障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第42障『ポケットナイフは持ち歩かないようにしましょう。』

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【翌日(12月3日)、朝、舞開町、佐藤家にて…】

制服を着た武夫ガイが学校カバンを持ってリビングへとやってきた。
それを見た武夫の母親は、驚きの表情でガイに話しかけた。

「学校行くの…?」

母親の問いかけに対し、ガイは笑顔で言った。

「うん。」

何故、ガイは武夫が通う学校へ行くのか。父親に全てを頼むと決心したのなら、早く障坂邸へ帰れば良いものを。
理由は単純。見て見ぬ振りはできないからだ。
このまま元に戻ったところで、佐藤武夫がイジメを受け続ける事は変わらない。ガイが学校へ行く理由、それは、武夫の居場所を取り戻す為。武夫にこの体を返した時、彼が安心して生活できるようにする為だ。

「行ってきます。」

数十分後、ガイは家を出た。

【武夫の通学路にて…】

ガイは迷う事なく通学路を歩いている。学校への道のりは既に調査済みのようだ。

「(なんで、俺はコイツを助けようと思った…)」

ガイは自分の行動に疑念を抱いていた。

「(こんな奴、どうでもいいだろ…)」

感情と合理の狭間で揺らぐガイ。そんなガイを感情側へと追い込むあの声。

〈勇輝…!〉

脳裏にこびりつく、勇輝少年の母親のすすり泣く声。この記憶が、ガイの合理性を破壊する。

「(…いや、もう決めたんだ。考えるのはやめよう。)」

ガイは思考を放棄し、学校へと向かった。

【数分後、武夫の通う学校、1-1の教室にて…】

武夫ガイが教室に入ってきた。
すると、それを見た生徒達は絶句した。

「「「ッ……」」」

皆、青ざめた顔で武夫ガイを見ている。それもそのはずだ。自殺未遂で入院していた奴が、平気な顔で学校へ来たのだから。

「…」

ガイは教室を見渡した。どうやら、自分の席を探しているようだ。

「(何処だ…?)」

結局、見ただけで自分の席はわからなかった為、ガイは教卓の上に貼られた座席表を見た。
どうやら、ガイの席は教卓の真前、最前列中央の席だった。

「(うっわ…)」

ガイは露骨に嫌そうな顔をした。当然だ。最前列中央の席を好む奴なんて、堺ぐらいなものだ。
ガイはカバンを横にかけ、席に座った。

「(1限目は確か数学だったな。)」

ガイは数学の教科書を机に置いた。
するとその時、男子生徒四人がガイの元へやってきた。

「おい。」

その中の一人が、ガイの机を蹴った。どうやら、この四人がイジメの首謀者のようだ。

「お前のせいでとんだ目に…」

次の瞬間、ガイはその男子生徒の顔面を鷲掴みにし、自身の机の上に叩きつけた。

「「「⁈」」」

それを見ていたクラスメイト一同は驚愕した。どうやら、佐藤武夫という人間は大人しく、何を間違っても、歯向かったり暴力を振るうような人物ではなかったようだ。
しかし、ガイは違う。
ガイは机に叩きつけた男子生徒を地面に投げ捨て、立ち上がり、残りの三人に尋ねた。

「一応聞いとくけどさ、コレ、武夫おれに原因あったりする?武夫おれがイジメられてる理由の。」

ガイは佐藤武夫がイジメを受けている理由を聞いた。しかし、三人は驚きでそれどころでは無い。
痺れを切らしたガイはその三人、そして、クラスメイト達に言った。

「まぁ、何でもいっか。みんな、今までの事は忘れて楽しくしよーぜ。」

実際、イジメを受けていたのは佐藤武夫である為、ガイにとって彼らは加害者でも何でも無い。当然、恨みもない。憎くも無い相手に制裁を与えるのは、いくらガイでも気が引けた。『楽しくしよーぜ』コレは、ガイの素直な意見である。
しかし、他者を自殺へ追い込む程のイジメを行った加害者達にとって、それは了承し得ない提案だった。

「て、テメェコラ!調子乗ってんじゃねーぞ!」
「今度こそ本気でぶっ殺してやろうか!」
「ミー達ガ本当ノ地獄二送ッテヤルヨ!」

なんか一人見た事あるような話し方の奴はさておき、三人はガイに言い返した。しかし、その話し方に覇気はない。どうやら、いつもと違う佐藤武夫の雰囲気に困惑しているのだ。

