障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第69障『勝者の瞳』

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【12月13日 、20:50、出口邸、地下通路にて…】

右前足を撃たれたヤブ助は、拳銃を持った如月に追われていた。

「(ガイ…何処にいる…)」

この地下通路は複雑な構造をしている。拳銃を持った如月から逃げられているのもそれが理由だ。しかし、この地下通路はある一点で集結するように作られている。そこにガイや角野がいる成金部屋がある。
ヤブ助は走り続けた。

【数分後…】

ヤブ助は成金部屋の前にたどり着いた。

「(なんだ…この金の扉は…)」

コンクリート造りの地下通路にはあまりに相応しくないその扉に、ヤブ助は違和感を覚えた。そしてコレが、タレントで作られたものであるとも。

「成金部屋だよ。」

次の瞬間、ヤブ助は背後から背中を撃たれた。

「ぐぬッ!!!」

ヤブ助は床に倒れた。撃ったのは如月だ。

「障坂ガイを幽閉する檻…いや、門と言ったところか。桜田くんはこうなる事を全て予想していたんだろうな。」

すると、如月は再びヤブ助に向かって発砲した。

「ぐッ…!!!」

弾丸はヤブ助の左後脚を貫いた。

「ところで猫くん。キミは『取』という漢字の成り立ちを知っているかな?」

如月は突如、訳のわからぬ事を話し始めた。

「何故『取』という漢字に『耳』が入っているか。それは昔、争いの中で敵の耳を持ち帰る事こそが戦果だったからだ。つまり、敵の耳を『取』る事こそ、勝者の証だったという。」

次の瞬間、如月は懐から袋を取り出した。その袋は刑事ドラマなどでよく見る証拠品などを保管するような袋であった。そして、その中には赤い液体と見覚えのある人体の一部。
そう。耳だ。如月が胸ポケットから人間の耳の入った袋を取り出し、ヤブ助に見せつけたのだ。

「キミ達の仲間の金髪の少女。その子から、キミ達のタレントを教えてもらった。」

金髪の少女、それはつまり、有野の事だ。あの後、有野は如月達に捕まり、拷問を受けていたのだ。そして、仲間のタレントを教えてしまった。
その事を察し、今如月が持っている耳が有野のものであるとわかったヤブ助に怒りが込み上げてきた。しかし、足と背を撃たれたこの状況では、ヤブ助はどうする事もできない。

「キミは猫を人間に、人間を猫にするタレント。つまり、射撃での対処が最適。」

如月はまたもや発砲した。弾丸はヤブ助の腹に命中した。

「急所に当たらないのは勘弁して欲しいな。」

如月は何度もヤブ助に発砲した。しかし、如月の銃の腕前は素人。なかなか、ヤブ助の急所を捉えることができない。
ただ耐えるだけのヤブ助。まさに地獄だ。しかし、ヤブ助はその地獄の先を見ていた。

「ッ!!!」

そう。この瞬間。如月が弾を全て撃ち出したこの瞬間だ。装填に要するこの時を見計らい、ヤブ助は猛スピードで如月に飛びついた。
触れさえすれば、ヤブ助の『人間化猫化キャットマン』で如月を猫にできる。そうすれば、如月は銃を使えない。触れさえすれば勝機が見える。

「残念。」

しかし、それは叶わなかった。如月は左ポケットから新たな拳銃を取り出し、飛びかかるヤブ助の胸を撃った。
そう。拳銃は2丁あったのだ。

「かはッ…!!!」

ヤブ助は床に倒れた。心臓には当たらなかったものの、弾丸は左肺を貫通していたのだ。もう、ヤブ助は動けない。如月は動けないヤブ助の額に銃を突きつけた。

「猫の解剖は経験済み。キミにはそそられない。」

如月は引き金に指をかけた。
すると次の瞬間、如月は宙に飛んだ。いや、蹴り飛ばされたのだ。

「チェェェェェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!」

なんと、如月を蹴り飛ばしたのは山口だった。山口の背中からは『飛翼フライド』で作った翼が生えていた。

「おま…え……」

唐突な山口の救援に困惑するヤブ助。山口はそんなヤブ助を抱き上げ、来た方向へ飛んだ。どうやら、この地下から出るようだ。
瀕死のヤブ助は山口にココへ来た理由を尋ねた。

