障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第82障『共謀』

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【12月18日、夜、障坂邸、ガイの部屋にて…】

『Zoo』の殺し屋ホールドが、ガイの部屋へとやってきた。しかし、ガイは布団を被ったまま、ベッドから動かない。

「すまない。死んでもらうぞ。」

ホールドは布団をかぶったままのガイに近づいてきた。

「ガイッ!!!」

その時、人間化したヤブ助がガイの部屋に飛び込み、ホールドにしがみついた。

「今のうちに逃げろッ!!!」

ガイは布団から顔を出した。

「ヤブ助…」

ヤブ助はホールドの体を取り押さえる事に尽力している。

「まだ使用人が居たか。」

しかし、ホールドは全く動じない。

「何してる!ガイ!早く行けッ!!!」

ヤブ助はガイにそう叫んだ。しかし。

「俺は…もういい…」
「はぁ⁈」
「もう、戦いたくないんだ…ごめん…」

それを聞いたホールドは怪訝そう、いや、憐れむような目でガイを見た。対して、ヤブ助はガイのそんな戯言に耳を貸さない。

「良い訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!」

ヤブ助はPSIを纏い、205cmあるホールドの身体を投げ飛ばした。

「(この体格差で…コレがPSIの力か…)」

投げ飛ばされたホールドの身体は、窓ガラスを突き破り、外へ飛ばされた。
その隙に、ヤブ助はガイに駆け寄り、布団を勢いよくめくって、ガイの体を起こした。

「お前が良くても、俺は良くないッ!お前には死んで欲しくないんだッ!!!」

必死にそう訴えるヤブ助。ガイはそんなヤブ助の顔を見る。

「ヤブ助…」
「頼む…ガイ…!」
「…」

その時、窓のすぐ近くから声がした。

「悪いがそれは無理だ。」
「「ッ⁈」」

ガイとヤブ助は窓の方へと移動し、下を覗いた。

「お前はココで俺が殺す。仕事だからな。」

なんと、ホールドは壁に垂直に立っていたのだ。

「壁に張り付く能力…⁈」
「馬鹿な…!PSIは感じないのに…!」

ガイとヤブ助は困惑している。

「あぁ。俺はハンディーキャッパーじゃない。」

ホールドは窓から再び、ガイの部屋に入った。

「ちょっとばかし、握力に自信があってな。」

なんと、ホールドは足の指の握力のみで、壁にへばりついていたのだ。

「逃げろガイッ!!!」

ヤブ助はホールドに殴りかかった。

「ッ!!!」

ヤブ助は寸前で拳を止め、回し蹴りを繰り出した。しかし、ホールドはそれを難なく受け止めた。

「『握殺』!!!」

次の瞬間、ホールドはヤブ助の右足首を、まるでミンチ肉を握り潰すかのようにグチャグチャに握り潰した。

「あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!!」

ヤブ助はとてつもない痛みにより叫んだ。

「ヤブ助ッ…!!!」

ガイがヤブ助を心配し、名前を呼んだ次の瞬間、ホールドはヤブ助の顔面を殴り、窓の外へ放り投げた。

【中庭にて…】

ヤブ助が窓から落下してきた。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

ヤブ助は猫化して、落下ダメージをやわらげた。さらに、運良く茂みの上に落ちた。

「うッ…ガイ…!!!」

ヤブ助は足を引きずりながら、ガイの元へ向かった。

【ガイの部屋にて…】

「次はお前だ。」

次の瞬間、ホールドはガイに殴りかかった。それに対し、ガイはPSIを纏って、構えをとった。
ホールドの拳がガイの顔面に触れかけ、ガイはそれを回避しようとした。すると次の瞬間、ホールドは拳を止め、ガイの目の前で指パッチンした。

