障王

泉出康一

文字の大きさ
上 下
71 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第7障『逆転の逆転』

しおりを挟む
4月15日 17:42、陣野邸前にて…

ガイたちは陣野の家の前に到着した。

「ほ、ほんとに行くの…⁈」

堺は怯えている。
その時、山口が皆に伝えた。

「6時まで待ってくれ。俺のタレントがまだ回復してない。」
「回復?」

山口は説明を始めた。

「俺の『飛翼フライド』の発動条件だ。次また使うには、翼をしまってから1時間のインターバルが必要なんだよ。」

山口が最後にタレントを使用したのは16:58。翼をしまったのはそこから約2分後。つまり、次に山口が『飛翼フライド』を使えるのは、大体18時頃なのである。

「あと、翼をつけられる時間も決まっててな。それも1時間だ。それを過ぎると強制的にタレントは解除されて、翼は消える。」

それを聞き、ガイは考えた。

「1時間…それが、救出作戦のタイムリミットって感じか…」

堺は驚嘆した。

「1時間もいる気なの⁈」

ガイは山尾に尋ねた。

「陣野はハンディーキャッパーなのか?」
「あぁ。間違いない。会った時にPSIを感じたから。」

ガイは更に尋ねた。

「さっきっからその『PSIを感じる』ってどういう事なんだ?」
「PSIはタレントを使う為のエネルギー。体の表面に纏う事で肉体の力を向上させる事ができる。」

すると、ガイは首を横に振った。

「いや、それは知ってる。コイツに聞いたから。」

ガイは山口を指差している。

「ハンディーキャッパーはそのPSIを感知できるんだ。人にもよるが、俺は大体自分から半径10m以内のPSIを感知できる。」

山尾に続けて、山口も発言した。

「俺もそんなもん。」

ガイは納得した。

「へー。そんな事できるのか…」

今度は、山尾がガイに尋ねた。

「お前、PSIの感覚わかんないのか?」
「うん。そもそも、俺、ハンディーキャッパーじゃないし。」

それを聞いた山口と山尾は首を傾げた。

「ガイ、お前ハンディーキャッパーだぞ?」
「え…?」

ガイは山口の突拍子もない発言に困惑した。

「いやいや、だからお前、ハンディーキャッパーだって。」

すると、山尾も山口に同調した。

「うんうん。感じるもんな、PSI。」

ガイは驚いている。

「マジか…」

ガイはハンディーキャッパーだった。

18:00、陣野邸、3階の廊下にて…

陣野邸の3階廊下の窓ガラスが割れた。

「な、なんだ⁈」

3人の男たちが割れた窓ガラスの方へ向かった。

「石…?」

割れた窓ガラスの側には大きめの石が落ちていた。

「うるあぁぁあ!!!」

すると次の瞬間、窓ガラスの外から、山口が男たちに向かって飛び蹴りをした。

「ぬわぁぁあー!!!」

山口は肉体外にPSIを纏っていたため、一撃で男たちを気絶させた。
そして、山口はその割れた窓ガラスの向こうに建っているビルにいるガイたちに合図を送った。

「いいみたいだね。」
「おう。『我と彼方の代入法セルチョイス』!!!」

説明しよう!
山尾のタレント『我と彼方の代入法セルチョイス』は、自身を瞬間的に別の場所へ移動させる能力である。その際、使用者が触れている物体・生物も一緒に転送される。移動可能距離は、肉眼(裸眼)で見える範囲。それ故、いくら透明な窓ガラスでも、それを壊さない限りガラスの向こうへは入れない。山口が窓ガラスを破壊したのはその為である。
タイプ:転移型

