですね!」

由香は嬉しそうにはしゃいでいた。

実彩子はそんな事よりもプレゼン内容が大丈夫かとまた不安になって結局、久本部長の話しはほとんど入ってこなかった。

午前中はいつもの仕事につくがやはり発表会が気になり仕事が手につかない実彩子。
トイレに立ったり給湯室に行ってはコーヒーを飲んだり今日は仕事どころでは無い感じだった。

それでもある程度のことはこなし一段落ついたので屋上に行って少し気分転換する事にした。

屋上の扉を開けると外は快晴で朝の寒さが嘘のように気持ちの良い暖かさになっていた。

着替えなくて良かったじゃん!

ラッキー!! 今日はいい日になるかも!

屋上に来て少しいい気分になっていた。
南側の景色が好きな実彩子はそっちに行ってみた!
するとそこに一人の男性社員が立っていた。
彼の名前は角川真太(すみかわしんた)実彩子の隣の部署に所属する2期先輩社員だ。
彼もまた今日の発表会に立候補した一人。

(実彩子)
「角川さんも気分転換ですか?」

あまり話した事は無いが実彩子は自分と同じ心情の仲間を見つけた嬉しさでつい声をかけてしまった。

(角川)
「あー倉科さんかっ」

どこか元気の無い角川。よく見ると無茶苦茶、顔色が悪い!

やばっ!声かけるんじゃなかったと後悔しながらも話したかけたからには何か言わなきゃと言葉を返す。

(実彩子)
「緊張しますよね!私もさっきから仕事が手につかなくて」

何とか場を和ませなければと試みるも角川は無表情…

(実彩子)
「あっあの私、ここの景色好きなんですよね!それで緊張ほぐす為に…」

角川は振り返り景色を見ながらボソッと一言…

(角川)
「ごめん邪魔したね…」

角川は表情を変えずその場を去ろうと歩き出す。

(実彩子)
「あのっ!頑張りましょうね!」

特に深い意味もなくましてやライバルに励ましだなんてもっともだがとりあえず社交辞令でもと言葉を発した…

(角川)
「頑張りましょうねかっ!君は良いよね!今回ダメでもまだチャンスはいっぱいある!」

(実彩子)
「えっ⁉」

(角川)
「発表会で選ばれる企画は全国でたった一つ!だいたいみんなは30歳までに選ばれて出世して行く!」

少し睨みながら角川は続けて話した。

(角川)
「僕は今年31歳!今年を逃したら出世はもう諦めろって宣告された様なもんだよ…」

俯いていた顔をあげ角川は実彩子にさらに話す。

(角川)
「変な励ましするぐらいなら辞退しろよ!一人でもライバルが減る方がよっぽど良いよ!」

驚いた表情の実彩子を見て角川は我にかえり

(角川)
「ごめん…言い過ぎた…ナーバスにも程があるよね!」

忘れてくれと言わんばかりに角川は走って出口に向かった。


何かを言わなければと実彩子は振り返るが角川は既に居なくなっていた。
複雑な気持ちになると同時にこの後、自分が行うプレゼンには沢山の重みがあるとプレッシャーがのしかかってきた為、屋上に来たことを後悔した。

気持ちに整理がつかないまま戻ると事務所が何か騒がしくなっていた。
ざわつく原因は発表会の審査員が到着していたからだ。
全国の役員が集結しいつも偉そうな態度の上司達もここぞとばかりにヘコヘコと媚を売っている。


(佐織)
「普段のあの人達をみせてあげたいよね!」

なんとも情けない…実彩子は共感と共に呆れていた。

「ヤバいっ!やっぱりカッコいい!」

「あの笑顔は反則だよーっ!」

周りの女性社員はそんな上司に目もくれず一人の男性社員を見て騒いでいた。
ひときは女性社員の注目を浴びている彼の名前は坂下弘希(さかしたこうき)。
今回、特別枠で審査員に選ばれた期待の新所長だ。
あの人が噂の…
確か由香ちゃんが朝にそんな事言ってたなと実彩子は思い出していると

