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第2章『ガイ-過去編-』
第114障『1位と2位』
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【4月1日、18:42、フリージア王国、城下町、港、とある巨大倉庫内にて…】
四肢を切断された桜田。そんな彼を背負う不知火が話をしている。するとその時、外から出口のPSI弾が乱射された。不知火は桜田を背負ったまま、倉庫の壁を蹴り破り、別の倉庫へと隠れた。
【倉庫外にて…】
一善と木森、そして魔物化した出口が様子を見る。
「(秋。俺はお前が恐ろしい。きっとあの倉庫の中で、お前はまた…笑ってるんだろ…)」
【出口の過去…】
俺は何をするにも2番手だった。勉強もスポーツも恋愛も。俺の前にはいつも桜田がいた。秋は凄い。秋が1番。俺は永遠の2番手。秋には勝てない。そんな事、ガキの頃からわかってる。けど、勝ちたかった。それで何回秋に勝負を仕掛けた事か。でも、勝つのはいつも桜田。きっと桜田は、俺に勝負を持ちかけられた事すら気づいていないだろう。それ程までに、2位と1位の間には差があった。
「1位になって何するの?」
そんな俺を諭してきたのが、桜田の妹だ。そうだ。俺は1位になって…秋を倒して何がしたいんだ…?俺は秋に勝ちたいだけ。それだけ。別に、秋に勝ったからってどうする事もない。
「兄さん言ってたんだ。1位は周りの評価や信用の為。本当の目的は、1位を取る過程にある。って。」
そう。資格と同じだ。持ってるから有利になる訳じゃない。その過程が大事なんだ。しかし、人は過程よりも結果を重んじる。秋はそれがわかっているからこそ、その両方を手に入れる。けど、俺は違う。俺はただ、過程も結果もどうでもいい。秋に勝ちたい。そんな自分の欲を満たす為だけ、感情に任せて動く、愚かという他ない。
「哲也くん、兄さんの事が好きすぎるんだよ。」
そう諭してくれた彼女は、優しく俺に微笑みかけた。そして、いつしか俺は、秋に勝つ気も失せてしまった。俺は秋の次でいい。そう思い始めた頃だ。
「春が…死んだ…」
桜田から聞いたその一言。俺は悲しかった。涙が溢れ出た。俺を諭してくれた彼女が、もうこの世から居なくなってしまったんだ。悲しい。この上なく悲しい。
けど、なんだ、この感情は。悲しい…?勿論、悲しい。しかし、目の前で絶望に打ちひしがれる桜田の姿を見ていると、何故だか俺は。
〈嬉しい。〉
その感情が強くなった。この時俺は、何故か秋に勝ったと勘違いしてしまった。秋のこの姿、たまらなく、嬉しい。その喜びは春が死んだ悲しみを打ち消してくれる程に。
その頃からだ。消えかけていた闘争心という炎が再び、俺の中で燃え上がったのは。秋を欺こう。そして、俺が春を生き返らせる。秋ができなかった事を全部、俺がやってやる。
「俺は春が好きだ。だから、秋。協力する。一緒に春を生き返らせよう…!」
俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は…
〈哲也くん、兄さんの事が好きすぎるんだよ。〉
そうか。そうだったのか。俺が想い焦がれていたのは、桜田、だったんだな。
「哲也は春の事が好きだ。けどそれ以上に、哲也は春に、自分を好きになって欲しいと思っている。」
秋、その通りだ。俺は春を自分のものにしたい。いや、春じゃない。お前の妹を、だ。実の兄であるお前には、決して手に入れられない妹。俺はお前ができない事をしたかっただけだ。
【現在…】
「春…キミはいつも、俺を諭してくれる…キミは俺の恩師だ…」
突如そう呟く出口に驚く木森と一善。しかし、出口は呟きをやめない。自分の世界に浸っているのだ。
「キミは必ず生キ返らセる。恩師だカら。だかラ、俺は殺る。今、目の前にイる、俺の最愛ヲ…!」
するとその時、出口の体がさらに変異する。体長は2メートルを超え、腕や眼球の数が倍に増える。そして、PSIの量も。
そして、出口PSI弾を放ち、連なる倉庫を端から破壊していく。その威力は凄まじく、1発1発がまるで大砲のような威力だ。
【とある倉庫内にて…】