「ッ!!!?!?!??!!!」

ホールドの握力から繰り出される指パッチンは、まるでスタングレネードのような強烈な爆音が発せられた。
それによって、ガイの身体は麻痺した。

「悪く思うな…ッ!」

ホールドは動けなくなったガイの顔面を握り潰そうとした。

「ッ…!!!」

すると次の瞬間、ガイは麻痺から回復して、身体を仰反らせ、ホールドの手を回避した。

「(回復が早いな…)」

ホールドはすぐに切り替え、仰反ったガイの顔面を殴った。

「くがッ…!!!」

ガイはPSIを纏っているにも関わらず、鼻の骨にヒビが入る程のダメージを受けた。そして、ホールドは地面に倒れたガイに馬乗りになった。

「ッ⁈」

ホールドはガイに腕を伸ばした。ガイはホールドの『握殺』を恐れ、ホールドの手首を掴み、ホールドの腕を止めた。

「……」

次の瞬間、ホールドは両の手で指パッチンをした。

「ッ!!!?!?!??!!!」

ガイの身体はまたもや一瞬麻痺した。

「(またコレか………)」

その隙に、ホールドはガイの手を振り払い、ガイの両腕を握り潰して切断した。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

そして、ホールドはガイを殴った。

「ふゔッ……!!!」

すると、ガイの意識がどんどん遠退いてきた。

「(ヤバい…意識が…)」

その時、ガイはふと思った。

「(ヤバい…?何がだ…?このまま何もしなければ終われるんだ…もう、何も辛い事もない…もう……)」

しかし、ホールドはなかなかトドメを刺さない。

「……」

すると、ホールドはガイから離れた。

「やはり、気に入らん。」

その時、ホールドは今にも気絶しそうなガイに背を向けた。

「障坂ガイ。お前は運が良い。」

ホールドは窓から飛び降りた。

「子供でよかったな。」

その場から去るホールド。それを見ながら、ガイは意識を失った。

【???にて…】

神殿のような所で、ガイは何者かの話を聞いている。

「一先ず、封印は完了した。しかし、それも一時凌ぎに過ぎない。ココは彼が作った空間だ。彼のPSI供給が無ければ、この世界は崩壊する。100年後…1000年後…10000年後かもしれない。その頃、俺たち連合の人間は居ないだろう。だから、この事実を語り継ぐ必要がある。さわりを打ち砕く者…障王伝説として。」

すると、その男はガイの肩に手を置いた。

「お前にばかり、こんな役目を押し付けてすまないと思っている。そして、お前の子孫にも。でも、お前しか居ないんだ。頼む、⬛︎坂しょうさか。人類の為に…地獄を見てくれ…」

【現在、障坂邸、ガイの部屋にて…】

ガイは目を覚ました。

「(俺…生きてる、のか…)」

ガイの側には猫の姿のヤブ助がいた。

「ガイ!!!」
「ヤブ助…」

ガイは切断されたはずの両腕が完全に治癒している事に気がついた。

「何で…」

その時、一人の異形な姿の少年がガイに駆け寄った。

「お久しぶりです、ガイさん。」
「氷室…?」

その少年は以前、夏休みにガイの母の実家の村、伊従村で出会った少年、氷室亮太だった。

「何でお前…」
「そっちの事情はヤブ助さんから聞きました。一緒に白鳥組を潰しましょう。」

何故、ココに氷室が居るのか。何故、自分は助かったのか。やや困惑しているガイに、ヤブ助は説明を始める。

「伊従村が襲われたらしい。」
「伊従村が…⁈」

すると、ヤブ助に代わって氷室が話を始める。

「館林の研究所、覚えてますよね?俺とガイさんで高田って奴と戦った彼処です。」
「あぁ。勿論。まさか、高田の生き残りが…?」
「いえ、生きていたのは館林の方です。白鳥組の奴ら、それに気づいてた。俺たちの襲撃後も密かに研究は行われてたみたいで…俺がそれに気づいたのは、村が襲われてから…」