(由香)
「倉科先輩!あの人ですよ期待の坂下所長!マジでイケメンですよね!」

(由香)
「先輩良いんですかー!?今のうちに媚売っておけば予選突破できるかもですよ!」

こっちの気持ちも考えず気楽だなぁとはしゃぐ由香を見て実彩子は思った。

(実彩子)
「そんな簡単なことじゃないよ!」

さっきの屋上での出来事も踏まえ実彩子は言った。

(佐織)
「気負いは駄目だよ!平常心じゃないと本番でパフォーマンス落ちちゃうよ!」

付き合い長いからこそ分かってるなと思わせるぐらいいいタイミングで声をかける佐織に実彩子は感謝した。

(久本)
「香川さんと前川さん悪いけど会場準備手伝ってもらえる?」

(佐織)
「分かりました。第1会議室でいいんですよね?」

(久本)
「そうだよ!頼むねぇ~」

どことなく今日は発表者以外は雑用扱いみたいに軽いノリで久本部長が指示を出す。

(由香)
「はぁ~い」

そんな扱いに合わせるように由香も軽い返事を返した。

(実彩子)
「ほんとごめんなさい!よろしくお願いします!」

二人に気まずそうに実彩子が謝ると

(佐織)
「全然気にしないでいいから!あんたは自分の事に集中しな!」

(由香)
「そうですよー!もう時間ないんですから先輩は自分の準備に徹して下さい!」

由香に背中を押され実彩子は自分の席に座りもう一度、発表会の資料に目を通した。
昨日の夜に何度もシミュレーションをしたが念には念をと見直しをした。

気がつくとお昼休憩の時間になっていた。
実彩子はあまりに集中していたためもうこんな時間だと焦り急いで食堂に向かった。

食堂につきメニューに悩む実彩子。
今日のAランチは唐揚げかぁ~油っぽいのはやめといた方がいいかなぁ~⁉
やっぱいつものうどんにしよ!
結句、定番にしてしまう実彩子!食には冒険せず安定を求めるタイプだ…

食券を購入し受け取り口に行くと食堂のおばちゃん達が声をかけてきた。

「聞いたよ~実彩子ちゃん今日、プレゼンするんだって!?」

「女の子なのに頑張るね!」

「いいプレゼン出来るようにちゃんと残さず食べるんだよ!」

(実彩子)
「ありがとうございます!がんばります!」

相変わらずアットホームな人達だなとホッコリしながら頼んだうどんを受け取り空いてる席を探した。
辺りを見回していると

(由香)
「せんぱ~いっ!こっち!こっち席とってありますよぉ~!」

由香が大きく手を振り実彩子を呼んでいる。

(実彩子)
「ありがとう!」

お礼を言いながら席に座る実彩子。

(佐織)
「どう!?少しは落ち着いた?」

(実彩子)
「はい!お陰様でさっき資料の見直しが出来たのでバッチリです!」

(由香)
「私達も応援してるんで頑張って下さいね!」

さっきのおばちゃんといいこの2人といい沢山の人が応援してくれている。改めて自分は幸せものだと気合いを入れ直しうどんをすすりながらふと…
もしかして角川さんは私みたいに周りの人から応援されてないのかな⁉
まぁ普段からの人付き合いってこんな時に活きてくるもんだなと思った。

いつもの様に他愛のない会話で盛り上がっているといつの間にかお昼休憩も終わる時間になっていた。

(由香)
「やばいですよっ!もうこんな時間!」

(佐織)
「ホントだっ!じゃ~実彩子、私達は後ろの席で見守ってるからね!」

(由香)
「先、行ってま~す!」

発表者は一旦、控室が準備されそこでプレゼンの流れが説明される。
実彩子も準備を整え控室と向かった。
今年で4回目だがやっぱりこの瞬間は緊張するなっと思いながら扉をノックし部屋へ入った。

(実彩子)
「失礼します!」

入室すると既に他の発表者がそれぞれ座っていた。
今回、実彩子の営業所からは各部署1名づつの計3名が参加し今日はこの3名の予選が行われる。

屋上で会った角川は変わらず緊張からか顔色が優れないがさっきのやり取りから気まずく実彩子は目を合わさないようにした。

もう一人は超がつくほど有名な大学を卒業しいわゆるエリートと呼ばれる女性社員だ。
彼女の名前は冨田晴海(とみたはるみ)。
冨田は自分の資料を見ながらブツブツと何か話しながら独特な雰囲気を出している。