桜田を背負う不知火は出口の大砲のようなPSI弾の威力を見て恐怖する。
「やばいやばいやばい!秋様やばいって!もう逃げるよ!」
今、桜田は四肢が無く、スマホなどの電子機器も無い。タレントが使えないが故に、出口達の前に出る事も不可能。それに敵の中には待ち伏せに強いタレントを持つ木森と、通信機器を狂わせる一善が居る。明らかに不利だ。
「哲也…」
にも関わらず、桜田は笑っていた。強者の余裕か。それとも。
【倉庫外にて…】
出口が倉庫を端から破壊していたその時、不知火が倉庫から飛び出してきた。その背中には桜田が居ない。
出口は倉庫を破壊しながら、複眼・複腕で飛び出してきた不知火にもPSI弾を放つ。不知火はPSI弾を回避しながら、桜田に言われた事を思い出し、とある場所へと向かって走る。
「(電波は離れるほど弱くなる…秋様の見解じゃ、一善は自分から2~3メートルの範囲しか電波を操れない…!待ち戦法の木森含め、近づきさえしなければ、注意すべきは出口のPSI弾だけ…!)」
不知火は波止場に辿り着き、最大火力で海水を蒸発させた。辺りに霧が蔓延し、真っ白で何も見えない。目眩しだ。
それと同時に、またもや金属の鉄箱が一善の体を取り囲んだ。金属は電波を通さない。これで一善の電波操作は数秒の間、彼が鉄箱を溶かすまでは封じられた。
「(目眩し…一善の無力化…だが問題ナい。見えナくとモ感じル…オ前達のPSIを…!)」
この機に乗じて出口に近づこうにも、彼の間合いに入ればPSIで位置を感知される。例えその間合いに入ったとしても、木森の条件獣がすぐさま出現する。霧が晴れるまで待てば良い。そう考えていたその時、地響きがした。
「足音…?」
それは何十人もの足音だった。それは出口達に向かって走ってくる。そして次の瞬間、出口は背後から何者かに剣で刺された。
「何ッ…⁈」
PSIは感じられない。つまり、出口を刺したのはハンディーキャッパーではない。霧でよく見えない中、出口に向けて次々と刃物を持った者たちが襲いかかる。そして、出口は気づいた。
「(秋の洗脳…⁈)」
そう。彼らは桜田に洗脳されたフリージアの市民たち。PSIがない分、位置特定はされない。この霧の中じゃ脅威となるノーマル達だ。
「(『殺輪眼機関銃』は使えナい…!こんナ視界の悪い中、もシ一善や木森に当たりでモしたら…)」
その時、出口は気づいた。
「(何故、条件獣が発動しない…⁈)」
木森は自分たちの間合いに敵が近づけば条件獣が出現するようにこの場にタレントをかけていた。しかし、これだけ大勢の敵が攻めてきた今、その気配が全く無い。それどころか、彼女のPSIが見当たらない。近くにあるのは自身と、鉄箱からの脱出を試みる一善のPSIのみ。
「まサか…⁈」
出口は悟った。木森は殺されたのだと。霧で姿は見えないが木森のPSIが消えた事が何よりの証拠。
出口は桜田の操る人間達に体中を貫かれた。地面へと仰向けで倒れる出口。すると、地面と背中の間に何か挟まった。それはタブレット端末だ。不知火は霧を発生させた後、タブレット端末を木森の足元に投げたのだ。地面をスライドさせるようにして。そして、そこに表示されている文字はおそらく『死ね』だ。木森は足元に投げ込まれたそれをうっかり見てしまったのだと、出口は悟った。
倒れた出口。何度も彼を刺すフリージアの人々。次の瞬間、鉄箱から脱出した一善がその人々をバラバラに切断、一掃した。
「なんてザマだ。」
霧が晴れる。一善の辺りにはバラバラ死体の山。身体中に剣を突き刺された出口。白目を向いたまま動かない木森。そして、目の前約10メートルには角野と桜田を背負った不知火の姿。
「桜田秋。お前は何処までも計算の内か?」
「そんな…キミ達が僕の用意したイフに進んだだけだよ…」
洗脳したフリージアの市民。彼らはここへ来る前に既に桜田によって用意されていた。合図一つで兵隊になれるように。
「さぁ、後はお前だけだ。一善。」
桜田の発言の後、不知火は一善に手をかざす。
「もう残りPSIは少ない。けど、お前を溶かすぐらいはまだある。動くなよ?ちゃんと燃えないと痛いからな?」
不知火の冷酷な言葉。一善はそれを意にも留めず、桜田によって犠牲になったフリージアの人々を眺めて、こう言った。
