障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第12障『ごめんね〜』

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夜、旧エツピ城外にて…

魔障将タケシが2人の大魔障を引き連れていた。

「お前ら~。ちゃんとれよ。」

その時、キノコの頭部をした魔物が話した。

「任せて下さいね~。ごめんね~。」

続けて、半魚人の女性の魔物が話した。

「ブチ殺してやりますよ‼︎」

旧エツピ城内、とある部屋にて…

ナツカ達は座り込んで話をしていた。

「俺の名はジャック。悪に導かれ、悪に染まり、悪を制する者だ…ア~ハ~ハ~ハ~ハ~!!!」
「それ何回も聞いた。」

その時、雷尿はジャックに話しかけた。

「ジャックはドピュっと何の障王なんだ?」
「ふっ。面白い質問だな。」
「別に、面白い事言ってないけど。」
「俺は昔、熊と戦った事がある。」
「いや、そうじゃなくて…」

もう一度尋ね直そうとしたその時、頬杖をついているナツカが遮った。

「やめとけ。時間の無駄ダ。」
「んじゃ、オレと遊ぼー。」

カメッセッセがナツカの頬をツンツンした。

「無理。」
「何でや。」
「時間の無駄。」

それを聞き、カメッセッセは何故かニッコリした。

「なぁなぁ、オレの事、頭おかすぃって言ってぇやぁ。」
「オメェ、ホント頭おかしいわ。」

次の瞬間、カメッセッセは勢いよく立ち上がった。

「うわぁ!びびび、びっくりしたァ!なんなんな、何ダよ!殴んのか⁈オメェが言えっつったんダろ!」

しかし、カメッセッセはナツカに何をするでもなく、部屋を出ようとした。

「えっちゃ、どこ行くねん?」
「外にいる連中の所だろ…ア~ハ~ハ~ハ~ハ~!!!」

ジャックの戯言が始まった。ナツカはそう思った。
しかし、今回はそうではないみたいだ。

「足音からして3人ですね。」

ニキはそう言うと立ち上がった。

「この邪悪な気配…ドピュっと魔物だな。」

雷尿もニキに続いて立ち上がった。

「何でオメェらそんな事わかんダよ?」

ナツカは皆に聞いた。

「アニキは超耳が良いんでヤンス!」
「あぁ。アッシはそうだとしても、だんな方はどうして分かったんでさ?」

雷尿は槍を手に取りながら答え始めた。

「サイを感じたんだ。3つの大きなサイを。」
「オレも感じた…♡」

カメッセッセはなぜかニヤけている。

「さい…?(そういや、ちょくちょく耳にするな、それ…)何なんダ?その、さいってやつは?」

ナツカの発言にジャックは目を見開いた。

「お前、サイを知らずにタレントを使っていたのか?」
「えっちゃ、俺も知らん。」

その時、雷尿はカメッセッセに話しかけた。

「カメッセッセさん。2人に話していないのですか?」
「え~!オレおすぃえたで~!」

何で覚えてないんだと言わんばかりの顔である。

「えっちゃ、嘘つけ!」
「オメェ、タレントすら教えてくんなかったじゃねぇか!」

エッチャとナツカは怒りながら立ち上がった。

「あんま文句ばっか言ってるとセクシーになんぞ。」
「オメェ、頭イっちゃってくれちゃってんじゃねーの。」

その時、近くからめちゃくちゃ甲高い声が聞こえてきた。

「『S付加バイオレンス』!!!」

すると次の瞬間、部屋の天井がゆっくりと下がってきた。

「天井が…!」

ニキは天井が下がってきた事に、いち早く気づいたようだ。

「ほぉ~ら~!早よ逃げへんかったからこんな事になりました!」
「アハ~!!!オワタ!!!オワタ~!!!」

その時、雷尿は叫んだ。

「みんな伏せろ!『勃起ビルド』!!!」

雷尿は自身の腕を巨大・硬質化させて、天井を破壊した。

「ココは俺に任せて、みんなはドピュっと外へ!」

すると、ジャック以外は出口へと向かった。

「俺も手を貸そう…ア~ハ~ハ~ハ~ハ~!!!」
「ドピュっと助かるぜ。」

その時、破壊した天井から半魚人の魔物が落下してきた。

「ア"ァ~~~~~!!!」

その魔物は叫び声を上げながら、難なく着地した。

「す、すごい…ちゃんと着地している…!」

ジャックは感心している。

「お前、ドピュっと魔王軍だな。」

その魔物は雷尿に答えた。

「アタシは魔障将タケシ様の部下‼︎大魔障・サブリミ‼︎アンタらを殺す‼︎殺す‼︎」

サブリミは頭を振り回している。

