障王

泉出康一

文字の大きさ
122 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第58障『桜田の目的』

しおりを挟む
【12月13日、密林の労働部屋にて…】

角野はガイに肩を貸しながら、10km先の拠点へと向かっていた。

「ハァ…ハァ…ハァ…」

角野は息が荒い。気温は30度程度、日差しは無いとはいえ、湿度が高い。じめじめした蒸し暑さが角野の体力を奪っていく。
そして何より、角野を苦しめていたのは殺し屋の存在。まだ姿は見た事は無いが、死と隣り合わせという実感が、角野を精神的に追い詰めていた。

「(油断…できない…)」

いや、むしろ殺し屋の姿がわからない方が怖い。敵はいつ、何処で、どんな方法で、自分達を襲ってくるからわからないからだ。わからない、未知の恐怖ほど、心を追い詰めるものはない。角野は恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
その時、ガイは呟いた。

「音がする……」

ガイのその呟きにより、角野は我に返った。

「えっ…音…?」

角野は耳を澄ました。すると、近くから機械の羽音が聞こえてきた。

「(コレは、プロペラの羽音…)」

聞き覚えのあるプロペラ音。しかし、ヘリコプターほどの爆音では無い。
次の瞬間、空から弾丸の雨がガイと角野に降り注いだ。

「ッ…!」

ガイはいち早くそれに気づき、力を振り絞って角野を押し倒し、物陰に隠れた。
ガイと角野は木の陰からそれを見上げた。

「ドローン…⁈」

そう。殺し屋の正体とは、機関銃を備えた自動追撃型ドローンだったのだ。
ドローンは地上から高さ5~6mの所を浮遊しており、ガイ達を追ってくる訳ではない。どうやら、この密林内を無作為に巡回し、目についた生物を追尾・銃撃しているようだ。
今、ガイ達は木の陰、生い茂った草の中に身を隠している。それ故、姿を見失ったドローンは追尾をやめ、巡回を再開したのだ。

「(少し遠い…)」

角野は空中にいるドローンを見て、思考していた。

「(あのドローンが、私のタレントの射程内に入ってくれれば…)」

その時、苦慮する角野の顔を見て、ガイは言った。

「お前のタレント…教えろ……」
「え…」

角野はガイの顔を見た。

「…」

ガイには、何か考えがあるようだ。

【数分後…】

角野は木の陰から飛び出し、姿を現した。当然、ドローンは角野の姿を捉え、彼女に向かって飛び、機関銃を放った。
その時、角野は叫んだ。

「『角箱ボックス』!!!」

すると次の瞬間、一辺が2mほどの鉄の立方体が現れ、角野を囲んだ。それにより、ドローンから放たれた弾丸は角野の体に当たる事はなかった。

説明しよう!角野のタレントは『角箱ボックス』。箱を創造する能力である。
創造できる箱の大きさは一辺1cm~3mまで。木製,金属製,プラスチック製など、様々な材質の箱を自由に創造できる。タレント射程は自分を中心として5mほど。しかし、創造した箱は射程外に出ても自然消滅する事はない。創造時のみ、射程の制限がかかるのだ。
タイプ:創造型

角野がドローンの前に姿を現したのは、ドローンを誘い出す為。そうする事で、『角箱ボックス』の射程内に誘き寄せる為。
しかし今、角野は鉄の箱に覆われ、外の様子がわからない。これでは、タレントを使ってドローンを破壊する事はできない。
だから、ガイは叫んだ。

「『角箱ボックス』!!!」

ガイは『模倣コピル』で角野の『角箱ボックス』をコピーした。そして、ドローンを一辺50cmほどの鉄の箱で囲み、箱の落下と共に地面へ落下させてドローンを破壊したのだ。

「終わったぞ…」

ガイの合図と共に、角野は自身を囲っていた鉄箱を消失させた。
角野はガイに話をしながら近づいてきた。

「便利な能力だね。コピーなんて…」

その時、ガイは地面に倒れた。

「ちょ、ちょっと…⁈」

角野は倒れたガイに駆け寄った。

「…」

ガイは疲労が限界に達し、気絶してしまった。

【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年前、⬛︎⬛︎、ファミレスにて…】

ガイはリアムと名乗る⬛︎国人の少年と、平門と名乗る⬛︎⬛︎人の若い男性と話をしていた。

「連合って知ってるか?」
「連合?」

リアムの言う連合にガイは聞き覚えがなかった。

「世界平和の為の組織みたいなもんだよ。連合は今、能力者を集めてるんだ。俺たちみたいな能力者を。」
「その連合ってのは、能力者を集めてどうするつもりだ。」
「逃げるんだよ。ココから。」
「は…?」
「⬛︎年後に⬛︎⬛︎は⬛︎⬛︎する。それはもう、止めようの無いもの。連合うちの予知者は有能でね。確率は100%だ。だから、僕らは逃げるんだ。この⬛︎⬛︎から。その為に、君の力が必要だ。」

