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第2章『ガイ-過去編-』
第118障『初めての友だち』
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【4月1日、18:37、フリージア王国、城下町、とある民家にて…】
民家内では片腕の無い如月が土狛江に追い詰められていた。
「ちょ!ちょっと待ってくれたまたえッ!まさか、本気で私を殺そうとしているんじゃないだろうな⁈」
「俺もホントはそんな事したくない。けど、そうしないと俺が貴方に殺されるんで。」
「殺さないって!誓う!誓うからさ!」
「…」
土狛江は呆れた表情で如月に背を向けた。
「わかりました。じゃあもう俺らの邪魔はしないでくださいね。」
土狛江が如月の元から去ろうとしたその時、背後からガラスが割れる音が聞こえた。土狛江は振り返る。如月が家具を投げて天井付近の窓を破壊したのだ。
「これで月光は届いたッ…!」
如月のタレント『月光・防御』は、月の光を浴びている間はいかなる攻撃も受け付けない能力。今、天井のガラスを破壊した事で、彼の体に直接月光が当たり、タレント使用が可能となった。
如月はポケットから爆弾を取り出す。それも、この民家や周囲の民家をも巻き込むような大規模なものを。
「土狛江くんッ!キミの敗因は私のブラフを見抜けなかった事ッ!私は決してせこくないッ!勝者こそがwinner‼︎」
如月はその爆弾のスイッチを押した。辺りは大爆発に巻き込まれ、土狛江や付近の人間は当然死亡。タレントで絶対的な防御を得られた如月以外は。
「え……」
しかし、スイッチを押しても爆弾は爆発しなかった。
「んぁ…あれ…おかしいな……」
如月は爆弾のスイッチを何度も押すが、やはり爆発はしない。そして、如月はその原因に気づいた。
「まさか土狛江くん…キミが…‼︎」
土狛江は人差し指を立てた。その指の先端には彼が操作する土が舞い、そしてその中央にはコードのようなものが、まるで茶柱のように土の渦の中を起立していた。
「念の為。」
そう。土狛江は如月のブラフなど見抜いていたのだ。桜田とまではいかぬが、彼もまた熟考の天才だった。
その時、如月が破壊した窓に土が覆い被さる。土狛江が操作し、屋内に月光が届かぬように仕向けたのだ。これで如月はタレントを使えない。
「陽香ちゃんの叔父である貴方を殺すのは、彼女に悪い気はしますが…」
土狛江は如月に近寄る。トドメを刺すつもりだ。
「ひぃッ‼︎」
如月は床に尻餅をつき、後退る。しかし、すぐ後ろには壁があり、もう逃げられなかった。
「どうにも救えませんね、貴方だけは。」
土狛江がそう発言した次の瞬間、如月の体に変化が生じた。
「はぐアッ…ガかッ…‼︎」
如月は苦しみ出す。土狛江は戸惑いつつも、すぐにその理由を察した。
「(魔物化ッ…⁈)」
それを理解した瞬間、土狛江はPSIを纏い、すぐさま如月の首の骨を折った。
「かフッ………」
如月は死んだ。土狛江は見事、如月が魔物化する前にトドメを刺す事ができたのだ。
「ふぅ…間に合った…」
土狛江は如月の遺体を見つめる。
「(念の為、首を落としておくか。あと心臓も。)」
土狛江は民家に置いてあった包丁で如月の首を切断し、心臓をひと突きした。そして、彼の遺体を暖炉に詰め、火をつけた。
「……」
土狛江は彼の遺体が燃える暖炉に手を合わせ、目を閉じる。
【18:42、フリージア王国、城下町、広場にて…】
如月の火葬を終えた土狛江が広場にやってきた。
「(さて、陽香ちゃんは何処だ…?一人で勝手な事してなきゃ良いんだけど…)」
広場にやってきた土狛江は周囲の異様な雰囲気に気がつき、近くにいた女性に話を聞いた。
「何かあったんですか?」
「男の子が刺されたのよぉ~。怖いわねぇ~。」
「それ、どのくらい前の事かわかります?」
「確か五分ぐらい前だったんじゃなかったかしらねぇ~。」
土狛江は地面に付着した多量の血の跡を見つけた。そして、その付近にあった弾痕にも。
