障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第44障『性癖製造機』

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【12月3日、夕方、佐藤家にて…】

二階へ上がる途中、武夫ガイは武夫の母親に呼び止められた。

「あなた、誰…?」

ガイは母親の顔を見た。その表情は決して実の息子に見せるようなものではない。疑いと不安に満ちた表情だった。
そう。武夫の母は気づいたのだ。武夫ガイの正体に。
それを察したガイは、隠し切るのは無理だと理解し、母親に尋ねた。

「どうして分かったんですか。」
「母親ですもの。分かるわ、そのくらい。」

中身が別人になっている。現実にはあり得ない事で、とても信じ難い。しかし、そんな事実すら受け入れられる。それ程までに、息子の変化を確証として認識できたのだ。コレが母親という存在。
ガイは全てを話さなければならないと思った。

「信じてもらえますか?」
「えぇ。」

その時、武夫の妹、のぞみが帰ってきた。

「ただいまー。」

のぞみは廊下で向かい合っている母親と武夫ガイを見て、首を傾げた。

「二人とも、そんな所で何してるの?」

のぞみに気づいた母親はガイに言った。

「話はまた後にしましょう。」

【夜、佐藤家、リビングにて…】

のぞみが寝静まった後、ガイと武夫の母親はリビングの椅子に座って話をしていた。
ガイは自分の素性やハンディーキャッパーの件、こうなった経緯などを、わかる範囲、話せる範囲で話をした。

「それじゃあ、あなたのお父さんに頼めば、息子は帰って来るのね…?」

少しの間が空いた後、ガイは頷いた。

「はい。」

根拠のない返事。しかし、母親を安心させたいが為にそう答えてしまった。しかし、この嘘が後々、悪い方に転がる事をガイはまだ知らない。

「だから、俺は明日の朝、戸楽市に帰ります。」

ガイは立ち上がり、武夫の母親に頭を下げた。

「短い間でしたが、ありがとうございました。」

その時、頭を下げるガイに対して、武夫の母親は言った。

「ありがとう。」

その言葉を聞いたガイは少し驚いた表情で、顔を上げた。

「えっ…?」

何故、武夫の母は自分に礼を言ったのか、ガイにはわからなかった。
困惑するガイに、武夫の母親は話し始めた。

「息子の為に、色々とやってくれてたんでしょ。私達の事なんか無視して、家に帰る事もできたのに。」

武夫の母親の言う通り、ガイも当初は病院を抜け出して障坂邸に帰るつもりだった。勇輝少年と会うまでは。
そう。ガイは武夫の為にやったのではない。武夫の母親の為、彼女を悲しませない為、ガイは武夫の居場所を守ったのだ。

【翌日(12月4日)、朝、佐藤家、玄関にて…】

玄関には武夫ガイと武夫の母親がいた。どうやら、ガイは今から障坂邸に帰るつもりだ。
その時、靴を履くガイに武夫の母は言った。

「全部終わったら、また遊びにおいで。」
「はい。」

靴を履き終えたガイは立ち上がり、玄関のドアに手をかけた。

「…」

その時、ガイの動きが止まった。

「…?」

武夫の母親はそんなガイの静止を疑問に思い、首を傾げた。
数秒の後、ガイは呟いた。武夫の母に聞こえる程度に。

「俺、母さん死んじゃって…なんか…懐かしかった…」

ガイは武夫母の方を振り返り、言った。

「行ってきます。」

ガイは笑顔でそう言った。しかし、その笑顔にはどこか儚さが混じっていた。

「行ってらっしゃい…」

そして、武夫の母親もガイと同じく、憂を帯びた笑顔で、そう言った。
ガイは佐藤家を後にした。

【9:00、戸楽市第一中学校、文化祭1日目、1-4の教室にて…】

1-4の生徒達は円陣を組んでいた。

「みんな!今日まで本当にありがとう!でもココからが本番だからね!」

堺は皆を鼓舞している。

「文化祭二日間…全力でいこう!!!」
「「「おーーー!!!!!」」」

堺の合図で皆、雄叫びを上げた。
その後、それぞれが自分の持ち場についた。ロリータファッションに身を包んだガイ本田は、教室の中央の豪華な椅子に鎮座した。

「ふぅ…」

本田は人心地ついた。

「(今日で約束の五日目だぜ。)」

本田は自分の中のソレに話しかけている。

「(本当に来んのかよ?)」

すると、ソレは答えた。

〈うん。多分絶対。〉
「(多分か絶対かどっちなんだよ…ったく…)」

本田は足を組み、頭の後ろで手を組んだ。

「(今日奴が来なかったら、俺は明日から自由の身。そうだろ?)」
〈勿論。人殺そうが物奪おうが、風呂上がりにウンコしようが、全然構わないよ。〉
「(最高じゃねぇか。)」

