障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第101障『この世界の所以』

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【とある民家前にて…】

いつも通りの朝。いつも通りの光景。

「いってきます。」
「いってらっしゃい。ガイ。」
俺はいつものように、母さんに『いってきます』を言ってから学校へと向かう。

【とある通学路にて…】

中学校までは徒歩8分ほど。俺は人気の多い商店街を抜ける必要があった。俺と同じ学校の生徒もチラホラ歩いている。何も変わらない。
その時、俺は目の端にナニカを捉えた。

「…?」

振り返った。しかし、そこには何も無い。

〈記憶だよ。〉

俺は学校へと向かった。

【また別の通学路にて…】

住宅街。いつもと変わらない。何も変わらない。

〈懐かしいな。この風景。〉

俺はいつもと同じペースで学校へ向かう。

【学校にて…】

校門を通り、廊下を歩き、階段を登る。そしてまた廊下を歩くと、俺の所属するクラスの教室が。

〈同じだ。全部。〉

うるさい。誰だ。さっきから俺の中で喋ってる奴は。

〈俺が全部、同じに作らせたからだよ。アイツに…〉

「…」

俺は教室に入る。

【教室にて…】

教室に入った俺は友達と挨拶を交わす。

〈ココは…俺とは違うな。〉

広瀬と山口。特に仲の良い、俺の友達。

〈この頃、俺に友達はいなかった。必要だと思わなかったんだ。人というものに関心がなかったから。〉

おかしい。他にも居たはず。けど、今はこの二人しか視認できない。
すると、山口と広瀬が口を開いた。

「だってお前は。」
「俺たちと同じじゃないか。」

そうだ。俺はもう。

〈死んだんだ。〉

俺がそれを理解した瞬間、辺りの人や景色が崩れ始める。そして、何も無い真っ白な空間へと変化した。

「死んだのか…俺…」
「顔を上げろ。ガイ。」

顔を上げると、そこには雷世やつが居た。

「束の間の記憶ゆめ、楽しかった?」

初めて見る雷世やつの姿。何処となく、雰囲気が親父に似ている。容姿や話し方は似ても似つかないが。

「ココは俺たちの記憶だ。」
「記憶…」
「うん。俺たちの肉体と魂は既に死に、意識だけが記憶に止まってる。」

そうか。雷世コイツはずっと、ココに居たのか。

「お前がココに来た事で、俺とお前の記憶が混ざり合った。何回か見たんじゃない?俺の記憶の断片。」

その時、俺はさっきの商店街ですれ違ったソレを思い出した。

「アレは…」
「リアム・エルバイド。この世界で、魔王って呼ばれてる人間。俺の初めての、友達…」
「友達…?魔王と?」
「お前には、話しておく必要があるな。」

そう言うと、雷世は真剣な表情で俺に話し始めた。

「この世界は、魔王が創造した世界だっていうのは覚えているか?」
「あ、あぁ…」

俺は、雷世の口調が急に変わった事に驚いた。さっきまでのおちゃらけた感じの声じゃなく、真面目なトーン。その話し方はまるで、俺とそっくりだ。おそらく、こっちが本来の雷世ヤツなんだろう。

「じゃあ何故、魔王がこの世界を創造したか。それは人類存続の為だ。」
「人類存続…?」
「あぁ。崩壊したんだよ。俺や魔王が居たホンモノの世界が。」

世界が崩壊した?何故?俺がそれを問うまでもなく、雷世は説明を続ける。

「俺達の居た世界にも『超能力』と呼ばれる力は存在した。まぁ、俺が生きてた時代じゃ、UFOや幽霊と同じ、ほとんど都市伝説扱いだったがな。だが、『超能力者』は確実に存在した。俺やリアムがそうだったからだ。」

超能力…タレントって名前じゃなかったのか。

「リアムは超能力者が集う国際機関『国際能力連合』のリーダーだった。もちろん、俺もそこに居た。リアムに勧誘されたんだ。」

『連合』。何度か耳にした事がある。頭の中で。

「『連合』についての詳しい説明はココじゃ省くが…まぁ、俺はよくテロリスト共とり合っていたな。タタラ協会っていう…」

雷世は懐かしさに浸っている。そう感じた。

「『連合』には、優秀な予知能力者が居た。そして、その予知能力者がこう予言した。『今から100年後。2123年1月1日。この世界は崩壊する。』と。理由はわからない。だが、コイツの予知が外れた事は無い。俺達は焦りに焦った。」
「なるほど。それでお前達は別の世界を造ってそこに逃げた、と。」
「その通りだ。」

やっと理解した。魔王が何故、この世界を造ったか。しかし、気になる。ホンモノの方の世界は、なぜ崩壊したんだ…?
その時、雷世は俺の疑問に答えるかの如く、呟いた。

「ナルカミライネ…」
「え…?」
「その予知能力者が最後に発した言葉だ。奴はこの予知をした数秒後、死んだ。おそらく、予知してはいけなかったんだ。そして、その理由がこの『ナルカミライネ』にある。」

