障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第3障『この世界は』

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入学式の翌日、4月10日、学校にて…

ガイは自分の教室、1年4組に入った。そこには、同じ小学校の同級生や、違う小学校から上がって来た人たちがいた。

「(仲いい奴が1人もいない…)」

ガイは黒板に貼られた座席表を見て、自分の席に座った。
その数分後、チャイムが鳴り、若い男の先生が入って来た。

「初めまして。今日からキミ達の担任になった広瀬ひろせりくです。よろしくお願いします。」

優しそうな先生だ。

「新任です。大学卒業したばかりです。だから、みんな優しくしてね。あ、担当教科は数学だよ。」

広瀬先生。23歳。本当は幼稚園の先生になりたかったようだが、ピアノが弾けなかったらしい。

「10時に体育館集合だから、それまでに自己紹介しようか。」

現在、午前8時48分。

「それでは出席番号1番の人から…」

その時、教室のドアが勢いよく開いた。

「セェェェェェェェェフッ!!!」

山口が遅刻して来たのだ。

「残念。アウトです。」
「チクショ!」

山口は教室内を見渡した。

「全然知り合い居ねーじゃねーか。てか、今なんの時間だ?」
「今から皆さんに自己紹介してもらうところだったんですよ。ちなみに、私は担任の…」

その時、山口はガイを見つけた。

「おおー!ガイ!同じクラスか!奇遇だな!」
「…」

ガイは目を逸らし、無視している。

「なあ、教師ー。俺の席どこだ?」
「あそこですよ、山口くん。あと、タメ口やめましょう。」

広瀬先生は窓側の後ろから2番目の席を指差した。

「サンキュー。」

席は廊下側の1番前から後ろにかけて、主席番号順に割り当てられていた。
山口は自分の席に座り、後ろを振り返った。

「なあ、お前渡辺か?」

山口は後ろの席の女子生徒に話しかけた。

「え、なんで…?」
「山口の後ろっていったら渡辺だろ?知らねーの?」

後ろの席の人は困惑している。

「いや、私、吉田だけど…」
「吉田ぁ~?なにが『だ』だよ。何にも『よく』ねーんだよ。俺の渡辺記録途絶えさせやがって。空気読めよ。」
「知らないよそんなの。」

その時、広瀬先生が手を叩いた。

「それじゃ、出席番号1番の人から自己紹介を…」

広瀬先生は1番の席を見た。しかし、そこには誰も座っていなかった。

「お休みですか…では、2番の人から。」

すると、地味な生徒が立ち上がった。

石川いしかわ寛人ひろとです。趣味はサッカーです。よろしくお願いします。」

それを見たガイはとある事に気がついた。

「(2番が石川…んじゃ、欠席してるのは有野か。風邪かな。)」

次々と生徒達が自己紹介をしている。そして18番、ガイの番が回ってきた。

「障坂ガイです。趣味はゲームです。よろしくお願いします。」

すると、ガイを知らない生徒達がざわつき始めた。

「おい、障坂ってあの金持ちの家か⁈」
「いいよな、セレブって。」
「きっとアイツわがままだぜ。」
「金持ちはこれだから困るよな。」

ガイは家の事で、自分のことをとやかく言われるのにウンザリしていた。偏見で自分の評価をされるのが嫌だったから。そしてなにより、あの父親の息子であると思われるだけで吐き気がするからだ。

「おい、お前ら!」

山口が席から立ち上がった。山口が座っていた椅子は後ろの席の吉田の机に思いっきり当たった。

「うわっ!」

渡辺は驚きの声を上げた。
しかし、山口は全くそれに気づかず、話を続けた。

「ガイはワガママなんかじゃねーよ!昨日だって、率先して掃除してたんだ!よく知りもしねーで勝手なこと言ってんじゃねーよ!」

それを聞いたガイは少し驚いたような表情をした。

「山口…」

周りの生徒達は黙り込んでいる。
空気が少し重くなった。すると次の瞬間、山口はとんでもない事を口走った。

「ガイは生粋の尻フェチなんだ!尻フェチに悪い奴はいねーよ!」
「は…⁈」

皆、それを聞き動揺した。そしてなにより、ガイが1番動揺している。

「あいつ、お尻フェチなのか?」
「キモ~い。」

これならまだワガママって思われる方が良かった、と思った。この日から、ガイは1年4組でお尻フェチと呼ばれるようになった。

「ふざけんなよ…」

この日は授業はなく、説明や自己紹介などで学校が終わった。

放課後、校門前にて…

学校内からガイが出てきた。

「ガイくーん!!!」

その時、ガイの元へ1人の男子生徒が駆け寄ってきた。

「おう、広瀬。」

それは広瀬鈴也すずや。小学校からのガイの幼馴染で、担任の広瀬先生の弟である。

「一緒に帰ろう。」

下校中、住宅街にて…

ガイと広瀬は話しながら帰宅している。

「広瀬、1組なのか。俺もそっちがよかった…4組変な奴しか居ない。」
「でも石川くん居るじゃん。幼稚園から一緒なんだろ?」
「クラスもな。別に仲良く無いけど。」
「10年間?」
「10年間。」
「奇跡じゃん。結婚すれば?」
「しない。」

