障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第64障『ロイヤルストレートスライム』

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【12月13日、18:00、大学内、オカルト研究部、部室にて…】

微笑む有野と笑顔であろうとする土狛江。そんな二人の手元に、友田はトランプを配った。
ポーカー2ターン目、開始である。
土狛江は配られた手札を見た。ハイカード、つまりはブタ。
しかし次の瞬間、土狛江はタレントを使って土を操り、カードの絵柄を変えた。
役はロイヤルストレートフラッシュ。明らかにイカサマが疑われる手札だ。しかし、土狛江にはもうこれしかない。冷静な判断などもう出来ないのだから。
せめて、最後だけでも自分らしく、強くありたい。その表れがポーカー最強の役、ロイヤルストレートフラッシュなのだ。

「チップ20枚。キミは?」
「私も20枚…」

なんと、有野はまたしても20枚。今度は何を考えているのか。もし有野がイカサマをして、土狛江と同じロイヤルストレートフラッシュを出したとしても、引き分けで次に持ち越し。一体どうなるのか。一同の驚きとは無縁に、二人はこのギャンブルという世界に浸っていた。

「行くぞ…!」

土狛江の合図で二人は同時に手札を見せた。

・土狛江の手札
盾の10,盾のJ,盾のQ,盾のK,盾のA

盾???

「な、なんだこの絵は…⁈」

土狛江はダイヤの10,J,Q,K,Aを揃えたロイヤルストレートフラッシュのはずだった。しかし、何故か今、絵柄が変わっている。トランプそのものが変化していたのだ。
その時、有野は微笑みながらこう言った。

「私の勝ち…」

・有野の手札
スライムの10,スライムのJ,スライムのQ,スライムのK,スライムのA

スライム⁈

「こ、これは…!ロイヤルストレートぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!?!?!??!!!」

なんと、有野の手札のトランプの絵柄も変化していた。スライムに。

説明しよう!
『ロイヤルストレートスライム』とは、某有名RPGゲームのカジノのポーカーで最も強い役である。数字が10,J,Q,K,Aで構成されて、さらに、絵柄がスライム。セーブ&リセットがあるとは言え、揃えるのは至難の業である。

「ど、どうなってるんだ⁈」

その時、拘束されていたはずの有野達四人は椅子から易々と立ち上がった。

「な…⁈」

土狛江はややパニックに陥っている。
そんな土狛江に勉が説明を始めた。

「僕がプログラムしたんです。カードの柄も、拘束解除条件も。」

そう。コレは勉のタレントの仕業であった。
勉のタレントの『おままごとクラッキング・サガ』で物語の設定に条件を追加したのだ。

「条件が増えれば、恩恵も増える。不便ゆえに強力。貴方の完敗です。有野カノジョは最初から拘束を解く為に戦っていたんですよ。」

土狛江は床に膝をついた。

「ははは…とんでもない子供達だ…」

その時、有野は戦意喪失した土狛江に近づいた。

「ガイは何処…?」
「出口財閥本邸の地下…そこに居るはずだ…」

嘘はついていない。それを悟った有野達は部屋を出ようとした。
その時、土狛江は有野を呼び止めた。

「待ってくれ!最後に教えて欲しい!ルールを書き加えたからと言って、ロイヤルストレートスライムなんて確率で出せる訳がない!どうやって出したんだ!」

すると、有野は人差し指を見せた。

「コレ…」
「…?」

土狛江は有野の指をよく見た。すると、そこには砂がついていた。

「この部屋、いっぱい土が落ちてたから…これは砂鉄…」
「砂鉄…?」

すると、友田は自身の右手人差し指につけていた指輪を土狛江に見せた。

「梨子の指輪に私のタレントで磁力を付加させた…ちょっと特殊なやつを…」
「あとは砂鉄が私の指輪の磁力に引きつけられるのを利用して、その特定のトランプを山札の上にセットするだけ。」

ゲーム開始前のトランプ確認。あの時に友田は、スライムの10,J,Q,K,Aの上に砂鉄を敷いていたのだ。
全ては有野の思惑通り。有野は1ターン目で土狛江にパスを使わせ、2ターン目で勝利する。そういう筋書きだった。そして、それは見事成功したのだ。

有野と友田は土狛江に説明した。それを聞いた土狛江は力が抜けたように笑った。

「なるほど…土の中には微小ではあるが鉄が含まれる…俺の、土を操る能力が裏目に出た訳か…」

実際、土の中に含まれる微小な砂鉄程度では目印には到底なり得ない。しかし、有野のタレントの『磁力マグネ』は鉄以外の金属類も有野が指定すれば引き寄せる事ができる。それが無ければ、土の目印はできなかったはず。有野は能力に救われたのだ。
部屋を出ようとする有野達。そんな彼女たちに向けて、土狛江は再び呼び止めた。