「やってみろ!ア~ハ~ハ~ハ~ハ~!!!『感嘆の波動劇ラムダーハンド』!!!」

衝撃波がサブリミを襲う。

「ぬるい‼︎」

サブリミはジャックの攻撃に耐え凌ぎ、ボロボロの椅子に触れた。

「『S付加バイオレンス』!!!」
「「ッ⁈」」

旧エツピ城内、出口への通路にて…

ナツカ達は外に向かって走っている。

「えっちゃ、雷尿大丈夫かな…」
「…信じるしかねぇ。」

その時、カメッセッセが立ち止まった。

「お前らは先に行け。」
「は?」

それに気づき、ナツカ達も足を止めた。

「ちょっとケモテ良くなってくる。」

そう言うと、カメッセッセは出口とは別の通路へと走り出した。

「えっちゃ、ほんま頭おかしいよな。」
「あんなボケ放っといて外出るぞ。」

ナツカ達はカメッセッセの行動に惑わされることなく、再び外へと走り出した。

旧エツピ城前にて…

城の入り口では、キノコ頭の魔物が居た。

「ごめんね~。待ち伏せなんて卑怯だねぇ~ごめんね~。」

待ち伏せをする割には奇襲をするわけでもなく、謝り出した魔物に余計ナツカ達は警戒した。

「何ダお前。」
「僕は砂謝茸さしゃだけ。タケシ魔障将の隊に所属する大魔障の一人だよ~ごめんね~。」

言葉だけでなく、動作もヒョロヒョロしている。

「気持ち悪ぃ魔物でさぁ。」
「何で謝ってんでゲスかね。」

全くもってニキとヤスの言う通りである。

その時、砂謝茸は背中に背負っていた巨大なモーニングスターを手に取った。

「悪いけど、君たちには死んでもらわないといけないんだよね~…ご~め~ん~ね~!!!」

砂謝茸はゆっくりとナツカ達に近づいてきた。

「こっち来るでヤンス!」

次の瞬間、砂謝茸はエッチャに向けてモーニングスターを振り下ろした。

「だんな!」
「危ないでヤンス!」

しかし、エッチャはそれを難なくかわした。

「えっちゃ、遅いわ!そんなん喰らうか!」

しかし、エッチャの頬には切り傷ができていた。どうやら、モーニングスターについた大きなトゲが、エッチャの頬をかすったらしい。

「『球丸マルク』!!!」

すると、モーニングスターは完全な球体となり、トゲが無くなった。

「ねぁ⁈」
「えっちゃ、トゲトゲ危ないわ。」

エッチャは剣を抜いて、砂謝茸に振り下ろした。
しかし、砂謝茸は背後へ飛んでかわした。

「チッ…(後ろへ避けやがった…)」

ナツカの微分魔法なら、敵が上下左右に避けた場合なら、剣先を曲げて、敵の回避に対応する事ができる。しかし、微分魔法では奥行きは変えられない。

「(デカマーラの時みてぇに、不意を突いて殺せると思ったのによぉ…)」
「(やっぱ片腕やと攻撃しにくいわ…)」

その時、砂謝茸はニヤッと微笑んだ。

「いや~。君、結構強いんだねぇ~。ハゲだからってなめててごめんね~。」
「えっちゃ、どんな理屈やねん。てか、ハゲちゃうわ!坊主じゃ坊主!」

その時、砂謝茸の雰囲気が変わった。

「じゃあ次はね~…本気で行くよね~…!!!」

次の瞬間、砂謝茸は先程とは打って変わって、猛スピードでエッチャに向かってモーニングスターを振り下ろした。

「速ッ…⁈」

避けきれない。勢いよく振り下ろされた巨大な鉄球はエッチャの頭部をかち割る。即死だ。
しかし、エッチャはそうなると思ってはいない。何故なら、エッチャは信じていたから。仲間を。

「微分魔法『y=0ホライゾン』!!!」

すると、モーニングスターはエッチャの頭の上で横方向に変わった。

「今ダ!やっちまえ!エッチャ!」

エッチャが砂謝茸に斬撃を食らわせようと一歩踏み込んだその刹那、砂謝茸は笑った。

「『液放ビュレト』!!!」

すると次の瞬間、モーニングスターの内から液体が放出された。

「ッ⁈」
「濃硫酸だよ~ごめんね~!!!」

砂謝茸の奥の手、それは猛スピードから振り下ろされる鉄球ではなく、鉄球内の濃硫酸をタレントにより放出する事。
誰もが予想だにしない攻撃。当然、回避は不可。ナツカの微分魔法も、解除から発動までに間に合わない。
手遅れだ。誰もがそう思った。一人を除いては。
次の瞬間、ニキが身体を張って、濃硫酸からエッチャを守った。

「んんッ⁈」

砂謝茸は突如としてニキが現れた事に動転し、再び背後へ飛んだ。

「(野生の勘…ねぇ~…)」

濃硫酸はニキの顔にかかった。

「お前…なんで…⁈」
「平気ですかい、エッチャのだんな…」
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