「(銃弾…いや、弾が無い。もしかして、コレは水面の水圧弾…?だとすれば…)」
土狛江は裏日戸と水面がつい先程までココで戦闘をしていたと推測した。子供はその巻き添えになったのだとも。
「その男の子を刺した犯人、どっちの方向へ逃げたかわかります?」
「えぇ。あっちよ。怖いわねぇ~。早く捕まえてほしいわ。」
「ありがとうございます。」
土狛江はその女性が指差した方へと走り出した。
「走ると滑るわよぉ~!」
次の瞬間、土狛江はその女性の言う通り、凍る地面で滑り転んでしまった。
「念の為、歩いて行こう…」
【18:48、フリージア王国、城下町、教会内にて…】
弾けた死体が散らかる教会の中、悪魔と化した水面が裏日戸の左足に喰らいつく。
「はぐッ…‼︎う…ぐッ…‼︎」
裏日戸は涙し、大人しく左足を喰われている。その瞳は哀れそのもの。逃げられないと絶望しているのだ。
「あぐッ…‼︎」
悪魔の食は裏日戸の左膝に達した。膝の骨を噛み砕かれる激痛に自然と声が出た。と同時に、意識が薄れる。薄れゆく意識の中、裏日戸が見たものはかつての水面との記憶。
【裏日戸の記憶…】
無理して入った一流大学。学業についていけず、価値観の合う友達も居ない。皆が彼女を不良と見做し、裏日戸は大学で完全に浮いてしまっていた。そんな彼女が大学を辞めようと思ったのも必然的なものであろう。それは桜田の仲間になってからも変わらなかった。
「大学辞めよう。」
そう思い、部室に顔を出した裏日戸。桜田に退部を申し出る気だ。しかし、部室にいたのは水面のみ。
「ひッ⁈」
「誰だお前?」
コレが裏日戸と水面の初対面。お互い、第一印象は最悪。絶対に分かり合えない、そう思っていた。
「桜田は?」
「ぶ、部長は今…用事で…」
「用事って?」
「いや、あ…それは…」
「あぁ?聞こえねーんだよ!ハッキリ喋れ!」
「ごごごめんなさいッ‼︎」
「はぁ…きも。」
裏日戸は水面と対面方向ソファに座った。
「お前もハンディーキャッパーだよな。」
「う、うん…」
その時、裏日戸は水面が読んでいる小説に興味を示した。
「それ、何読んでんの?」
「え…あ…これ…あ、らの…ラノベ…」
水面は恥ずかしそうにそう言った。
「お前オタク?」
「え…あ、いや…さぁ…」
「それ、面白いのか?」
裏日戸のその発言を聞いた水面は先ほどと打って変わって饒舌に話し始めた。
「勿論!このラノベは兄妹の愛をテーマとした物語でね!あ、タイトルは『sister vacation』って言うんだ!当初はエロ漫画として販売されてたんだけど超人気過ぎて小説化、アニメ化、実写化もされてるんだ!エロだけじゃなくストーリーも最高でね!今は第9部作まで続いてるんだ!でも流石に大学内でエロ漫画読むのはちょっと気が引けるから小説版を読んでるんだ!あ!あと小説版だと漫画の方じゃ載ってないような詳細が書かれてて…」
「きも…」
趣味の事になると無我夢中で話し続ける水面に、裏日戸はキッパリとそう言った。確かにキモい。しかし、裏日戸はそれ以上にこう思った。
〈羨ましい〉
裏日戸には好きなものがなかった。夢中になれるもの、将来の夢、そういったものが裏日戸にはなかったのだ。だから、水面が羨ましかった。趣味というものがあり、ここまで夢中になれる事が。
「貸せ。」
「あぁ!ちょっと…!」
裏日戸は水面からその小説を奪った。単純な興味。水面がそこまで夢中になれるもの、それを見てみたかったのだ。
「面白いな、コレ。」
裏日戸がそう呟くと、水面は目を輝かせた。
「でしょ!特に妹と映画館行った時の妹のあの…」
「黙れ。そこまで読んでない。ネタバレ殺すぞ。」
「ッ……」
そこへ、用事を済ませた桜田,出口,角野が部室へ入ってきた。
「あれ?陽香ちゃん?」
「珍しいね。キミが部活に来るなんて。」
すると、裏日戸はソファから立ち上がり、カバンを持った。
「別に。部員が部室居たら悪いのかよ?」
裏日戸は水面から奪った小説を鞄にしまう。それを見て水面は声を上げた。
「あぁあ!それ…」
裏日戸は振り返り、こう言った。
「次は一巻から持って来い。わかったな?」