ガイ達4人は無事に陣野邸に入る事ができた。

「でも本当に4人で行動すんのかよ?別々の方が効率いいだろ?」
「効率よりも安全性だ。人質助けようとして人質増えたら元も子もない。」

その時、奥の通路からさらに数人の男達が現れた。

「行くぞ。」
「「おう!!!」」

ガイの合図で3人はPSIを纏い、増援の男たちを倒した。

「(なるほど。コレがPSIか。)」

ガイはPSIを身に纏う事を覚えた。

「おっしゃ!この調子でガンガンいこうぜ!」

その時、浮かれる山口にガイは忠告した。

「ガンガンいくな。陣野はハンディーキャッパーを集めてる。そうだろ?山尾。」
「あ、あぁ。」

山尾は頷いた。

「警備の人間の中に1人2人、ハンディーキャッパーが居てもおかしくはない。戦いは極力避けろ。山尾弟を見つけ次第、即効逃げる。」

ガイたち通路を走り出した。

「待った!!!」

角部屋の前へ来た時、山尾は小さく叫んだ。

「この部屋だ。この部屋からPSIを感じる。」

すると、山尾はドアノブに手をかけた。

「今行くからな!交次郎!」

4人はその部屋に入った。

陣野邸、3階、角部屋にて…

ガイ達4人が部屋に入ってきた。

「兄ちゃん…⁈」

するとそこには、片腕を鎖で繋がれた山尾の弟、交次郎がいた。交次郎の片腕の鎖は、ちゃんと部屋の中を移動できるように、長さにゆとりがあった。

「交次郎!!!」

山尾は弟を抱きしめた。

「助けに来たぞ…!交次郎…!」

2人は涙を流している。

「無事でよかったな!山尾!」

山口は山尾の肩に手を置いた。

「あぁ…良かった…本当に良かった…」

堺は不安そうに周りをキョロキョロしている。

「見つかったなら早く帰ろうよ!」

その堺の発言に、ガイも同調した。

「堺の言う通りだ。警察に行って事情を話すぞ。」
「あ、あぁ…そうだな。」

山尾は弟の腕の縄を切った。

「来た時の所へ戻ろう。あそこじゃないとビルに移れない。」

するとその時、山口がある事に気がついた。

「PSI…⁈」

山口はPSIを感知し、扉の方を振り返った。

「おかえり、瞬太郎。」

するとそこには、銃を構えた4人の男、そしてこの屋敷の主、陣野がいた。

「(ヤバいな、コレ…)」

ガイは焦りを感じ始めた。他の者も同様だ。
するとその時、陣野は部屋のドアを閉めた。山尾のタレントで部屋の外に出る事を防ぐ為だ。

「友達連れて帰ってきたようだな。3人も。」

陣野はガイ,山口,堺を見た。

「うち2人はハンディーキャッパーじゃないか!探す手間が省けて助かるぜ!」

次の瞬間、山尾はタレントで陣野の目の前に瞬間移動した。

「ッ!!!」

山尾はPSIを纏い、陣野に拳を放った。
しかし、陣野もまたPSIを纏い、それを受け止め、山尾を床に叩きつけた。

「ふぐぁッ!!!」

陣野は山尾の後頭部を鷲掴みし、顔面を床に押し付けている。

「お前のタレントは目で見えた場所にしか移動できない。こうしておけば、お前は無力だ。」
「山尾…ッ!」

山口は陣野に向かって走り出した。
すると次の瞬間、陣野は拳銃で山尾の左肩を撃ち抜いた。

「あ"ァァァァァァァァア!!!!!」

それを見た山口は足を止めた。

「安心しろ。殺しはしない。ハンディーキャッパーは利用価値があるからな。」

山尾は痛みで涙を流している。
それを見ていた山口と堺は恐怖していた。

「(くそ…どうすれば…)」
「(殺されるッ…!!!殺されるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!)」

一方、ガイは至って冷静だ。

「(さて、どうするか…)」

また、交次郎は兄を傷つけられた事に怒り心頭で、今にも陣野に殴りかからんとしていた。

「よくも…兄ちゃんを…!」

そんな時、ガイは交次郎に近寄り、耳打ちした。

「キミ、ハンディーキャッパーだろ。兄貴から聞いた。」
「そ、そうですけど…」
「キミのタレントで、やって欲しい事がある。」

それを見ていた陣野はガイと交次郎に忠告した。

「おい、交次郎。勝手なマネしたらお前の兄貴は…」

その時、交次郎は叫んだ。

「『我と汝の仮定法セルチェンジ』!!!」

すると次の瞬間、交次郎と陣野の位置が入れ替わった。
交次郎と陣野の位置が入れ替わった事により、陣野はガイの目の前に立っている。

「ッ!!!」

突然の出来事からの隙で、ガイは陣野から拳銃を奪い、PSIを纏って陣野の顎に蹴りを入れた。

「ごふッ!!!」

陣野は後ろによろめいた。
一方、それを見ていた陣野の手下共はガイに向けて発砲しようとした。

「させるかぁぁあ!!!」

次の瞬間、山口は翼で宙を舞い、男達の元へ飛んだ。
男達は急遽、対象を山口に変えて発砲した。しかし、山口は宙を飛び回り、弾丸を回避。そして、男達を次々と倒していく。

「ガイ…!!!」

男達を一掃した山口はガイの方を振り返った。
ガイはよろめく陣野に向けて拳を放っていた。

「このッ…!!!」

陣野はPSIを纏い、大きく背後に飛んでガイの拳を回避した。

「クソガキ共が…」

陣野が怒りを露わにしたその時、ガイは奪い取った拳銃で陣野の右耳を撃ち抜いた。

「ぐあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!」

陣野は右耳を押さえ跪いた。

「結構簡単なんだな、コレ。」

それを見ていた山口達は驚愕している。

「(アイツ、撃ちやがった…)」

ガイは再び、銃を構えた。

「形成逆転だ。動くなよ?」

すると、陣野は何かを呟いた。

「ノーグットパーティ…発動…」

その時、山口がガイに近づいてきた。

「お、おい、ガイ。銃はやめようぜ。もし頭とか当たったら、お前、人殺しだぞ…?」
「大丈夫。それより警察呼べ。逃げるよりそっちの方が早そうだ。」

ガイは全く聞く耳を持たない。

「どうした。早く警察に電話しろ。」

しかし、山口から返事はない。

「おい、聞いてるのか?」

ガイは振り返った。するとそこには、とんでもないものが立っていた。

「なッ…⁈」

ガイは驚嘆した。そこに立っていたのは、石になった山口の姿だったのだ。

「なにぃぃぃい!!!」

驚いているのはガイだけではない。堺や山尾達も同様。何が起こったか理解できていないようだ。

「形成逆転だな。」

その時、陣野は歩き出し、部屋の真ん中に置いてあったソファに座った。

「(コイツの能力…タレントか…)」

ガイはこの石化が陣野のタレントである事を理解した。

「話し合いといこうじゃないか。」
しおりを挟む

処理中です...