「せっかく許してやるって言ってんのに…」

その時、ガイはやれやれといった感じで、椅子から立ち上がった。すると、その三人は臆し、数歩後ろに下がった。
それを見たガイは首を傾げた。

「なんで逃げるんだよ?俺を殺すんだろ?近づかなきゃ殺せないぞ?」

その三人は動かない。いや、ガイの放つ異様な圧迫感に動けずにいるのだ。
その時、先程ガイに顔面を鷲掴みされた男子生徒が、床から立ち上がった。

「クソ…ッ!」

その男子生徒は鼻から血が垂れていた。

「この野郎!マジでぶっ殺すぞ!」

するとその時、その男子生徒は懐からポケットナイフを取り出した。
それを見た三人は焦り、その男子生徒を喚起した。

「ワオッ!ソレハ100ろノぽけっとないふ⁈」
「おい、小嶋…!それはヤバイって…!」
「それにコイツ、今日なんか変だぞ…」

しかし、ポケットナイフを取り出した男子生徒、小嶋は、聞く耳を持たず、刃先をガイに向け、近づいてきた。

「全裸になって土下座しろ。そしたら、許してやる…!」

クラスメイト一同が凍りつく中、ガイと小嶋は睨み合っている。

「早くやれやッ!」

小嶋はガイを急かした。しかし、ガイは顔色一つ変えず、言い返す。

「やってみろよ。」
「な、なに…⁈」

ガイは理解していた。この小嶋という少年に、人は殺せないと。

「脅しが三流以下なんだよ。」

次の瞬間、ガイはポケットナイフを持った小嶋の右腕を掴み、自身の左手の平を自らナイフに押し付けた。

「お前ッ⁈何を…⁈」

小嶋はガイのその行動に驚嘆、困惑した。
ガイの左手の平は、貫通こそしていないものの、ポケットナイフが深く突き刺さっており、多量の血が垂れ流れている。

「ナイフを持ち歩いてる時点で、お前は軽犯罪法に触れている。その上、お前は今、人を刺した。つまりコレは殺人未遂。この事を俺が警察に言えば、お前は即、少年院送りだ。」

犯罪、殺人未遂。その言葉を聞いた小嶋の顔が青ざめた。

「は、はぁ⁈ふざけんな!お前から刺されたんだろが!俺は知らねぇよ!」

小嶋は自分の罪から目を逸らせるかのように、現実逃避をするかのように、ガイに言い訳を述べる。
しかし、ガイは饒舌に話を続けた。

「ナイフにはお前の指紋。そして、俺の血。知らないで済むと思ってるのか?」

その時、ガイは小嶋からポケットナイフを奪った。左手の平に刺さった状態で。

「コレを証拠として警察に提出すれば、お前の人生は終わる。お前は青春時代を少年院で過ごし、その事実は大人になっても就活や結婚で必ず障害となる。」

それを聞いた小嶋は更なる危機感に苛まれ、ガイからポケットナイフを取り返そうと、ガイに掴みかかった。

「か、返せッ!!!」

しかし、ガイはそんな小嶋の顔面に裏拳をかまし、側方へ投げ飛ばした。

「がふッ!!!」

投げ飛ばされた小嶋の体は机を倒し、床に落ちた。
一方、ガイは左手の平からポケットナイフを引き抜き、倒れた小嶋の側にそのナイフを投げ捨てた。

「次、俺に変なちょっかいかけて来たら、本気で脅してやるからな。」

すると、ガイはイジメっ子三人の方を振り返り、言い放った。

「お前らも。」
「「「……」」」

三人、そして、その場にいた全員、声が出せなかった。
ガイは教室を出た。どうやら、保健室へ向かうようだ。

【廊下にて…】

ガイは傷ついた左手の平を見ている。

「(そういや、前にもこんな事あったな…)」

ガイは有野をイジメていた彩乃の事を思い出していた。

「(今思えば、本気で人殺そうとしてた彩乃アイツすごいな。)」

ガイは保健室へ向かった。

【一方その頃、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】

体育教師が朝礼を始めている。

「明日はついに文化祭だーッ!!!」

体育教師、ならびに生徒達は雄叫びを上げた。
そう。明日は待ちに待った文化祭なのだ。皆、頭バカになっちゃう気持ちもわからなくはない。
そんな中、堺は冷静に教室を見渡している。

「(障坂くん、今日は休みか…)」

教室にガイ本田の姿はどこにもなかった。

【昼休み、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】

堺と山口が話をしながら昼食を摂っている。

「んでよ、ティファール開けたら蛾がブワァァーーー!!!って…」

その時、とある生徒が山口達に話しかけた。

「ちょっといいかな…?」

それは広瀬だった。
広瀬の姿を見た山口は、指を差して言った。

「お!ナントカカントカじゃねーか!」
「広瀬鈴也くんだよ…」

堺は山口に正しい名前を教えた。
しかし、広瀬は山口の発言をあまり気に留めていない。

「ガイ君は?」

広瀬は真剣な表情で二人に問いかけている。
それに、堺は答えた。

「障坂くんは今日は休みだよ。」
「よかった。それなら都合がいい。」

広瀬のその発言に、堺と山口は首を傾げた。何故、ガイが居ないと都合がいいのか。

「二人に、相談したい事がある。」
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