「なんで……」
「俺だってもう訳わかんねぇよ!だからとりあえずお前を病院へ運ぶ!後でちゃんと人間化しろよ!動物病院にゃ行かねぇーんだからよぉ!」

山口は迷う事なく通路を進む。どうやら、来た道を全て記憶しているようだ。この迷路のような地下通路を。
山口は普段バカだが、頭はいい。定期テストで学年1位を取る程だ。ガイのような作戦を考える思考力は無くとも、単純な計算や記憶作業だけならガイよりも上。それは、日々勉強で培った山口の才能なのだ。
真っ直ぐ地下の出入り口へ向かう山口だったが、その時、ヤブ助の中で一つの疑問が浮かんだ。

「お前…どうやって……ココへ……」
「えぇ⁈なにがぁ!」
「敵が居た…はず……上に……」
「敵ぃ⁈誰も居なかったぞ⁈」

そんな訳ない。出口邸の一階には桜田,出口,水面,木森が居たはずだ。地下へ来た山口が彼らに出会していないはずがない。しかし、山口に嘘をついている様子はない。
そんな事があるとすれば、可能性は一つ。

「待ち伏せだ。」

山口が角を曲がった先には、出口が待機していた。

「⁈」

それに驚嘆する山口。一方、出口は右手の人差し指と親指で輪を作り、それを右目に当てた。

「『殺輪眼機関銃ピストルアイ』!!!」

次の瞬間、目に当てた指の輪の中から、出口のPSIが機関銃の弾丸のように乱射された。
その無数のPSI弾丸が山口とヤブ助を襲った。

「くッ…!!!」

山口は翼で自身の体を覆い、PSI弾を防ごうとした。しかし、出口のPSI弾の威力は高く、翼を貫き、山口の体に大ダメージを与えた。
数秒後、PSI弾の雨は止んだ。

「うくッ…!はぁ……!」

山口は苦痛の表情を浮かべ、床に跪いた。貫通すら免れたものの、PSI弾の当たった箇所の骨はヒビ、もしくは折損している。
その時、山口の背後から木森と水面が現れた。

「あら。生きてるじゃない。頑丈ね。」

そして、木森は山口に向けて銃を構えた。

「出口くん。この子たち、殺すわよね?生かしておいても何の得にもならないし。」
「あぁ。だが俺がやる。」

すると、出口は再び指で輪を作った。またアレが来る。今度こそ、山口とヤブ助の体はPSI弾に貫かれ、2人は息絶える。しかし、ヤブ助はまだ諦めていない。肺を貫かれたこの状況でも、勝ち筋を見出す為に思考しているのだ。

「(なにか…何かないか…⁈ガイならどうする…⁈この絶望的な状況で生き残るには…⁈どうする…⁈)」

しかし、名案など浮かばなかった。あるのはただ一つ。最後に、主人(ガイ)に会いたいという気持ちだけ。そう。頭のどこかでは気づいていたのだ。もう助からないと。

「(どうする…か……ガイ。俺はお前に出会えて…お前達に出会えて…)」

そして、ヤブ助は山口に話しかけた。

「すまない…山口…お前、を……クズ呼ばわり…して……」

その時、ヤブ助は驚嘆した。山口の目を見て。

「(この目…)」

ヤブ助は知っていた。その目が、どんな目なのか。
いつか。それは約5ヶ月前。ショッピングモールでのガイとの戦いの時にそれを見た。ガイの目だ。山口のそれは、ガイそっくりだったのだ。
そう。勝利を確信した時の、勝者の瞳。

「ヤブ助。作戦がある。」

山口は小声でヤブ助にそう言った。ヤブ助は黙ってそれを聞く。

「どうにかして、俺をココから逃してくれ。」
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