障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第9障『自分勝手』

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翌日(4月16日)、学校、教室にて… 

「なぁ、聞いたか?あの問題児と尻フェチ、昨日警察に捕まったらしいぞ。」
「あとクラス委員長も。」
「なんで?」
「万引きしたらしいよ。」
「えっ、俺は喧嘩って聞いたぞ。」
「エンコーじゃないの?」

その時、教室にお尻フェチガイが入ってきた。

「あ!来た!」

生徒たちはガイに近づいてきた。

「なぁ、尻フェチ。昨日、お前警察に捕まったんだろ?」
「どうなんだよ、尻フェチ。」
「…」

ガイはお尻フェチと呼ばれても、絶対に返事しないようにしている。
するとその時、堺が教室に入ってきた。

「あ、委員長!」

すると、生徒たちは皆、堺の元へ集まった。

「委員長!昨日警察に捕まったんだってな!」
「詳細教えろよ!」

しかし、堺は首を振った。

「信じない…僕は信じないぞ…あれは夢だ…!」
「え?」

堺の発言に、皆は戸惑った。

「なにがタレントだ!そんな非科学的なもの僕は信じないぞ!宇宙人以外、僕は信じないぞ!宇宙人もそんなに信じてないぞ!」

堺は昨日あった出来事が未だに信じきれないようだ。
するとその時、山口が教室に入ってきた。

「セーフ!!!」

生徒たちは山口を見た。

「…」

しかし、山口には誰も聞いて来なかった。

放課後、帰り道にて…

「なぁ、なぁ。俺たち今キテるよな!目立ちまくってるよな!」
「う、うん…(悪い意味でだけど。)」

堺は嬉しそうな山口を見て渋々頷いた。

「でも、まだ足りないよな。そう思うよな!」

山口はガイと肩を一方的に組んだ。

「思わない。」

ガイは即答した。しかし、山口は全く聞いていない。

「だからよ、もっと目立つ為に『放課後防衛隊』っての作らねーか!」
「何それ?」

堺は首を傾げた。

「この戸楽市の平和を守る!」
「アホらし。」

すると、山口はガイの態度に腹を立てた。

「なんでだよ!かっこいいじゃねーか!なあ、堺!」
「でも、そういうのは警察の仕事じゃ…」
「そうだぞ。そんなカスカベ防衛隊のパクリみたいなの作らなくていい。」

それを聞き、山口はまたもや声を荒げた。

「パクリーな!それに、お前らも昨日の事覚えてるだろ!俺たちは警察じゃ手に負えないようなハンディーキャッパー関連の事件を解決するんだよ!」
「だから、そんな非科学的な事は…」

その時、山口は言った。

「同じクラスの奴だって、事件に巻き込まれてるかも知れねーんだぞ!クラスメートが困ってるのに放っておく気か⁈」
「ぬぐぁッ!!!?!?!??!!!」

堺の中のナニカが弾けた。

「山口くん!君の言う通りだ!僕はバカ野郎だ!いや、バカ野郎以下のイカ野郎だ!!!」

堺は山口の手を握った。

「山口くん、僕にも協力させてくれ!」

山口は強く頷いた。

「当たり前だろ!今日から俺たちは『放課後防衛隊』だ!」

ガイは2人を放置し帰った。しかし、山口たちは気づいていない。

「早速今日から活動開始だな!」
「でも、具体的に何するの?」

堺は首を傾げている。

「今日、学校の奴らに色々聞いてみたんだ。そしたらよ、誘拐事件があったそうなんだよ。」
「あ、それ僕も知ってるよ。小学生くらいの女の子が、何人も行方不明になってるやつでしょ。」
「なんだ、知ってたのか。」
「でも、行方不明ってだけで、誘拐って決まったわけじゃないし…しかも、あれは3~4カ月前の話じゃ…」
「女子だけって絶対に誘拐だろ!犯人は変態オヤジだ!変態オヤジはまたやるぞ!性犯罪の再犯率やべーんだぞ!」
「そうかもしれないけど…」
「クラスメートがどうなっても良いのか⁈」
「ぬぐぁッ!!!?!?!??!!!」

