障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第5障『アルテマウェポン』

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4月12日、学校にて…

ガイは教室に入った。そこには、有野の姿があった。

「おはよ。」

ガイは有野に挨拶した。

「おはよ…」

有野は恥ずかしそうに返した。
そして、ガイは自分の席へ移動し、着席した。

「おはよう!!!障坂君!!!」

すると、前の席の堺が振り返り、馬鹿デカい声でガイに挨拶をした。

「うっるっさっ…何…?」

ガイは耳を塞いだ。

「有野さん、来てくれたね!嬉しいね!」
「いや、まぁ…うん。」

ガイは有野の方を向いた。

「(そうだ。タレントとかの事、有野に聞いてみよう。山口あのアホに聞いても無駄だったからな。)」

その時、チャイムが鳴り、先生が入って来た。

「はーい、みんな席について下さーい。」

みんなは席についた。

「なんと、今日から授業が始まります!みんな、頑張ろう!」

それを聞いた生徒達は口々に喚いた。

「えー。」
「だりぃー。」

その時、教室のドアが勢いよく開いた。

「セーフ!」

山口だ。

「残念。アウトです。」
「チクショ!」

その時、山口は有野と目が合った。

「あっ…」
「…」

すると、山口はふんっ!とそっぽを向いた。どうやら、昨日無視された事を根に持っているようだ。

放課後、飼育小屋にて…

ガイと有野は体育館の横のまあまあ大きい飼育小屋に入った。

「くっさ!めっちゃ臭い!」

ガイは腕で鼻を覆った。

「…」

有野は小屋の中でしゃがみ込み、ウサギを撫で始めた。

「んじゃ、掃除しよっか。」
「…」

しかし、有野はウサギに夢中でガイの声に気づいていない。

「有野…?」

有野はすっごい癒されていた。

「ウサギ好きなのか?」

すると、有野は無言で頷いた。

「…ま、それはそうと、掃除しよう。」

ガイと有野はウサギ小屋の掃除を始めた。

「…」
「…」

2人は無言のまま、小屋の掃除をしている。

「(どうしよう…気まずい…何を話せば…あ、そうだ。)」

ガイはとある事を思い出した。

「なぁ。有野が使ってたあの超能力。タレントだっけ?アレってさ…」

するとその時、有野が口を開いた。

「無い…」
「え?」

ガイは首を傾げた。

「エサが無い…」

どうやら、ウサギのエサが無くなっていたようだ。

「あぁ。エサなら確か倉庫にあると思うよ。ちょっと取ってくるわ。」

ガイがエサを取りに行こうとしたその時、有野は言った。

「私が行く。」

すると、有野はウサギ小屋を出て、エサを取りに行った。

「聞きそびれた…」

倉庫前にて…

有野は倉庫の前で、4人の女生徒達と出会した。
その時、黒髪パーマの女子生徒が向かってくる有野に気づいた。

「なんか用?」
「…別に…」

有野は彼女達を無視して倉庫に向かおうとした次の瞬間、その女子生徒が有野の髪を引っ張った。

「金髪、似合うとでも思ってんの?」
「地毛だから…」

その時、茶髪ボブヘアの女子生徒が有野の前に立った。

「へ~!便利な地毛!アタシらなんか校則ギリギリ攻めてるのにさ!地毛だったら許されるもんねいいねー!」
「…」

有野は目を逸らした。しかし、その女子生徒は話し続けた。

「そうやってまた、男子の気でも惹こうと思ってんでしょ?あの時みたいに。」

すると、褐色に日焼けしたドレッドヘアの女子生徒が続けた。

「トンダど淫乱コンチキショー野郎ネ!ワオッ!」

すると、茶髪ボブヘアの女子生徒が叫んだ。

「くっさ!ヨシミ頭臭い!」
「酷イヨ美由みゆ!ソレハ言ワナイオ約束ネ!」

その時、有野の髪を掴んでいる黒髪パーマの女子生徒が、ハサミで有野の髪を切り始めた。

「ッ⁈」