何か変な空気だな…

この二人に絡むと自分のペースが崩れそうと思った実彩子は席についてからは目を閉じて集中することとした。

10分程たった頃、部屋の扉が開き発表会進行役の武田(たけだ)が入ってきた。

(武田)
「みなさんお疲れ様です。本日の司会進行を勤めます武田です。宜しくお願いします。」

大体の社内行事の司会は武田と決まっているので見慣れた顔だやっぱりかと実彩子は思った。

(冨田)
「宜しくお願いします。」

(実彩子)
「よっよろしくお願いします。」

角川はタイミングを逃し挨拶が遅れ言葉を発しようとした瞬間、間髪入れず武田が発表会の説明を始めた。

(武田)
「え~本日の発表会の流れは例年通りです。」

うぁ~武田さんも機械的だなぁ~!
発表者の心情関係無しかよっとツッコミたくなった実彩子だった…がそれも関係無く武田の説明は続いた。

(武田)
「一人の持ち時間は30分です。プレゼンに15分、質疑応答で15分となります。プレゼン時は残り2分前に1回目、1分前には2回ベルを鳴らしお知らせします。」

(武田)
「まぁいつも通りで大体の詳細はみなさんも認識されてると思いますが何かご質問ありますか?」

参加者以外も毎年、後ろの席で見ているのでみな流れは何となく分かっている。そのため質問は出なかった。

(武田)
「無いみたいですね!それでは会場に行きましょう!報告順は第1営業部の冨田さん、続いて第2の角川さん、最後に第3の倉科さんですので会場では報告順に座って下さいね!」

武田の先導で会場へ向かった。いつも歩いているこの廊下も今日はどことなく景色というか呼吸する空気の味が違うように感じた。

会場の前に到着すると武田はひと呼吸もあたえる暇なく扉をノックした。

(武田)
「失礼します!発表者入ります!」

えっ!?ちょっと待ってまだ心の準備がと言わんばかりにビックリした表情をして焦る角川を無視するかのように扉が開いた。

実彩子も前の人達に引っ張らる様に会場に入場した。
会場の雰囲気は緊張感が高まるように物静かである。

今年はどんなプレゼン内容が発表されるのか!?
今までに挑戦した経験がある社員、来年は自分も挑戦したいと思っている社員、様々な思いが入り混じりどことなく後ろに座っている社員も緊張感が高まっていて発表者の足音が独特なリズムとなり会場内に響いた。

実彩子達が席につくと武田がマイクの前に立ち話し始めた。

(武田)
「皆様お待たせいたしました。只今より予選会を開始致します。前面のスクリーンをご覧下さい。本日の流れを記載しています。」

壇上中央の大きなスクリーンに目次と注意事項が映し出された。
内容を武田が読み上げたあといよいよ各自のプレゼンが始まる。

(武田)
「それではプレゼンに入らせていただきます。1番目は第1営業部の冨田さんです。壇上へお上がりください。」

(冨田)
「はい!」

返事をすると冨田は壇上に上がり発表者用のマイクの前に立った。

いよいよだっ!流石に審査員達も構える程に会場が張り詰めた空気に包まれる中、冨田のスピーチが始まった。

(冨田)
「お疲れ様です。第1営業部の冨田です。それでは私のプレゼンを始めさせて頂きます。」


 冨田のプレゼンは虎視眈々と進んだ。
それはあまりに内容と構成が綺麗に創り上げられたもので今の社会情勢と会社のニーズを合致されていた。
あまりに流れがスムーズ過ぎて控室で放っていた独特な雰囲気はまるで別人と感じると同時に確かにこれが実現されれば会社にとってプラスになると実彩子も圧倒されていた。

