障王

泉出康一

文字の大きさ
157 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第93障『ダンメンミセロ』

しおりを挟む
【3月10日、夜、戸楽市、平塚水棟ひらづかすいとう病院前にて…】

ガイはホールドとの戦闘後、使用人の十谷と村上が監禁されているという平塚水棟病院前へとやってきた。尚、傷は氷室のタレントで治療済みだ。

「ここか…」

そこはまさに廃病院。夜という事もあり、かなりの雰囲気だ。
その時、ガイは入り口付近の廊下窓から人影が動くのを見た。

「(誘い込んでるつもりか。)」

ガイは割れた窓から中へと入った。

【平塚水棟病院、一階、廊下にて…】

当然、明かりはない。中は真っ暗でライトが無ければ歩く事も困難。そこでガイは、『模倣コピル AGアフターグロウ』でヤブ助の目を模倣した。

「(あっちか。)」

ガイは影が逃げた方向へと走った。
曲がり角から敵が出てくるかもしれない。罠が仕掛けられているかもしれない。しかし、今のガイには自信があった。あの拷問とも呼べる修行を終えた事による影響だ。

「(待ってろ。十谷、村上。)」

しかし、その自信が仇となる事をガイはまだ知らない。

【数分後…】

影を追うガイは地下への階段を見つけた。

「(この下だな。)」

ガイは地下へと向かった。

【平塚水棟病院、地下1階、通路にて…】

狭く暗い地下。しかし、上とは違って人が普段使っている跡がある。おそらく、『Zoo』の殺し屋フリートはこの地下を巣としているようだ。

「うッ……」

ガイは手で鼻を塞いだ。

「(毒ガスか…)」

地下には毒ガスが充満していた。しかし、臭いはない。ガイは毒ガスが与える眼球への独特な痛みにより、それに気づいたのだ。
ガイは服を一部千切り、それを顔下半分に覆った。

「(よし…)」

ガイは体に異常がない事を確認し、歩みを進めた。

「(コレも、先生の修行のおかげか。)」

毒の影響が無いのは、猪頭妹の修行のおかげ。ガイはそう考えた。

【数分後…】

ガイは一つ一つ、部屋を見て回った。しかし、十谷と村上の姿はおろか、人の姿はなかった。

「(何処にいるんだ…)」

焦るガイ。もし、ココに二人の姿が無かったら。そしてそれは、二人が始末され処分された事を意味する。

「(大丈夫。二人は生きてる。きっと…)」

ガイはそう自分に言い聞かせながら、曲がり角を曲がった。

「ッ⁈」

ガイの目の前に広がるのは血の海だった。

「な、なんだ…⁈」

壁は無い。まるで巨大な地下湖のようだ。

「……」

ガイは引き返すかどうか迷った。しかし、来た道は全て調べた。行くしか無い。
ガイは先へと進んだ。

【血の湖の先にて…】

辺りの様子はすっかり変わった。ガイの目には病院の風景は一切なく、まるで洞窟の中のようだった。

「(何処にいるんだ。二人共…)」

その時、近くから足音が聞こえてきた。
ガイは音がする方を向くと、そこには一匹の大型犬が居た。

「なんで、こんな所に…」

次の瞬間、その犬はガイに向かって襲いかかってきた。

「うわぁぁあッ!!!」

ガイは咄嗟に、氷室から貰った骨刀を取り出し、襲いかかってきた犬を両断した。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

ガイは両断した犬を見ながら、息を切らす。辺りの雰囲気に飲まれ、ガイの精神は相当滅入っているようだ。

「(何処なんだ…!十谷…村上…!)」

その時、ガイの背後から聞き覚えのある声がした。

「ガイ様。」

ガイは振り返った。そこに居たのはメイド服を着た若い女性。そう。使用人の村上だ。

「村上ッ!」

ガイは村上の元へ走ろうとした。しかし、そうしなかった。村上の手に持つものが、そうさせてくれなかったからだ。

「村上、お前…それ…」

村上の右手に握られていたもの、それはどう見ても人間の脚だった。

「ガイ様、見て下さい。キレイでしょ?特にこの断面が…♡」

村上の様子がおかしい。ガイはそう感じた。

「なに…言ってんだ……」

その時、村上は懐からナイフを取り出した。

「ガイ様の断面も…見てみたいです…♡」

すると、村上はゆっくりとガイに近づいてきた。

「く、来るなッ!」

ガイは後ずさる。次の瞬間、村上はガイに飛びかかった。

「ッ⁈」

ガイは村上に押し倒された。

「ハァ…ハァ…ガイ様ぁ…♡」

村上はガイにナイフを振り下ろした。しかし、ガイは両手でナイフを受け止め、両足で村上を蹴り飛ばした。
ガイは村上からナイフを奪い取ったはずだった。しかし、何故かガイの手にナイフは無く、ナイフは村上の手に戻っていた。

