障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第92障『仲間の重要性』

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【3月10日、夜、戸楽市、高所にて…】

猫の姿のヤブ助は約5km先の鉄塔にいる『Zoo』の殺し屋、ロイの元までビルやマンションの上を飛び移りながら超高速で移動していた。

「(ココまで正確に狙ってくるか…)」

ロイはヤブ助の存在に気づいていた。それ故、ロイはヤブ助の到着を阻止すべく、ヤブ助に弾丸を放っていた。

「(だが好都合だ。お前の放つ弾丸の軌道から、お前の位置が読める。)」

その時、ヤブ助は飛んできた弾丸を回避する際、ある事に気づいた。

「(遅くなった…?)」

そう。先ほどと比べ、弾丸の速度が大幅に下がったのだ。コレは即ち、ロイが移動を始めたという事。ヤブ助から離れる方向に。

「(体感時速50~60km遅い。乗り物に乗ったか。車…いや、バイクだな。『Zoo』同士の協力は有り得ない。奴は一人で運転と狙撃をこなしているはず。動き易いバイクが妥当だ。)」

ヤブ助の推測通り、ロイはバイクで逃げながらヤブ助を狙撃していた。

「(まずいな。このまま高速にでも乗られたら追いつけない。そうでなくとも、奴が狙撃をやめた時点で見失う。)」

すると、ヤブ助はさらにPSIを纏い、スタミナ温存をやめ、追うスピードを上げた。時速は約180kmだ。
今、ロイとの距離は約2km。相対速度は時速120km。これなら約一分でヤブ助はロイに追いつく。しかし、ヤブ助には引っかかる点があった。

「(敵は何故、狙撃をやめない…?)」

いくら狙撃したところで、ヤブ助に当たらない事はロイも承知のはず。わざわざ自身の位置を知らせるだけの狙撃を続けて、ロイに何の得があるというのか。そして、ヤブ助の中で一つの結論に至る。

「(誘い込まれている…)」

そう。ロイはヤブ助を何処かへ誘い込むつもりだ。その為の狙撃。弾道を予測し、自分について来いという意味だったのだ。
そして次の瞬間、先程までとは比べ物にならないスピードの弾丸がヤブ助に向かって飛んできた。

「ッ⁈」

ヤブ助はそれを回避し損ねた。

「ぐあッ!!!」

寸前のヤブ助の対応により、弾丸はヤブ助の右前足に命中し、致命傷は避けることが出来た。しかし、ヤブ助の右前足は切断されてしまった。
ヤブ助は走行制御を失い、目の前のビルに突っ込んだ。

【ビル内にて…】

ヤブ助はとあるオフィスビルの窓を突き破り、デスクに衝突した。

「やだッ⁈なにッ⁈」

ヤブ助の唐突な侵入により、残業をしていた男性が驚きの声を上げる。一方、ヤブ助は衝突の衝撃を堪えながら、三本の足で立ち上がる。

「(脚をやられた…!)」

すると、ヤブ助は左前足のみを人間化し、近くにあったタオルで切断された右前足を止血した。

「ひぃぃ!化け物だー!!!」

その一部始終を見ていた残業男はヤブ助の異形ぶりに恐怖し、その部屋から逃げ出した。
その時、先程の高速弾丸が窓の外からヤブ助に向かって放たれた。

「ッ⁈」

ヤブ助は瞬時に横に飛んだ。今回は走行していなかった事も奏し、弾丸の回避に成功した。そして、気づいた事がもう一つ。

「(向かいのビルか…!)」

そう。ロイは向かいのビルに身を潜めている様だ。ヤブ助はそれを弾丸の軌道から見抜いた。

「(つまり、ココが俺を誘い込みたかった場所…奴の狩場という訳だな。)」

ヤブ助は隣のビルを見た。

「(脚をやられた今、この階からじゃ飛び移るのは少し無理があるか。)」

その時、ヤブ助に向かって弾丸が放たれた。しかし、ヤブ助は難なくそれを回避する事ができた。何故なら、その弾丸は遅かったからだ。
次の瞬間、その弾丸は壁に当たって反射し、ヤブ助の腰に命中した。

「ゔッ…!!!」

ヤブ助は再び腕を人間化させ、腰にめり込んだ弾丸を抜き取った。

「(反射型の弾丸…⁈)」

ヤブ助はすぐ様その部屋から出た。

【階段にて…】

ヤブ助は階段を上っている。どうやら、屋上からロイの居る隣のビルに飛び移るつもりだ。
その時、一発の弾丸が壁や床を反射しながら、階段を上がるヤブ助を追ってきた。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

ヤブ助は人間化し、PSIを腕に込めてその弾丸を受け止めた。反射している分、威力が弱まっている。

「痛ッ…!」

しかし、その弾丸はヤブ助が掴んだ瞬間に破裂した。

「一体何なんだ…?」

ヤブ助は自身の手を見た。手には謎の液体がかかっている。どうやら、破裂した弾丸から溢れたようだ。
その時、ヤブ助は目眩を起こし、その場に尻もちをついた。

「毒…か……」

それは即効性の猛毒だった。しかも、致死性の。だが、ヤブ助は立ち上がり、全裸の人間の状態で上を目指す。猫よりも人間の方が体が大きい為、毒の効きが遅いと考慮しての事だ。