裏日戸は部室を出た。それ以降も、裏日戸は水面から小説を借りては読み、たまに感想を言い合いもした。
「まぁ、意見は全く持って合わなかったが。」
こんな関係を人はなんと呼ぶのか。そう。友達だ。水面は裏日戸が大学に入って初めてできた友達だったのだ。
【現在…】
しかし、いま目の前にいるのは紛れもなく悪魔。水面ではない。何故、こんな事になってしまったのか。
「どう…して……」
裏日戸の中で結論が出た。
「(白鳥組のせいだ…)」
友人をこんな姿に変えられた。そう思うと、急に裏日戸の中で怒りが込み上げてきた。
「ふざけんなッ……!」
裏日戸の瞳に光が灯る。戦意という名の希望の灯火が。そして、裏日戸はPSIを纏い、自身の左脚を喰らう悪魔に向けて拳を放った。
「よくもッ…よくも水面をッ…‼︎」
しかし、PSIの差は明らか。彼女の拳はその悪魔に毛ほども効いてはいない。それでも、裏日戸は悪魔を殴り続ける。
「返せッ‼︎返せッ‼︎水面を返せッ‼︎」
その時、裏日戸の怒りに呼応するかのように、入り口から日光が差し込んだ。沈みかけた太陽にかかった雲が移動したのだ。
日光が当たる。裏日戸にとってそれはつまり、タレントの解放。
「返せぇぇぇぇぇえッ!!!!!」
裏日戸の『日光・攻撃』が発動した。いかなる防御をも貫く最強の拳。それが悪魔の顔面に直撃する。
「縺ゅ吶○縺昴◆縺繧≦縺?e繧ッ!!!!!?!?!??!!!」
悪魔は叫び声を上げ、教会の奥まで殴り飛ばされた。
「許さねえ…ッ‼︎」
裏日戸は立ちあがろうとする。しかし、片足が無い為、上手く立てずにいた。
「くそッ…‼︎」
するとその時、裏日戸は何者かに担ぎ上げられた。
「キミは生き急ぎ過ぎなんだよ。」
裏日戸を担ぎ上げたのは、彼女の後を追ってきた土狛江だった。
「念の為を心掛けなよ。陽香ちゃん。」
「土狛江ぇ…うぅ……」
裏日戸は子供のように泣き出した。余程の恐怖だったのだ。無理もない。しかし、いつまでも泣いているままにしてはいけない。
「安心するのはまだ早いよ。」
土狛江の視線の先、顔の半分を潰された水面。いや、悪魔が四足歩行で立っていた。
「さぁ、悪魔祓いと行こうじゃないか。」
民家内では片腕の無い如月が土狛江に追い詰められていた。
「ちょ!ちょっと待ってくれたまたえッ!まさか、本気で私を殺そうとしているんじゃないだろうな⁈」
「俺もホントはそんな事したくない。けど、そうしないと俺が貴方に殺されるんで。」
「殺さないって!誓う!誓うからさ!」
「…」
土狛江は呆れた表情で如月に背を向けた。
「わかりました。じゃあもう俺らの邪魔はしないでくださいね。」
土狛江が如月の元から去ろうとしたその時、背後からガラスが割れる音が聞こえた。土狛江は振り返る。如月が家具を投げて天井付近の窓を破壊したのだ。
「これで月光は届いたッ…!」
如月のタレント『月光・防御』は、月の光を浴びている間はいかなる攻撃も受け付けない能力。今、天井のガラスを破壊した事で、彼の体に直接月光が当たり、タレント使用が可能となった。
如月はポケットから爆弾を取り出す。それも、この民家や周囲の民家をも巻き込むような大規模なものを。
「土狛江くんッ!キミの敗因は私のブラフを見抜けなかった事ッ!私は決してせこくないッ!勝者こそがwinner‼︎」
如月はその爆弾のスイッチを押した。辺りは大爆発に巻き込まれ、土狛江や付近の人間は当然死亡。タレントで絶対的な防御を得られた如月以外は。
「え……」
しかし、スイッチを押しても爆弾は爆発しなかった。
「んぁ…あれ…おかしいな……」
如月は爆弾のスイッチを何度も押すが、やはり爆発はしない。そして、如月はその原因に気づいた。
「まさか土狛江くん…キミが…‼︎」
土狛江は人差し指を立てた。その指の先端には彼が操作する土が舞い、そしてその中央にはコードのようなものが、まるで茶柱のように土の渦の中を起立していた。
「念の為。」
そう。土狛江は如月のブラフなど見抜いていたのだ。桜田とまではいかぬが、彼もまた熟考の天才だった。