「関係ない人々を殺して、お前達はなんとも思わないのか?」
それを聞いた角野が起こったように言い返す。
「貴方に言われたくない…!散々関係ない人を殺してきた貴方達だけには…!」
すると、一善は空を見上げる。日の落ちかけた月の見える空を。
「そうか…そうですよね…」
一善の急な敬語。
「警部…俺は貴方のようにはなれない…貴方のような善人には…」
警部。それは誰なのか。一善は一体、誰に向かって話しているのか。するとその時、一善は再び桜田達に向き直った。
「偽善でも、それが結果的に人のためになるのなら、お前達はそれを正義と捉えるか?」
いきなり放たれた訳のわからない質問。
「俺はそうは思わない。偽善はたかが、自分の欲を満たすもの。本当の正義は、自分の身を顧みず、他人の幸せを勝ち取る者の事だ。」
明らかに一善の様子がおかしい。
「不知火…早く殺すんだ…!」
「えっ…?」
桜田は妙な胸騒ぎから、不知火に一善の始末を急かす。一善は気にせず話し続けた。
「例え悪に身を堕としてデも…俺ハ…‼︎彼ノ…ッ…‼︎意志ヲッ…‼︎」
一善の体に変化が起こり始めた。
「不知火ッ…!早く殺せッ…!」
桜田の叫び。不知火もコレが魔物化の前兆だという事を悟り、すぐさま一善に火炎を放った。
「グォアァァァァァァァァァァァァア!!!!!」
一善の苦痛の叫びが火炎の中から響く。日の中の影が地面に倒れるのを見て、不知火は火炎を止めた。
「死んだ…?」
不知火が一善に近づこうとしたその時、桜田は地面に落ちた出口のスマホを見た。
「(電波が…⁈)」
同時に、桜田は叫んだ。
「退がれ!不知火ッ!」
そんな桜田の焦りを見て、角野は倒れた一善を鉄箱に閉じ込めた。三人は一善からさらに離れる。
「遅かったッ…!」
そう。殺すのが遅かった。一善は生きている。魔物となり、身体を強化されて。
「正ス…」
鉄箱内から一善の声が聞こえる。そして、角野の創造した鉄箱がものすごい勢いで溶け始め、変貌した一善の姿が現れた。その様子はまるで、卵が孵ったかのよう。溶ける鉄の卵は変貌した一善の姿と相まり、なんとも神秘的だ。
「浄化ス…」
羽根が生え、中性的な体つきへと変貌した一善の姿はまるで天使。いや、不知火の火炎による火傷により、皮膚は爛れ、片翼の羽毛は剥がれたその姿は堕天使と呼ぶに相応しい。
「さァ…正義を始メようカ…‼︎」
四肢を切断された桜田。そんな彼を背負う不知火が話をしている。するとその時、外から出口のPSI弾が乱射された。不知火は桜田を背負ったまま、倉庫の壁を蹴り破り、別の倉庫へと隠れた。
【倉庫外にて…】
一善と木森、そして魔物化した出口が様子を見る。
「(秋。俺はお前が恐ろしい。きっとあの倉庫の中で、お前はまた…笑ってるんだろ…)」
【出口の過去…】
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「1位になって何するの?」
そんな俺を諭してきたのが、桜田の妹だ。そうだ。俺は1位になって…秋を倒して何がしたいんだ…?俺は秋に勝ちたいだけ。それだけ。別に、秋に勝ったからってどうする事もない。
「兄さん言ってたんだ。1位は周りの評価や信用の為。本当の目的は、1位を取る過程にある。って。」
そう。資格と同じだ。持ってるから有利になる訳じゃない。その過程が大事なんだ。しかし、人は過程よりも結果を重んじる。秋はそれがわかっているからこそ、その両方を手に入れる。けど、俺は違う。俺はただ、過程も結果もどうでもいい。秋に勝ちたい。そんな自分の欲を満たす為だけ、感情に任せて動く、愚かという他ない。
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そう諭してくれた彼女は、優しく俺に微笑みかけた。そして、いつしか俺は、秋に勝つ気も失せてしまった。俺は秋の次でいい。そう思い始めた頃だ。
「春が…死んだ…」
桜田から聞いたその一言。俺は悲しかった。涙が溢れ出た。俺を諭してくれた彼女が、もうこの世から居なくなってしまったんだ。悲しい。この上なく悲しい。
けど、なんだ、この感情は。悲しい…?勿論、悲しい。しかし、目の前で絶望に打ちひしがれる桜田の姿を見ていると、何故だか俺は。
〈嬉しい。〉