その時、リアムはガイに向けて手を差し伸べた。

「もう一度言う。仲間になれ。⬛︎坂しょうさか。」

しかし、ガイは首を振った。

「どうでもいい。そんな⬛︎年後の事なんか。それに、面倒な事はごめんだ。」

その時、リアムはテーブルの上に何かを置いた。

「パスポート…?」

それは国際パスポートだった。

「世界を見て回ろう。」
「なんで…」
「どうでもいいなんて、キミの口から言わせない為だよ。」

そう言ったリアムの顔は笑っていた。
ガイがこの意味を知る事になるのは、もっと先の事。少なくとも、ここじゃない。別の⬛︎⬛︎で。

【現在…】

ガイは目を覚ました。

「(また、あの夢…)」

ガイは体を起こした。

「(寝たからか、体が少し楽だ。)」

ガイは辺りを見渡した。しかし、真っ暗で何も見えない。
その時、すぐ真横から角野の声が聞こえてきた。

「あ、起きた…?」

角野の声は反響している。どうやら、ココは角野の『角箱ボックス』で作った箱の中のようだ。おそらくは、新手のドローンから身を隠す為のもの。

「ごめん…さすがに、キミを担いでは無理だった…の…」

角野の声は弱々しかった。おそらく、この暑さのせいだ。密閉されたこの箱内では、空気がこもる。ただでさえ、湿度が高いこの労働部屋では、この箱内はまさにサウナだ。
さすがのガイもこの暑さにはこたえてはいたが、束の間の睡眠で疲労が回復した事により、先程までよりと比べたら状態は良かった。

「とりあえず箱を消せ。暑くて死ぬ。」
「うん…」

角野はタレントを解除し、二人を囲っていた箱を消滅させた。

【箱の外、密林の労働部屋にて…】

箱が消え、ガイと角野が姿を現した。

「はぁ~!涼しいぃ~!」

角野は外の涼しさを満喫した。とはいえ、外気の温度も30度を超えている。暑さ感覚が麻痺していたのだ。それはガイも同様。
その時、角野はガイに尋ねた。

「歩ける?また肩貸そうか?」
「いや、いい。結構回復した。歩く程度ならできる。それより、早く拠点を目指そう。話はそれからだ。」
「う、うん…」

角野はガイの落ち着き様に肝を抜かした。

「(本当に中学生…?)」

【二時間後…】

ガイと角野は遅い来る殺し屋ドローンを破壊しながら、金田が言っていた拠点へとやってきた。

「ココが拠点…」

草木の生えていない直径10mほどの広場。その中央には、何やらATMのような機械の台が鎮座していた。おそらく、アレが転送機。アレを使って水や食料を手に入れるようだ。
ガイと角野は時給で得た所持金を使って、水や食料、医療品などを購入した。
水分補給をした後、ガイは角野に怪我の治療をしてもらい、その際に色々と尋ねた。

「アンタと桜田の関係。それと、仲間の数とタレント。それが知りたい。」
「…」

角野は渋った。教えればきっと、ガイは桜田を倒してしまうであろう。角野は桜田の非人道的な行為を止めたい一方、桜田に傷ついて欲しくないという気持ちが交差していた。
それを察したガイはこう言った。

「…わかった。アンタには助けてもらった恩がある。話せる所だけ話してくれ。」

それを聞いた角野は申し訳なさそうに礼を言う。

「ありがとう…」

そして、角野は話を始めた。

「私と秋と哲也…あ、哲也は出口哲也の事ね。そして秋の双子の妹の春(はる)。私たち四人は幼馴染だった。」

角野は悲しげな表情で話を続ける。

「11年前、春が交通事故で亡くなった。当時、私は事故現場にいなかったから、その事故がどういったものなのかはわからない。でも秋は、春が死んだのは全部自分のせいだって言って、それで…」
「それで、妹を生き返らせる為に、外の世界にいる魔王の封印を解く。」

角野は頷いた。

「私たちは何としても、外の世界へ行かなくちゃならない。どんな手を使っても…そのはずだった…」

すると、角野は後悔の表情を浮かべた。

「でも…でもやっぱり、拷問なんて間違ってる!例え、春ちゃんを生き返らせる為でも、誰かを不幸にする作戦なんて賛同できない!」

その時、角野は涙を流し、懺悔するかのようにガイに話をした。

「私は秋を止められなかった…私も、春の為なら、キミを犠牲にするって…でも、やっぱり私は…」

地面に膝をつき、角野は泣きじゃくった。彼女も、悩んでいたようだ。それをガイに話した事で、自身の中に押さえ込んだものが噴き出してしまったのだ。
その時、ガイは呟いた。

「俺にも、生き返らせたい人がいる。」
「え…」
「事が済んだら、魔王の報酬の話、信憑性がある事を俺に証明しろ。それで俺が納得したら、一緒に行ってやる。」

それを聞いた角野は驚嘆した。

「ほ、ホント…⁈」
「あぁ。」

生き返らせたい人、それはおそらく母親だ。しかし、ガイにはもっと別に目的があった。
それは桜田たちの人数とタレントを知る事。角野を信用させる事で、ガイはそれを探ろうとしていたのだ。

「だから言ってくれ。桜田の仲間の数とタレントを…」

その時、ガイは背後からPSIを感じた。

「…」

ガイは振り返り、拳を構えた。
遅れて、角野も自分たち以外のPSIの存在に気がつき、立ち上がって警戒した。

「あの木の裏…誰か居るわ…」
「お前の仲間…だろうな。」

次の瞬間、その方向から巨大な火炎がガイ達に向かって放たれた。

「「ッ!!!」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...