障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第8障『成長と未完成』

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陣野邸、3階、角部屋にて…

部屋の中には、ガイ,堺,左肩を撃たれた山尾,山尾の弟の交次郎,右耳を撃たれた陣野,そして石となってしまった山口がいる。
陣野はソファに座りながら、耳の治療を始めた。

「話し合い…?」

ガイは陣野のその発言の意図に気づいた。

「(話し合い…つまり、話す事が奴のタレント発動条件。おそらく、石化のトリガー。それなら、話す必要は無い。)」

ガイは陣野に向けて拳銃を構えた。

「おぉ?良いのか?俺を撃って。」

陣野は石化した山口を指差した。

「俺を殺せば、そいつは一生そのままだぜ?」
その時、山尾は叫んだ。

「この卑怯者!そうやって人質ばっか取りやがって!山口を元に戻せ!」

すると、陣野はニヤリと笑った。

「嫌だね。」

次の瞬間、山尾が石化した。

「なッ⁈」

ガイ達は驚嘆した。

「兄ちゃん!兄ちゃん!」

交次郎は石化した山尾の体をさすっている。

「陣野!お前、兄ちゃん達に何をした!」
「ん?別に~?」

次の瞬間、交次郎は石化した。

「何かしたのはお前らの方だぜ?」

堺はただ怯えている。

「また石に…今度は僕が…⁈」

一方、ガイは思考している。

「(何かしたのは俺たち…話し合う……)」

その時、ガイは石化した仲間たちの言葉を思い返した。

〈お、おい、ガイ。銃はやめようぜ。〉
〈山口を元に戻せ!〉
〈陣野!お前、兄ちゃん達に何をした!〉

次の瞬間、ガイは陣野のタレント発動条件を悟った。

「名前か!!!」

ガイの発言を聞いた陣野はキシキシと笑い始めた。

「ご名答~。まさか俺のタレントの発動条件に気づく奴がいるとはな。」
「名前…?」

一方の堺は何の事だかよくわからない様子だ。

「ネタバラシをしてやろう!」

陣野は説明を始めた。

「俺のタレントは『青面石化談話ノーグットパーティ』!お前の予想通り、名前を言った奴を石化する能力だ。」
「そ、そういう事だったのか…!」

堺は納得したようだ。

「タレントを解除すれば、石化は解けるのか?」

陣野はガイの質問に答える。

「それは無理だ。タレントの発動と解除は、あくまでこの『名前を呼ぶと石化』というシステムを導入するだけに過ぎない。」
「じゃあどうすれば…⁈」

堺は頭を抱えている。

「俺に名前を言わせればいい。」

陣野は説明を続ける。

「このタレント、俺だけは名前を言っても石化しないんだ。その代わり、今までの石化が解除される。」

その時、陣野は自身の耳の治療を終えた。

「しかし、俺はそこの兄弟しか名前知らない。うっかり、お前らの名前を言うことは絶対にないぞ。」

陣野はガイを見た。

「わかるか?圧倒的に俺が有利なんだよ。」

その時、堺は陣野に尋ねた。

「ぼ、僕たちが石化した後はどうするつもりなんですか…?」
「教えなーい。」

堺は怯え、震えている。そんな堺にガイは言った。

「安心しろ。俺が必ず勝つ。」
「で、でも相手は大人だよ!もし…もし、キミが負けたら…僕は…僕は…!どうしよう…!嫌だ!死にたくない!!!」

堺は頭を抱えている。

「心配性な奴だな。」
「あぁ!そうさ!僕は心配性さ!仮にもし、キミが負けたらって思うだけで僕は…」

次の瞬間、堺が石化した。

「(やっぱりな。)」

堺は名前を言っていない。にも関わらず、堺は石化した。しかし、ガイは全く動揺していない。

「おいおい!お前1人になっちゃったな!なっちゃったじゃねぇか!」

陣野は勝利を確信し、笑った。

「(あと一人…行ける!コイツのタレントが何であれ、人質がいる以上、こっちの有利…)」

するとその時、ガイは陣野に向けて発砲した。

「え…」

弾丸は陣野の頬をかすめた。

「外しちゃった。」

ガイは再び陣野に向けて拳銃を向けた。

「お、おい!ちょっと待て!俺を殺せばそいつらは一生元には戻らないぞ!」
「…」

すると、ガイは拳銃を収めた。

「そうだったそうだった。忘れてた。うっかりすっかり。」

すると、ガイは部屋の隅に置いてあった冷蔵庫の方へと歩き出し、冷蔵庫を開けた。

「(何なんだ、コイツ…)」

陣野は眉を顰めている。

「さすが監禁部屋。食べ物まである。」

ガイは缶のオレンジジュースとコーラを取り出し、陣野に見せた。

