障王

泉出康一

文字の大きさ
上 下
159 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第95障『狂と記憶』

しおりを挟む
【翌日(3月11日)、昼、猪頭邸、とある部屋にて…】

ガイは布団の上で眠っている。あの後、ヤブ助達に屋敷まで運ばれたのだ。

「うッ……」

ガイはうなされている。よくない夢でも見ているようだ。

「はッ…‼︎」

ガイは布団から飛び起きた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

ガイは息を切らしながら、自身の両手を見た。そして、昨日起こった事を思い出す。

「十谷…‼︎村上…‼︎」

次の瞬間、ガイは自身の首を絞め始めた。

「アッ…ガッ……‼︎」

【猪頭邸、大広間にて…】

猪頭邸は純和風。囲炉裏のある大広間では、人間の姿のヤブ助,氷室,堺が居た。

「ガイさんの傷は治しました。顔の方も元通りに。毒の影響も無さそうです。」
「そうか。ありがとう、氷室。お前のタレントにはいつも助けられてるよ。」
「そんな事ないです。結局あのお二人も、助けられなかったですし…」
「…」

氷室の言うあの二人、それは十谷と村上の事である。三人はガイを助けた後、平塚水棟病院へと向かった。そこで十谷と村上の遺体を発見したのだ。

「いや、いいんだ。仕方ない事だ。」

すると、ヤブ助は堺に話しかけた。

「堺。お前にも感謝している。ありがとう。」
「ううん。こんな僕でも役に立てて嬉しいよ。」
「そう言ってくれると助かる。」

その時、部屋の外が騒がしい事に気づいた。

「なんだ…?」
「行ってみよう。」

【調理場にて…】

調理場へやってきたヤブ助達は驚愕した。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!?!?!??!!!」

調理場では、ガイが叫びを上げながら調理器具で自害を図っていた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

しかし、それはどれも直前で雷世に止められ、全て未遂で終わっていた。喉に包丁を突き刺そうとすれば、位置がずれて肩に刺さる。他にも焼死や溺死を試した痕がガイの体にあった。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!?!?!??!!!」

ガイは壁に頭を打ちつけ始めた。

「やめろッ!ガイッ!」

ヤブ助はガイを押さえつけようとした。しかし、ガイは暴れ続ける。

「すまんッ…!」

次の瞬間、ヤブ助はガイを手刀で気絶させた。
意識を失ったガイの体をヤブ助は抱えた。

「氷室。手を貸してくれ。ガイを布団まで運ぶ。」
「は、はい…!」

氷室とヤブ助はガイを運んだ。調理場の入り口には有野の姿が。有野はこの一部始終を見ていたようだ。

「ガイ…」

この日以降、ガイは目を覚ますと錯乱状態になり、自殺を図るようになった。それ故、ヤブ助達は猪頭邸の使用人に頼み、ガイを専用のベッドに拘束した。

【3月14日、夜、大広間にて…】

大広間には、ヤブ助,氷室,堺はもちろん、有野や友田、園の子供達の友那,勉,将利も集まっていた。

「おんな兄ちゃん、大丈夫かな…」
「今朝も叫んでたし…」

友那と将利はガイを心配していた。一方、勉はあまり関心を持っていないようだ。
その時、友田は堺に尋ねた。

「ねぇ。ガイアイツ、何でああなった訳?」
「わからない。あの病院で何が起こったのか、僕らは見てないから。」

そう。誰も見ていない。ガイが自ら十谷と村上を手にかけたところを。故にヤブ助達は、十谷と村上はフリートに殺されたと思っていた。

「これから、どうします…?」

氷室がヤブ助にそう質問した。

「ガイは…もうダメかもしれん…」
「そうなった場合、僕らだけでやるしかないですよね…」
「あぁ…」

ガイがあんな状態では、今後の戦いには参加させられない。しかし、ガイの離脱は戦力的にかなりダメージが大きい。これから先、ガイ無しでやっていけるのか。不安が募る一同。

「いや、そうはさせない。」

その時、大広間の扉が開き、秀頼と山尾が入ってきた。

「話は聞いている。そして、それを打開する方法もある。」
「方法…?」

すると、ある人物が大広間に入ってきた。

「お前らッ…⁈」

それは桜田だった。

「やぁ。久しぶり。」

桜田に続いて、角野,不知火,土狛江,裏日戸が大広間に入ってきた。そして、秀頼と山尾が説明を始める。

「私はこの数日間、桜田達を探していた。」
「そんで、移動手段として俺がこき使われてたって訳。」

その時、ヤブ助は秀頼に質問した。

「まさかとは思いますが、そいつらと手を組むとか言いませんよね…?」
「全くもってその通りだ。コイツらと手を組む。」

ヤブ助は立ち上がり、それを拒否した。

「反対です。そいつはガイを拷問したクソ野郎です。そもそも、そいつらがガイを誘拐しなかったら、俺たちは今、こんな事になっていません。」
「異論は認めん。今日から仲間だ。いいな?」
「嫌です。仲良くできません。」
「仲良くなる必要はない。必要最低限のコミュニケーションさえできればな。」
「ですが…」

ヤブ助が何か言いかけた瞬間、秀頼はこう言った。

「桜田なら、今のガイを元に戻せる。」
「ッ……」

それを聞いたヤブ助は一瞬で反論を止めた。
その時、氷室が桜田に質問した。

「元に戻すって、具体的にはどうするんですか?」
「僕のタレントを使って、障坂君を半永久的に洗脳する。安心して。洗脳と言っても、忘れてもらうだけだから。」
「忘れてもらう…?」
「うん。話を聞くに、四日前が原因だ。だから『3月10日から今日までの記憶を消せ』って僕が命令すれば、おそらく障坂君は元に戻る。」
「なるほど。」

桜田の説明が終えると、秀頼は再びヤブ助に確認した。

「という訳だ。異論は無いな?」
「有りまくりですけど…まぁ…はい…」

ヤブ助の優先事項は何を置いてもガイ。そんなヤブ助に断る事などできるはずもなかった。

「じゃあ早速ガイの元へ…」
「待って…!」

その時、有野が立ち上がり、叫んだ。

「なんだ?」
「ガイは…このままで良いと思う…」

その発言に、皆は困惑した。

「どういう事だ?」
「ガイに、これ以上…辛い目に遭って欲しくない…」

有野の切実な願いが、皆の言葉を詰まらせた。
有野は話を続ける。

「ガイがああなる度に、記憶を消すつもり…なんですか…?そんなの、ただの道具じゃないですか…」

何も言えなかった。有野の言う通りだったからだ。
しかし、秀頼は言った。

「もう逃げ道は無い。ガイにも、私たちにも。戦うしか無いんだ。例え、操り人形になろうとも。」
「そう…ですか……」

その後、桜田はガイを洗脳し、ガイの3月10日~14日の記憶を消した。
しおりを挟む

処理中です...