障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第103障『俺の為に死にたいんだ』

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【3月20日、1:55、障坂家専属の病院、佐藤武夫の病室にて…】

次なる自分を作り、皆の為に死を選ぶガイ。しかし、それをヤブ助は許さなかった。

「やっぱりダメだ!お前を死なせたくない!次のお前って言っても、ただの記憶だろ!」

その時、ヤブ助にとある考えが浮かんだ。

「そうだ!『魂移住計画ゴーンボーン』だ!殺される直前に『魂移住計画ゴーンボーン』で魂だけでも俺の中に逃げ込めば…」

ガイは首を横にする。

「ダメだ。石川がいる。きっと陽道は俺が本当にこの世から居なくなったかどうか、石川に調べさせるはずだ。」

しかし、それでも尚ヤブ助は反論をやめない。

「そもそも、お前が犠牲になったって、奴らが手を引いてくれる訳ないだろ。」
「いや、引いてくれる。」
「何故だ。いくら奴らが外の世界へ行く準備で忙しいからって、俺たち…特に桜田をノーマークにする訳がない。それに、白鳥組全員が外の世界へ行く訳じゃないだろ。残党どもが俺たちを襲わないとも限らない。」
「残党なら対処は楽だ。それに、奴らは必ず俺たちから手を引く。」

ヤブ助は、そう言い張るガイに疑問を持つ。

「何故そこまで言い切れるんだ…?」
「石川が居るから。」

そのガイの発言に、またもやヤブ助は困惑した。

「石川が居るから見破られる…石川が居るから手を引いてくれる…一体、石川は何だ?敵なのか味方なのか、どっちなんだ?」
「石川はきっと…」

ガイは以前、雷世の記憶で見た神殿を思い出した。そこで雷世に話をしていた男の姿を。おそらくアレは石川の先祖。きっと石川は受け継いできたのだ。リアムの使徒としての意志を。

「きっと…人類の味方だ……」

それを聞いたヤブ助はこう呟いた。

「人類なんかどうでもいい…」

次の瞬間、ヤブ助はガイの胸ぐらを掴んだ。

「どうだっていいッ‼︎他の人間なんてッ‼︎ガイッ‼︎俺はお前が生きていればそれでいいんだ‼︎なのに何で‼︎何でお前は‼︎アイツらの為に死のうとするんだッ‼︎」

すると、ヤブ助は涙を流した。

「俺の為に…生きてくれよッ…‼︎」
「ヤブ助…」

ガイはヤブ助を抱きしめた。

「ありがとう。ヤブ助。お前が相棒で良かった。」
「ガイ…」

ヤブ助はガイの胸ぐらから手を離す。

「なぁ、ヤブ助。お前は何があっても、俺の味方で居てくれるか…?」

ヤブ助は強く頷く。

「あぁ…!あぁ!勿論だ!何があっても俺はお前の味方だ!約束する!」
「ありがとう…」

ガイはヤブ助から手を離し、そして話を続けた。

「俺なんだ…十谷と村上を殺したのは…」
「えっ…」

それを聞いたヤブ助は驚嘆した。

「毒ガスで…幻覚見せられて……気づいた時には、十谷と村上が死んでた…俺が殺したんだ…」

それを聞いたヤブ助は、ガイが狂ってしまった理由をなんとなく察した。
『ガイは悪くない。そうか。辛かったな。』ヤブ助はそう言うつもりだった。だが、直前で言葉が詰まった。

「しかも俺は…あろう事か、死んだ村上を……」

死姦した。それを言う前に、ガイは涙を流した。

「俺は…死にたい……」
「ガイ…」
「俺は…俺の為に死にたいんだ……」

ヤブ助はやっと気づいた。ガイはずっと前から死にたがっていた。ガイをずっと、この世に留まらせた、本当の悪魔は自分だと。自分はガイの味方なんかじゃないと。

「頼む…ヤブ助……」
「……」

ヤブ助にはどうして良いかわからなかった。ガイを生かすか死なせるか。自分にとっての正解、ガイにとっての正解。どっちを取るか。
結果、ヤブ助はガイの正解を取った。この時のガイに反論する勇気など、ヤブ助にはなかったのだ。
そして、障坂ガイは死んだ。