その時、氷室の顔つきが変わった。

「奴ら…村の人たちを実験材料にしやがった…!みんなバケモノに変えられたんだッ‼︎父さんと母さんは一つにくっ付けられて、妹の亜美は内臓を全部取り出されて、今も天井に吊るされてる!俺は…それを見てた……」

氷室は歯を食いしばり、涙を流す。自分の無力を嘆いているかのようなその姿、ガイは共感を覚えた。出口邸での事を思い出したのだ。
氷室は涙を拭い、話を続ける。

「奴ら、言ってました。実験は成功したって。」
「成功って…そもそも何の為の実験なんだ?」
「館林ないし白鳥組の実験目的は、人の手で魔物を作る事。知ってますか、ガイさん。外の世界には魔物っていうバケモノがいるらしいですよ。」

魔物の存在はガイも知っていた。実際に『オザトリス』という魔物に出会っているからだ。しかし、何故、白鳥組は魔物を作りたがっているのか。
その時、ヤブ助はガイに話しかけた。

「ガイ。これは俺の推測なんだが、氷室の話からするに、奴ら、自分達を魔物にするつもりなんじゃないか?それが、魔王の封印に関係すると、俺は思う。」

それを聞いたガイは、会合で父親が言っていた発言を思い出した。

〈それに彼らなら、私が居なくとも魔王の封印を解く事ができる。〉

ガイの中で全てが繋がった。

「それだ。それで間違いない。」

ガイはヤブ助の推測を肯定した。そして、ヤブ助は疑問を口にした。

「そこまでして、白鳥組が魔王を復活させたがる理由は何だ…」

しかし、考えたところで答えは出ない。それよりも今はやるべき事がある。

「村上…そうだ!村上は⁈他の使用人たちはどうなった⁈」

ガイは思い出したかのようにヤブ助に尋ねる。

「誰も死んではいない…と思う。」
「と思う…?なんだよ、それ…?」
「使用人は皆、気絶させられていた。しかし、十谷さんと村上の姿だけが見当たらないんだ。」
「なんだって……」

不安に駆られるガイ。一方、それを聞いた氷室はヤブ助に尋ねる。

「人質…とかですか…?」
「いや、石川の話を聞くに、『Zoo』の殺し屋がそんな面倒な事はしない。だから妙なんだ。それに、ガイを殺さなかった事も気になる。」

その時、ガイは呟いた。

「子供だから…」

それはホールドが言った言葉。

「アイツはそう言ってた。俺が子供だから、殺さないって。」
「なるほど。殺し屋ってのにも『流儀』というものはあるみたいだな。もそうだと良いが…」

そのヤブ助の言葉を聞いたガイは目を丸くした。

「他の奴ら…?」
「……」

すると、ヤブ助は『しまった』といった感じの顔をした。そんなヤブ助の表情を見て、ガイは更なる不安に駆られた。

「どういう事だ、ヤブ助…何を隠してるんだ…?」

他の奴ら、それはおそらく、ホールド以外の『Zoo』の殺し屋の事。この言葉だけでは、次にガイを殺しに来る殺し屋、という意味にも取れる。しかし、ヤブ助の表情がそうではない事を言っている。
そして、ガイはとある疑問を投げかけた。

「陽道は『出る杭は打つ』って…『Zoo』の標的になってるのって、俺と桜田だけだよな…?みんなは…?堺や有野たちは…関係ない…よな…?」
「…」

ヤブ助は答えない。そして、ガイは確信した。標的はあの場にいた全員だと。つまり、今頃は仲間達の元へも『Zoo』の殺し屋が向かっている。
その時、ヤブ助は言った。

「すまない…わかってくれ、ガイ…」

石川の目的はガイを生かす事。そんな彼はヤブ助に話を持ちかけた。『Zoo』の標的は出る杭、つまり、桜田とガイだけだと。決して、あの場の全員が標的である事をガイに知らせないと。それを知れば、きっとガイは仲間を助けるべく、また危険に身を投じる。だから、ヤブ助は石川の提案を飲んだのだ。

「みんなが…危ない…!」
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