有野はその女子生徒を突き飛ばした。

「いっ…!」

すると、その女子生徒は地面に尻もちをついた。

「よくもこの私に…ッ!」

次の瞬間、その女子生徒は有野を押し倒し、有野の首を絞め始めた。

「殺してやるッ…!!!」

有野は苦しそうにもがいている。

「ま、待って!彩乃あやの!」

その時、今までずっと黙って見ていただけの黒髪おさげの女子生徒が彩乃を呼び止めた。

「それ以上は、ホントに…死んじゃう…かも…」

その女子生徒は震えていた。
すると、有野の首を絞めていた女子生徒、彩乃がその女子生徒を睨んだ。

「なに梨子りこ?コイツ助けたいの?」
「いや…あの…そういう訳じゃなくて…」

するとその時、彩乃は有野の首を絞めるのをやめた。

「じゃあ代わりにやれよ。死なない程度に。」

彩乃は地面に倒れ、咳き込む有野を指差した。

「わ、私が…⁈」

梨子はオドオドしている。

「アンタ、昔コイツと仲良かったわよね?ホントは助けたいんでしょ?」

梨子は有野を見た。

「別に…私は…」

次の瞬間、彩乃は叫んだ。

「やれって言ってんだよ!私の言う事が聞けねぇってのか⁈あぁ⁈」
「ッ…」

梨子は有野に近づいた。

「京香…」

2人は目が合った。

「梨子…」

その時、ヨシミが梨子にとある物を手渡した。

「コレデひと思イニ殺スガヨロシ。」
「え…何これ…?」

梨子はアルテマウェポンを受け取った。

「強イヨ~。」
「いや、だから何これ?」

次の瞬間、女子生徒達の頭上から大量の水が降ってきた。

「「「きゃあ!!!」」」

有野を除き、女子生徒達はずぶ濡れになった。

「ごめん、手が滑った。うっかりすっかり。」

倉庫の上には空のバケツを持ったガイがいた。どうやら、水をかけたのはガイのようだ。

「テメェ!この野郎!!!」

彩乃は激怒し、倉庫上のガイを睨みつけている。それに対して、ガイは冷静に話し始めた。

「この水、何の水かよくわからないから気をつけてね。」

すると、彩乃達はもがき苦しみ始めた。

「くっさ!ホント何の水よコレ!」
「ヨシミの頭の臭いするぅ~!」
「ダカラソレハ言ワナイオ約束ネ!ワオッ!」

ガイは倉庫上から降りた。
それを見た女子生徒達はたじろいだ。

「テメェ!おぼえとけよ!」
「命アルダケマシダト思イナ!アディオス!」

女生徒達は逃げた。

「…」

ガイは有野にウサギのエサが入った袋を手渡した。

「早く終わらせて帰ろ。」
「うん…」

ガイは地面に落ちていたアルテマウェポンを拾った。

「何これ…?」

その時、有野はガイの制服を軽く引っ張った。

「あ…ありがと…」
「うん。」

ガイはそっけなく返事をした。

翌週の月曜日(4月15日)、朝、学校にて…

ガイは教室に入り、席についた。

「やあ、障坂くん。おはよう。」
「おはよう。」

堺の席はガイの1つ前。堺はガイの方を振り返った。

「障坂くん、知ってるかい?昨日起こった事件。」
「事件?」

ガイは首を傾げた。

「なんでも、この辺りで引ったくりが出たんだって。」
「へー。」

ガイは興味無さそうだ。

「実はその引ったくり犯、宇宙人なんだって!」
「は?」

ガイはまたもや首を傾げた。

「被害者の証言によると、犯人は覆面を被っていて、鞄を引ったくった後、一瞬にして何処かへ消え去ったらしいんだ!」

興奮する堺にガイは尋ねた。

「それで、なんで宇宙人?」
「引ったくり犯は子供ぐらいの大きさだったらしいんだ。小さくて瞬間移動したらそれはもう宇宙人だよ!」

ガイは呆れた顔をしている。

「アホらし。そんな非科学的な事…」

ガイはタレントやハンディーキャッパーの事を思い出した。

「まぁ…うん。」

ガイはやむなく認めた。

「だろ!だから今日は放課後、その宇宙人を探しに行くんだ!」
「なんで?堺ってそういうオカルト系好きだったのか?」