【3月23日、夜、とある刑務所にて…】

一人の男が牢屋の中で眠っている。この男の名は陣野じんの智高ともたか。以前、山尾兄弟のタレントを悪用しようとして、ガイに倒されたゴルデン四大財閥の一角、陣野財閥の当主だ。

「おい。」

仰向けで寝ている陣野に向けて拳が振り下ろされた。

「ぐおおッ‼︎」

陣野は目を覚まし、体を起こした。陣野の目の前には山尾と桜田と猫化したヤブ助が立っていた。

「な、なんだなんだなん…」

陣野が声を荒げ始めた為、山尾は彼の口を押さえた。

「うるせぇな。ちょっと黙れよ。」
「(山尾…⁈何でココに…⁈)」

山尾は陣野の口から手を離す。そして、桜田が陣野に話を始めた。

「初めまして。陣野財閥現当主、陣野智高さん。僕は桜田秋。貴方と同様、公認のハンディーキャッパーです。今日は貴方と取引に来ました。」
「と、取引…金か…?」
「その通りです。逆に、僕らが貴方に与えるものは安寧です。」
「安寧…?」
「はい。知ってますよ?貴方が自らこの刑務所に入った事。理由は白鳥組から逃げる為。貴方、陽道に脅されてたようですね。」

陣野は陽道や白鳥組というワードを聞き、警戒を強める。陣野は体にPSIを纏った。

「まさかお前…白鳥組の…!」
「いえいえ。僕らはただ貴方の財力が目当てなんです。資金が欲しい。ただそれだけ。ぶっちゃけ、貴方が死のうが生きようがどうでもいいっていうか。」

その時、山尾が話に入ってきた。

「せこいテメェの事だ。こんな所に入ってもちゃんと、どっかに金は隠してんだろ。それ全部よこせって言ってんだよ。」
「はっ。何の事だか…」

その時、桜田が先ほど言った『安寧』という言葉を思い出した。

「…つまり、俺がお前らに資金援助すれば、俺は白鳥組に追われる日々は無くなる。そういう取引か…?」

それに桜田が頷く。

「はい。」

すると、陣野はそれを鼻で笑った。

「へっ!お前らみたいなガキが、俺に安寧を与えるだと?白鳥組から守ってやるだと?出来るわけねーだろが。帰れ帰れ。俺はココで暮らすんだよ。」

取引をするつもりがない陣野に、桜田はこう言った。

「確かに。ココの警備システムはゴルデン一万全だと言われています。脱獄するのも侵入するのも困難。当然、白鳥組ですら入るのは骨が折れるでしょう。と言えど、僕らは簡単にココまで来れちゃった訳ですが。」

それを聞いた陣野は冷や汗をかく。桜田は話を続けた。

「ガキですら簡単に入れたんです。白鳥組が本気になれば、貴方なんてすぐ利用されて殺されますよ?」

それを理解した陣野は話を聞く態勢をとった。

「お前の言う安寧、具体的には…?」
「貴方を海外へ逃がします。」
「海外…⁈」

陣野は驚嘆した。ゴルデンでは外の世界へ行くこと自体がタブーだからだ。そして同時に理解した。桜田たちが何故、自分に資金援助してもらいたいかを。

「まさかお前ら、外の世界へ行くつもりなのか…?」
「はい。」

そして、桜田はこう言った。

「僕らは白鳥組を追い、陽道を殺す。」

それを聞き、陣野は驚愕する。白鳥組を潰すなんて、この国じゃ到底不可能な考え。正気の沙汰じゃ無いからだ。

「は…はははっ…あははははは!!!」

陣野は笑った。しかし、それは馬鹿にした笑いではない。

「面白い…!乗ってやろうじゃねぇか!俺はお前らに投資する!陣野智高、一世一代の大博打だ!」
「さすがは財閥。やるときはやるね。」
「安寧の件も忘れるなよ。」
「もちろん。」

陣野は桜田,ヤブ助,山尾の姿を見る。

「(こんなガキ共に、可能性を感じるとは…俺もヤキが回ったか…)」

【3月24日、朝、障坂家専属の病院、佐藤武夫の病室にて…】

人間化したヤブ助がベッドの上で眠る武夫に話しかける。

「起きろ、ガイ。」

それはガイを目覚めさせる合言葉。

「地獄を見にいくぞ。」

この言葉を言えば、武夫は目を覚ます。次なるガイになって。

「あぁ。」

武夫ガイは目を覚ました。

「行こうか。ヤブ助。」
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