堺の中のナニカが弾けた。

「さぁ、行こう!山口くん!」
「(こいつ、俺より単純だな。)」

さすがの山口も堺に呆れていた。

「お、おう。って事だ。ガイも行くぞ…」

しかし、ガイは既に帰っている。

「…あれ?ガイどこ行った?」

帰り道、人気ひとけの無い住宅街にて…

ガイが家に向かって歩いている。
するとその時、ガイの目の前に、有野をいじめていた4人の女子生徒達が現れた。

「この前はよくもやってくれたわね。」

美由がガイの真正面に立った。

「誰?」

しかし、ガイは覚えていないようだ。

「シラバックレテンジャネーゾ!テメェハサブインシジョンデアノ世逝キネ!ワオッ!」

ガイの反応にヨシミは声を荒げた。

「あ。」

すると、ガイは何かを思い出したようだ。

「思い出した。アルテマウェポンの人。」
「アタシノ名前ハセバスジョバンヌ・ヨシミ!トコロデ、アタシノアルテマウェポンヲ何処ヘヤッタ⁈」
「学校の落し物ボックスの中に入れといたよ。まぁ、入らなかったから上に乗せといたんだけど。」
「良カッタァ!アレ、アタシノ宝物ナノヨ!」
「カッコイイよな、アレ。」
「ワオ!本当ニ⁈ユー、センスアルネ!」

その時、美由はヨシミの手を引いた。

「ちょっとヨシミ、こっち来て。」

ヨシミは美由に連れられ、ガイから少し離れた。

「なんでアイツと仲良くなってんのよ…」
「アイツ、結構話ワカル奴ネ。friendニナレソウ。」

その時、彩乃がヨシミの髪を掴み。

「調子乗んなよ?」

髪を強く引っ張っている。

「転校してきたお前にわざわざ構ってあげてんのは誰か、言ってみろよ。あ?」
「No!髪ハNo!タダデサエドレッドハ髪ト頭皮ニダメージガ…」

次の瞬間、彩乃はポケットからカッターナイフ取りを出し、ヨシミの顔を切りつけた。

「ッ…!」

するとヨシミは切られた頬を押さえ、その場から走り去った。

「あ、彩乃…流石にさっきのはまずかったんじゃ…」

梨子が彩乃にそう言った。当然だ。いくら中学生であろうが、刃物で他人を切りつけたのだから。警察沙汰になってもおかしくはない。ガイですら、先程の彩乃の行動には驚きを隠せずにいた。