「この程度…今さら……なんて事ないッ…!」

【ヤブ助の回想…】

山での修行中の事だ。ヤブ助とガイは猪頭妹と戦闘訓練という名の殺し合いを繰り広げていた。しかし、様子がおかしい。

「ゴホッ!ゴホッ!」

ヤブ助は咳き込んでいた。また、ガイは嘔吐している。顔も赤い。そんな状態の二人を秀頼は容赦なく痛ぶる。

「どうした?反撃しないのか?殺してしまうぞ?」

それに対して、ヤブ助は反論する。

「お前が朝食に毒を盛るからだろ…!とても戦える状況じゃない…」
「人の厚意は素直に受け入れるな。」

すると、秀頼はヤブ助を蹴り倒した。

「それとも何か?お前は『Zoo』にもそうやって言い訳するのか?それで奴らが攻撃の手をやめてくれるとでも?」

秀頼はヤブ助の頭部を踏みつける。

「コレから先、万全な状態で戦える日なんて無いと思え。」

ヤブ助は秀頼の脚を払い、距離を取った。秀頼は余裕ありげに話を続ける。

「安心しろ。毒、空腹、寝不足、病気…ありとあらゆる体調不良でシミュレーションしてやる。」

【現在…】

ヤブ助は元々、毒や病気の耐性が強かった。それは野良猫時代に培ったもの。さらに、秀頼の修行により、さらにそれらが強化された。例え致死性の猛毒でも、ヤブ助を殺す事はできない。
ヤブ助は階段を駆け上がる。その際に、ロイは何発もの反射型毒弾をヤブ助に撃ち込む。

【屋上にて…】

ヤブ助は屋上に辿り着いた。しかし、その頃にはもう、ヤブ助の体には八発もの毒弾が撃ち込まれていた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

ヤブ助は疲労とダメージと毒で息が荒い。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

ヤブ助は半猫人になった。そして、向こうのビルへ飛び移ろうとしたその時、ヤブ助は向かいのビルの屋上に誰かが居る事に気がついた。
それはロイだった。ヤブ助はロイに向かって言った。

「愚策だな…スナイパーが自ら姿を現すなんて…」

向かいのビルまではかなり距離がある。さらに、風の音で声はほとんど聞こえない。しかし、ロイには最強の目がある。ロイはヤブ助の口の動きを読み取り、読唇術で内容を聞き取った。

「お前、名前、何だ。」

ロイの声は、ヤブ助の猫の聴力により聞き取れた。

「ヤブ助…」

それを聞いたロイは笑みを浮かべ、銃を構えた。

「ヤブ助、楽しかった。」

ロイの実力は『Zoo』の中でも飛び抜けていた。彼女が引き金を引けば、簡単に命が消える。不可能だった仕事は無いほどに。
しかし今回、初めて自身と渡り合える実力を持つ者が現れた。それがヤブ助だ。初めて拮抗した殺し合いができ、ロイは燃えていたのだ。姿を現したのはヤブ助への敬意か。

「楽しかった、か……」

その言葉を聞いたヤブ助はロイにこう言った。

「勝ちを確信した者しか言えない発言だな…」

その時、ヤブ助は笑みを浮かべた。

「滑稽だな。」

次の瞬間、ロイの構えていた銃が弾け飛んだ。いや、誰かが狙撃したのだ。

【ロイから500m離れた地点、ホテル屋上にて…】

そこに居たのは、タレントで背中に翼を生やした氷室と、ライフルを構える堺だった。そう。撃ったのは堺だったのだ。

「当たった…!」

堺もガイ達同様、秀頼から狙撃の訓練を受けていたのだ。

【ビルの屋上にて…】

ロイが銃を弾かれた刹那、ヤブ助はPSIを纏い、飛んだ。しかし、疲労とダメージと毒の影響で、向かいのビルの屋上まではあと一歩届かなかった。
だがヤブ助は足の爪を突出させ、壁をよじ登り、屋上に上がった。

「ッ!!!」

ヤブ助はロイに飛びかかった。しかし、その頃にはもうロイは別の銃を構えていた。ショットガンだ。
ロイはヤブ助にショットガンを放った。しかし、ヤブ助は左手をショットガンの銃口に当て、左腕を犠牲に致命傷を防いだ。

「なッ…⁈」

次の瞬間、両腕を失ったヤブ助はロイの首に噛み付いた。

「かはッ…!!!」

そして、ヤブ助はPSIを込め、ロイの首を噛みちぎった。
ロイは死んだ。

「ハァ…ハァ…ハァ…」

ヤブ助は地面に膝をついた。

「仲間って……大事……だな…………」

ヤブ助は氷室と堺にSOSを送っていたのだ。もし、二人の加勢が無ければ、ヤブ助はやられていた。
ロイは死亡。ヤブ助は意識を失った。
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