障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第123障『周防封極拳』

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【4月1日、19:45、フリージア王国、城下町にて…】

陣野の爆弾で焼け野原となった酒場周辺。瀕死の裏日戸を治療する氷室。その側に人間化したヤブ助。対峙するはヤブ助に両目を潰された魔物化した前田。

「封極拳……?」

前田はヤブ助から聞いた言葉を復唱する。聞き慣れぬ言葉のようで、どうやら前田はそれが何か知らないようだ。

「まぁ、知らんだろうな。」

次の瞬間、ヤブ助はPSIを纏い、前田に向かって飛び出した。

「無知のまま死ね…‼︎」

両目を失った事とヤブ助の唐突な攻めにより、対応が遅れる前田。前田はとりあえず両腕でガードを固めた。
今の前田のPSI量ならヤブ助の拳など毛ほども効かない。実際のところ、ガードをする必要もないのだ。しかし、前田はヤブ助の言う『周防封極拳』なるものを恐れていた。両腕ガードはそれが理由だ。

「『射痙しゃけい』ッ‼︎」

ヤブ助はガードの為に体前に構えられた前田の右腕を殴った。ただ殴ったのでは無い。ヤブ助の拳を見ればわかる。中指の第二関節が少し前に出ていた。これは『中高一本拳』と呼ばれ、『殴る』というより『刺す』攻撃の拳の握り方である。
ヤブ助はこの拳で前田の右腕の筋繊維を一点集中、見事に断裂させたのだ。

「いッ……‼︎」

それを喰らった前田は苦痛の表情を浮かべた。当然だ。一部の筋繊維を断裂させられたのだ。痛くない訳が無い。
そして、前田の右腕のガードが消えた。筋肉をやられ、腕を構える事が出来なくなったのだ。

「ッ‼︎」

すかさずヤブ助は前田のもう片方のガードも破壊した。

「ヌぅッ…‼︎」

激痛により声が出る前田。しかし、痛がっている暇は無い。ヤブ助はきっと次の一手で決めてくる。そう確信した前田はヤブ助から大きく飛び退いた。
しかし、ヤブ助はすぐさまその距離を詰める。猪頭妹との修行により、単純な格闘技術では何者にも引けを取らなくなったのだ。

「『齟顎そがく』ッ‼︎」

ヤブ助は平手で前田の顎を軽く上方向に叩いた。

「あガッ……⁈」

ダメージは無い。しかし、前田は地面に膝をつく。脳震盪だ。ヤブ助は前田の顎を叩き、作為的に脳震盪を引き起こしたのだ。

「(動け…ナイ…ッ‼︎)」

ヤブ助は動けなくなった前田を見下ろす。

「さぁ。尋問の時間だ。」

その言葉を聞き、前田の全身から汗が吹き出した。尋問、それは先程まで自分が行なっていたもの。そう。拷問が行われようとしている。今度は自分に。

「陽道及び白鳥組幹部のタレントを教えろ。それと奴らの進路もな。」

【ヤブ助の回想…】

小屋の中、秀頼はヤブ助に対面で座学を行っていた。

「前に言ったお前の弱点、覚えているか?」
「タレントが戦闘向きじゃない。あと人間化しても子供の姿だから力が弱い。です。」
「その通りだ。まぁ、相手が人間なら敵を猫化して殺せば早いが…もし『人間化猫化キャットマン』が効かない敵や人外との戦いが起これば、お前はどうする?」
「仲間のサポート…もしくは隙を見て逃走…」

ヤブ助は人間以外との戦いなど想像していなかった。それ故、回答に困った。しかし、コレから赴く外の世界には人外の敵、魔物がわんさか居る。秀頼はそれを危惧していたのだ。

「今のお前なら、それらの選択肢が正しい。しかし、お前が主軸となって戦う瞬間は必ず来る。そこでだ…」

その時、秀頼は一冊の古びた本をヤブ助に渡した。その表紙には『周防封極拳』と書かれていた。ヤブ助はその文字を眺め、眉を顰める。そんな様子を秀頼は疑問に思ったのか、ヤブ助に問いかける。