その時、如月が破壊した窓に土が覆い被さる。土狛江が操作し、屋内に月光が届かぬように仕向けたのだ。これで如月はタレントを使えない。
「陽香ちゃんの叔父である貴方を殺すのは、彼女に悪い気はしますが…」
土狛江は如月に近寄る。トドメを刺すつもりだ。
「ひぃッ‼︎」
如月は床に尻餅をつき、後退る。しかし、すぐ後ろには壁があり、もう逃げられなかった。
「どうにも救えませんね、貴方だけは。」
土狛江がそう発言した次の瞬間、如月の体に変化が生じた。
「はぐアッ…ガかッ…‼︎」
如月は苦しみ出す。土狛江は戸惑いつつも、すぐにその理由を察した。
「(魔物化ッ…⁈)」
それを理解した瞬間、土狛江はPSIを纏い、すぐさま如月の首の骨を折った。
「かフッ………」
如月は死んだ。土狛江は見事、如月が魔物化する前にトドメを刺す事ができたのだ。
「ふぅ…間に合った…」
土狛江は如月の遺体を見つめる。
「(念の為、首を落としておくか。あと心臓も。)」
土狛江は民家に置いてあった包丁で如月の首を切断し、心臓をひと突きした。そして、彼の遺体を暖炉に詰め、火をつけた。
「……」
土狛江は彼の遺体が燃える暖炉に手を合わせ、目を閉じる。
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「(さて、陽香ちゃんは何処だ…?一人で勝手な事してなきゃ良いんだけど…)」
広場にやってきた土狛江は周囲の異様な雰囲気に気がつき、近くにいた女性に話を聞いた。
「何かあったんですか?」
「男の子が刺されたのよぉ~。怖いわねぇ~。」
「それ、どのくらい前の事かわかります?」
「確か五分ぐらい前だったんじゃなかったかしらねぇ~。」
土狛江は地面に付着した多量の血の跡を見つけた。そして、その付近にあった弾痕にも。
「(銃弾…いや、弾が無い。もしかして、コレは水面の水圧弾…?だとすれば…)」
土狛江は裏日戸と水面がつい先程までココで戦闘をしていたと推測した。子供はその巻き添えになったのだとも。
「その男の子を刺した犯人、どっちの方向へ逃げたかわかります?」
「えぇ。あっちよ。怖いわねぇ~。早く捕まえてほしいわ。」
「ありがとうございます。」
土狛江はその女性が指差した方へと走り出した。
「走ると滑るわよぉ~!」
次の瞬間、土狛江はその女性の言う通り、凍る地面で滑り転んでしまった。
「念の為、歩いて行こう…」
【18:48、フリージア王国、城下町、教会内にて…】
弾けた死体が散らかる教会の中、悪魔と化した水面が裏日戸の左足に喰らいつく。
「はぐッ…‼︎う…ぐッ…‼︎」
裏日戸は涙し、大人しく左足を喰われている。その瞳は哀れそのもの。逃げられないと絶望しているのだ。
「あぐッ…‼︎」
悪魔の食は裏日戸の左膝に達した。膝の骨を噛み砕かれる激痛に自然と声が出た。と同時に、意識が薄れる。薄れゆく意識の中、裏日戸が見たものはかつての水面との記憶。
【裏日戸の記憶…】
無理して入った一流大学。学業についていけず、価値観の合う友達も居ない。皆が彼女を不良と見做し、裏日戸は大学で完全に浮いてしまっていた。そんな彼女が大学を辞めようと思ったのも必然的なものであろう。それは桜田の仲間になってからも変わらなかった。
「大学辞めよう。」
そう思い、部室に顔を出した裏日戸。桜田に退部を申し出る気だ。しかし、部室にいたのは水面のみ。
「ひッ⁈」
「誰だお前?」
コレが裏日戸と水面の初対面。お互い、第一印象は最悪。絶対に分かり合えない、そう思っていた。
「桜田は?」
「ぶ、部長は今…用事で…」
「用事って?」
「いや、あ…それは…」
「あぁ?聞こえねーんだよ!ハッキリ喋れ!」
「ごごごめんなさいッ‼︎」
「はぁ…きも。」
裏日戸は水面と対面方向ソファに座った。
「お前もハンディーキャッパーだよな。」
「う、うん…」
その時、裏日戸は水面が読んでいる小説に興味を示した。
「それ、何読んでんの?」
「え…あ…これ…あ、らの…ラノベ…」
水面は恥ずかしそうにそう言った。
「お前オタク?」
「え…あ、いや…さぁ…」
「それ、面白いのか?」
