障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第70障『あの日見た懐景色』

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【12月13日 、21:00、出口邸、地下通路にて…】

勝利を確信した山口。そんな山口の作戦は『自分をココから逃せ』というもの。それは一体どういう事なのか。

「お前が死んでもいい。俺さえ、生きてココから出られれば。」

山口は真剣な表情でヤブ助にそう小声で呟く。普通なら、こんな最低な事を言う奴の言葉なんか聞き流すところだ。しかし、ヤブ助はそうしない。

「わかった…」

ヤブ助は山口を逃す作戦を話し始めた。

「奴の発砲と…同時に…俺を…奴の頭上に…投げろ…」
「わかった。」

ヤブ助は山口を信じていた。いや、山口の目を信じていたのだ。その瞳の先に映る、勝利の過去未来を。
その時、出口は指で作った輪を右目に当てた。

「「来るッ…!!!」」

二人がそう思った次の瞬間、二人の予想通り、出口はPSI弾を乱射した。

「『殺輪眼機関銃ピストルアイ』!!!」

それと同時に、山口は翼で自身を覆いながら、猫のヤブ助を出口の頭上に投げ飛ばした。

「なに…⁈」

出口はその不可解な行動に疑問を持ち、自身の頭上に飛んできたヤブ助に向けて照準を合わせ、PSI弾を乱射した。
PSI弾はヤブ助の体を貫き、全身はまるでビリビリに引き千切られた布切れのようになった。
ヤブ助は死亡した。
その一瞬の隙を突き、山口は高速で出口の前に飛び、出口を殴り倒した。

「ぐッ…!」

出口は床に倒れたが、大したダメージではなく、すぐさま体を起こし、逃げる山口の方へ照準を合わせた。しかし、そこに山口の姿はない。角を曲がって、地下の出入り口へ向かったのだ。

「(自分を囮にして、仲間を逃したのか…?)」

出口の想像通り。ヤブ助は自身を囮にする事で山口を外へ逃したのだ。
その時、木森は出口に言った。

「大丈夫。条件獣を貼っておいたわ。」
「だと良いんだが…」

出口には何か、嫌な予感がしていた。おそらく、出口も知っていたのだ。山口の目、勝利の瞳を。

【21:15、出口邸、庭にて…】

山口は地下から脱出し、出口邸一階の窓から外へと出てきた。

「(待ってろみんな…必ず、助け出してやるからな…!)」

山口は空を飛んで出口邸敷地内から出た。すると次の瞬間、一匹の巨大な鳥が現れ、山口に襲いかかった。

「なッ…⁈」

木森の条件獣だ。体長5m以上あり、翼を広げたその姿はヘリコプターよりも巨大である。

「クソッ…!」

山口は無視して特定の場所へと向かって飛んだ。

【21:20、上空にて…】

翼で空を飛ぶ山口。それを追う巨大鳥。

「(ヤバイ…追いつかれる…!)」

巨大鳥はその巨体とは裏腹に、山口よりも遥かに優れた飛行性能を有していた。当然、スピードも山口より上。このままでは追いつかれる。

「(あとちょっと…あとちょっとなんだ…!)」

その時、山口は上空から『それ』を見つけた。
『それ』とは、トンネルだ。夕方の裏日戸との戦いでやってきたトンネル、その一つ先の破壊されていないトンネルだ。山口はココへ来たかったのだ。

「あった!!!」

山口はそのトンネルが見つかり、喜んだ。すると次の瞬間、山口は腹に違和感を感じた。まるで、外部から何かが侵入してきたかのような。

「えっ……」

山口は巨大鳥の爪に腹を貫かれていたのだ。
刹那の油断。それが、巨大鳥に追いつかれる所以となってしまったのだ。

「ぐはッ!!!」

山口は口から大量の血を吐き、地上へと落下を始めた。

【地上、トンネル前にて…】

山口は地上に落下した。高さ30m以上はあろう位置からの落下、当然死亡だ。

「うッ…ぐッ……!!!」

しかし、山口は生きていた。幸い、山口は樹々に引っかかり落下スピードが減少、さらには落下先には草が生い茂りクッション代わりになっていた。

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

しかし、山口は重傷だ。貫かれた腹からは胃や腸などの内臓が飛び出し、動けないどころか数十足らずで死んでしまうだろう。
そんな山口の元へ、巨大鳥がやってきた。巨大鳥は動けない山口に向かってゆっくりと歩いてくる。
山口は悟った。自分はこの鳥に啄まれて死ぬと。今、痛みを堪えて翼を広げ空を飛んでも、すぐさまこの巨大鳥に捕まってしまう。逃げることすら叶わない。

「(くそ…せっかく…すんげぇタレント…目覚めたのに…よぉ……)」

山口は涙を流した。

「みんな…ごめん……ヤブ助…俺は……やっぱり…クズ…の…まま……だ………」

巨大鳥のクチハシが山口の頭に近づく。山口は死を覚悟した。

「『次元の簡易低下論2Dメイカー』!!!」

すると次の瞬間、男の声と共に巨大鳥の頭部が切断された。

「キシシシシ!なるほどなぁなるほどなぁ~。こういう事かよ参謀さんよぉ~。」

山口の目の前に、白衣を着た一人の男が現れた。

「よぉ!山口!久しぶりだな!生きてっかー?」
「だれ……?」
「忘れんなよぉ、ひでーなぁ。一緒に2組の西川ボコボコにしよーぜって言った仲じゃねぇか。」

その時、その男の雰囲気がガラリと変わった。

大地だいち、彼と知り合いなのかい?」

すると、男の雰囲気が元に戻った。

「あぁ。ガイの体にいた頃のな。」

その男は一人でぶつぶつと呟いている。まるで、一人の人間の中に二人居るみたいだ。
その時、男は山口の首根っこを掴み、山口の体を片腕で持ち上げた。

「お前、このトンネル入りてぇんだろ。知ってんぜ。全部、から聞いたからよぉ。」
「アイツ……?」
「まったく気に食わねぇ野郎だ。中1のくせしてヤクザ共のブレインだぜぇ?俺がガイの中居る時は全然そんな素振り見せなかったのによぉ。……本当の実力者は才能を隠す。そう!まるでこの僕のようにね!……勝手に出てくんなよ、みつる……何を言っているんだ。元々僕の体だよ。主導権は僕にある。」

男が一人でぶつぶつと言っているうちに、トンネルのすぐ前へとたどり着いた。

「んじゃまぁ、頑張れよぉお!!!」

次の瞬間、男は山口をトンネル内へと投げ飛ばした。

「ぬぁッ…⁈」

山口は腹を貫かれた痛みを必死に堪え、翼を操作し、浮遊した。そして、投げ飛ばされた勢いのまま、トンネルの奥へと向かう。
その際に、山口は振り返った。しかし、トンネルの入り口には、もう誰も居なかった。

「(誰なんだ…アイツ…)」

山口には、彼らの正体はわからない。しかし、今はそんな場合ではない。山口は前を向いた。

「(なんかよくわかんねぇけど…これで…!)」

山口はスピードを上げ、トンネル奥へと飛ぶ。

「(ガイ…ヤブ助…白マロ…みんな…!待ってろ…!今、助けに行ってやるからな…!)」

トンネルの出口が見えてきた。山口は更にスピードを上げてその出口を目指す。

「(未来いまから…!!!)」

次の瞬間、山口は時空トンネルを抜けた。

「『あの日見た懐景色ザ・サンライズ』!!!」
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