その感情が強くなった。この時俺は、何故か秋に勝ったと勘違いしてしまった。秋のこの姿、たまらなく、嬉しい。その喜びは春が死んだ悲しみを打ち消してくれる程に。
その頃からだ。消えかけていた闘争心という炎が再び、俺の中で燃え上がったのは。秋を欺こう。そして、俺が春を生き返らせる。秋ができなかった事を全部、俺がやってやる。
「俺は春が好きだ。だから、秋。協力する。一緒に春を生き返らせよう…!」
俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は春が好きだ。俺は…
〈哲也くん、兄さんの事が好きすぎるんだよ。〉
そうか。そうだったのか。俺が想い焦がれていたのは、桜田、だったんだな。
「哲也は春の事が好きだ。けどそれ以上に、哲也は春に、自分を好きになって欲しいと思っている。」
秋、その通りだ。俺は春を自分のものにしたい。いや、春じゃない。お前の妹を、だ。実の兄であるお前には、決して手に入れられない妹。俺はお前ができない事をしたかっただけだ。
【現在…】
「春…キミはいつも、俺を諭してくれる…キミは俺の恩師だ…」
突如そう呟く出口に驚く木森と一善。しかし、出口は呟きをやめない。自分の世界に浸っているのだ。
「キミは必ず生キ返らセる。恩師だカら。だかラ、俺は殺る。今、目の前にイる、俺の最愛ヲ…!」
するとその時、出口の体がさらに変異する。体長は2メートルを超え、腕や眼球の数が倍に増える。そして、PSIの量も。
そして、出口PSI弾を放ち、連なる倉庫を端から破壊していく。その威力は凄まじく、1発1発がまるで大砲のような威力だ。
【とある倉庫内にて…】
桜田を背負う不知火は出口の大砲のようなPSI弾の威力を見て恐怖する。
「やばいやばいやばい!秋様やばいって!もう逃げるよ!」
今、桜田は四肢が無く、スマホなどの電子機器も無い。タレントが使えないが故に、出口達の前に出る事も不可能。それに敵の中には待ち伏せに強いタレントを持つ木森と、通信機器を狂わせる一善が居る。明らかに不利だ。
「哲也…」
にも関わらず、桜田は笑っていた。強者の余裕か。それとも。
【倉庫外にて…】
出口が倉庫を端から破壊していたその時、不知火が倉庫から飛び出してきた。その背中には桜田が居ない。
出口は倉庫を破壊しながら、複眼・複腕で飛び出してきた不知火にもPSI弾を放つ。不知火はPSI弾を回避しながら、桜田に言われた事を思い出し、とある場所へと向かって走る。
「(電波は離れるほど弱くなる…秋様の見解じゃ、一善は自分から2~3メートルの範囲しか電波を操れない…!待ち戦法の木森含め、近づきさえしなければ、注意すべきは出口のPSI弾だけ…!)」
不知火は波止場に辿り着き、最大火力で海水を蒸発させた。辺りに霧が蔓延し、真っ白で何も見えない。目眩しだ。
それと同時に、またもや金属の鉄箱が一善の体を取り囲んだ。金属は電波を通さない。これで一善の電波操作は数秒の間、彼が鉄箱を溶かすまでは封じられた。
「(目眩し…一善の無力化…だが問題ナい。見えナくとモ感じル…オ前達のPSIを…!)」
この機に乗じて出口に近づこうにも、彼の間合いに入ればPSIで位置を感知される。例えその間合いに入ったとしても、木森の条件獣がすぐさま出現する。霧が晴れるまで待てば良い。そう考えていたその時、地響きがした。
「足音…?」
それは何十人もの足音だった。それは出口達に向かって走ってくる。そして次の瞬間、出口は背後から何者かに剣で刺された。
「何ッ…⁈」
PSIは感じられない。つまり、出口を刺したのはハンディーキャッパーではない。霧でよく見えない中、出口に向けて次々と刃物を持った者たちが襲いかかる。そして、出口は気づいた。
「(秋の洗脳…⁈)」
そう。彼らは桜田に洗脳されたフリージアの市民たち。PSIがない分、位置特定はされない。この霧の中じゃ脅威となるノーマル達だ。
「(『殺輪眼機関銃』は使えナい…!こんナ視界の悪い中、もシ一善や木森に当たりでモしたら…)」
その時、出口は気づいた。
「(何故、条件獣が発動しない…⁈)」
