障王

泉出康一

文字の大きさ
68 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第4障『偽りの善』

しおりを挟む
4月11日、学校にて…

「今日は係や委員を決めてもらいます。」

広瀬先生は黒板にそれぞれの係名や委員会名を書いていった。

委員会…委員長、副委員長、体育委員、風紀委員、保健委員、放送委員、図書委員、新聞委員、美化委員
係…英語係、数学係、国語係、理科係、社会係、音楽係、家庭科係、技術係、美術係、配布係、掲示係、生き物係、相槌係

「委員は男女各1名ずつ、係は1人、または2人です。」

その時、1人の生徒が手を上げた。

「せんせー。相槌係って何ですか?」
「これは先生や他の生徒の意見に対して、自分が興味なくても相槌を入れて、その人にいい気分になってもらう係です。」

相槌係はこの学校特有の係である。

「じゃあ、まず、男子で委員長になりたい人。」

すると、山口が手を挙げた。

「はーい!俺やりてぇ!」

そんな山口に続き、メガネをかけた男子生徒も手を挙げた。

「僕も!」

それに気づいた山口は、そのメガネ男子生徒を睨んだ。

「あー?誰だてめー。」
「僕はさかいまじめ。僕が委員長になります!」

山口は鼻で笑った。

「無理無理。お前程度の人間じゃ務まらねーよ。」

すると、堺は山口に言った。

「君の方こそ委員長には向かないんじゃないかな。」
「んだと⁈」

山口は堺の胸ぐらを掴んだ。

「だって君、昨日遅刻してきたじゃないか!」

堺は全く物怖じしていない。

「そ、そそそそれは偶々だ!」

それに対し、山口はあからさまに動揺している。

「それに入学式の日、そこの障坂君と問題起こしてましたよね。」

堺はガイを見た。

「俺は何もしてない。」

ガイは否定している。

「く、くそ!痛いトコばっかつきやがって!」

やばい。山口、そろそろ手が出ちゃう。

「はいはい、それじゃ、多数決で決めましょう。山口君に委員長をやってもらいたい人ー。」

誰も手を挙げない。

「おい!」
「じゃあ、堺君に委員長をやってもらいたい人ー。」

クラスの八割方が手を挙げた。ガイも手を挙げていた。

「ガイ!おめーまで!」

ガイはお尻フェチの件を根に持っていたのだ。

「もういい!俺なんかは相槌係がお似合いだって言いたいんだろ!そうなんだろ!そーですね!!!」

山口は自身に相槌を打ちながら教室を飛び出した。

「ちょ、ちょっと、山口くん⁈」

広瀬先生が後を追いかけた。
すると、堺が教卓の前に立った。

「それじゃ、先生に代わって僕が指揮らせてもらいます。」

次々と委員と係が決められている。ガイは放送委員や図書委員、保健委員に立候補したが、全てジャンケンに負けてしまった。
そして、ガイはみんながやりたくない生き物係になった。