本田はニヤニヤと笑っている。

〈心配しないでもガイは必ず来る。それよりも、アンタにはもっと心配すべき事があるだろ?〉
「(心配ぃ?)」
〈この前のような無様な戦い方したら…わかってるよね?〉

それを聞き、本田は苦い表情をした。
その時、ガイ本田の元へ謎の球体を被ったパンイチ野郎がやってきた。

「いいよなぁ、ガイは座れて。俺、ずっと立ってなきゃダメだからよぉ~。」

本田はその球体パンイチ野郎が誰かわからなかった。

「誰だテメェ?」
「俺だよ俺!超絶エリート山口裕也!」

山口は頭に被っていた球体を外し、顔を出した。

「あぁ。お前か。なんだその格好?」
「ブリオン!!!」

本田は首を傾げた。どうやら、あのブリオンを知らないようだ。

「流石に全裸は無理だって言われたから、肌色のパンツ履いてんだ。」

聞いてもない事を言う山口。
その時、一人の女子生徒が山口に話しかけた。

「ほら山口君!もうすぐ開店だよ!持ち場について!」
「あ、おう。」

山口は球体を被り直した。

「じゃあな、ガイ!後半一緒に回ろーぜ!」

山口は持ち場についた。
辺りは皆、前半の展示組がさまざまなポーズをとって、教室内に立っていた。座っているのはガイ本田だけ。特別待遇だ。それに加えて、一番見栄えのいい場所、教室の中心にガイ本田は位置している。どこからどう見ても大トリだ。
その時、本田はため息をついた。

「はぁ…」

面倒臭そうにつくため息。しかし、その表情はどこか楽しそうにも見える。
その後、1-4の人間展示店は大好評となり(特にガイ)、ガイには『性癖製造機』という異名が付けられたのであった。

【13:00、戸楽市第一中学校、廊下にて…】

後半組と交代したガイ本田は山口は制服に着替え、他のクラスの店を回っていた。

「おい!ガイ!1-2はお化け屋敷だぜ!お化け役の西川ボコボコにしよーぜ!」
「おぉんもしろそうじゃねぇか!やろうぜ!」

意外と気の合う本田と山口であった。
するとその時、山口はとある人物に背後から声をかけられた。

「おい、山口。」

山口は振り返った。
そこに居たのはなんと、人間の姿の白マロとヤブ助だった。

「あ!お前ら!なんだお前らも来てたのかよ~!」

その時、白マロは山口に抱きついた。

「ご主人~♡文化祭デートしよ~♡」
「おまっ♡や~め~ろ~よ~♡こんな公共の場でよぉ~♡」

二人はイチャイチャしながらお化け屋敷へと消えていった。
一方、本田とヤブ助は睨み合っている。
その時、ヤブ助が口を開いた。

「ついて来い。」

【校舎裏にて…】

本田はヤブ助に連れられ、校舎裏へとやってきた。
そこには、一人の少年が立っていた。

「誰だコイツ?」

その時、ヤブ助は猫の姿に戻り、学校の塀の上へと移動した。

「俺の手助けはここまでだ。勝てよ、ガイ。」

すると、ヤブ助は学校の外へと去っていった。
また、ヤブ助のその発言を聞いた本田はこの少年の正体を理解した。

「ははぁん…なるほどな。そういう事か。」

そう。本田の目の前にいる少年こそ、佐藤武夫障坂ガイである。

「全部聞いた。屋敷の人間、広瀬、それにお前の妹の涼子からも。」

その時、武夫ガイは肉体にPSIを纏った。

「俺の体、返してもらうぞ…!」
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