「待ってくれ!!!」

有野達は土狛江の方を振り返った。

「何なのよ!面倒臭いわね!」
「まさか、やり合おうって気じゃないだろうな?」
「4対1です。互いに能力も割れてます。馬鹿でない貴方なら、勝算の程は考えられると思いますが。」

友田,広瀬,勉は続けてそう言った。それに対し、土狛江は誠意を伝えた。

「俺が案内する。俺も一緒に、桜田を止める。」

【数分前、大学内、広場にて…】

山口,堺,友那,将利はカチューシャをつけた茶髪女子大生、裏日戸りひと陽香ようかに連れられ、広場へと来ていた。その途中、色々と話をしていたようだ。
裏日戸は会話を続ける。

「私も土狛江も、貴方達に危害を加えるつもりはない。素直に家に帰るって約束してくれるなら解放するけど、見たところキミ達、そんな約束絶対しないでしょ。」

山口達は当たり前だと言わんばかりに仁王立ちしている。
そんな様子を見て、裏日戸は残念そうに言う。

「やっぱり、争いは避けられないんだね…」

裏日戸は空を見上げた。

「今日はいい天気だ。少し雲はあるし、もうすぐ日も沈んじゃんけど。」

その時、裏日戸は山口に向かって殴りかかってきた。

「おっと…!」

山口は軽々とそれをかわした。

「へへ!遅い遅ぉい!」

裏日戸の拳はそのまま、山口の立っていた地面に直撃した。
すると次の瞬間、その地面に深さ1メートル以上ものクレーターができた。

「「「ぬぁぁぁあ!!!?!」」」

それを見た山口達は驚嘆した。裏日戸の桁違いな怪力に。
裏日戸はPSIを纏いながら山口に向かって歩いてくる。

「今からキミ達の足の骨を折る。それしか、キミ達を止める方法は無さそうだから。」

裏日戸は謝りながら、山口に向かって走り出した。

「ごめんね…」

山口は身の危険を感じ、タレントを使用した。

「『飛翼フライド』!!!」

山口は背中から翼を生やし、宙へ飛んだ。そして、山口は空から堺達に言った。

「逃げろお前ら!コイツやべー!マジやべー!」

語彙力は皆無。しかし、裏日戸の攻撃力を間近で見ていた三人には、山口が言う『ヤバい』の危険さが十分に理解できた。
堺が友那と将利に言う。

「二人とも!早く建物の中へ!」

建物の中なら、壁や障害物などを利用して裏日戸をまく事ができる。そう思い、堺は二人を建物内へと誘導した。
その時、裏日戸は建物へと移動する堺達に向かって走り出した。
それに気づいた将利は走りながら振り返り、裏日戸を凝視して叫んだ。

「だるまさんがころんだッ!!!」
「ッ…!」

すると、裏日戸の体の動きが封じられた。

「(体が…動かない…⁈)」

将利は自身のタレント『だるまさんがころんだゲットリッドモーション』を使い、裏日戸の体の自由を奪ったのだ。
その時、空中にいる山口は建物内へと入っていく堺達に向けて言った。

「コイツは俺が何とかする!お前らはさっきの部屋に戻って広瀬達を助けろ!」

山口一人で大丈夫なのか。そんな不安を抱きながらも、それ以外の選択肢が無い堺は山口の提案を了承し、頷いた。
堺,友那,将利は建物の中へと入っていった。
将利が視線を逸らした事により、裏日戸の体の拘束が解けた。

「…」

次の瞬間、裏日戸は山口の目の前まで上に跳躍した。

「ぬぁにぃ⁈」

山口は地上から高さ役10mの所にいた。到底、普通の人間には跳躍不可。しかし、裏日戸は軽々とそれを成し得た。その事に驚嘆し、山口は不意を突かれた。
次の瞬間、不意を突かれた山口に向けて、裏日戸は拳を突き出した。

「うくッ…!!!」

山口はPSIを纏い、両腕でそれを受け止める事に成功した。しかし、裏日戸の怪力は凄まじく、山口は後方へ数十m吹き飛ばされた。

「のわぁぁぁぁぁあ!!!」

吹き飛ばされる山口。しかし、空中である事が幸いし、山口は物にぶつかることなく、翼で勢いを抑制し、静止する事ができた。

「いってぇ…」

裏日戸の強力な拳を受け止めた山口へのダメージは大きい。山口の両腕の骨にはヒビが入ってしまった。
裏日戸は地上へと落下している。

「やべぇ…!」

地上へ着地すれば、再び裏日戸は跳躍し、山口に拳を放つであろう。それを悟った山口は裏日戸が着地する前に後方へと飛行した。

「(何とかするとは言ったものの…)」

その時、着地した裏日戸はものすごい速さで地上を走り、山口の方へと向かってきた。
それを見た山口は冷や汗を流し、心の中で不安を叫んだ。

「(何とか出来る気がしねぇ!)」
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