珍・桑田少年の品定め

泉出康一

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第12珍 『用意周到学年主任』

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2045年9月12日、夜、クイーン満足号、通路にて…

トランスは筋肉や脂肪を操り、巨大なかぼちゃの形をした肉塊へと姿を変え、そこから鋭く形成された筋組織がモカ目掛けて突出してきた。
だが、モカはそれを難なく回避した。

「(何でや…アイツは顔が見えな読心術は使われへんはず…)」

しかし、トランスはすぐに気がついた。モカは読心術を使ったのではない。ただ避けたのだと。
モカにとってはこの程度、心を読むまでもなかった。

「その瞬発力と反射神経…エグいなお前。元No.2は伊達じゃないわ。」

トランスはモカに向けて、複数同時に筋組織を何度も何度も突出させた。

「でも俺、知ってんねんで!」

モカはトランスの攻撃をかわし続けている。

「お前、過去の戦いの後遺症で、長い間動かれへんねやろ!」

トランスの言う通り、モカは後遺症を患っていた。

「おらおら!避けてるばっかでええんかぁ!タイムリミット来てんちゃう~!」

次の瞬間、機体が激しく揺れた。
幸太郎は転けないよう壁にもたれかかっている。

「な、なんだ…⁈」
「爆弾や!」

肉塊から嬉しそうな声が聞こえる。

「爆弾⁈」

その時、モカが叫んだ。

「幸太郎!何とかして脱出しろ!」
「えぇ⁈」
「この船に矢里本は居ない!お前だけでも逃げろ!」
「逃げろったってどうやって⁈」

モカはトランスの突起攻撃を掻い潜り、ナイフで肉塊を切り裂いた。
しかし、大したダメージにはなっていないようだ。

「何とかしろ!!!」
「…ッ!」

幸太郎はどこかへ走り出した。

「あんなガキ一人で何とかできる訳ないやろボケ。」
「あぁ。勿論。だから、お前を倒して俺が何とかする。」
「できるかな~…?」

その時、横の通路から複数人の姿が現れた。
モカは瞬時に確認した。人数は八人、全員『Zoo』の殺し屋達だ。

「チッ…」

クイーン満足号、レストランにて…

けたたましいサイレンの音が鳴り響いており、人々はパニックに陥っている。

「何でござるか⁈この騒ぎは⁈」
「船が落ちるというのはまことでござるか⁈」
「嫌でござる!死にたくないでござる!」

そこへ、幸太郎は戻ってきた。

「くそぉ~…何とかしろったってどうすりゃ良いんだよぉ~…」
「桑田か?」

その時、何者かが幸太郎に話しかけてきた。

「藤原先生⁈」

なんと、声をかけてきたのは幸太郎の担任、藤原先生だった。

「お前、夏休みの宿題終わったんか?」
「いや、それ今聞く事⁈」
「はぐらかすな!お前いっつも提出物出し忘れてるからな!一遍ちゃんと話さなアカンと思っててん!」
「後で!後で聞きますから!今やばいんすよ!この状況見えてないんですか⁈」
「分かってる。何者かが爆弾仕掛けてそれが作動して、今にも船が墜落しかけてるって事やろ。」
「分かってんのによく宿題の話できたなアンタ…」
「やっ、やめろや褒めるの!照れてしまうやろがい!」
「褒めてない。」

クイーン満足号、客室、藤原の部屋にて…

藤原先生がキャリーケースから荷物を出している。

「パラシュート持ってきた。念の為に2つな。」
「何で持ってきてんの?」
「いついかなる事が起こっても冷静に対応できるように準備しておく。それが真の国語教師や。」
「さっすが元学年主任!」
「せやろせやろ!ムズムズするやろ!」
「てか先生、なんでこの船乗ってんのさ?」
「TL高校はな、『ちんちん満足の会』と関係が深いんや。やからたまにこうやって、俺ら教師が呼ばれる事もある。」
「へぇ~…じゃあ他の先生も?」
「教頭以上やな、来れるのは。そんな一端の教師風情が乗れる訳ないやろ。」
「え…藤原先生は?」
「俺は元教頭って事で乗せてもらってる。」
「嘘つけよ。学年主任止まりだろ。」
「ええから早よ脱出や!なにこんな非常時にダラダラ喋ってんねん!殺すぞ!」
「宿題の話してきたくせに…」