「アンタは友達よね?」

しかし、彩乃は悪びれる様子一切なく、梨子にヨシミを切りつけたカッターナイフを手渡した。

「友達ならさ、アイツ殺してよ。」

そう言いながら、彩乃はガイを指差した。

「ほら、早く。」

梨子は躊躇いながらも首を横に振った。

「で、できないよ…!そんなの…!」

すると、彩乃は深くため息をついた後、カッターナイフを振り上げた。

「ハァ…ホント腹立つ奴ばっか…」

次の瞬間、彩乃は梨子にカッターを振り下ろした。
あたりに血が飛び散る。しかし、それは梨子の血ではない。

「痛ぇなぁ…」

そう。ガイが梨子をかばったのだ。
カッターの刃は、ガイの右手人差し指と中指の間を通り、ガイの手の中心付近まで食い込んでいた。

「お前、コイツの事…本気で殺す気だったのか…?」

睨み合うガイと彩乃。それを見た美由は彩乃に声をかけた。

「か、帰ろう!彩乃!コイツやばいって!また今度でもいいじゃん!」
「…」

すると、彩乃は渋々、美由と共にその場から去っていった。
そんな彩乃の後ろ姿をガイは見ていた。

「(アイツ、本気だった…俺が止めなかったら、どうなっていたんだ…)」

彩乃はおかしい。たかが自分の言う事に逆らっただけで人を殺そうとする彼女を見て、ガイはそう思っていた。
するとその時、梨子がガイに話しかけてきた。

「あ、あの…ありがとう…」
「うん。」

ガイは何事もなかったかのように帰ろうとした。

「ちょっと待って!」
「なに。」
「その傷、私のせいで…」
「そうだよ。お前のせいだ、反省しろ。」

梨子は帰ろうとしているガイの左腕を握った。

「来て。」
「…?」

少し離れた病院にて…
待合の所で梨子が椅子に座り、ガイを待っている。
その時、手術を終えたガイが梨子の元へやってきた。

「大丈夫だった⁈」
「4針縫った。」

ガイの右手には包帯が巻かれていた。

「本当にごめんなさい!」

梨子はガイに頭を下げた。

「それと、この事は警察には言わないで…」
「なんで?アイツ、お前のこと殺そうとしたんだぞ?」
「…友達だから…」

梨子はガイから目を逸らした。

「嘘つくなよ。友達が友達殺そうとするか?」
「それは…」

発言を戸惑う梨子。そんな梨子に対して、ガイは言った。

「復讐されるのが怖いんだろ。」
「…」

梨子は無言で頷いた。

「…わかったよ。警察にも誰にも言わない。」
「ホントにごめんなさい…」

その時、ガイは梨子を指差した。

「けどな、コレだけは言っておく。お前自身が何とかしようとしない限り、お前はいつか絶対、酷い目に遭う。」
「…」

梨子は顔を上げられなかった。そんな梨子を見て、ガイは呆れたような表情をした。

「お前、本当に自分勝手だな。」
「ごめん…」
「自分がいじめられたくないからって、友達だった有野を捨てて…そんで今、俺に黙秘を促してる。自分勝手ってより最低だな。」
「捨てただなんてそんな!私はただ…」

言葉を詰まらせる梨子。しかし、ガイは梨子の発言を待たずして話を続けた。

「お前の親父、ココの医者だろ。」
「な、なんで知ってるの…⁈」
「さっき友田ともだって医者がいた。友田梨子、お前の親父だろ。」
「うん…」

梨子は頷いた。

「お前が俺をココに連れてきた理由、それは大ごとにならないようにする為。親父がなんとかしてくれる。親父が自分を守ってくれる。そう思ったから俺をこの病院に連れてきたんだ。違うか?」

梨子は黙り込んでいる。

「つくづく自分勝手な奴だな、お前。」
「…」

そこへ梨子の父親が歩いてきた。

「あれ?もう帰るのかい?」

梨子の父親はカバンを背負っているガイを見て、そう発言した。

「はい!コレから習い事があるので!」

ガイは障坂の世間体を保つ為、外の連中、特に大人には礼儀正しく、かつ、子供らしく接するようにと教育を受けてきた。その為、ガイは笑顔でハキハキと梨子の父親に答えた。

「さすが障坂財閥の跡取りだね。そんな子がウチの娘の彼氏で嬉しいよ。」
「「彼氏じゃない。」」

ガイと梨子の声がハモった。

「それにしても、その怪我どうしたんだい?一体何が…」

梨子の父親はガイのその不自然な手の怪我の理由が気になっていた。

「ちょっと転びまして。」
「でも、ちょっと転んだぐらいでその傷…」
「転んだ先に刃物が落ちていて、手をついた拍子にって感じです。」

ガイは梨子の父親にお辞儀した。

「すみません。もうすぐ習い事が始まってしまうので。今日はありがとうございました!」

ガイは帰っていった。

「梨子。やっぱり何かあったんじゃないか?」

元気が無い娘の様子を見た彼は、何かを察していたようだ。

しかし、梨子は首を横に振る。

「…なんでもない。」
「そう、か…」

帰り道にて…

ガイは住宅街を歩いている。

「(何であんな奴助けたんだろ…)」

ガイは梨子を助ける気は無かった。しかし、あの時は身体が勝手に動いたのだ。

「(今日はバイオリンと柔道…)」

ガイは怪我を負った右手を見た。

「できるかな…」
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