すると、堺は首を横に振った。

「全然興味ないさ。あんなの全部嘘っぱちだよ。糞だよ、糞。」
「(さっきと言ってる事が違う…)じゃあ、なんで?」

すると、堺は自身の腰に手を当てた。

「僕はクラス委員長だからね。クラス委員長だからね!この街の安全を守るのも役目なのさ。クラス委員長だから!」
「クラス委員長にそんな役目無いと思うけど。」

次の瞬間、堺はガイに顔を近づけた。

「いいや!1-4の生徒が被害にあうかもしれないんだ!クラス委員長として、自分のクラスメートが悲しむ姿を、僕は見たく無いんだ!僕は興味本位で行くのではなく、あくまでクラス委員長としての務めを!」
「わかったわかった!ごめん!」

ガイは堺をなだめた。

「って事で君も付き合ってくれないか?」

ガイは堺の発言に戸惑った。

「な、なんで…」
「僕、こう見えても体力には自信無いんだ。ガリガリのガリ勉だから、もし宇宙人を見つけても捕まえられないよ。」

ガイは堺から目を逸らした。

「(んじゃもうやめとけよ…って言えば、またクラス委員長がどうたらこうたらって言うだろうな。)」

ガイは堺に言った。

「他の人に頼めよ。」

しかし、堺は首を振った。

「僕、こう見えても友達少ないんだ。僕の友達の中で唯一運動神経の良いのはキミだけ!つまり、キミにしか引ったくり犯を捕まえられない!」
「なんで、俺が運動神経良いって知ってるんだよ?」

運動神経が良い事を謙遜しないガイ。

「僕、こう見えてもクラス委員長だからね!クラスの子の個人情報ぐらい知ってて当然さ!」
「(だいぶ病気だな…)」

ガイは1時間目の用意を始めた。

「悪いけど俺、今日はピアノと空手の稽古あるから…」

その時、山口が現れた。

「面白そーじゃねーか!よし!俺も行くぜ!」
「山口⁈」

ガイは驚いた。何故なら、山口が遅刻してこなかったからだ。

「ありがとう、山口くん!それじゃ、今日の放課後、3人で窃盗宇宙人を探しに行こう!」
「いや、俺、ピアノと空手…」

その時、山口は叫んだ。

「おー!!!」

放課後、商店街にて…

ガイたちは学校近くの商店街に来ていた。

「(有野、今日学校来なかったな…アイツまさか、金曜日だけ来る気じゃないだろうな…)」

堺はガイと山口に話しかけた。

「山口くんは向こうのショッピングモール内を。障坂君は向かいの通りを。僕はこっちの通りを探すよ。」
「おっしゃ!頑張るぜ!」
「(絶対見つからない気がする。)」

ガイはため息をついた。

「見つけたらスマホで知らせてね。それじゃ、捜索開始!」
「おー!!!」

3人は別行動をとった。

数分後、商店街、南方面にて…

「(くだらない。大体見つかるわけないだろ。帰ろ帰ろ。)」

ガイが商店街を出ようとしたその時、近くで女性の叫び声が聞こえてきた。

「きゃー!引ったくりよ!」

ガイはそれを聞き驚いた。

「えぇ⁈」

覆面を被った低身長の者が女性から鞄を奪い、走り出していた。

「(まじか⁈と、とりあえず、連絡…)」

すると、その覆面はガイの方へ走ってきた。

「退けぇぇえ!!!」

覆面はガイに向かった突っ込んできた。

「おわっ⁈」

ガイはうっかりその覆面を投げ飛ばした。

「あ、すいません…(って、何で謝ってんだ俺…)」

その覆面は電柱に投げつけられ、その衝撃で手からカバンが落ちた。

「いってぇ~…」

ガイはその覆面に近づき、肩に手を置いた。

「おい、ドロボー。カバン返してやれよ。」

その時、覆面は叫んだ。

「『我と彼方の代入法セルチョイス』!!!」
「え…!」

次の瞬間、カバンを残して、ガイと覆面の姿が消えた。
通行人達はそれを見て驚嘆している。

「お、おい⁈消えたぞ⁈」
「何なんだ今の⁈
「よかったぁ~。カバン無事で…」
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