「最悪…」
「でも、生き物係は1人では少し大変ですね。」

生き物係は学校で飼っているザリガニやメダカ、インコやウサギなどを世話する係である。担当の曜日をクラスや学年ごとで割り当てられる。

「しかし、もうみんな決まってしまいましたから…」

その時、2人の生徒の会話が堺の耳に入った。

「休んでる奴は?」
「そういえば、まだ決めてなかったね。」

すると、堺は叫んだ。

「そうでした!僕とした事が忘れていました!それでは、生き物係は障坂君と、えーっと…」

堺は名簿を見て、言った。

「有野さんに決まりました。」
「え、ちょっと…」

ガイが何か言おうとしたところで、広瀬先生と山口が戻ってきた。

「おや、終わったようですね。仕事が早くて助かりますよ、堺委員長。」
「いえ~それほどでも~♡」

堺はヘコヘコしている。

「いや、待って…」

ガイは椅子から立ち上がった。
しかし、そんなガイの発言を山口がかき消した。

「そーですね!」

山口は相槌を打ったのだ。何に対してかは知らない。
そして、係決めは終了した。

放課後、教室にて…

「障坂くーん!」

クラス委員長の堺がガイに話しかけてきた。

「どした?」

ガイは堺に用を尋ねた。

「有野さんの家に行こう!」
「え、嫌だけど。」

すると、堺は詰め寄った。

「君はクラスメートを助けたいとは思わないのか⁈」
「いや、今日はバイオリンと英会話があるから…」

堺はガイを無視して話を続けた。

「同じクラスに不登校がいるんだ。何か悩んでるのかもしれない…」
「そんな、2日休んだぐらいで…」

ガイは面倒事に関わりたくないようだ。

「実は彼女と同じ小学校だった子から聞いたんだけど、有野さん、小学校でも不登校だったそうなんだ。」
「へー。」

ガイは帰る支度を始めた。

「その子の話だと小4あたりから急に来なくなったとか…」
「でも、別に行きたくないなら行かなくていいんじゃない?」

堺はガイに顔を近づけた。

「ホントは行きたいかもしれないじゃないか!でも行けない理由があるかもしれないから僕たちが彼女の悩みを…!」
「わかったわかった!近い近い!」

その時、山口が2人の元へやってきた。

「俺も行くぜ!」
「や、山口…」

ガイは山口を見て、嫌そうな顔をした。

「同じハンディーキャッパーが悩んでんだ。同族のよしみってやつ?で相談乗ってやるよ!」
「いや、まだ悩んでるかどうか決まったわけじゃ…」
「山口君!」

堺は山口の手を掴んだ。

「君の心意気には感激したよ!さぁ、行こう!有野さんを助けに!」
「おうよ!」

2人は意気投合している。

「何やってんだ、ガイ!行くぞ!」
「…はいはい。」

3人は有野の家へ向かった。

住宅街にて…

ガイ,山口,堺が歩いている。
するとその時、ガイは堺に尋ねた。

「なあ、堺。こういうのは普通先生がやるもんじゃないか?」
「広瀬先生はまだ新人だ。だから、あまり面倒事をかけたら可哀想でしょ。」

ガイは、堺が内申点や周りの評価の為に行動しているものだと思っていた。しかし、どうやらそれは違う事を、ガイは悟った。

「それに、同級生の方が話しやすいこともあるだろうしね。」
「そーですね!」

山口は相槌を打った。

有野の家の前にて…

「この家みたい。」
「まぁまぁな家だな。」
「思っても口にするな。」

安直な山口の感想にガイは注意した。
そんな中、堺はそそくさとインターフォンを押した。

〈はーい。〉

すると、女性の声が聞こえてきた。

「こんにちは。僕、クラス委員長の堺まじめと言います。クラス委員長です。」
「あ、2回言ってる…」

クラス委員長を強調したかったようだ。

「京香さんが欠席されていた日のプリントを持ってきました。」

〈あら、わざわざありがとね。ちょっと待って。〉

数分後、玄関から綺麗な女の人が出てきた。

「どうも、京香の母です。」

堺と山口は有野の母の美貌に見惚れている。

「美しい…♡」
「人妻…♡」

有野の母は3人を家へ招いた。

「どうぞ、あがって。」

有野家のリビングにて…

ガイたちはソファに座っている。

「いま、京香呼んでくるわね。」

有野の母は2階へ上がっていった。

「ただいまー!」

ちょうどそこへ、入れ替わるように幼い少年が玄関から入って来た。

「んぬぁ⁈誰だお前ら⁈不法侵入だぞ!死ねー!」

その子はガイに飛び蹴りした。

「ふぐぬぁッ!」

ガイは床に倒れた。

「ダウン連してやる!!!」

ガイは起きあがろうとするが何度も倒されている。
すると、その騒ぎを聞きつけてか、慌てて2階から降りてくる足音がした。

「こら!京介きょうすけ!お客様に何してるの!」

数分後…

「ごめんなさい。この子、気性が荒くて…煽りプレイとさかれたらすぐ台パンしちゃうのよ…」
「通りで…」

ガイはリビングを見渡した。そこには、いくつもの台パンの跡があった。

「キミ、有野さんの弟?」

堺は弟に話しかけた。

「うん。京介。小1。なめんなよ。」

その時、堺は有野の母に有野の事を尋ねた。

「あの…京香さんは…?」

すると、有野の母は少し困ったような表情をした。

「それが…会いたくないって…」
「そうですか…」

多少の沈黙の後、ガイは堺に耳打ちした。

「会いたくないなら早く帰ろう。」
「で、でも…」

その時、有野弟は山口がいない事に気がついた。

「あれ?そう言えばアイツは?」
「あ、ほんとだ。どこ行ったんだろ…?」

上の階から声が聞こえる。

「おーい!いるんだろ!出て来いよ!」

山口の声だ。

「アイツ、人ん家勝手に…」

ガイたちは2階へ上がった。

有野家、2階にて…

山口が有野の部屋のドアを叩いている。

「おい!出てこい開けろー!」

そこへ、ガイ達がやってきた。

「ちょっと山口くん!やめたまえ!」

堺が山口を押さえた。

「なんで学校に来たくねーんだよ!なんか言えよ!言わなきゃわかんねーだろ!」

有野からの返事はない。

「もう知るか!一生そこで引きこもってろ!バカ!」

山口は堺を振り払って階段を降りていった。

「山口くん!」

堺は山口を追った。

「あんにゃろ!姉ちゃんに向かって何たる暴言!階段からメテオしてやる!!!」

弟も山口を追った。

「みんな血の気が多いんだから…」

その時、ガイはノックした。

「有野、お前生き物係になったぞ。1年4組は金曜日にウサギの世話だってさ。早速明日からだ。」

有野は黙ったままだ。

「来る来ないはお前の勝手だけど、それで誰かの迷惑になってる事だけは分かっとけよな。」

ガイは階段の方へ向かった。その途中、ガイは言った。

「でも、本当に困ったことがあるなら言えよ。」
「障坂くん…」

有野の母はガイを見た。

「俺は…いや、少なくとも俺たちは、お前に迷惑かけられても嫌じゃないからな。」

ガイも山口たちの後を追った。

「良いお友達ね。京香。」
「…」

この時のガイは決して有野のことを思って言ったわけではない。せっかく自分の時間を割いてまでやって来たのに、意味がないまま終わるのが嫌だったからだ。それに、係の仕事を自分1人でするのは大変だから、有野を学校へ来させるため、アメとムチを使い分けたのだ。自分たちだけは特別だと思わせるために。決して、善意では無い。
しかし、ガイがしたこの行動は、側から見たら『善』である。これは明らかに父親の遺伝が色濃く出ている。だが、この時のガイはまだ、それに気づくことができない。それが、やがて手に入れる、あのタレントの影響である事を。2万5000年の記憶を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...