裏日戸のその発言を聞いた水面は先ほどと打って変わって饒舌に話し始めた。
「勿論!このラノベは兄妹の愛をテーマとした物語でね!あ、タイトルは『sister vacation』って言うんだ!当初はエロ漫画として販売されてたんだけど超人気過ぎて小説化、アニメ化、実写化もされてるんだ!エロだけじゃなくストーリーも最高でね!今は第9部作まで続いてるんだ!でも流石に大学内でエロ漫画読むのはちょっと気が引けるから小説版を読んでるんだ!あ!あと小説版だと漫画の方じゃ載ってないような詳細が書かれてて…」
「きも…」
趣味の事になると無我夢中で話し続ける水面に、裏日戸はキッパリとそう言った。確かにキモい。しかし、裏日戸はそれ以上にこう思った。
〈羨ましい〉
裏日戸には好きなものがなかった。夢中になれるもの、将来の夢、そういったものが裏日戸にはなかったのだ。だから、水面が羨ましかった。趣味というものがあり、ここまで夢中になれる事が。
「貸せ。」
「あぁ!ちょっと…!」
裏日戸は水面からその小説を奪った。単純な興味。水面がそこまで夢中になれるもの、それを見てみたかったのだ。
「面白いな、コレ。」
裏日戸がそう呟くと、水面は目を輝かせた。
「でしょ!特に妹と映画館行った時の妹のあの…」
「黙れ。そこまで読んでない。ネタバレ殺すぞ。」
「ッ……」
そこへ、用事を済ませた桜田,出口,角野が部室へ入ってきた。
「あれ?陽香ちゃん?」
「珍しいね。キミが部活に来るなんて。」
すると、裏日戸はソファから立ち上がり、カバンを持った。
「別に。部員が部室居たら悪いのかよ?」
裏日戸は水面から奪った小説を鞄にしまう。それを見て水面は声を上げた。
「あぁあ!それ…」
裏日戸は振り返り、こう言った。
「次は一巻から持って来い。わかったな?」
裏日戸は部室を出た。それ以降も、裏日戸は水面から小説を借りては読み、たまに感想を言い合いもした。
「まぁ、意見は全く持って合わなかったが。」
こんな関係を人はなんと呼ぶのか。そう。友達だ。水面は裏日戸が大学に入って初めてできた友達だったのだ。
【現在…】
しかし、いま目の前にいるのは紛れもなく悪魔。水面ではない。何故、こんな事になってしまったのか。
「どう…して……」
裏日戸の中で結論が出た。
「(白鳥組のせいだ…)」
友人をこんな姿に変えられた。そう思うと、急に裏日戸の中で怒りが込み上げてきた。
「ふざけんなッ……!」
裏日戸の瞳に光が灯る。戦意という名の希望の灯火が。そして、裏日戸はPSIを纏い、自身の左脚を喰らう悪魔に向けて拳を放った。
「よくもッ…よくも水面をッ…‼︎」
しかし、PSIの差は明らか。彼女の拳はその悪魔に毛ほども効いてはいない。それでも、裏日戸は悪魔を殴り続ける。
「返せッ‼︎返せッ‼︎水面を返せッ‼︎」
その時、裏日戸の怒りに呼応するかのように、入り口から日光が差し込んだ。沈みかけた太陽にかかった雲が移動したのだ。
日光が当たる。裏日戸にとってそれはつまり、タレントの解放。
「返せぇぇぇぇぇえッ!!!!!」
裏日戸の『日光・攻撃』が発動した。いかなる防御をも貫く最強の拳。それが悪魔の顔面に直撃する。
「縺ゅ吶○縺昴◆縺繧≦縺?e繧ッ!!!!!?!?!??!!!」
悪魔は叫び声を上げ、教会の奥まで殴り飛ばされた。
「許さねえ…ッ‼︎」
裏日戸は立ちあがろうとする。しかし、片足が無い為、上手く立てずにいた。
「くそッ…‼︎」
するとその時、裏日戸は何者かに担ぎ上げられた。
「キミは生き急ぎ過ぎなんだよ。」
裏日戸を担ぎ上げたのは、彼女の後を追ってきた土狛江だった。
「念の為を心掛けなよ。陽香ちゃん。」
「土狛江ぇ…うぅ……」
裏日戸は子供のように泣き出した。余程の恐怖だったのだ。無理もない。しかし、いつまでも泣いているままにしてはいけない。
「安心するのはまだ早いよ。」
土狛江の視線の先、顔の半分を潰された水面。いや、悪魔が四足歩行で立っていた。
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