夕方、障坂邸、玄関にて…

「ただいまー。」

ガイが玄関のドアを開けて入ってきた。

「おかえりなさいませ。学校はどうでしたか?」
「まぁまぁかな。」

すると、執事長の十谷がガイを出迎えた。

「気に入らない奴がいましたら、おっしゃいください。証拠が残らないように消しますので…」
「いないし、消さない。」

その時、村上が大量の本を持ってきた。

「ガイ様~。頼まれていたものお持ちしました。」
「ありがとう。」

ガイは村上からそれらを受け取り、自分の部屋へと向かっていった。

「おい、村上。お前一体何を持ってきたんだ?」
「地理や歴史の本です。なんでも、社会の勉強をするとか…」

ガイの部屋にて…

ガイは椅子に座り、自室で本を読んでいる。

「(チハーヤ…デカマーラ…インキャーン…。変な名前の国ばっかだな。)」

ガイは昨日、タレントやハンディーキャッパーについて調べていた。しかし、それらに該当する書物などは見つからなかった。そこでガイは、世界で起こった不可思議な事件や地形を調べることにしたのだ。

「(ハンディーキャッパーについてはいくら調べても見つからなかった。ネットではそれっぽいのばっかりで逆にどれが本当かわからない。それなら、実際に起こった不思議なことを調べてみるしかないな。)」

数時間後…

村上がガイに夜食を持ってきた。

「(ガイ様、随分と集中してるわね。)」

村上はガイの部屋のドアをノックした。

「ガイ様~。夜食を持ってきました。」

しかし、返事がない。

「ガイ様~。しかばねですか~?」

村上は勝手にガイの部屋に入った。ガイはパソコンを開き、机の上で本を見ていた。

「ガイ様。夜食ですよ。」

その時、ガイは一人呟いた。

「おかしい…」
「へぇ?」

村上は首を傾げた。

「あ、あの、ガイ様…」

すると、ガイは村上に気づいた。

「ん?あぁ、村上。どしたの?」
「夜食をお持ちしました。」

村上は机の隅に夜食を置いた。

「あー、ありがとう…」

ガイは少し、上の空だ。それが気になった村上はガイに尋ねた。

「おかしいって何かあったんですか?」
「いや、その…」

ガイは頭を抱えている。

「何なんですか?気になりますよ。」
「…実はこの世界、本物じゃないんじゃないかと思って…」

ガイの突拍子も無い発言に村上は困惑した。

「本物じゃない…?」
「あぁ。おかしいんだ。チハーヤとデカマーラとインキャーン。どれも同じ大陸にあって貿易だってしてる。なのに文化が全然違う。」

村上はそれがどうかしたのか?と言ったような表情をしている。

「そういうこともあるんじゃないんですか?」

しかし、ガイは更に話した。

「それに、2万5000年前からこれらの国は存在した。にも関わらず、全く技術が発展してない。おかしいと思わないか?頻繁に貿易をしているこの3つの国よりも、ずっと昔から鎖国しているゴルデンの方が技術が進歩してるなんて…」
「そう言われてみれば…」

ガイの説明に、村上は納得し始めている。

「気候も地形も滅茶苦茶。太陽の動きも。本当に空の上には宇宙があるのか…?そして一番引っかかるのは、何故誰もそれを話題にしないか、だ。俺みたいなガキが気づいてるのに、研究者とかが気づかない訳がない。」

ガイは机の上に広げられた世界地図を眺めた。

「ゲームみたいだ。この世界はまるで、誰かによって作られたゲームの中…」

その時、村上は考え込むガイに質問した。

「誰かって…?」
「わからない…」

ガイはその時、ハンディーキャッパーのことを思い出した。

「(もし、この世界が誰かに作られた世界なら、ハンディーキャッパーは意図的に、その誰かによって作られたもの。だったら、その誰かの目的は…)」

ガイは答えがわかりかけていた。しかし、決してガイには全てを理解する事などできない。そもそも、この世界が100%本物か偽物かなど、言い切ることなどガイにはできないのだ。そう、この時点では…
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