「なッ…⁈」

その事に驚嘆し、立ち上がるガイ。同時に、蹴り飛ばされた村上も立ち上がった。

「ガイ様ぁ~。蹴るなんてヒドイですよぉ~。」
「村上!どうしたんだ!お前おかしいぞ!」

その時、ガイの脳内に声が響いた。

〈おかしいのはお前の方だ、ガイ。〉

ガイは頭を抑える。その声がすると頭痛がするからだ。

「ガイ様…!」

その時、村上の声が聞こえた。その声は先程と打って変わって、不安に満ちた声だった。
ガイは村上の方を見た。

「ガイ…様……」

一瞬、辺りの景色が病院に見えた。しかし、すぐさまガイの目の前には洞窟の風景が広がった。そして、ナイフを構えた村上の姿も。

「ガイ様ぁ~。」
「村上…」
「私、ずっとガイ様をバラバラにしたかった…♡切った瞬間の、血が流れる前の切断面が見たかった…♡ねぇ、ガイ様…」

すると、村上は再びガイに向かって歩き始めた。

「首の断面見せて下さい…♡」

村上はガイに向けてナイフを振った。しかし、所詮は村上の攻撃。ガイに止められない道理はない。
ガイは村上のナイフを骨刀で弾き、村上を気絶させる為、村上の首の後ろを骨刀の柄で軽く殴った。

「かッ……」

村上は床に倒れた。

「村上…一体どうして…」

その時、ガイの背後から声が聞こえてきた。

「モウニゲラレナイ。」

声の主は、ガイが先ほど両断した犬だった。

「オマエハドコニモニゲラレナイ。」

するとその時、ガイの肩に何かが触れた。

「えっ……」

ガイは振り返った。そこには気絶したはずの村上が立っていた。

「ダンメンミセロ。」

次の瞬間、村上の口が裂け、鋭利な歯がガイに向いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!」

恐怖のあまり叫ぶガイ。村上はガイを再び押し倒す。

「グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!」

村上は避けた口を開けて、ガイを襲おうとする。

「(コイツは村上じゃないッ!)」

ガイは今目の前に居るのが村上では無いと確信し、骨刀で刺し殺そうとした。

「刀が…⁈」

しかし、何故か骨刀は手に握られていなかった。さっきまで、ちゃんと手に持っていたにも関わらず。
村上は今にもその口でガイを殺そうとしている。

「ッ‼︎」

ガイは秀頼から教わった体術で、自分と村上の位置関係を入れ替えた。そして、村上に馬乗りになったガイは村上の首を絞め始めた。

「この…ニセモノがッ…‼︎」

ガイは腕の力を強めた。すると次の瞬間、再びガイの脳内に声が響いた。

〈やめろ、ガイ。そいつはホンモノだ。〉

再び発生する頭痛。それに苛立つガイ。

「うる…さい…ッ‼︎」

その頭痛を紛らわせるかの如く、ガイは更に腕の力を強めた。しかし、頭痛は治るどころか酷くなる一方。

〈それを殺せば、お前は後悔するぞ。〉

声も止む事はない。

〈やれやれ。世話が焼けるよ。〉

次の瞬間、かつてない程の壮絶な頭痛がガイを襲った。

「ぐあぁぁッ‼︎」

それを堪えるかのように、ガイの腕の力が強くなった。そしてその時、骨が折れる音と同時に、声が聞こえた。

「ガイ…様………」

それは村上の声。いつもの。ガイに呼びかけるあの優しい声。

「えっ……」

次に瞬きをした時、辺りの風景が暗い洞窟から病院の地下へと変化した。いや、変化など最初からしていない。ガイはずっと、病院の地下に居た。
ガイは幻覚を見せられていたのだ。

【平塚水棟病院、一階、とある部屋にて…】

地下に充満していたあの毒ガス。アレは幻覚を見せる為のものだった。だから体に異常が見られなかったのだ。
頭痛により幻覚が解けたガイは目の前のものに気がついた。

「村…上……」

目の前には服を着ていない村上が倒れていた。口も裂けていない。

「……」

息は無く、目を見開いたままピクリとも動かない。また、首を強い力で絞められた痕がある。そんな村上に、ガイは馬乗りになっていた。
その時、ガイの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ガイ様……」

ガイは背後を振り向く。先程まで犬が倒れていた場所、そこに十谷が倒れていた。

「十谷ッ…‼︎」

十谷は体を横に両断されていた。

「私は…ガイ様を……信じ……て…………」

十谷は喋らなくなった。

「……」

ガイは理解した。自分が幻覚を見ていた事を。そして、二人を攻撃していた事を。
ガイは十谷と村上を殺害した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...