そうか。予言者が死んだから、理由がわからないのか。

「ナルカミライネ…人名か?」
「わからない。その予言者の記憶を辿ろうとした者達すらも、数秒後に死んだ。」

ナルカミライネ。何故だか、俺はそれが人名に間違いないと思った。そして、近いうちに俺は彼に会う。そんな予感がした。

「ところで、何故リアムは魔王と呼ばれ、忌み嫌われる存在になったんだ?本来なら、崇められるべきだろ?人類を救済したんだから。」
「それは…」

その質問をした途端、雷世は俺から目線を逸らせた。

「それは…俺たちのせいだ。俺たち人類が、リアムやつを裏切ったんだ。」
「どういう事だ…?」
「この世界はリアムが造った。俺たち他の『連合』の能力者もそれに手を貸したとは言うが、実際、この世界の9割はリアムの創造物。つまり、リアムはこの世界の神なんだ。それが恐ろしかった。リアムやつの匙加減一つで、この世界は変貌する。あまりにも危険だと。だから、俺たちはリアムを封印した。あの神殿に…」

すると次の瞬間、辺りに神殿の風景が造られていく。雷世の記憶だ。そして俺は、この記憶を以前、見た事がある。
とある男が雷世に話しかける。

「一先ず、封印は完了した。しかし、それも一時凌ぎに過ぎない。ココは彼が造った空間だ。彼のPSI供給が無ければ、この世界は崩壊する。100年後…1000年後…10000年後かもしれない。その頃、俺たち連合の人間は居ないだろう。だから、この事実を語り継ぐ必要がある。さわりを打ち砕く者…障王伝説として。」

すると、その男は雷世の肩に手を置いた。

「お前にばかり、こんな役目を押し付けてすまないと思っている。そして、お前の子孫にも。でも、お前しか居ないんだ。頼む、正坂しょうさか。人類の為に…地獄を見てくれ…」

正坂しょうさか…そうか。雷世コイツは元々、正坂雷世だったのか。
その時、男と神殿の風景が消え、再び辺りは真っ白の空間に戻った。そして、雷世が俺にこう言う。

「時が来たんだ。この世界は今、崩壊しかけている。創造主であるリアムが封印され、世界を保つPSI供給がなされていないからだ。」

そうか。だから親父は魔王を…

「俺は魔王を封印から解く。そして、世界に十分なPSIが供給されれば、再びリアムを封印する。」
「それって、また『一時凌ぎ』なんじゃないか…?」
「あぁ。だから俺は記憶として、俺の子孫の中で生きながらえてきた。永久に『一時凌ぎ』を繰り返す為に。」

永久的な一時凌ぎ。じゃあ俺は、その一時凌ぎの為に産まれてきた、のか…?いや、俺だけじゃない。親父も爺さんも…そして、俺の子孫も…

「人類の為に、自分の子孫を犠牲にしたのか…お前は…?」
「いや、人類の為じゃない。リアムの為だ。」
「は…?」
「俺は親友リアムと約束したんだ。例え何があっても、リアムおれの夢を叶えてくれって。リアムの夢、即ち、人類の存続。」

雷世は笑った。

「リアムは俺の友人であり、恩人。この恩は一生をかけてでも返し続ける。俺の持てるもの全て。俺はリアムの使徒だから。」

そうか。コイツはリアムを崇拝しているんだ。だから、リアムを封印してまで、リアムかれの夢を叶えようとしている。それが即ち、人類存続の為。だから、人類存続を脅かすリアムの存在を許さないんだ。

「訳わからないよ、雷世おまえは。恩人の夢の為なら、その恩人すらも敵視するなんて。」
「理解する必要は無い。俺はあの日の、リアムとの約束を果たし続ける。それだけだ。そして子孫おまえたちには、その為の、俺の器になり続けてもらう。」

すると、雷世は満面の笑みで俺に手を差し伸べた。そして、あの軽い口調で。

「一緒に地獄を見に行こう!ガイ!」

一緒に見に行く…?

「何言ってるんだ。俺は死んだんだ。封印を解くのなら親父の中にいる雷世おまえに頼めよ。」
「あの器はもぉ保たないんだよなぁ~。それに、お前まだ死んでないよ?」

は…?

「いや…死んだ…はず、だろ…?」
「うん。肉体と魂は。でも、こうやって俺と話せてるじゃん。忘れちゃった?自分が死ぬ前日に、誰に何をしたか。」
「ッ……‼︎」

そうだ。俺、あの日…

「お前の地獄はまだ終わらない。」

【4月1日、深夜1時。海岸にて…】

ガイの死後10日後、海岸には人間化したヤブ助、桜田や角野などが集まっていた。皆、何やら大荷物だ。そして、彼らの目の前の海には、黒く大きな物が浮かんでいる。おそらくコレは潜水艦だ。
その時、少年が一人、ヤブ助達の元へと歩いてきた。ヤブ助はその少年にこう言った。

「遅かったな、ガイ。」
「悪い。寝坊した。」

その少年の容姿は明らかにガイではない。しかし、見覚えがある。少年は言った。

「さて、行こうか。」
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