流石にいい大学でてるだけあってよく考えられてるな…

冨田さんもこのプレゼンにむけて頑張ってきたんだな…

自分だけじゃない当たり前だ…

自分のプレゼンを前に色々と考えてしまい少し不安に感じているとベルが2回なった。

あれっもう終わり⁉

色々と考えすぎて1回目のベルに気づかないほど集中出来ないでいた。

(冨田) 
「私のプレゼンは以上となります。ご静聴ありがとうございます。」

冨田のプレゼンが終了し会場は拍手が鳴る。

(武田)
「冨田さんありがとうございました。それでは質疑応答に移ります。審査員の方は挙手にて質問をお願い致します。」

  審査員からいくつか質問が上がったがほとんどが褒める感想が多かった。

審査員の言葉を聞いて冨田は達成感に満ち溢れた表情を浮かべ会場内の全員もうなずきながら納得していた。

そんな中、坂下だけ資料を隅から隅まで熟読していた。

(武田)
「坂下所長よろしかったですか?」

あまりに坂下が真剣に資料を見ていたので武田が気を利かせ坂下に振った。


会場内の誰もが期待の新所長が何を聞くのかと変な期待感を持った。


(坂下)
「ご報告お疲れ様です。凄く解りやすい内容ですね。」

言うこと無しと言わんばかりの満面の笑みで一言発した。

(冨田)
「あっありがとうございます!」

冨田は少し驚いていたがそれよりも少しでも褒められたことに喜びを隠せないでいた。


ただの感想かよっ!

他の審査員と一緒じゃん!

実彩子は心の中で突っ込んだ!

だがそうだよなと納得もしていた。

(武田)
「持ち時間となりました。冨田さんお疲れ様でしたご着席下さい。」

また会場内で拍手が湧き冨田は誇らしげな顔で席へと戻った。

(武田)
「続きましては第2営業部の角川さんです。角川さん壇上へお上がり下さい。」

(角川)
「はいっ!」

角川は威勢よく返事をして壇上へ向かったが緊張しているのは誰が見ても明らかだった。

あまりにぎこち無い歩き方に会場内がオイオイ大丈夫かと心配する表情を浮かべる人や堪えきれずクスクスと笑う人すらいた。
それは審査員も同じでこっちの身になってみろよと実彩子は会場内の雰囲気に少し苛立った。

なんとか角川はマイクの前に立ったが緊張はピークに達したのか固まったまま何も話せないでいた。

(武田)
「どうぞ角川さん、報告をお願いします。」

(角川)
「あっ… あの… えっとですね…」

ボソボソと聞き取れない声の大きさで角川が話そうとしていた。
しかし上手く話せない状況が続き会場も少しザワつき始めた。

すると…

「自分のペース大丈夫です!ゆっくりでいいので!折角、準備してきたんですから自分の伝えたい事を…ねっ!」

坂下所長がこれまた満面の笑みで角川に発した。
自然に会場のザワつきが収まり…

角川はビックリした表情を浮かべていたが直ぐに少し息を吐き落ち着きを取り戻した。

(角川)
「お疲れ様です。第2営業部、角川です。大変失礼致しました只今より私のプレゼンをさせて頂きます。」

先程の緊張で硬直していた姿は何処にも無くゆっくりとプレゼンを始めた。

実彩子は屋上や控室、会場に入る際など今日の角川の状況を見てきたからこそ変貌ぶりに驚き角川の顔から目が離せないでいた。

またまた気がつくと会場内に拍手が響きわたり角川はやり切った顔つきで立っていた。

あっヤバイ…

また雰囲気に飲まれ時間がたつのを忘れていた…

次は私だ…

落ち着け… 大丈夫… 落ち着け… 落ち着け…
実彩子は何度も自分に言い聞かせた。

(武田)
「それでは質疑応答に入ります。」

審査員から質問が出たが既に落ち着きを取り戻した角川は堂々たる姿で応えていた。

今回も資料を熟読している坂下を見て少し笑いながら武田が坂下に問いかけた。

(武田)
「坂下所長よろしかったですか?」

ニコッと笑い坂下は角川の顔を見て。

(坂下)
「ご報告お疲れ様です。その顔見ると伝えたい事をは言えたみたいですね!良かったです!」

(角川)
「あのっ!本当にありがとうございました!」

二人のやり取りに少し感動する程、雰囲気が和やかになった!

後ろの社員達、審査員から拍手が贈られたが角川だけでなく角川を落ち着かせた坂下に向けてのものでもあった。

そんな事は気づかず坂下は角川一身を見て拍手を贈っていた。

実彩子はそんな坂下の姿を見て期待されているのはきっと上司だけでなく部下からもなんだな!
今まで考えたこと無いけどよく聞く理想の上司ってあんな人なのかなっと何となく考えているといつの間にか冷静さを取り戻していた。

(武田)
「角川さんお疲れ様でした。席にお戻り下さい。」

(武田)
「それでは本日最後のプレゼンです。第3営業部、倉科さん壇上へお上がり下さい。」

(実彩子)
「はい!」

実彩子が席をたつと佐織と由香が見えた。
二人は実彩子の顔を見つめていたが言葉を交わさずともエールを贈っていることが伝わった。

改めて息を吐き壇上へ上がりマイクの前に立った実彩子。
今なら行けると勢いに任せプレゼンを始めた。

(実彩子)
「お疲れ様です。第3営業部の倉科です。宜しくお願い致します。」

自分の持っていた資料を見ながら話し始めた実彩子はいつも以上に上手く話せている自分に少し驚いた。

何度も何度もシミュレーションしたおかげかなっ!?