木森は自分たちの間合いに敵が近づけば条件獣が出現するようにこの場にタレントをかけていた。しかし、これだけ大勢の敵が攻めてきた今、その気配が全く無い。それどころか、彼女のPSIが見当たらない。近くにあるのは自身と、鉄箱からの脱出を試みる一善のPSIのみ。
「まサか…⁈」
出口は悟った。木森は殺されたのだと。霧で姿は見えないが木森のPSIが消えた事が何よりの証拠。
出口は桜田の操る人間達に体中を貫かれた。地面へと仰向けで倒れる出口。すると、地面と背中の間に何か挟まった。それはタブレット端末だ。不知火は霧を発生させた後、タブレット端末を木森の足元に投げたのだ。地面をスライドさせるようにして。そして、そこに表示されている文字はおそらく『死ね』だ。木森は足元に投げ込まれたそれをうっかり見てしまったのだと、出口は悟った。
倒れた出口。何度も彼を刺すフリージアの人々。次の瞬間、鉄箱から脱出した一善がその人々をバラバラに切断、一掃した。
「なんてザマだ。」
霧が晴れる。一善の辺りにはバラバラ死体の山。身体中に剣を突き刺された出口。白目を向いたまま動かない木森。そして、目の前約10メートルには角野と桜田を背負った不知火の姿。
「桜田秋。お前は何処までも計算の内か?」
「そんな…キミ達が僕の用意したイフに進んだだけだよ…」
洗脳したフリージアの市民。彼らはここへ来る前に既に桜田によって用意されていた。合図一つで兵隊になれるように。
「さぁ、後はお前だけだ。一善。」
桜田の発言の後、不知火は一善に手をかざす。
「もう残りPSIは少ない。けど、お前を溶かすぐらいはまだある。動くなよ?ちゃんと燃えないと痛いからな?」
不知火の冷酷な言葉。一善はそれを意にも留めず、桜田によって犠牲になったフリージアの人々を眺めて、こう言った。
「関係ない人々を殺して、お前達はなんとも思わないのか?」
それを聞いた角野が起こったように言い返す。
「貴方に言われたくない…!散々関係ない人を殺してきた貴方達だけには…!」
すると、一善は空を見上げる。日の落ちかけた月の見える空を。
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一善の急な敬語。
「警部…俺は貴方のようにはなれない…貴方のような善人には…」
警部。それは誰なのか。一善は一体、誰に向かって話しているのか。するとその時、一善は再び桜田達に向き直った。
「偽善でも、それが結果的に人のためになるのなら、お前達はそれを正義と捉えるか?」
いきなり放たれた訳のわからない質問。
「俺はそうは思わない。偽善はたかが、自分の欲を満たすもの。本当の正義は、自分の身を顧みず、他人の幸せを勝ち取る者の事だ。」
明らかに一善の様子がおかしい。
「不知火…早く殺すんだ…!」
「えっ…?」
桜田は妙な胸騒ぎから、不知火に一善の始末を急かす。一善は気にせず話し続けた。
「例え悪に身を堕としてデも…俺ハ…‼︎彼ノ…ッ…‼︎意志ヲッ…‼︎」
一善の体に変化が起こり始めた。
「不知火ッ…!早く殺せッ…!」
桜田の叫び。不知火もコレが魔物化の前兆だという事を悟り、すぐさま一善に火炎を放った。
「グォアァァァァァァァァァァァァア!!!!!」
一善の苦痛の叫びが火炎の中から響く。日の中の影が地面に倒れるのを見て、不知火は火炎を止めた。
「死んだ…?」
不知火が一善に近づこうとしたその時、桜田は地面に落ちた出口のスマホを見た。
「(電波が…⁈)」
同時に、桜田は叫んだ。
「退がれ!不知火ッ!」
そんな桜田の焦りを見て、角野は倒れた一善を鉄箱に閉じ込めた。三人は一善からさらに離れる。
「遅かったッ…!」
そう。殺すのが遅かった。一善は生きている。魔物となり、身体を強化されて。
「正ス…」
鉄箱内から一善の声が聞こえる。そして、角野の創造した鉄箱がものすごい勢いで溶け始め、変貌した一善の姿が現れた。その様子はまるで、卵が孵ったかのよう。溶ける鉄の卵は変貌した一善の姿と相まり、なんとも神秘的だ。
「浄化ス…」
羽根が生え、中性的な体つきへと変貌した一善の姿はまるで天使。いや、不知火の火炎による火傷により、皮膚は爛れ、片翼の羽毛は剥がれたその姿は堕天使と呼ぶに相応しい。
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