「アンタどっち欲しい?」
「何のマネだ…?」
「長丁場になりそうだから。要らないの?」

陣野は疑いの目でガイを見ている。

「コーラで。」
「こっち?」

ガイはオレンジジュースの方を見せた。

「いや、コーラって言ってんだろ。」
「良いのか嫌なのか言えよ。」
「わかるだろ!コーラが良いって言ってんの!」

すると次の瞬間、全員の石化が解かれた。

「え…⁈」

陣野は慌てふためいている。

「お、俺は一体…」

山口が喋り出したその時、ガイは叫んだ。

「喋るな!名前を言うと、また石化するぞ!」

それを聞いた山口達は口を押さえた。

「何故だ⁈俺は名前を言ったつもりはないぞ⁈」

困惑する陣野にガイは言った。

「言ってたよ。確実に。」

〈わかるだろ!コーラいって言ってんの!〉

「しかし、お前はそれに気づかない。お前が、俺の名前を知らないから。」
「なに…」
「だって、俺の名前が含まれた文字を発音しても、お前にはわからないだろ。」
「まさか、あのコーラとオレンジは…⁈」

陣野はやっと気がついたようだ。

「お前の敗因は俺たちの名前を知らなかったことじゃない。自分のタレントの特性について、よく知らなかった事だ。」

ガイは陣野に近づいた。

「どうする?今度は殴り合うか?」

その時、陣野は白旗を上げた。

「負けました。」

数分後、陣野邸前にて…

陣野邸の前に警察がやってきた。ガイ達が通報したのだ。監禁や誘拐の証拠も揃っていた為、陣野や彼の手下共は現行犯で逮捕された。

「ガイ。山口。堺。本当にありがとう。お前らは俺の恩人だ。」
「この御恩は一生忘れません!」

山尾兄弟はガイ達にお礼を言った。

「今度は俺達が助けになるからな!」

2人はパトカーに乗った。
また、事情聴取の為、堺や山口もパトカーに乗せられていった。
しかし、ガイだけは違う。

「キミはあの車に乗りなさい。」

1人の警官がとある高級車を指差した。

「…」

ガイはとある事を察し、その車に乗った。

高級車内にて…

車内は広かった。まるで電車の中のようだ。そんな空間にガイは入った。

「面倒ごとを起こすなと言ったよな。」
「はい。」

そこにはガイの父親、障坂巌がいた。

「警察からお前を連れ出すのに多くの金と時間を浪費した。この対価、お前は俺に何を支払う?」

すると、ガイは口を開いた。

「ハンディーキャッパー…知ってますか?」

父親は無言だ。

「いや、アナタは知っているはずです。知らないはずがありません。」

父親はガイの顔を見た。

「PSIを感知できるようになったか。」

ガイは父親からPSIを感知した。つまり、ガイの父親もハンディーキャッパー。

「何故、アナタは私がハンディーキャッパーである事を、今まで隠していたのですか…?」
「まだ言えん。」

父親の意図の読めない発言に対し、ガイは困惑した。

「今日、お前が俺に支払った対価、それは『成長』だ。」
「成長…?」

ガイは首を傾げた。

「お前はまだ未完成。つまり、まだ『成長』できるという事だ。」

すると、ガイは父親に問う。

「私の『成長』が、何故、アナタへの支払いとなるのですか?」

ガイと父親の間に親子の絆など存在しない。当然、息子の成長を喜ぶような父親ではないのだ。しかし、父親は何故だか、その息子の成長を願っている。

「まだ言えん。」
「何故です…?」

すると、父親はガイの顔を見て言った。

「人は考える事をやめれば『成長』はしなくなる。悩め。考えろ。そして『理解』しろ。その為なら、俺はお前へのどんな奉仕でも惜しまない。」

ガイは父親の発言の意図がわからなかった。しかし、『理解』という言葉の意味だけは、自然と受け入れられた。その言葉の先に、ガイの知りたい答えがあると。

「この話は終わりだ。家へ帰るぞ。」
「…はい。」

ところで何故、堺はあの時石化したのだろうか。

〈心配性な奴だな。〉
〈あぁ!そうさ!僕は心配りにもし、キミが負けたらって思うだけで僕は…〉

ガイは敢えて『心配性』という言葉を使い、自身の苗字である『障坂』を堺から誘発したのだ。陣野のタレントの仕組みを理解する為に。

〈だって、俺の名前が含まれた文字を発音しても、お前にはわからないだろ。〉

そう。ガイは仲間を実験台にしたのだ。

「(勝てたから良い…よな…)」

ガイは高級車の窓から外の風景を眺めていた。
そんなガイの顔には、後ろめたい表情が浮かんでいた。
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