「どうした?」
「難しい漢字…読めません……」

ヤブ助は頬を赤くする。

「ガキか?」
「猫だ!」

それを聞いた秀頼はため息を吐いた。

「はぁ…『周防封極拳すおうふうきょっけん』と読むんだ。まったく、そんな漢字も読めんとは…私は学校の先生になる気はないぞ。」

ヤブ助は不貞腐れた顔をする。

「(俺は元々は猫なんだ。文字が理解できるだけ凄いと思え…!)」

そんなヤブ助を他所に、秀頼は話を続けた。

「封極拳は敵の動きを封じる事に特化した拳法だ。その中には敵の急所を突くものも多くあり、力が無くとも技術だけで敵を殺せる技もある。素早いお前にとって、これ以上にない武器だ。」

ヤブ助は本の中身を見た。そこには、人間の急所となる箇所とその箇所の破壊方法が記載されていた。それを見て、ヤブ助は猪頭妹に問いかける。

「先生。俺は人外と戦う為にこの拳法を習得するのですよね?」
「あぁ。そうだが?」
「この本、人間相手にしか書かれていません。」
「だろうな。ゴルデンに魔物は居ない。封極拳を作った奴もゴルデン出身なら納得だ。」
「いや、だから…そもそもこの技は人外相手に本当に効くのですか…?」
「知らん!」

猪頭妹は言い切った。

「知らんって、アンタ……」

ヤブ助は肩を落とす。せっかくの自分だけの武器が、習う前から役立たずで終わろうとしているからだ。そんなヤブ助に猪頭妹はこう言った。

「生きとし生けるものやがては死にゆく。命こそ生物の最大の弱点であり、最大の急所。」

すると、秀頼はヤブ助に向けて勢いよく拳を突き出す。その拳はヤブ助の目の前で寸止めされた。

「使うな、応用しろ。柔軟であれば、何事も無駄にはならん。」
「……」

この時、ヤブ助は秀頼を疑った。本当にこの武器わざは役に立つのか。まったく、無責任な女だと。

【現在…】

今のヤブ助はそんな昔の自分をぶん殴ってやりたい気持ちだった。だってこんなにも、役に立っているから。

「さぁ、吐け。お前の知ってる情報全て。そしたら…」

そして、ヤブ助は殺意を込めてこう言った。

「楽におくってやるよ。」

ヤブ助の勝ちだ。誰もがそう思った瞬間、ヤブ助に向けて遠くの方から矢が放たれた。

「……」

しかし、ヤブ助は矢が放たれた音を聞き、ずば抜けた動体視力でその矢を最も容易くキャッチした。

「なんだ…?」

ヤブ助は矢が放たれた方向を見る。そこには、複数の人間が弓を構えていた。前田に操られたフリージア市民であろう。ヤブ助もその事を察した。

「(前田コイツ、生物操作型のタレントか。危険だな。)」

前田を生かしておくと、自身や仲間すら操作されかねない。

「(コイツが数分足らずで情報を吐くとは思えん。情報は惜しいが仕方ない。)」

そう判断したヤブ助は前田をすぐさま殺す事に決めた。するとその時、辺りに鐘の音が響いた。

「ッ…⁈」

瞬間、ヤブ助の意識が薄れ始める。

「(しまった…‼︎)」

ヤブ助は前田の術中にハマった事を理解した。しかし、もう遅い。

「カハハッ…‼︎間に合っチャッた…‼︎」

脳震盪から回復した前田はヤブ助から離れる。ヤブ助の意識が完全に無くなってから殺す、念の為の引きであろう。

「いやぁ驚イタ!マジで死ヌかと思っタッすよ!」

前田は両目を開き、地面に膝をつくヤブ助を見る。なんと、魔物化の影響で再生力が強化され、両目が完全に再生していたのだ。

「あー、腕痛かっター。」

前田は腕を回してストレッチをしている。ヤブ助の破壊した両腕すらも既に再生していたのだ。

「さーてさてサテ。んじゃマぁ、こっカら先は…」

その時、前田はPSIで変わった形のハンドコールベルを創造した。

「ズット俺のターンって事デ。」
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