流石に4回目だから慣れかな⁉

兎にも角にもなんか今日は良い感じだ!

よしっ行ける!

実彩子は終始、自信を持ちプレゼンを行った。

そしてプレゼンを終えた…

あっという間だった…

持ち時間15分が短く感じもっと話したいと思うほど充実した時間に満足していた。

話し終え顔を上げると拍手が鳴っていた。
鳴り止むタイミングを見計り武田がマイクの前へ向かった。

(武田)
「それでは質疑応答に移ります。審査員の皆さん宜しくお願いします。」

それぞれの審査員から質問を受けたがプレゼン事態が上手くいった実彩子はその流れで卒なく答える事ができた。

相変わらず坂下は隈なく資料を見ている…
最早、定番の光景に実彩子は少し笑みを浮かべながらもここから感想がくると先読みし待ち構えた!

(武田)
「お時間的に最後のご質問となります。」

少し間を置き…

武田も流れを掴んでいるかの様に

(武田)
「坂下所長どうぞ!」

今回は何も聞かずに投げかけた!

その投げかけに動じる事なくマイクを手に取り坂下は実彩子に問いかけた!

(坂下)
「プレゼンお疲れ様です。1つご質問よろしいですか?」

あれっ今までと違った展開だ!?

会場中の誰もがそう思った…

えっ⁉

今、質問って言ったよね!?

当然たが1番驚き動揺したのは実彩子だった!

そんな実彩子の顔見て坂下ももちろん動揺を察知していたが話し始めた。

(坂下)
「倉科さんの前にお二人がプレゼンされてましたよね?」

(実彩子)
「…はい」

(坂下)
「お二人のプレゼンを聞いてどう感じましたか?」

どう言うこと!?

私のプレゼン内容についてじゃないの!?

何の意図があっての質問!?どう答えれば正解!?

実彩子は坂下の質問内容が突拍子ない意表を突くものであったが為にただでさえ質問されて驚いていたのに輪をかけて動揺させられてしまった…

しかし聞かれた事を何も答えない訳にいかないし…

二人のプレゼン内容を必死に思い出しながら答えた。

(実彩子)
「冨田さんのプレゼンは顧客だけでなく社内の過去数値等をしっかり分析した上で課題を抽出し今の社会情勢を踏まえた打開策が年密に組まれた内容と正直、圧倒されてしまいました。」

あれこれ考える暇が無かったのでありのままで答えた。

(実彩子)
「角川さんのプレゼンは内容よりかどちらかと言うと今日まで必死に自分が考えてきたプレゼンを聞いてもらいたいといったこの発表会に対しての熱い気持ちがこもっていたと感じました。」

角川に関してはプレゼン内容を聞きそびれてしまったが感じたままの事を答えた。

(坂下)
「うん…なるほど!すいませんありがとうございます!」

坂下はさっきと変わらず満面の爽やかな笑みで実彩子にお礼を言った。

(武田)
「倉科さんお疲れ様でした。席にお戻り下さい。」

時間を見て武田が口を開いた。

実彩子は何かスッキリしない終わり方に少し違和感を感じたが席に戻った。

(武田)
「以上で本日の発表会工程はすべて終了です。結果は全予選会が終了後に発表されますので宜しくお願いします。改めまして発表者の皆さんお疲れ様でした。」

会場中に拍手が鳴る。

やっと終わったんだ…

長かったけど今日はあっという間だったな…

何か色々考えさせられた1日でもあったな…

ちょっと疲れた…

実彩子はそう思った。

隣の二人も達成感で堂々たる顔つきでいる。

しかしやっぱり最後の坂下の意味深な質問がどうしても引っ掛かっている実彩子。

この坂下との出会い…

そして先程の質問に答えた内容が自分に大きな影響が
あるとまでは想像出来ていなかった…


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