二人は飛行船を脱出した。

2045年9月13日、朝、山小屋にて…

幸太郎,植松,海佳,藤原先生はテレビでニュースを観ていた。

〈昨日21時頃、『ちんちん満足の会』が所有するクルーズ飛行船、クイーン満足号が太平洋沿岸に墜落しました。墜落の原因については未だ不明。調査が続けられているとの事。なお、生存者は未だ発見されていません。〉

「他の人たち、死んじまったのかな…」
「お前が気に病む必要はない。全部、矢里本が悪いんや。」
「でも…」

幸太郎は他の乗客を見捨てた事に、罪の意識を感じていた。

「…それより、何で藤原先生が居るの?」
「あ、そうそう。なんで居んの?」

一緒に飛行船を脱出した幸太郎もよくわかっていない。

「教え子が危険な目に遭ってんねや。それを助けたるのが教師ってもんやろ。ま、俺何もできへんけどな。応援だけしとくわ!ガンバレ!!!」
「帰れ。」

藤原先生は帰った。

「モカさん、無事かな…」
「わからん。」
「それにしても、何で矢里本は俺たちが来る事を知ってたんだ?」
「俺のミスや。すまん。」

植松は頭を下げた。

「え、なんで?」
「敵はわざと情報を晒した。矢里本があの船に乗るって。俺らはまんまと敵に誘い出されたんや。すまんな…無能な補佐役で…」
「そんな事ねーよ!植松はよくやってくれてるって!それにほら!俺、生きてるし!」
「違うんや。今回の敵の標的はモカやねん。」
「え…」
「お前の話やと、モカの奴、結構苦戦してたみたいやろ。」
「お、おう…」
「アイツが苦戦なんかするとは思えへん。たとえ敵が『Zoo』であっても。つまり、対策されてた訳や。」
「なるほど…」
「俺らは今、モカっていう最強のカードが無くなった。打つ手無しや。」
「…これからどうすれば…」

誰も考えが浮かばず沈黙が続いた。
静寂の中、海佳のスマホに電話がかかってきた。

「あ!お母さんだ!」
「お!まじか!」

海佳は電話に出ようとした。

「待て。」

しかし、植松はそれを抑止した。

「え、どうしたんですか?」
「連絡が取れへんようなって1カ月やぞ。怪し過ぎる。出んな。」
「でも…!」
「お前らの両親は敵に捕らえられてる。確実にな。」
「それなら尚更出よーぜ!父さんと母さんを助ける為にさ!」
「もう殺されてたらどうすんねん。相手は嘘ついて、生きてるって言って、お前の事呼び出すかも知れへんねんぞ。」
「だとしても!生きてる可能性があるなら助けに行くべきだ!」
「このメンツでどう助ける言うねん!」

植松は珍しく声を荒げた。

「…お前、戦えんのか?」

植松の正論に、幸太郎は言葉が詰まって何も言えなくなった。
しかし、黙ったまま海佳のスマホを取り上げた。

「例え…例え俺が生き残って、この先上手くいったとしても、母さんと父さんの居ない世界じゃ、心から笑えねぇよ!」
「お兄ちゃん…」
「ありえねぇんだよ!見捨てるなんて!」

頑なに譲らない幸太郎に植松は止めるのを諦めた。

「…勝手にしろボケ…」

幸太郎は電話に出た。

「もしもし…」
〈その声、桑田幸太郎だな。〉
「あぁ。」
〈お前の両親は預かった。返して欲しくば、今から言う場所へ来い。人数・日時は問わん。だが、あまり遅すぎると人質の身は保証できない。〉
「安心しろ。今すぐ行ってやる…!」
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